影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか?   作:ガイドライン

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影の薄さを忘れるほど出来事です。

「ファイアボルトオオオオオォォォォォォォォ!!!!」

 

 

あれからどれくらい時間が経っただろう。

ギリギリの戦いをしていたベルは最後の力を振り絞り、掌から放たれた炎雷(えんらい)を最後のオークに命中させる。魔石の回収などいまのベルにはなかったのか、【ファイアボルト】の威力が強すぎたのか、オークの上半身は吹き飛び絶命した。

それを見届け力尽きたのかベルはその場に倒れ、近寄ることを我慢していたリリや椿が駆け寄る。

 

 

「ベル様!!ベル様!!!」

 

二重回復薬(ダブルポーション)じゃ!口を開けい!!」

 

 

その声に反応したのか僅かに開いた口の中に無理矢理飲ませる。二重回復薬は体力と精神の両方を回復させるものでありベル達にはあまりにも高い一品である。

 

 

「いいんですかそんなものを飲ませても。言っときますけど僕もベルも買い取るお金ありません」

 

「んなことを言っとる場合か!?」

 

「言っている場合です。別に大した怪我もありませんので自然回復させとけばいいんですよ」

 

「……手前、本当に仲間なのか?」

 

 

「当たり前ですよ」と平然と返してくるハジメに「お、おぉ…」としか言えなかった椿。その返しにそういうものなのかと逆に考えてしまい、よく考えるとハジメの言ったように別にそこまでしなくても良かったのかと自分のやったことに少し疑問を持ってしまう。

レベル1がオークを複数、それも一人で相手して生き残った。その奇跡といえる光景を目の前にして椿も興奮したのは確かだった。だからいてもたってもいられなくなったのだろう。

ちょっと冷静に考えているとベルが意識をハッキリさせたようで、

 

 

「……あ、あれ、ハジメ?

…今日は神様と…一緒じゃなかったっけ?」

 

「僕のことはいいですから、ほら隣の子に意識を向けてください」

 

 

目の前にいたハジメが気になり話しかけてきたのはいいが、今までなんの為に戦ってきたのかとツッコミそうになったハジメ。しかし少なくとも混乱もしていない、そして頑張ったご褒美として優しく誘導してあげることにした。

ハジメに言われて視線を横にずらすとそこにはさっきまで会いたかった人物がいた。

 

 

「……あっ……」

 

「べ、ベル様……わ、わたし……」

 

 

視線が合い、思わず外してしまったリリ。どうしたらいいのか分からずにいると突然身体に衝撃と何かに包まれた。

 

 

「無事で良かったよリリ!!!」

「べ、ベル様!!?」

 

「突然いなくなったから心配したんだよ!!もしかしたらオークになんて思ったけど、無事だったんだね本当に良かったああぁ!!!」

「ベル様!!ちょっと痛いですよ!!!」

 

 

感動で力加減が分からなくなっているベルにハジメは持っていた【石火】でその頭を叩いた。鈍く痛そうな音が鳴り響き思わずリリを抱き締めていた手を離して頭へと回す。

 

 

「はい、やりすぎはダメですよ」

「ッ!!!??………ぜ、絶対にハジメのほうがやりすぎだよ!!」

 

「僕は人に応じて対応を変えてます。ちなみにベルにはまだ物足りないぐらいです」

「僕がこういうのはおかしいけど、今まで戦っていたんだから優しくしてもいいと思うけど!!!?」

 

 

流石二重回復薬は違うなーと感心しながら適当にベルの愚痴を聞き流すハジメ。すでに蚊帳の外に出されてしまったリリは何と話しかければいいのか分からずじっと待っていたが、

 

 

「………あ、あの…ベル様……」

「だからハジメは!!!って、ごめんリリ、どうしたの?」

 

「……ご、ごめんなさい!!!!」

 

 

勢いよく頭を下げるリリに対してちょっと驚くベル。一体何について謝っているのかと思っているとリリから話始めた。

 

