マクロス-Sword-   作:星々

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07-聖剣、樹々を縫う

「目標エリア、目視で確認」

「ミラージュ2からミラージュ5へ。ジーナ、偵察を始めてくれ」

「は、はい!」

 

ミラージュ2、バルトのVF-25Fを先頭にデルタ陣形を組むエレメント・ラプトル。

その前方にはクローバー大湿地が広がっている。

遠目からでも、バンデットらしきバルキリーが数機確認できた。

ジーナのVF-25Aは陣形から離れ、高度を取りつつ偵察を始める。

ステルス性を重視したカスタム機であるため、レーダー類の強化された偵察機としての役割を担っている。

その収集データは随時仲間に送信され、地形から敵性バルキリーの配置まで正確にわかった。

 

「ミラージュ2からオーロラ1へ。敵性バルキリー数は8、陣形は2機編隊の四角形(スクウェア)だ」

「ANUNSだとしたら、囲まれたその中に拠点か司令塔があるはずだ」

「スグミ、敵の目を逸らせるか?」

「任せろ」

 

これだけの会話で、2人にはある程度の作戦が認識し合えた。

まずはスグミのVF-19ASが先行し、敵機を撹乱。

その隙にバルトのVF-25Fが敵中央部へ突入する。

この流れだ。

 

「み、ミラージュ5から各機へ。敵中央部に基地らしき構造物を確認しました! 位置情報を送信します」

「オーロラ1、了解。ジーナは上空で待機し、適宜敵の情報と指示を頼む」

「ミラージュ5、がんばります!」

「そこは『了解』だろ」

 

VF-19ASが敵前に飛び出した。

 

「VF-171…IFFはアンノウンか」

 

挑発するように真上を横切ると、ガウォークで振り向いたVF-171にバトロイドに変形して弾丸を浴びせる。

もう一機が迎撃を始めた頃にはファイターに変形しており、突貫しながらガンポッドを放つ。

 

「こちらオーロラ1。目標を2機撃破」

 

バトロイドで近くの木の陰に隠れたVF-25Fは、突入タイミングを伺う。

 

「左舷前方より、敵機来ます! スグミさんは迎撃してください!」

「承知している」

「突入するなら今です! バルトさんは回り込んで、陣形の穴に潜り込んでください!」

「分かった!」

 

スグミから向かって左。

ジーナが示した方向からVF-27βと2機のVF-171が接近してきた。

バトロイドに変形し倒木の上に着地したVF-27βがVF-171に指示を出すように手を突き出す。

VF-171はガウォークで弾幕を張りつつ挟み撃ちする方向へそれぞれ動く。

 

「少数を多数で攻撃する場合、包囲殲滅というのは最も効率的で確実性のある作戦だ」

 

VF-19ASは優雅に舞いながら弾幕を躱し続ける。

その姿はバレリーナのようで、黒いカラーであるにも関わらず、弾けるような美しさがあった。

 

「しかし、こちらの戦力を把握する前に行動を起こすべきではなかった」

 

可憐な動きを実現するパイロット、スグミは、その機動に反した冷徹な声でそう言った。

誰に言ったわけでもないが、これを合図にしたかのように、上空からミサイルの雨が降り注いだ。

VF-171は爆散し、その爆炎が黒いVF-19ASを不気味に照らす。

 

「援護、します!」

 

上空のVF-25A、ジーナの援護だ。

ガウォークで付かず離れずの高度を保ち、スグミを援護する位置についた。

VF-19ASはガウォークでガンポッドを構え、敵の足元に威嚇射撃をする。

VF-27βが足場としていた倒木が砕けた。

地面が沼である以上バトロイドでそこに着地するわけにもいかず、VF-27βはガウォークへ変形し、態勢を立て直す。

が、そこが付け目となった。

VF-19ASはミサイルを放った。

左右から襲い来るミサイルをガンポッドで必死に撃ち落とすVF-27βだったが、ついに迎撃しきれずにミサイルの餌食となった。

 

「敵機撃墜」

「敵はこれ以上、き、基地の防衛部隊を減らすわけにはいかないと、思うので、増援は無いと思います」

「同感だ。ミラージュ2の援護に向かうぞ」

 

ファイターに変形し、基地への突入を試みる。

が、辿り着く前にアラートがなり響いた。

スグミは咄嗟に回避したが、逸れた弾がジーナのVF-25Aに当たった。

 

