「目標エリア、目視で確認」
「ミラージュ2からミラージュ5へ。ジーナ、偵察を始めてくれ」
「は、はい!」
ミラージュ2、バルトのVF-25Fを先頭にデルタ陣形を組むエレメント・ラプトル。
その前方にはクローバー大湿地が広がっている。
遠目からでも、バンデットらしきバルキリーが数機確認できた。
ジーナのVF-25Aは陣形から離れ、高度を取りつつ偵察を始める。
ステルス性を重視したカスタム機であるため、レーダー類の強化された偵察機としての役割を担っている。
その収集データは随時仲間に送信され、地形から敵性バルキリーの配置まで正確にわかった。
「ミラージュ2からオーロラ1へ。敵性バルキリー数は8、陣形は2機編隊の
「ANUNSだとしたら、囲まれたその中に拠点か司令塔があるはずだ」
「スグミ、敵の目を逸らせるか?」
「任せろ」
これだけの会話で、2人にはある程度の作戦が認識し合えた。
まずはスグミのVF-19ASが先行し、敵機を撹乱。
その隙にバルトのVF-25Fが敵中央部へ突入する。
この流れだ。
「み、ミラージュ5から各機へ。敵中央部に基地らしき構造物を確認しました! 位置情報を送信します」
「オーロラ1、了解。ジーナは上空で待機し、適宜敵の情報と指示を頼む」
「ミラージュ5、がんばります!」
「そこは『了解』だろ」
VF-19ASが敵前に飛び出した。
「VF-171…IFFはアンノウンか」
挑発するように真上を横切ると、ガウォークで振り向いたVF-171にバトロイドに変形して弾丸を浴びせる。
もう一機が迎撃を始めた頃にはファイターに変形しており、突貫しながらガンポッドを放つ。
「こちらオーロラ1。目標を2機撃破」
バトロイドで近くの木の陰に隠れたVF-25Fは、突入タイミングを伺う。
「左舷前方より、敵機来ます! スグミさんは迎撃してください!」
「承知している」
「突入するなら今です! バルトさんは回り込んで、陣形の穴に潜り込んでください!」
「分かった!」
スグミから向かって左。
ジーナが示した方向からVF-27βと2機のVF-171が接近してきた。
バトロイドに変形し倒木の上に着地したVF-27βがVF-171に指示を出すように手を突き出す。
VF-171はガウォークで弾幕を張りつつ挟み撃ちする方向へそれぞれ動く。
「少数を多数で攻撃する場合、包囲殲滅というのは最も効率的で確実性のある作戦だ」
VF-19ASは優雅に舞いながら弾幕を躱し続ける。
その姿はバレリーナのようで、黒いカラーであるにも関わらず、弾けるような美しさがあった。
「しかし、こちらの戦力を把握する前に行動を起こすべきではなかった」
可憐な動きを実現するパイロット、スグミは、その機動に反した冷徹な声でそう言った。
誰に言ったわけでもないが、これを合図にしたかのように、上空からミサイルの雨が降り注いだ。
VF-171は爆散し、その爆炎が黒いVF-19ASを不気味に照らす。
「援護、します!」
上空のVF-25A、ジーナの援護だ。
ガウォークで付かず離れずの高度を保ち、スグミを援護する位置についた。
VF-19ASはガウォークでガンポッドを構え、敵の足元に威嚇射撃をする。
VF-27βが足場としていた倒木が砕けた。
地面が沼である以上バトロイドでそこに着地するわけにもいかず、VF-27βはガウォークへ変形し、態勢を立て直す。
が、そこが付け目となった。
VF-19ASはミサイルを放った。
左右から襲い来るミサイルをガンポッドで必死に撃ち落とすVF-27βだったが、ついに迎撃しきれずにミサイルの餌食となった。
「敵機撃墜」
「敵はこれ以上、き、基地の防衛部隊を減らすわけにはいかないと、思うので、増援は無いと思います」
「同感だ。ミラージュ2の援護に向かうぞ」
ファイターに変形し、基地への突入を試みる。
が、辿り着く前にアラートがなり響いた。
スグミは咄嗟に回避したが、逸れた弾がジーナのVF-25Aに当たった。
