マクロス-Sword-   作:星々

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26-時神〈クロノス〉

「それじゃ、とりあえずあなたたちが持っている情報をもらおうかしら」

 

十分な休養をとった後、ミランダとブレイブローアはブリーフィングルームに呼ばれ、S.M.Sソーディア支社長アライアと同バルキリー隊臨時隊長バルトと向かい合って座った。

まず話を切り出したのはアライアだったが、ミランダは軍人の顔で落ち着いた口調で答えた。

 

「いや、軍の情報を簡単に開示することは控えさせてもらいたい。もちろん必ず情報は渡そうと思ってはいます、こちらとしても情報交換はしておきたいところではあるので。形の上だけでも、一応そちらからの情報を先にいただきたい」

「わかってくれ、軍ってのは色々と面倒なんだ」

 

2人はあくまで()()として振る舞った。

負傷した隊員の治療や機体の整備など、感謝することはたくさんある。

しかし軍の保有する情報を簡単に外部へ漏らしたとなれば、それが些細なことだったとしても問題になりかねない。

とはいえ、今回ソーディアに派遣された人員のうち彼女らクロス小隊以外は生存すら怪しい状況であり、今のこういった事実も記録としてしか残らない。

過程さえしっかり踏んでいればなんとかなると判断したのだ。

 

「そうね、配慮が足りなかったわごめんなさい」

「いえ、こちらこそ。話の分かってくれる人で助かります」

 

アライアはすぐ納得し、立ち上がって空中投影式のヴァーチャルディスプレイを呼び出すと、いくつかの情報を表示した。

 

「まず、今ソーディアが置かれている状況から説明しましょうか」

 

そう言うと、ディスプレイ全体に一つの画面が表示され、左下の年月日が遡っていった。

その数字は2064年12月7日で止まった。

 

「今から1年と少し前、突発的な暴動が同時多発的に発生したの。それまで前兆もなかったし、キッカケも思い当たらなかった。それでも一応この星の治安維持の一端を担ってる私たちは、独自の判断で近くの暴動へ介入を試みた。そしたら……」

「攻撃してきたのはならず者たちだけじゃなかった。軍の機体も、僕たちに攻撃を仕掛けてきたんだ」

 

軍の主力可変戦闘機、VF-171がこちらへ攻撃してくる映像が流れた。

 

「呼びかけには応じず、また明確な意思も明示されない。正気を失ってるようにも思えたわ」

 

ミランダたちが遭遇した事象とよく似ていた。

とするとやはり、あのYF-29に乗っていた女も関係してくるのだろう。

しかしあの女は攻撃の指示をしていないと言った。

ただその口ぶりから偶然居合わせたとは考えにくかった。

 

「僕たちは撤退を余儀なくされた。でも追撃が激しくて、損害も大きかった…」

 

彼の口調から、それがいかに壮絶だったがうかがえた。

おそらく、犠牲者も出たのだろう。

 

「その後、何度か調査に踏み切った。そしたら、特有のフォールド波を感知したの。まだ照会はできてないけど、おそらく…」

「…ヴァールか」

 

映し出された円形のグラフの上を不規則に波打つ波形を見て、ミランダはそう推測した。

確かに近年ヴァール症候群(シンドローム)が大きな問題となってはいるのだが、それは主にブリージンガル球状星団で顕著に表れていることであって、ウロボロスやソーディアではあまり発生事例が無かったはずである。

それが突然、というのは些か違和感を覚える話ではある。

 

「僕たちも最初はそう推察したんだ。でも、ヴァールにしてはある程度の統率がとれていたんだよ…」

「ヴァールに似た新種の感染症か、あるいは…………」

 

やはりあのYF-29が何か関係しているのか。

 

「とにかく、状況は思っていたより厄介みたいですね」

 

話は聞いてみたが思っていた以上に分からないことが多すぎた。

現地で活動しているS.M.Sでも状況が掴みきれずに混乱している、というのが正直なところだろう。

 

「情報って言っても、今の所はこれくらいしか…」

「こちらが持っている情報としても似たようなものですが、ただ…」

 

ミランダが例のYF-29の話をしようとしたその時だった。

グライフⅡのレーダーが接近する熱源を探知し、警戒を促す警報が鳴り響いた。

 

「何だ?」

「警戒態勢です。僕は出撃待機に向かいますが、あなたたちはどうする?」

「俺たちも手を貸そう。面倒みてもらっている礼ってことでな!いいだろミランダ?」

「そうだな、そうさせてもらおう」

「ありがたいわ。私はブリッジに上がって状況を確認してくるから、出撃が必要な場合には連絡するわ」

 

