マクロス-Sword-   作:星々

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22-聖剣〈デュランダル〉

新たな反応。

逃げも隠れもせず、真正面から現れた。

それは青いYF-29、デュランダルだった。

青は青でも深い青に染められており、その佇まいはどこか不気味だった。

 

「こちらクロスリーダー、正面に機影1!」

「真打登場ってか?」

 

ガウォーク形態で集合して身構える。

新たな反応は向かい合うようにガウォークに変形して停止した。

 

『レイヴンズ………』

「何…?」

 

声色に表情の少ない女性の声だった。

彼女は呟くと、いきなりミサイルを乱射した。

 

「散開!」

 

無数のミサイルを避け、それぞれフォーメーションを組もうと体勢を立て直す。

しかし、敵機は目にも留まらぬスピードでミランダのVF-19E/Aに突貫した。

 

「クッ…! 格闘戦に持ち込む、クロス2は私のフォローを!」

「合点承知! 各機、援護頼むぜ!」

 

VF-19E/Aの背後からガンポッドで牽制しつつ合流を図るブレイブローアのVF-22S。

しかし敵機はここで驚くべき機動を見せる。

外翼エンジンポッドを偏向して下前方に向けるとそのままファイターのまま速度を落とさず反転、バトロイドに変形して背面撃ちで援護のミサイルを撃ち墜としつつ大きく弧を描くように左旋回、錐揉み回転で弾丸を紙一重で回避しながら再びファイターに変形した。

宇宙空間ならまだしも、大気圏内でここまで空力を無視した機動をすれば、いくらEX-ギアやISCを搭載していても機体のみならずパイロットへの負荷も計り知れない。

しかしその一連の機動を披露した後も、YF-29の動きは衰えを見せなかった。

 

「やるな…ッ」

「挟み込むぞミランダ、上昇しろ!」

 

VF-22Sがガウォークで高度を下げつつ下から銃弾を浴びせる。

狙い通りYF-29は上昇してVF-19E/Aの方へ誘導された。

しかし狙い通りだったのはそこまで、待ち構えるVF-19E/Aにノールックでアサルトナイフを投擲し、シールドから刃を生やした。

それはまるでカタールのような格好をしていた。

 

「特注機か…!」

 

ナイフを防ぐため防御姿勢をとっていたVF-19E/Aはその勢いを止められ、その隙にYF-29はVF-22Sに向けてMDEビーム砲を放って反転しながらファイターに変形、VF-19E/Aの懐に飛び込む。

 

「デタラメだろ…⁉︎」

 

VF-22Sが回避したころにはもう、YF-29はVF-19E/Aの目の前だった。

 

「こいつッ!」

 

カタールの突撃をなんとか盾で防いだVF-19E/Aだったが、YF-29は立て続けに蹴りを入れた。

まともに食らったVF-19E/Aは仰け反りをなんとか立て直すが、味方機の援護射撃もむなしくYF-29の攻撃は止まらなかった。

 

「まずい…アレを使うわ!」

 

ミランダは言うと、一旦YF-29と距離を取ろうと、一か八かガンポッドを投げ付けた。

さすがに予想外だったのかYF-29はその動きを止め、VF-19E/Aに間合いを取る余裕を与えた。

 

「まだ試作段階だけど、使えないわけじゃない!」

「時間には気をつけろよ」

「わかってる!」

 

VF-19E/Aは左腕の盾から1本の棒状のものを引き抜いた。

それを振り払うとそこから刃が伸び、薄緑色の光を纏った。

VF-19E/Aは、剣を抜いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「行く!」

 

一気に間合いを詰め、思い切り横薙ぎを放つVF-19E/A。

宙返りで避けたYF-29は、応えるようにカタールを突き出す。

それを下へ叩き伏せようとするがYF-29はギリギリで腕を捻ってそれを回避、だがVF-19E/Aもまたギリギリで半身になってカタールを回避した。

半身になった勢いのまま回り込むように右旋回して今度は背後から剣を突き出すが、これもまた、YF-29は飛び上がって回避。

回避、回避、回避の連続。

 

「時間が…ないのに!」

 

ミランダは被弾覚悟で機体を突貫させ、素早い連撃を繰り出した。

 

「もらった!」

 

盾へのハードヒットでよろけたYF-29に、剣を強く振り下ろした。

しかし、それは甲高い金属音と共にカタールによって受け止められた。

一瞬だったが、動揺してしまった。

この一瞬に付け込まれ、VF-19E/Aは腕を掴まれて地面方向へ投げ飛ばされた。

強い衝撃に意識が飛びそうになる中で見たのは、こちらへカタールを構えるYF-29。

直撃必至だった。

しかし

 

「ミランダ‼︎」

 

ブレイブローアのVF-22Sが、間に割って入った。

そしてそのまま、VF-19E/Aを庇って直撃を食らった。

両脚を綺麗に斬り落とされ、高度を維持できずに落下いていく。

 

「クロス2…⁉︎」

 

視界の横で煙を上げながら墜ちていく僚機を見た。

 

「ローア!!」

 

