影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか?   作:ガイドライン

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お久しぶりです。
前回は中途半端なものを投稿してしまいすみませんでした。
1ヶ月と言うのもあり長めに書かせてもらいました。
9月中旬からペースを上げていきますのでよろしくお願いします。




影が薄くても調子に乗っている奴はムカつきます。

「そう。また強くなったのね」

 

 

壁一面をまるまる占領する長方形の硝子。その窓際に立つ人物の立ち姿を、スポットライトようにはっきりと浮かび上がらせた。

黒く薄いナイトドレスに包まれた、細身でありながら豊満な体つき。

冷たい月の光を浴びて一層神秘さを帯びるきめ細やかな白皙(はくせき)の肌

腰まで届こうかという銀の長髪は、氷の結晶を散りばめたかのように輝いていた。

 

 

「それでいい。貴方はもっと輝ける……」

 

 

巨塔バベルの最上階。

塔の中でも最上品質にあたる一室で、部屋の主である彼女(フレイヤ)はベルを見下ろしていた。

 

 

「もっと、もっと輝いて? 貴方には、私に見初められた故の義務がある……」

 

 

フレイヤには、『洞察眼』というべき下界の者───『魂』──の本質(いろ)を見抜く瞳がある。

 

 

「より強く、より相応しく……それが貴方の義務」

「私も強い男は好きよ?」

 

 

ベルを目にしたのは偶然だった。

ある日の早朝。メインストリートを歩む彼の姿を、その銀の瞳が捉えたのだ。

 

───欲しい。

 

一目見た瞬間、そう思った。

ベルはフレイヤの眼が今まで見たことのない色をしていた。透明の色だ。

これからどのような色に変わるのか、それとも透き通ったままでいるのか、『未知』を前にした神の興味がつきることはない。

 

 

「楽しみだわ。貴方がどこまで強くなるのか、どこまで輝けるのか……どんな色に変わるのか」

 

 

しかしフレイヤには一つだけ気に食わない事があった。成り行きとはいえ今ヘスティア・ファミリアはロキ・ファミリアのお世話になっている。そしてここ最近ベルの成長が一段と上がったのはそのロキ・ファミリアの一級冒険者によるもの

 

 

「強くなってくれるのは嬉しいけど……ロキの手でというのは気に食わないわね」

 

 

とは言ってもロキ・ファミリアと、同格の相手と荒事を構えたくなかった。しかしそれでも自分のオモチャがとられたという感覚にイラつきはあった。

だが、その成り行きは悪いだけではなかった。

 

そう、フレイヤにはもう一人、興味をもった者がいた。

それこそ『未知』であり、フレイヤの『洞察眼』でも見ることが叶わない。

だけどハッキリと捉えたその存在を、見えずとも感じることが出来るその存在を。

それを考えるとベルとはまた違う感覚に襲われるフレイヤ。まだ見ぬ宝石を求めているような、それを手にしたときに感じるだろう幸福感を、想像すればするほどに堪らなくなる

 

 

「…あぁ……どんな姿をしてるのか、どんな強さなのか、どんな本質(いろ)をしているのか──見てみたいわ」

 

 

フレイヤはその蠱惑(こわく)的な唇に折り曲げた人差し指を含め、甘く噛む。

扇情的で強く濃い香りが一瞬で辺りを満たした。

間違いなく近くに男が、いや、女でも、性欲あるものなら全て虜になる。

フレイヤの魔性の美に逆らえる者は、()()()()()()()()()

 

 

(ヘスティアには悪いことするけど……もらうわね、()()()())

 

 

すぐにでも取り込んでしまっても良かった。

しかしそれをしなかったのは、少年のバックにいる神の存在を確かめていなかったためか──その無邪気な笑顔を見て毒気が抜かされてしまい、気が乗らなかったからか。

何にせよ、今回は趣向を変えて影ながら見守るのも悪くない。フレイヤはそう思う。

 

所詮、そこは自分の箱庭だ。

いつでも手出しはできる。

 

 

「貴方達を私のモノにするのは待ち遠しいけど……複雑ね、来ないでほしくもある。今この時こそが、一番胸の踊る時なのかもしれない」

 