各々行くべきところへ向かった。

ただ、まだ敵襲かどうかはわからない。

一先ずはできることをするべきだ。

 

 

 

 

「私の機体は?」

「バッチリ整備しときましたよ!」

「ありがたい」

 

ミランダは自分の機体、VF-19に飛び乗ると通信を開き、S.M.Sのチャンネルに合わせた。

 

「出られる機体はどれくらいある?」

「僕の機体はすぐに出られそうにない。ジーナのVF-25とゴースト2機くらいしか…」

「やはり戦力不足は否めないってことか」

 

コックピットに座ると、表情が変わる。

ミランダはまずこちらの手数を確認した。

クロス小隊で出られるのはミランダのVF-19と、脚部の修復が間に合わず未だ脚なしのブレイブローアのVF-22、そしてルーシアとチャーリーそれぞれのVF-19。

セルダは未だ昏睡状態ですぐの復帰は期待できない。

となるとこの少ない戦力では、もし戦闘になったときはS.M.Sとの連携は不可欠だろう。

 

「艦長よ。攻撃を確認したわ。数は5、識別自体は軍のものよ。足の速いVF-171がいるから注意して」

「敵襲というわけか。よし、クロス2とクロス4は待機、クロス5は私のフォローを!」

 

損傷中のVF-22は待機させ、またルーシアのVF-19も戦力温存のために待機させる指示をした。

 

「アライア艦長。戦線の指揮を執らせてもらいたい」

「最初からそのつもりよ、任せるわ」

「感謝する」

 

機体をカタパルトに固定する。

動作確認を終え、エンジンに火をつけた。

ファストパック装備のVF-19がせり上がる。

 

「発進どうぞ!」

 

オペレーターのその言葉を聞き、ミランダはもう一度操縦桿を握りなおし、まっすぐ前を見据えた。

 

「ミランダ・コズミナ・ジーナス、VF-19E/A、出るぞ!」

 

風を切り、VF-19が羽ばたいた。

 

「雑魚を先に片付ける!チャーリーは8時方向に展開!ミラージュ5は中央から敵を撹乱!」

「了解です!」

 

少し深追いしがちな癖があるチャーリーを若干後方へ配置し、また素直で多方面への適応性を持つVF-25を前に出して、自分は崩れた敵陣形を一気に叩くような配列を指示した。

 

「お願いします、リュド!セシル!」

 

ジーナがコンソールにコードを入力すると、随伴のゴーストが同時に先行した。

細やかな動きと不規則な挙動で敵をうまく翻弄している。

一方が大きく敵上方へ位置どればもう一方が横から射し込みに入り、回避先へVF-25が回り込むことで進路をずらしていく。

当たり前と言えば当たり前だが、とても息のあった連携だ。

特に2機のゴーストは機械とは思えないほどパターン化されず、まるで気まぐれのような動きを見せる。

 

「下方から叩く。チャーリーは支援を」

「了解っス!牽制します!」

 

チャーリーのVF-19が大きく前に出てわざと大袈裟な動きで敵の上を取り、バトロイドに変形してガンポッドを掃射する。

そこにゴースト2機も加勢するように敵の注目を集めると、気を取られてがら空きとなった敵下方にミランダのVF-19が一気に潜り込んだ。

 

「ひとつ!」

 

予告したようにそう言うと、ガウォークで油断しきったVF-171にバトロイドでアッパーを入れる。

 

「逃さないぜ!」

 

間合いを取ってミランダを包囲しようと動くVF-171の道を塞ぐチャーリー。

その間合いを取りきれずに中途半端な位置どりになったVF-171が変形で逃げようとした隙にミランダのVF-19が腕を伸ばして翼を捕まえ、そのまま機首に脚を絡めるように張り付いてバランスを崩し、敵機の推力をも借りて下方へ投げ飛ばした。

結果そのVF-171は加速度を殺しきれず地面に激突し、大破した。

 

「ふたつ!」

 

一連の動作を阻害しようとミランダのVF-19の背後を取っていたVF-171は逆にジーナのVF-25に背後を取られた。

その背中にガンポッドを撃ち込もうとしたがしかし、明らかに動きの違うVF-171がそれを妨げた。

 

「何? 速い⁉︎」

「こいつが例の足の早いヤツっスね」

 

よく見てみれば機体背面中央に何か特有のエンブレムが刻まれているようだが、そんなことはどうでもよかった。

ミランダがエースだろうが関係ないと言わんばかりに間髪入れずに攻撃を仕掛ける。

 

「残りは任せる!ひとり1機だ、余裕だろう」

「了解っス!」

「はい……!」

 

3人は敵を分散するように散り、それぞれ1対1のドッグファイトへ持ち込んだ。

 