ミランダは叫ぶと、剣を納め、VF-19E/Aをファイターに変形させて助けに向かった。

ここで不自然だったのは、その隙だらけの背中にYF-29は追撃を入れなかったことだ。

見届けるように見下ろすだけであった。

 

「間に合え…!」

 

ミランダは夢中だったがために、その事実に気を回していなかった。

いや、彼女は自分の背中を仲間たちに託していたとも言える。

それほどに仲間を信じ大切に思う彼女が、墜落しつつあるブレイブローアのVF-22Sを必死に助けにいくのも理解できる。

 

『…………』

 

YF-29はその後も何をするでもなくそこに佇んでいた。

VF-19E/Aはその腕を伸ばし、地面スレスレでなんとかVF-22Sを受け止めた。

下手をすれば2機とも地面に激突してしまう危険性もあったが、彼女はそれを自らの卓越したテクニックで回避したのだ。

 

「ハァ…ハァ……大丈夫?」

「あ、あぁ、助かったぜ」

 

VF-22Sを支えながら立ち上がると、頭上から見下ろすYF-29を見た。

 

「攻撃の兆しがない……各機警戒態勢、下手に攻撃して反撃を食らうのは得策じゃない」

『なるほど、優秀な隊長らしい。さすがはエリート部隊といったところか』

 

敵が口を開いた。

その声は冷たさが強い女性の声だった。

 

「その口ぶり、どうやら我々のことを知っているようだな」

 

YF-29はガウォークに変形して降下してきた。

そのキャノピーが開き、パイロットが立ち上がってその身をさらしながら。

 

「攻撃は貴官の指示か」

『いいや、それは違う』

「では貴官は何者か!」

 

その女はヘルメットを脱いだ。

空色の髪が風に流れ、色白の肌が輝いていた。

だが異彩を放っているのは、その目元を覆う仮面だった。

 

『今はまだそれを語る時ではない。ただ、()()()()()とだけ言っておこうか。"新統合軍第727独立部隊VF-Xレイヴンズ"』

 

そう言った瞬間だった。

不自然な風が舞い起こった。

土煙を上げながら竜巻を作り、YF-29を包んだ。

 

「…ッ!何だ⁉︎」

「風を操ったのか…⁉︎」

「そんなんどうでもいい! 気を付けろセルダ!」

 

ミランダとブレイブローアを除き、今一番竜巻に近かったのはセルダのVF-22Sだった。

ガウォークで後退しながらグリップを握りしめて集中力を高める。

どこから飛び出してきてもすぐ反応できるよう、それでいて下手に攻撃しないように。

しかし、風は何事も起こさずに止んだ。

渦巻く柱は姿を消し、そこに何も残さなかった。

あおう、YF-29の姿も。

 

「何だったの……」

 

締まらない終わり方だが、戦闘は終了した。

ただ謎が増えただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各員は母艦に戻った。

その表情は不安や混乱、その他の負の感情が現れていた。

 

「30分後にミーティングを行う。各員、遅れぬように」

 

明るい性格のミランダだったが、その表情に笑顔はなかった。

やはり彼女も混乱しているのだ。

 

「無理すんなよミランダ」

 

後ろから心配そうにそう言ったのはブレイブローアだった。

隊員の中でも特に親しい2人であったが、やはりこの空気では会話はそれ以上続かなかった。

嫌な雰囲気だ。

誰もがそう感じていたが、誰にもどうしようもなかった。

何も分からない、謎だらけの状況だ、仕方ないことではある。

 

「…えぇ」

 

絞り出したような小さな声でそう言っただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ⁉︎」

 

艦長席で頭を悩ませていたアイギスの様子が変わった。

目には血が走り、手脚は小刻みに震えていた。

 

「艦長…?」

 

その様子に気付いたオペレーターが不審に思って恐る恐る声をかけるが、それに応える様子はなかった。

いや、言葉で応える様子はなかった。

 

「か、艦長⁉︎」

 

オペレーターはアイギスの行動に驚き、声を上げた。

アイギスは懐から拳銃を取り出し、その銃口を彼に向けたのだ。

状況が把握しきれず騒がしくなったブリッジに、銃声が鳴り響いた。

鮮血と悲鳴が溢れた。

次は操舵士に銃を向けるアイギス、間髪入れず引金を引いた。

パニックに陥るブリッジ。

アイギスは完全に正気を失っていた。

 

「艦長なにを…ッ!!」

 

通信士が制止に入ろうとするが腹を撃ち抜かれて倒れこむ。

微かな視界には、ゆらゆらと佇む艦長の姿が見えた。

通信士は最後のちからを振り絞り、オペレーター席にある警報のスイッチを押した。

 

 

 

 




どうも星々です!

忙しいよ…もっと書きたいのに……

まぁそれはいいですね、さてさて、前回に引き続き謎は減るどころか増える展開でしたね
そしてアイギス艦長、登場回数2回でこの有様……

P.S.
今回の描写で「大気圏内なのになぜ?」という部分があったと思います
これは"お披露目"という意図のもとであえて採用した描写なので、あまり気にしないでください

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