「きゃあぁ!」

 

煙を上げるVF-25A。

スグミはすぐにVF-19ASをガウォークに変形させ、VF-25Aを受け止めた。

 

「大丈夫か」

「な、なんとか…」

「アーマードの追加ブースターに被弾している。パージした方がいい」

 

スグミの指摘通り、VF-25Aはガウォークに変形してアーマードパックをパージした。

その時、彼女たちの元へ通信が入った。

恐らく、今の射撃の主であろう。

回線を開くと、野太い声が聞こえてきた。

 

『ノコノコと敵前に現れるとはな、S.M.S!』

「ANUNSか」

『それを分かっていて、俺たちに立ち向かうか!』

 

暗い青紫のVF-27γが現れた。

そのパイロットで、通信の声の主である男、クラウン・テイラーが、自ら2人の前に現れたのだ。

後ろには3機のVF-27βを連れており、当然だがすでに臨戦態勢だった。

 

「大将がわざわざ出迎えとはな」

『俺はサテルと違って挨拶はちゃんとするんでね』

「貴様ら、攻撃対象は新統合軍なのではなかったのか」

『お前たちに語ることではない』

 

睨み合い。

正直、こちらの勝ち目は薄かった。

被弾したVF-25AとVF-19ASに対し、相手はVF-27γと3機のVF-27βだ。

 

『挨拶はこのくらいでいいだろう。行くぞ!』

 

乱暴に通信は切られ、同時にVF-27γが突撃してきた。

 

「乱暴なやつだ。ジーナ、あの森に逃げ込むぞ」

「は、はい!」

 

スグミは少し先に見える森を示した。

障害物のないここでは、数で劣るこちらが不利だったからだ。

ミサイルで牽制し、VF-19ASとVF-25Aは森へ急いだ。

背後から撃たれるビームガンポッドを回避しつつ、なんとか森に飛び込んだ。

 

「ここならバトロイドでも大丈夫だ。ジーナはできるだけ奥に進め。私に考えがある」

 

(真の狙いは新統合軍ではないということは、あいつらがミストレーヌをさらった可能性は高いな)

(ならば、容赦はしない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標はオーキッド樹林に逃げ込んだ。2番機、3番機はそれぞれ左右から迂回して突入、1番機は俺と正面から入り、敵を探すぞ!」

 

クラウンは部下に指示を出し、バトロイドに変形して樹林へ足を踏み入れた。

同時に、レーダー類は効かなくなる。

樹々などの障害物によってレーダーが乱反射するからだ。

 

「樹々が密集しているここでは、そう遠くには行けないはずだ。確実に包囲し、殲滅する!」

 

サイバーグラントの部隊は、クラウンの指示した通りの配置で捜索を始めた。

それは無駄のない、非常に理想的な配置だった。

インプラントネットワークで接続された彼らは、互いの見たものや感じたことを瞬時に共有し、素早い連携が可能である。

故に、逃げ込んだスグミとジーナが見つかるのも時間の問題だった。

 

「ん…?」

 

樹々の陰に何かを見つけたクラウンは、1番機に停止のサインを出した。

木の葉に覆われてあまり光の通らない、薄暗い空間の中、その方向を凝視する。

その時。

 

「に、2番機ロスト!」

 

1番機からの報告だった。

確かに、インプラントネットワークの接続が切れていた。

 

「慌てるな! 1番機はその方向へ行け。正面のアレは俺が調べる」

 

2番機がロストしたポイントには、近くに敵がいるはずと、そう読んだ指示だった。

しかし、それを覆す現象が起きる。

 

「こちら3番機! 敵機からの攻撃を---------」

 

続けて3番機がロストした。

バトロイドやガウォークで瞬時に移動できる距離ではなかった。

ということはだ。

 

「敵は2機ではないのか!?」

 

こんな中でファイターで飛べるはずがない、という、この思い込みこそが、最大のミスだった。

混乱する頭の中。

続けて1番機もロストした。

 

「どういうことだ……」

 

VF-27βの3機がロストした時、目の前に隠れていたそれが飛び出した。

VF-25A、ジーナだ。

VF-25Aはガンポッドを撃ちつつ後退し、森の奥へ進む。

 

「クッ! 逃がさん!」

 