「きゃあぁ!」
煙を上げるVF-25A。
スグミはすぐにVF-19ASをガウォークに変形させ、VF-25Aを受け止めた。
「大丈夫か」
「な、なんとか…」
「アーマードの追加ブースターに被弾している。パージした方がいい」
スグミの指摘通り、VF-25Aはガウォークに変形してアーマードパックをパージした。
その時、彼女たちの元へ通信が入った。
恐らく、今の射撃の主であろう。
回線を開くと、野太い声が聞こえてきた。
『ノコノコと敵前に現れるとはな、S.M.S!』
「ANUNSか」
『それを分かっていて、俺たちに立ち向かうか!』
暗い青紫のVF-27γが現れた。
そのパイロットで、通信の声の主である男、クラウン・テイラーが、自ら2人の前に現れたのだ。
後ろには3機のVF-27βを連れており、当然だがすでに臨戦態勢だった。
「大将がわざわざ出迎えとはな」
『俺はサテルと違って挨拶はちゃんとするんでね』
「貴様ら、攻撃対象は新統合軍なのではなかったのか」
『お前たちに語ることではない』
睨み合い。
正直、こちらの勝ち目は薄かった。
被弾したVF-25AとVF-19ASに対し、相手はVF-27γと3機のVF-27βだ。
『挨拶はこのくらいでいいだろう。行くぞ!』
乱暴に通信は切られ、同時にVF-27γが突撃してきた。
「乱暴なやつだ。ジーナ、あの森に逃げ込むぞ」
「は、はい!」
スグミは少し先に見える森を示した。
障害物のないここでは、数で劣るこちらが不利だったからだ。
ミサイルで牽制し、VF-19ASとVF-25Aは森へ急いだ。
背後から撃たれるビームガンポッドを回避しつつ、なんとか森に飛び込んだ。
「ここならバトロイドでも大丈夫だ。ジーナはできるだけ奥に進め。私に考えがある」
(真の狙いは新統合軍ではないということは、あいつらがミストレーヌをさらった可能性は高いな)
(ならば、容赦はしない)
「目標はオーキッド樹林に逃げ込んだ。2番機、3番機はそれぞれ左右から迂回して突入、1番機は俺と正面から入り、敵を探すぞ!」
クラウンは部下に指示を出し、バトロイドに変形して樹林へ足を踏み入れた。
同時に、レーダー類は効かなくなる。
樹々などの障害物によってレーダーが乱反射するからだ。
「樹々が密集しているここでは、そう遠くには行けないはずだ。確実に包囲し、殲滅する!」
サイバーグラントの部隊は、クラウンの指示した通りの配置で捜索を始めた。
それは無駄のない、非常に理想的な配置だった。
インプラントネットワークで接続された彼らは、互いの見たものや感じたことを瞬時に共有し、素早い連携が可能である。
故に、逃げ込んだスグミとジーナが見つかるのも時間の問題だった。
「ん…?」
樹々の陰に何かを見つけたクラウンは、1番機に停止のサインを出した。
木の葉に覆われてあまり光の通らない、薄暗い空間の中、その方向を凝視する。
その時。
「に、2番機ロスト!」
1番機からの報告だった。
確かに、インプラントネットワークの接続が切れていた。
「慌てるな! 1番機はその方向へ行け。正面のアレは俺が調べる」
2番機がロストしたポイントには、近くに敵がいるはずと、そう読んだ指示だった。
しかし、それを覆す現象が起きる。
「こちら3番機! 敵機からの攻撃を---------」
続けて3番機がロストした。
バトロイドやガウォークで瞬時に移動できる距離ではなかった。
ということはだ。
「敵は2機ではないのか!?」
こんな中でファイターで飛べるはずがない、という、この思い込みこそが、最大のミスだった。
混乱する頭の中。
続けて1番機もロストした。
「どういうことだ……」
VF-27βの3機がロストした時、目の前に隠れていたそれが飛び出した。
VF-25A、ジーナだ。
VF-25Aはガンポッドを撃ちつつ後退し、森の奥へ進む。
「クッ! 逃がさん!」
それを追い、ガウォークに変形して前進するVF-27γ。