 

「り、リリは悪い小人族(パルゥム)なんです!!私は報酬金の山分けを2/5を3/5に誤魔化していたり、ベル様が大事にしていたナイフを盗んだりしたのです!!!」

 

 

そういってリリは懐から神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)を取りだした。リリから貰ってついさっきまで一緒に戦った《バゼラード》は刃がボロボロにかけてしまい使い物にならなくなっていた。

もしリリが神様のナイフを盗まずにいたらきっとベルはここまで窮地に立たされることはなかっただろう。

そしてリリは震えだしそうな身体を必死に押さえつけ、一番謝りたかった罪深いことをベルに告げようと言葉を、

 

 

「そして私はベル様をこ」

「もう帰ろうっかリリ。流石に疲れたよ」

 

 

言いかけたところでベルが遮ってきた。どうしてと頭にあったが言わないといかないと思いもう一度、

 

 

「私はベル様を」

「ハジメはどうするの?一緒に帰る?」

 

「……ベルが帰るなら帰りましょうか」

「……儂もただの付き添い、異存は無いわ」

 

 

まるでそれ以上言わせないようにこの場を去ろうとする。でもリリはキチンと言わないといけない。あんな酷いことをしておいて何もなく終わるなんて出来ない。

 

 

「聞いてくださいベル様!!私はベル様を」

「……知っているよ、リリ」

 

「そうですか……リリは」

「誤って道具を落としたんだよね。そして道具を拾うとしたけどオークが近くにいて僕も爆睡していて。なんとか近くに冒険者がいないか探してくれたんだよね。でもやっぱり霧があるから道に迷ってちょっと遅くなったけど無事だったんだから気にしないでいいよリリ」

 

 

…違う、全然違う。

あの道具、トラップアイテムはわざと置いた。冒険者を探しに行っていない、リリは逃げ出した。遅くなった訳じゃない、助けなんて、迷うことなんて、探そうなんて、

 

 

 

「…違います……リリは、リリは……リリはベル様を!!」

「ありがとうリリ。仲間になってくれて」

 

 

その言葉にリリは固まった。

どうしてそんな言葉がいま出てくるのか分からなくて、優しい表情でリリを見てくるベルが分からなくて。

 

 

「リリがいたからいっぱい稼げたし、ハジメとは違うサポーターだったからなんか新鮮で楽しかったし」

 

「…………そうでした、サポーターでしたね」

「なんで手前本人が忘れておるのだ……」

 

 

最近はベルのサポーターしなくても良かったので、と隣で言っているのが聞こえるがいまはそれどころではない。

 

 

「言いましたよね!!リリは誤魔化していたです!!

たまにはベル様より多くお金を取ったり、何度もこのナイフを盗もうとしたんです!!!」

 

「うん、でもそれは僕の危機管理が足りなかったから。

それを知れたのはリリのおかげだから」

 

「何を言っているんですか!!貴方はバカなのですか!!!

リリは盗人なんです!!罪人なんです!!!なんで優しくするんですか!!リリが子供に見えるからですか!!!こう見えてもベル様の1つ上なんですからね、このロリコン!!!!!」

 

「ええぇ!!!?」

 

 

「ええぇ!!!?ってどういうことですか!!?」とちょっと路線が外れて話し合いになっており、「なるほど、だからあんな下着を…」「手前は黙っとれ!!!」と隣ではちょっとしたコントをしていた。

 

 

「だからこんなリリを仲間だなんて……何を考えてるんですか!!!」

 

「何をって……僕のサポーターはリリがいいんだ

ううん、違う。サポーターじゃなくても、リリは僕の仲間なんだ」

 

 

サポーターじゃなくてもリリがベル様の仲間。

それを聞いただけで嬉しさが溢れて涙が出そうになる。

それを必死に押さえ込んでリリはベルに問いかける。

 

 