 

しかしフッと何かを思い付いたような表情を見せたフレイヤは

 

 

「……でも、そうね。『魔法』はそろそろ使えてもいいのかもしれない」

 

 

フレイヤの『眼』は他神による【ステイタス】の正体を看破できるわけではないが、色と輝きの具合を見ておぼろげながら見当をつけることはできる。

見るに、ベルの『魔力』は加算されていない。フレイヤにはそれが少し頼りなく見えた。

早速、()()()することにする。

 

 

「これがいいかしら?」

 

 

部屋の隅に鎮座しているのは本棚だ。幅は広く、高い。彼女の体を容易に覆いつくすほどに。

細い指が棚の中段に伸ばされ、ある分厚い本の背表紙に引っかけられる。コトンと音を鳴らして倒れ込み、彼女の手の中に収まった。

頁をめくり中身を確認すると、フレイヤは満足そうに頷いた。

そしてその隣の同じ本も取りだし、

 

 

「……ふふっ、楽しみだわ」

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「聞いてよハジメ!

今日二人で56000ヴァリスも稼いだんだよ!」

 

「そうですか、それなら今日はベルベルの奢りですね」

 

「うん、なんでも頼んで!!」

 

「……調子が狂いますね……嫌がって貰うためにも、【豊穣の女主人】の為にも高いお酒を買い取りして……」

 

「やめて!!嫌がらせでそんなことしないでよ!!」

 

 

リリとパーティーを組んでから稼ぎがよくなったらしく、今日は一段と稼ぎ気分が良いベルはハジメに晩御飯を奢ることにした。

ヘスティアはというとバイトがまだ終わらないらしく先に初めることしたのだが、

 

 

「なんですか、僕と組んでいたときよりも稼ぎが良いというアピールさせられていることは嫌がらせではないというんですか?」

 

「うっ…ご、ごめん……」

 

「いいですかベルベル。調子が良いのは分かりますが乗りすぎるのは如何なものかと…

「お待たせしました、当店における最高級のワインです」

 

 

そういってリューが持ってきたのは豊穣の女主人が置いている中でも一番高いお酒。それを見たベルは口を開けたまま固まりハジメは満足そうにしている。

 

 

「ありがとござい…

「ちょっとなんでそんな高いお酒を頼んじゃっているのハジメ!!!!」……はぁ、五月蝿いですよベルベル」

 

「五月蝿くないよ!!

なに勝手に頼んでるのさ!!!」

 

「嫌がらせです」

 

「素直に言えば良いっていうことにはならないからね!!」

 

 

頭をペコペコと下げながら持ってきた高級ワインをリューに下げさせた。その際に「僕が買い取りますので後で一緒に飲みませんか?」と声をかけるハジメ。その問いにリューは「えぇ」と嬉しそうな表情をしていたのだが、このやり取りはテンパっていたベルは気づかなかった。

何故なら高級ワインを下げるタイミングで大量の料理が運ばれ、明らかにベルが予想していた金額を越えておりパニックに陥っていたのだ。

 

 

「ちょっ、ちょっとハジメ!!!」

 

「はいはい、頼みすぎと言いたいんですよね。

大丈夫です、全部食べれます」

 

「そこの問題じゃないよ!!頼みすぎだよ!!!」

 

「ベルが「なんでも頼んで」といったので頼んだですよ。どうして文句を言われるのか分かりません」

 

「常識を考えたら分かるよ!!」

 

「人の、ましてやベルの常識を僕に当てはめないでほしいですね。あっ、これ美味しいですね」

 

「僕が調子に乗ったのが悪かったから本気で僕を困らせようとしないで!!!!」

 

 

「はいはい」と軽く受け流しながら新メニューである料理はどんなものかミア母さんに聞いているハジメ。それに対して「……悪いことしてないのに……」と凹んでいるベルと「ファイトですベルさん!」と応援しているシル。

 

 

「今日は割りとツイていると思ったのに……」

 

「そうだったんですか?」

 

「今日はサポーターのリリって子と一緒にダンジョンに行ったんですけど、昨日よりも順調にモンスターを倒せたんで今日の稼ぎはいいなと思ったんですよ。そして実際に換金したら今までの中で一番高かったんですが、その時にエイナさんに「ナイフはどうしたの?」って言われたときはビックリして焦って探し回って…」

