マクロス-Sword-   作:星々

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03-海色、揺れる

薄暗い部屋に、3人のサイバーグラントがいた。

同じパイロットスーツを着ている様子を見ると、どうやら仲間同士らしい。

 

「S.M.Sを潰し損ねた。どうやらウロボロスからの使者は相当なやり手だ」

「そんな事、アンタの部下がゴーストを5機も失った失態で目に見えているよ」

「X-9もタダじゃないんだ、気を付けろ」

 

冷淡な表情の青年と、どこか挑発的な態度の女、そしてガタイのいい男。

この3人のうち、冷淡な青年がS.M.Sへの攻撃を指示していた。

 

「過ぎたこたぁしょうがないよ。何にせよロボル司令の計画にS.M.Sは首を突っ込みかねない。早めに始末するんだね、サテル」

「その件については承知している、アリエ。こちらで手を打っておく」

「俺の部下を貸そうか? お前んとこだけじゃ不安だからな」

「その必要はないクラウン。次は俺も出る」

 

関心した表情を浮かべた2人に背を向け、青年はその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜のグライフ内。

多くの社員が眠りにつく中、バルトはたまたまハンガーの前を通った。

報告書をまとめるのに時間がかかり疲れた目に映ったのは、ハンガーから漏れる薄明かり。

この時間帯には誰もいないはずのハンガーに灯りが点いていたのだ。

 

「誰だ最後に使ったやつ。ちゃんと消さなきゃ……!?」

 

バルトは何かに気付き、咄嗟に壁に身を寄せた。

物陰に移動し、そっと光の方を覗く。

そこにはうずくまる人影が。

パイロットスーツを着ているところを見ると、パイロットらしいことがわかる。

 

(泣いてる…?)

 

角度的に顔は見えなかったが、その人物の候補は限られてくる。

自分を除く、今日出撃したパイロット、すなわち、ジーナかスグミ。

そう考えていた時

 

「隠れなくていい。というか、お前はもう寝ろ」

 

その人影が立ち上がった。

小さな光に、空色の髪が照らされる。

 

「スグミ……」

 

スグミは灯りを消し、俯きながらバルトの横を足早に歩いた。

 

「おい、待てよ!」

 

それを呼び止める声に、スグミは足を止めた。

だが決して振り向くことはなかった。

顔を隠すように、バルトに背を向けたまま。

 

「どうしてあんな無茶した」

「お前には関係ない」

 

鋭い即答に、バルトはすぐに言葉を返せなかった。

それだけ言ってまた歩みを進めるスグミだったが、少し歩いたところで、またその足を止めた。

何か言い残したように口を開く。

 

「そ、それと…………………お大事にな」

 

スグミはさらに早足で、廊下を歩いていった。

バルトは手首を抑える。

 

「あいつ…気付いてたのか。だから僕を置いて前に……」

 

バルトは角を曲がる時に少し見えた彼女の顔に、笑みを浮かべた。

 

「もっとその優しさに、胸張っていいんだぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、グライフはオルタンシア・シティを後にしてクロッカスの街に向かっていた。

トパーズ大湖群の北東部に位置するクロッカスは、娯楽街として発展している街である。

イリス川に面し、ビーチを有する。

川と言っても、海に近く、ほぼほぼ海であるため、海水浴場が存在する。

そして驚くことに、アライアはここに、プライベートビーチを所有していた。

 

「海行くわよ海!」

 

ブリッジではしゃぐアライア。

その腰には既に浮輪が。

 

「あのなぁアライア…切羽詰まった顔で招集かけたかと思ったら、何で海なんかに」

 

呆れてこう言ったのは、この中でも年齢を重ねている方ではある男性だ。

彼の名はエドワード・ブレインズ。

S.M.Sソーディア支社の可変戦闘機(バルキリー)隊の隊長だ。

彼含め、ブリッジに招集された者たちはみな正装だった。

そんな中に、水着にTシャツに麦わら帽子(+浮輪)スタイルの支社長。

調子抜けするのは当然である。

 

「だってぇ〜スグミの歓迎会まだやってなかったし〜」

 

そう言ってブリッジ正面モニターを指差す。

 

「総員、海に備えよっ!」

 

冷たい視線と微妙な空気が流れる。

しかし数秒もすると、エドワードのため息とともに、みな笑顔になった。

 