「リリは、リリはいつかベル様を裏切るかもしれません。ベル様の命を奪うことになるかもしれません。それでも……それでもリリをまだ仲間っていうんですか?」

 

 

自分でももうそんなことはしないって分かっている。分かっているけど聞いておきたいのだ。いまベルがどんな風に思っているのかを、リリを本当に仲間だと思っているのかを。そしてその返事もリリは分かっていた。

 

 

「それはしてほしくないけど……でもやっぱりリリは僕の仲間だよ。だから僕はリリを信じるよ。違うかな、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そのあとのことはよく覚えていない。ただ大泣きをしたリリを二人が慰めてくれたことは覚えている。だけどもう一人、姿を見えないあの人は何をしていたのかは分からなかった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「リーリはベルベルに任せておいていいですね」

 

 

ベルの言葉を聞きやっぱりベルベルはベルベルだと思ったハジメは10階層の、ベル達から離れた場所を歩いていた。

ダンジョンを降りていたいた時に感じたアレがどうもここから感じる。何かは分からない、だけどそれは何かを思い出すきっかけような、気が……

 

 

「思い…出す……僕は何か忘れている……」

 

 

僕の過去の記憶は全部覚えている。なのにどうしてそんなことを思うのか?よく分からないがこの霧の先にその答えがあると思い歩いていたのだが、

 

 

「いいのよ、まだ思い出さなくても」

 

 

遠くから、この霧の向こうから聞こえたきた声。そしてゆっくりと靄に映るシルエットが見えてきた。

 

 

「誰かは知りませんけど、僕のことを知っているんですか?」

 

「それは知りたいでしょうね。でもそれはダメ。あなたはこれから更に強くなってもらわないといけないの。だからダメなのよ」

 

「なら、言わせるまでです」

 

「強気ね。()()()()()()()()ここまで強くない。やっぱり知りたいのね自分のことを」

 

 

徐々にハッキリしてくるシルエット。

間違いなくあの感覚はこの人である。

そしてこの人は僕の何かを知っている。

 

 

「追加です。貴女が何者か知りたくなりました」

 

「……ふふふ、いいわね。なら予定を変更しましょう。()()は貴方に当てるつもりだったけど、私が直々にお相手してあげるわ」

 

 

するとその人型のシルエットとは別に遠くから何かが近づいてくる。それもかなり速くあっという間に人型のシルエット抜き去って現れたのが、

 

 

「ミノタウロス!?」

 

 

まるで意志があるように、目の前にいるハジメの横を通りすぎて何かに向かって走り去った。そしてその先にはベル達がいる。

 

 

「一体何を考えているんですか??」

 

「さっきのモンスターを貴方に当てるつもりだったの。でも()()()()()()()()()()()()()()、だからアレは貴方のお仲間に当てるわ。いい経験になるわよ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

それを聞いたハジメは有無を言わさずにシルエットに向けて衝撃波を放った。霧はその衝撃波により飛散していく。そして衝撃波はその人物に当たったのだが、どういうわけか全く効いていない。防御の姿勢もせずにまるで()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「酷いわね。でも冒険者としては間違ってないわ。容赦なんていらない。少しでも甘えを見せたらやられてしまう。少しは()()()()()()()()()()()()??」

 

「……さっきから何を言って………」

 

「気にしなくていいのよ。でも知りたいなら…」

 

 

霧が晴れたその先にいた人物。身体を覆うマントからでも分かる華奢な体つきで、顔が見えないほど深くフードを被っている。

それなのにどうしてなのだろう?なぜ()()()()()()()()と、この人を()()()()()と感じているのだろうか?

 

 

「向かってきなさい。

ただし、今までの戦い方で勝てると思わないことよ」






ダンまち、今年最後です。
すみません、この章を終わらせたかったのですが残念です❗でも面白さは変わらずやっていきますのでよろしくお願いいたします。

余談ですが、「とある」も今年中にあと一話更新しますのでよろしくどうぞ。


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