 

 

「それで私達にあったんですね」

 

「はい。本当にシルさんとリューさんには感謝してます。もうナイフを無くしたら僕どうしようかと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ナイフを、無くしたって…言いましたかベル??」

 

 

そのハジメの言葉にビクッと肩が上がり、額からは汗が滝のように流れる。シルは「あっ、ごめんなさい♪」とお茶目な表情でその場を離れ、リューはハジメに「ほどほどにしてあげてください」と言い残して厨房へと戻った。

そうここにはハジメとベルしかおらず、もう完璧にベルが悪い状況のなかで最後の足掻きとして

 

 

「今度からは浮かれても持ち物検査はキチンとします」

 

「はい、素晴らしい回答です。

では……覚悟はいいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く何をしてるんですかね」

 

「まぁ、そこら辺で許して上げてください。

本人も深く反省しているようですから」

 

「………す、すみませんでした……」

 

 

何事もなかったように目の前にある料理を食べるハジメと休憩時間になりハジメの隣でお酌をしているリュー。

そしてその足元にはボロボロになり横たわっているベルと介抱しているシルの姿があった。

 

 

「今度無くしたら……永久冷凍ですからね」

 

「その際には是非是非ベルさんにはこの店の保冷体になってください」

 

「これで食材が腐らなくてすみます」

 

「やりませんからね!!!!」

 

 

皆さん酷いです……と割りと本気で落ち込んでいるベルをやり過ぎたとシルが慰めている。もちろんそんなベルをハジメが気に止めることはなく今まで通りに食事をしている。

 

 

「鬱陶しいですよベルベル。食事中なんですか落ち込むぐらいなら出ていってください」

 

「その原因となったのはハジメだって分かってるよね!!」

 

「はいはい、正しい言葉を使えるように書物を読んだ方がいいですよ。例えばあそこにある本とか読んだら頭が良くなるんじゃないんですか?あっ、でもベルベルですから効果は五分以下かもしれませんが」

 

「……この先絶対無くさないので許してください」

 

「……仕方ありませんね……」

 

(とうとうクラネルさんが折れましたか……

ハジメは完璧に遊んでいただけのようですが…)

 

 

そんなことを思いながらハジメが言っていた()()()()()()を手に取ったリューは、

 

 

「しかし本読むことはいいと思います。知識は大いにあった方がこの先にも役に立ちますから

ということでトキサキさんも読んだ方がいいかと」

 

「僕はいいんですがその本、忘れ物じゃなかったんですか?」

 

 

そうリューが持ってきたのは本が置いてあったのはお客が忘れ物をしたときに一時的に保管しておく所だった。保管とはいうがただ置いてあるだけでありお客が勝手に持っていくことが出来る。

そしてハジメとリューの会話を聞いていたミアが入り込み

 

 

「持っていきな。()()()()()忘れた奴が悪いんだ、読まれても文句を言われる筋合いはないよ」

 

「ですが……」

 

「いいのではないですか?お店の店主であるミア母さんがOKを出したのですから」

 

「いうじゃないかリュー。それじゃまるでいざとなったら私が責任を追うみたいじゃないか」

 

「その責任はお客にある、と言われたんですから責任は取らなくてもいいのではないですか?」

 

 

違いはないね、と少し不機嫌になりながら厨房に戻っていったミア。許可も降りたところでリューは二人に一冊づつ本を渡した。

 

 

「分かりました、明日にはお返しします」

 

「あ、明日って!!明日ダンジョンに行くから読む暇は無いよ?」

 

「なに言ってるんですか?今から読むんですよ、徹夜してでもこの本は明日までにはお返ししないといけませんから」

 

「ちょっ、ちょっと!!!」

 

「お客様にご迷惑をかける気ですか。さぁ帰って読みますよ。お代はここに置いておきますね」

 

「僕まだ夕御……ちょっと待ってよ!!!」

 

 

強制的にベルを連れて帰ったハジメの姿を見て、リュー達は皆「ハジメがいうことかな……」と小さく呟いたという。


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