しかしその時、後ろから銃撃にあった。
それは足元を掠める程度だったが、クラウンを動揺させるには十分だった。
「誘い込まれたかッ!」
挟まれたと、クラウンは自分の冷静さの欠如に苛立った。
これがさらに、クラウンの冷静さを奪っていく。
「おのれぇえええ‼︎」
闇雲にビームガンポッドを掃射しながら突進する。
当然、その先にジーナの姿はない。
激しいマズルフラッシュが、樹林を照らす。
トリガーを引く指の力を抜き、様子を伺うクラウン。
その横を、黒い陰が通った。
素早く反応しそれを目で追うが、その姿は捉えられない。
と、今度は逆側に何かが通った。
「なんだ…何なんだ!」
完全に動揺していた。
否、恐怖といってもいい。
クラウンは多方向から次々と通過する陰を、目で追うことしかできなかった。
そんな時、前方に人影が浮かび上がった。
「このッ……散々おちょくりやがってぇえええ‼︎」
VF-27γはアサルトナイフを取り出し、前方の陰に斬りかかった。
それは後方に後退していく。
その時、一瞬だけレーダーに反応があった。
「後ろ!?」
ゆっくり振り向くと、樹々の隙間からわずかに見える陰。
黒と青で彩られた、可変戦闘機。
そのエンジンから噴き出す炎は、狂気にも似た恐ろしさを含んでいた。
「バ…バカな………」
それは密集する幹や枝を軽々と躱しながら、真っ直ぐに向かってくる。
そのパイロットの目は冷たく、真っ直ぐに、鋭い視線で、目標を捉えていた。
それはまるで、獲物を狙う
「こんな中を、飛べるというのか!?」
それは間違いなく、飛んでいた。
ファイター形態のVF-19ASである。
スグミの操縦技術とVF-19ASの運動性がなせる技だった。
いや、だとしても、奇跡の技と言える。
「そんな、デタラメなァアアア‼︎」
そんな叫びと共に、VF-27γは、爆散した。
VF-19ASは、バトロイドに変形してVF-25Aの横に着地した。
最初から、この2機だけで敵を翻弄していたのだ。
「や、やりましたね!」
「いや、まだ任務は終わっていない。ミラージュ2の援護に…」
「その必要はないよ!」
樹林を抜けると、2人の会話にバルトが割り込んできた。
基地の方を見ると、3機の可変戦闘機を連れるVF-25Fが見えた。
「こちらミラージュ2。任務達成! エレメント・ミラージュの損傷が激しいため、急を要する」
「了解した。撤退を援護する」
襲われていた研究チームも無事に救助され、事態は一件落着。
後の調べでは、彼らは惑星生物研究所のチームで、ANUNSはそこの研究データの奪取が目的だったということがわかった。
ANUNSの計画はしっぱいに終わり、研究所はそのまま放棄された。
あのANUNSの基地も放棄され、軍が調べに入ったが、ANUNSについての情報は全て削除されていたという。
研究チームを軍の施設まで送り届け、S.M.Sバルキリー隊はグライフへ帰る道へついた。
クローバー大湿地からトパーズ大湖群へ差し掛かろうとしたその時、レーダーに不審な陰が映った。
「未確認の輸送船だ。識別信号を出していないな……」
エドワードが輸送船のデータを読み取り、呟いた。
「調べる必要がありそうだね」
「俺とセシル、リュドの機体は情けないことに飛ぶので精一杯だ。悪いがそっちの3人から誰か行ってくれるか?」
「私が行こう」
そう即答したのはスグミだった。
誰の返事も聞かずに隊列から離脱し、その輸送船の方へ方向転換した。
「ひとりじゃ危険だ! 僕も行く」
「いや、私ひとりで十分だ」
突き放すようなその言葉は、誰もついてくるなという威圧を含んでいた。
結局、スグミはひとりで、その輸送船を調べに行ったのだった。
(もしかしたら、ミストレーヌについて何か掴めるかもしれない……)
そう、心で呟きながら。
どうも星々です!
夏ラストスパート! 2週連続2話同時投稿第2弾!(2ばっか)
まずタイトルが盛大なネタバレな回です
「城◯内死す」的なやつですね
そこまででもないか(笑)