「さて…そこの新統合軍所属機!こちらは第727独立部隊レイヴンズ所属、ミランダ・コズミナ・ジーナス大尉である。応答を求む」

 

ミランダは敵エースから情報を引き出そうと通信を入れた。

しかし返ってくるのは沈黙のみ。

 

「了解した、撃墜する」

 

応答する気がないと見るや否や、ミランダはすぐに攻撃を開始した。

正直なところ、いくらエースといえど生半可な腕では負けることはないと、ミランダ自身そう思っていた。

実際敵エースは実力自体はそこまででもなく、ただ他より少し機体性能がいいだけであった。

 

「でも…この攻撃的な動きは厄介か」

 

闇雲とも思える無理な間合いの詰め方はやはりいくら腕が立たないといえど鬱陶しいものである。

戦いのセオリーから外れた、と言えば聞こえはいいが、実際のところは戦法もなにも無い、ただ攻め続けるだけの動きだ。

 

「これがまともな状態とは……やっぱり思えないよね…」

 

跳ね上がるように敵の上を取り、ガウォークに変形してガンポッドを放つ。

すると拍子抜けするほど容易く命中した。

 

「それでも軍のパイロットか……!」

 

弾丸を浴び続けたVF-171はそのまま失速、墜落した。

墜ちていく機体を見ながら、ミランダはソーディア軍の腐敗と現状の異常さを改めて実感した。

 

「こっちは片付いたっスよ!」

 

そんなことを思っていると、チャーリーから敵機撃墜の報告がはいった。

損傷もなく、彼女と同じくさほど苦労もせずに撃墜したのだろうことが伺えた。

 

「S.M.Sの人はまだっぽいっスね」

「ミラージュ5、何をモタモタしてるんです!」

 

VF-25が後ろを取られて回避に徹しているのが見えた。

しかし、逆転しようと思えば簡単にできる状態でもあった。

 

「だって……ッ!」

 

ミランダはジーナのVF-25の後ろに隠れるように位置どり、ガンポッドを放った。

敵から見れば、VF-25の後ろから突然弾丸が現れたように見えただろう。

弾丸はブレることなく敵機に命中、撃墜した。

 

「戦場で撃つのを躊躇するな。死ぬぞ」

 

ミランダは厳しい口調で言った。

しかし無言。

不貞腐れているわけでも苛立っているわけでもないだろうし、何か言いたげだったのは、それでもよく伝わった。

 

「4年前の功績を過大評価しすぎたか。戻るぞ、チャーリー、ミラージュ5」

 

険悪な空気。

しかしそんな空気すら吹き飛ばすように、アラートが鳴った。

新たな編隊が接近している合図だ。

 

「新手っスか」

「艦長、状況は?」

 

ミランダは冷静に状況の確認をした。

グライフⅡの索敵範囲の方が広いはずということを考えれば、この増援らしき反応は奇襲のような突然のことだったのだろう。

 

「新たな機影が…8! IFFが軍のものじゃないわ、気をつけて!」

 

反応があった方向へ目を向けると、確かに8つの機影が確認できた。

 

「8機のVF-27⁉︎ まさかギャラクシーの…」

「いや違うチャーリー」

 

VF-27は、開発したギャラクシー船団が既に壊滅しており、また軍からの正式採用機としての認可の時期が遅かったという事情もあり機体数自体は多くはない機体である。

また、バジュラ戦役にてグレイス・オコナーらギャラクシー船団の一部の人間によって指揮されていた軍隊が使用していたため、ギャラクシー関連の組織と早とちりするのもわかる話である。

しかしミランダにはある確信があった。

 

「奴らだ」

 

雑魚を寄越して消耗を図り本隊で押し切る、作戦的な動きを察知した結果の考えだった。

機能している組織の少ないこの惑星において、しかも大胆に真っ向から襲撃してくるとなると、恐らく現状最も自由に動けるあのYF-29絡みの組織と断定してもいいだろう。

 

「数が多い。ミラージュ2が揃うまで時間を稼ぐ」

「その必要はないよ!」

 

だいぶ時間がかかったが、ようやく()()()()が姿を見せた。

大きなクリップドデルタ翼を広げ、エンジンに火をつける。

 

VF-30改(ブレイズクロノス)、発進する!」

 

 




大変長らくお待たせしました!星々です!

この忙しさもあと少しで終わります…!
マクロスΔ放送終了、さらにはマクロスΔスクランブル発売およびアップデート、それから少し時間が空いて世のマクロスフィーバーが少し落ち着いてきたかなという印象を受ける今日この頃
ただ自分のマクロス熱は冷めないですねはい

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