マクロス-Sword-   作:星々

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04-白き悪魔、黒き剣

先手を打ったのはスグミだった。

ロールしながらファイターに変形し、ミサイルを一斉掃射。

あえて狙いをずらし、ミサイル同士が衝突するように放った。

それは攻撃に見せかけたド派手な煙幕。

ガウォークに変形し、その煙の中にガンポッドを撃ち込む。

 

(どうだ……)

 

案の定、爆煙切り裂いて白いVF-27γが飛び出してきた。

再びファイターに変形、ドッグファイトが始まった。

今背後を取っているのはVF-27γ。

何度もブレイクを繰り返すVF-19ASだったが、VF-27γは執拗にその尻尾に齧り付く。

 

「やる……ッ」

 

チャフを撒いてミサイルを凌ぐ。

それによって生じた爆煙を盾に、スグミはVF-19ASのエンジンを前方に折りたたみ急速減速、VF-27γの真上に上がった。

20mmビーム機銃をこちらに向けるVF-27γであったが、VF-19ASは宙返りからのヨー・ヨーで迎撃とブレイクに対応。

 

「やはり運動性能はこちらが上。それにEX-ギアがあるからこれまで以上の動きができる」

 

アクロバティックな動きでVF-27γと同等にやりあうVF-19AS。

スグミは終始涼しげな表情で激しい空中機動(マニユーバ)を繰り返す。

キャノピーも装甲化されたVF-27γのパイロットの表情は伺えないが、まだまだ余裕があるだろうとスグミは感じていた。

 

(まだVF-27γの最大限ではない…)

(こちらの実力をみているのか、生意気な)

 

試すようにあえて背中を晒すVF-27γ。

スグミはビーム機銃に気をつけながら背後に回る。

 

「ならばこちらも、情報収集させてもらうぞ」

 

左右に連続でロールしながらガンポッドを噴かす。

その弾丸は掠りもしなかったが、回避行動の隙に間合いを詰めた。

インファイトを得意とするスグミは、今度はVF-27γの真下に入り、バトロイドに変形した。

左の拳にピンポイントバリアを集中展開し、螺旋を描きながら跳躍、初めて敵にまともな一撃を加えた。

頭部右側部の対空レーザー砲塔で牽制しながら砂浜へ自由落下していく。

 

「転換装甲の出力が高い…さすがはγ型といったところか」

 

次々と命中しているはずのレーザーだったが、まるで手応えが無かった。

VF-27γもバトロイドに変形しその白い身体をこちらに向けた。

右手には全長16.85mにも及ぶ巨大なビームガンポッドを持ち、左手にはアサルトナイフが握られていた。

 

「インファイトにはインファイトか…その余裕、やはり機械は愚かだ」

 

見下すようにそう言い放つスグミ。

睨み合いの中、コックピット内に電子音が鳴った。

通信が入ったのだ。

発信元はVF-27γ。

スグミは迷うことなく回線を開いた。

 

『案外やるものだなウロボロスの使者』

 

正にサイバーグラントである、とでも言うような抑揚のない冷淡な声でそう言った。

今の一言で、スグミは敵性勢力に対する警戒が強くなった。

IFFは一時的にソーディア支社のものに変更しており、また今回の設計図輸送は極秘任務だったからだ。

仮にウロボロス支社所属とバレたとしても、「使者」という言葉を使うのならそれなりにここへ来た理由や背景を掴んでいるということ。

ただのバンデットではない。

そう確信した。

 

「貴様か、何度も私を襲ったのは。いや、()()に襲わせたのか?」

 

スグミは罠を敷いた。

「部下」という言葉を使い、敵の組織性を探ろうとした。

ここで部下という言葉を否定しなかった場合、それはある程度の組織力と規模を持つ集団だとわかる。

 

『エージェントとしても、かなりのやり手のようだな』

 

しかし敵もそれを見抜いた。

ただ、これだけ慎重かつ周到な相手ということは、訓練されている可能性が高い。

サイバーグラントということもあるのだろうが、会話の中にも隙がなかった。

 

『挨拶はほどほどにして、本題に入ろう』

 

スグミは集中力を切らさずに耳を傾けた。

 

『俺たちは今、戦力を欲している。単刀直入に言おう。俺と共に来る気はないか』

「それでこちらの実力を測っていたのか。気に入らんな」

『答えを聞こう』

「答えも何も、判断材料が少なすぎるな。それに、女をダンスに誘うには礼儀がなっていない…!」

 