「やれやれ、そういう事なら…」

「う、海ですか!? わわ、私、水着なんて…」

 

バルキリー隊のジーナが恥ずかしそうに言う。

彼女はこの艦の中でも若い方で、内気な性格という事もあり、遊びにはあまり参加してこなかった。

 

「持ってないのか?」

「も、持ってますけど……そういうスグミさんは、ど、どうなんですか?」

「持ってきた、ウロボロスから」

「お、スグミさんの水着見れるんスか!? 超楽しみッス!」

 

若いパイロットがエドワードの後ろから飛び出してきた。

茶色のツンツンヘアが若さを引き立てている、遊び盛りの少年といった印象だ。

 

「リュド、はしゃぎ過ぎぃ!」

「そういうセシルも、テンション上がってるじゃねぇか!」

「あったりまえじゃない!」

 

少年リュドと少女セシルの高い声が耳を刺す。

まだこの2人もバルキリーパイロットで、この艦最年少の双子である。

 

「よぉし、総員、出撃準備よ!」

 

アライアが飛び跳ねて言うと、全員がブリッジから出て行き、自室へ向かった。

ダッシュで向かう者、やれやれと言った様子でゆったり歩く者など、様々であったが。

 

 

 

 

 

 

「なんかゴメンな。ウチの支社の思い付きで海とか」

「問題ない。大事だと思う、こういうのもな」

 

自室が近いということもあり、2人で歩くスグミとバルト。

その後ろを、寂しそうにも悲しそうにも見える目で見つめながら歩く少女がいた。

ジーナ・フォルティ。

彼女は自室の前に着いたが、しばらくの間2人の背中を見ていた。

 

(バルトさん………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

一同は誰もいないビーチに到着した。

 

「「うおぉぉおぉぉおおおぉりゃああぁぁあぁああぁああ‼︎」」

 

艦で直接ビーチに付け、そこから降りて真っ先に海へ走ったのは双子のリュドとセシルだった。

無邪気に水を掛け合う2人の後を追うように駆けていったのはアライア。

アライアは情熱的な赤のビキニで海ダイブ。

その水しぶきが弾け、双子は海に倒れこむ。

そんな光景を父親のように見ながら歩くエドワード。

そして白いフリルの付いたスカートタイプの水着を着たジーナがエドワードを追い抜き、エドワードの後ろを歩くバルトもビーチの砂に足をつける。

そして最後に艦から降りたのは、なんと、パイロットスーツのスグミ。

 

「お、お前なぁ………」

「何か問題でもあるか?」

 

振り向いたバルトは驚き、呆れたように頭を掻いた。

スグミはいつもと変わらぬ様子でビーチパラソルの下のレジャーシートに腰を下ろす。

バルトは、はしゃぐ4人とそれを見守る1人を見ながら、スグミの隣に座った。

 

「せっかく歓迎会ってことでここに来てるんだから、混ざってきたらどうだ? っていうか、海なんだから水着着ろよ」

「水着は好きではない、無防備すぎる。敵が来たらどうする?」

「いや、そういうことじゃなくてさ…」

「お前こそ遊んでこい。私は1人で大丈夫だ」

「……はいはい」

 

仕方なく腰を上げ、海に入るバルト。

 

 

 

「あれ、スグミさんは?」

 

リュドの問いに、親指で後ろを指す。

 

「えぇーー水着あるって言ったじゃぁん」

「何でそんなにスグミの水着が見たいんだい少年っ!」

 

アライアがビーチボールで常人超えの強烈なスマッシュを放つ。

それを右手でよそへ弾き、リュドは答えた。

 

「だってさ、ゼントラーディってこう、出てるとこ出てんじゃん?」

 

音速の肩パン。

それは双子の姉からの一撃だった。

アライアのスマッシュにも動じなかったリュドが悶絶する。

 

「ったく、これだから男ってのは」

「そうよねぇ。ここにもナイスバディがいる………………………どんまい」

「うっさい」

 

そんなやりとりが交わされる中、ジーナはバルトの隣に位置取った。

しかし、波に足を取られバランスを崩す。

 

「きゃっ!」

「おっと、大丈夫か?」

 