それを追い、ガウォークに変形して前進するVF-27γ。

しかしその時、後ろから銃撃にあった。

それは足元を掠める程度だったが、クラウンを動揺させるには十分だった。

 

「誘い込まれたかッ!」

 

挟まれたと、クラウンは自分の冷静さの欠如に苛立った。

これがさらに、クラウンの冷静さを奪っていく。

 

「おのれぇえええ‼︎」

 

闇雲にビームガンポッドを掃射しながら突進する。

当然、その先にジーナの姿はない。

激しいマズルフラッシュが、樹林を照らす。

トリガーを引く指の力を抜き、様子を伺うクラウン。

その横を、黒い陰が通った。

素早く反応しそれを目で追うが、その姿は捉えられない。

と、今度は逆側に何かが通った。

 

「なんだ…何なんだ!」

 

完全に動揺していた。

否、恐怖といってもいい。

クラウンは多方向から次々と通過する陰を、目で追うことしかできなかった。

そんな時、前方に人影が浮かび上がった。

 

「このッ……散々おちょくりやがってぇえええ‼︎」

 

VF-27γはアサルトナイフを取り出し、前方の陰に斬りかかった。

それは後方に後退していく。

その時、一瞬だけレーダーに反応があった。

 

「後ろ!?」

 

ゆっくり振り向くと、樹々の隙間からわずかに見える陰。

黒と青で彩られた、可変戦闘機。

そのエンジンから噴き出す炎は、狂気にも似た恐ろしさを含んでいた。

 

「バ…バカな………」

 

それは密集する幹や枝を軽々と躱しながら、真っ直ぐに向かってくる。

そのパイロットの目は冷たく、真っ直ぐに、鋭い視線で、目標を捉えていた。

それはまるで、獲物を狙う狩人(ラプトル)のようだった。

 

「こんな中を、飛べるというのか!?」

 

それは間違いなく、飛んでいた。

ファイター形態のVF-19ASである。

スグミの操縦技術とVF-19ASの運動性がなせる技だった。

いや、だとしても、奇跡の技と言える。

 

「そんな、デタラメなァアアア‼︎」

 

そんな叫びと共に、VF-27γは、爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

VF-19ASは、バトロイドに変形してVF-25Aの横に着地した。

最初から、この2機だけで敵を翻弄していたのだ。

 

「や、やりましたね!」

「いや、まだ任務は終わっていない。ミラージュ2の援護に…」

「その必要はないよ!」

 

樹林を抜けると、2人の会話にバルトが割り込んできた。

基地の方を見ると、3機の可変戦闘機を連れるVF-25Fが見えた。

 

「こちらミラージュ2。任務達成! エレメント・ミラージュの損傷が激しいため、急を要する」

「了解した。撤退を援護する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲われていた研究チームも無事に救助され、事態は一件落着。

後の調べでは、彼らは惑星生物研究所のチームで、ANUNSはそこの研究データの奪取が目的だったということがわかった。

ANUNSの計画はしっぱいに終わり、研究所はそのまま放棄された。

あのANUNSの基地も放棄され、軍が調べに入ったが、ANUNSについての情報は全て削除されていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

研究チームを軍の施設まで送り届け、S.M.Sバルキリー隊はグライフへ帰る道へついた。

クローバー大湿地からトパーズ大湖群へ差し掛かろうとしたその時、レーダーに不審な陰が映った。

 

「未確認の輸送船だ。識別信号を出していないな……」

 

エドワードが輸送船のデータを読み取り、呟いた。

 

「調べる必要がありそうだね」

「俺とセシル、リュドの機体は情けないことに飛ぶので精一杯だ。悪いがそっちの3人から誰か行ってくれるか?」

「私が行こう」

 

そう即答したのはスグミだった。

誰の返事も聞かずに隊列から離脱し、その輸送船の方へ方向転換した。

 

「ひとりじゃ危険だ! 僕も行く」

「いや、私ひとりで十分だ」

 

突き放すようなその言葉は、誰もついてくるなという威圧を含んでいた。

結局、スグミはひとりで、その輸送船を調べに行ったのだった。

 

(もしかしたら、ミストレーヌについて何か掴めるかもしれない……)

 

そう、心で呟きながら。




どうも星々です!

夏ラストスパート! 2週連続2話同時投稿第2弾!(2ばっか)

まずタイトルが盛大なネタバレな回です
「城◯内死す」的なやつですね
そこまででもないか(笑)

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