スグミの答えは決まっていた。

彼女はあくまでS.M.Sの隊員だ。

上司からの命令がない限り他の組織に加入することは無い。

それに今は、ソーディア支社に協力するという任務の最中だ。

それを放棄するという考えが、そもそも彼女の頭には存在していなかった。

それを行動で示すように、スグミは操縦桿を押し込み、VF-19ASを突貫させた。

左右に不規則に動きながらガンポッドを撃ち鳴らす。

応戦するVF-27γはそのVF-19ASの動きを先読みしながら間合いを取ろうとする。

 

「目的を聞こうか。貴様等の企んでいることをな」

『お前がこちらに来ると言うのなら教えてやろう』

「なっちゃいないな」

 

白い砂を巻き上げながら地面を蹴り、VF-27γに襲いかかるVF-19AS。

しかしVF-27γは冷静に迎撃態勢を取り、そのビームガンポッドでVF-19ASのガンポッド破壊した。

 

『期待はしていない。だが来ないというのなら殲滅せよというのが命令だ』

「調子に乗るな機装強化兵。機体性能に頼りきりの機動では私には勝てないぞ」

 

怯むはずもなく弾丸を躱しつつ間合いを詰めるVF-19AS。

頭部右側部のレーザー砲塔で牽制はしつつも、積極的に懐を狙う。

VF-27γはついにその懐を晒すが、アサルトナイフ横薙ぎで対応。

しかしVF-19ASは、一瞬でVF-27γの視界から消えた。

素早く身をかがめたのだ。

その態勢から右脚逆回転蹴りでビームガンポッドを弾き飛ばす。

 

『クッ……』

「そんな重いものを持っていては、こうやってすぐに接近を許すぞ」

 

両脚で着地すると同時に、隙封じ目的で腰に位置する主翼の根元に搭載されているマウラーREB-23半固定レーザー機銃を放つ。

それは密着状態では下から撃ち上げられるため、十分な目くらましになった。

 

『デタラメな動きを…ッ』

「強がっていろ。お前はセオリーの外側を知らないだけだ」

 

左手のピンポイントバリアパンチが振り上げられる。

しかし、VF-27γはそれを右手で受け止めた。

続けて放った右ストレートは左脇に挟み込まれ、身動きを封じられた。

 

『お前がセオリーから外れていたとしても、パワーで抑えてしまえば何の問題もない』

 

パワーで劣るVF-19ASはその動きを封じられ、頭部のレーザー砲塔も破壊された。

また腰部の半固定レーザー機銃を撃つには流石に近すぎで、撃てばこちらにも被害が出てしまう。

手も足も出ないとはこのこと、と、普通は思ったかもしれない。

だがスグミは、これを打開してみせた。

 

「ピンポイントバリア、集中展開」

 

VF-27γに掴まれた左手、正確には左手のシールドに、ピンポイントバリアが展開された。

 

『無駄なことを』

「こういうのは発想が大事なんだ」

 

直後、VF-27γの右手が、砕けた。

流石にサイバーグラントといえど驚いたようで、脇に挟み込んだ右腕も離してしまった。

 

『な、なんだそれは…!?』

 

明らかに動揺する敵。

それを鋭い眼差しで睨むスグミは、容赦なくそれを奮う。

シールドに展開されたピンポイントバリアは、先端部に集中していた。

それは刃として形成され、武器となった。

自由になった右手でVF-27γの左腕を掴んで引き寄せ、そのピンポイントバリアの刃で腕の根元を貫いた。

 

『クソッ…! クソッ!』

「よく見ろ。これが機械にはできない、()()というやつだ」

 

VF-19ASが左手を掲げた。

その先端には刃が光っている。

右手と左腕で失ったVF-27γはどうすることもできず、真っ直ぐ後退する。

しかしバランスを失った状態ではあっという間に間合いを詰められ、VF-19ASのさらなる一撃を許した。

 

『カ、カタール…ピンポイントバリアのカタールだとでもいうのか!?』

 

そのピンポイントバリアのカタールは、気の抜けたようにぶら下がるVF-27γの右腕を、貫いた。

両手をもぎ取られたVF-27γは撤退を決めたようにファイターへ変形した。

 

「逃がすか」

 