ジーナの身体を片腕で支える。

赤面のジーナの肩をもう片方の手で支え、立ち直させる。

バルトの笑顔が、ジーナの赤面を加速させた。

あえて語ることでもないとは思うが、ジーナはバルトに想いを寄せている。

そんな人との意外なボディタッチに、ジーナは海に顔を突っ込んで大声を上げた。

ただ外から見ればそれは単純に溺れているようにしか見えないので、バルトは焦って彼女を引き上げる。

 

「お、おい、大丈夫か?」

「す、すみません…だ、大丈夫です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいぶ時間が経った。

太陽(厳密には"sun"ではないが)は頂点に差し掛かり、ちょうど正午であろうか。

余談ではあるが、惑星ソーディアは地球時間で換算すると1日約26時間なので、それを24で割った独自の測時法を使用している。

 

「腹減ったぁああああああああ」

「腹減ったあああああああああ」

 

セシル、リュド姉弟が砂浜に上がり、スグミがいるビーチパラソルの下へ駆け込んだ。

そこには既に全員分の昼食が広げられていた。

野菜や肉をパンで挟んだサンドイッチだ。

それをいきなり鷲掴みにしようとしたリュドの手を、スグミが払いのける。

 

「手、洗ってこい。不潔だ」

「う、うん」

 

みんなで楽しい昼食が始まろうとしていた、その時だった。

 

 

 

海色(みいろ)が、揺れた。

 

 

 

 

風を裂く音と共に、白い影が青空を貫いた。

それは単機で、S.M.Sに襲いかかった。

警告も無しに、弾丸が降り注いだ。

55mmビームガンポッドから放たれる光球は、グライフに喰らい付いた。

幸い、グライフの下で死角になる位置に陣取っていた一同は直撃を免れた。

しかし、ここから飛び出すのも危険である。

 

「敵!? こんなときにっ!」

「アライア、私が出る」

 

唯一、パイロットスーツでいたスグミが立ち上がった。

確かにこの中で一番素早く出撃できるのは彼女だけだ。

しかし、弾丸の雨の中飛び出すのは死にに行くようなものだ。

だがいくら止めても止まるような人間ではない。

スグミは飛び出していった。

 

「アライアに改造してもらった今の機体…楽しみだ」

 

スグミは素早くハンガーの愛機に乗り込んだ。

そのコックピットは、以前のVF-19Aとは大きく異なっていた。

最大の変更点は、コックピットシートと一体化した耐Gスーツ、EX(エクス)-ギア。

その他レイアウトも、VF-25に準じたものに変更されていた。

 

「各種システム正常…EX-ギア動作正常……システム、オールグリーン」

 

改造を施されたVF-19Aが、カタパルトへ運ばれる。

そのとき、砂嵐混じりの映像通信が入った。

アライアのノートパソコンを艦のオペレートシステムとリンクさせた即席オペレートシステムだ。

 

『機種の判別ができたわ。敵はVF-27γ。今までのヤツとは違うわ、気を付けて!』

「了解」

 

ヘルメットを被る。

エンジンに火を入れる。

心地よい振動が身体を伝わる。

 

「オーロラ1、スグミ・ドリム。VF-19AS、エクスカリバー/スグミスペシャル……発進する!」

 

VF-19A改めVF-19ASが飛び立つ。

EX-ギアによってさらなる加速が可能となった聖剣が、翼を広げた。

眼前には白いVF-27γ。

互いに認識し合い、ガウォークで睨み合う。

 

「空力運動性能を極限まで追求したこの機体。運動性では負けはしない」

 

カナード翼+前進翼という空力的に不安定な組み合わせをあえて採用したVF-19系は、そのアンバランスを逆に利用してアクロバティックな機動に繋げることを狙って設計されている。

対してVF-27系はYF-24エボリューションを元機としたサイバーグラント専用機であり、高G戦闘を可能としている機体である。

機体形状だけで判断すれば、複雑な形状のVF-27γよりも、VF-19ASの方が有利と言える。

しかし可変戦闘機はそんなに単純ではない。

 

「ターゲット確認。迎撃する…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも星々です!

早速ですが水着回(主人公は…笑)でした!

初回3話同時投稿ということで、イッキ読みした方、お疲れ様です
どうでしょうか、この感じ
舞台は西暦2062年の惑星ソーディアという場所です
ゲーム「マクロス30(ry)」の舞台であるウロボロスと同銀河系内という設定ですね
独自解釈や時代背景の多少のズレはあると思いますが、こんな感じで頑張っていきたいと思っております
ので、今後ともよろしくですっ!

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