スグミもそれを追おうとファイターに変形しようとする。

しかし、できなかった。

エンジンがオーバーロードを起こし緊急停止。

システムも次々とダウンしていき、最終的に膝をついて沈黙してしまった。

 

「さすがにあの出力を持続させるのはキツイか……無理をさせすぎてしまったな」

 

暗くなったコックピット内は静かだった。

遠ざかっているであろう敵の姿も、波の音も、確認することはできなかった。

スグミは仕方なく、救出を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりスグミ」

「お、おかえりなさい!」

 

ハンガーに回収されたVF-19ASを出迎えたのは、バルトとジーナだった。

2人は着替えずにTシャツだけ着て駆けつけたようだった。

スグミはヘルメットを脱ぎ、パイロットスーツを緩めながらコックピットから降りた。

 

「グライフへの被害は?」

「各種対空攻撃ユニットは壊しつくされたね。一部装甲部にも被害が出てるけど、カーゴシップとしてはまだ機能するよ」

「そうか」

 

取り敢えず守れたようで、スグミはひとまず気を緩める。

流石のスグミでも戦闘は疲れるものだ。

ジーナが手渡してくれたドリンクに口を付けつつ、ハンガーに入ってきたアライアに視線を向ける。

 

「流石ね。おかげでいいもの見せてもらったわ」

「あぁ。私も、アライアの改良のおかげでいい動きができた」

 

アライアはハンガーと隣接する休憩所にスグミを連れ、座るよう促した。

スグミは椅子に腰掛けると、アライアはテーブルを挟んで反対側に座った。

 

「ひとつ、私から提案があるんだけど。あ、2人も座ってちょうだい」

 

バルトとジーナがスグミの左右に座ると、アライアは話を続ける。

 

「あなたたち3人で、分隊(エレメント)を組んでほしいのよ」

「3人で? 3機編成の2個分隊で計6機の小隊(フライト)を組むと、そういうことですか?」

 

ジーナとアライアの分のドリンクを手渡すバルトが質問する。

可変戦闘機においてこの編隊はそう珍しいわけではないが、スグミのVF-19ASとバルトのVF-25Fでは役割が被るところがある。

また、ジーナのVF-171EXも、この2機と組むにはバランスが悪い。

 

「あの双子が同じ分隊にしたいのはわかるが、それならば私かバルトがそちらと組んだ方がいいと思うが、違うか?」

「あなたの言いたいことはわかるわ。だからジーナには、新しい機体を支給しようと思うの」

「え! わ、私にですか?」

 

まだ新人であるジーナには予想外だった。

入隊したばかりでパイロットとしての経験も浅い彼女は、まさかそんなにすぐに新しい機体が寄越されると思っていなかったのだ。

実際、可変戦闘機を動かすのもタダではなく、予算面での負担が大きい。

しかし、新しい機体を渡すだけの価値があると、アライアはそう思っていた。

 

「よかったなジーナ!」

「そ、そんなぁ…だ、だって私、まだ新人だし…」

「いいんじゃないか? 前にシュミレートのデータを見させてもらったが、中々に綺麗な飛び方をする」

 

スグミが珍しく他人を褒めた。

彼女はウロボロスでも一人でいることが多く、リオン以外のパイロットを認めていなかった。

しかし彼女はジーナを、仲間として認めていた。

確かな才能があると見抜いていた。

 

「それで、支給される機体はなんだ。同じ分隊である以上、確認しておきたい」

「そうだね。僕も見ておきたい」

「いいわ。じゃ、こっちに来てちょうだい」

 

アライアは休憩所を出、再びハンガーへ3人を導いた。

 

 

 

 

 




どうも星々です!

超カスタムVF-19、VF-19ASエクスカリバー/スグミスペシャルの戦闘回でした

軽い機体解説↓
アライアがスグミ心配してカスタムした機体。
エンジンにFF-3001を無理やり使用しているためパイロットへのG負荷が大きく、それの解決策としてEX-ギアやISC等のインターフェースシステムを搭載した。それに伴い、複座から単座に変更されている。
また、頭部形状も若干異なり、レーザー砲塔は右側部に移動し、左側部にはセンサーアイが取り付けられている。バトロイド時にはそれらが前斜め上を向くように固定されるため、攻めに関する強みが増した。
VF-19なのはもはや外身のみとも言える超カスタム機。ただ、間に合わせのカスタムが多いため、稼働の安定性は低い。

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