物語は、再び動き出す
21-渡鴉〈ワタリガラス〉
ANUNSの蜂起が鎮圧されてから、早4年が経った。
一連の事件のことは軍によって隠蔽されることなった。
現地軍が情けないほどに機能せず、民間企業にその全てを任せたような形になってしまったからだ。
しかし軍はこれで終わらせるほど無能ではなかった。
本国から監督としてとある独立部隊を送り込むことが決定した。
その独立部隊の名は………
惑星ソーディア近域
ここに一隻の空母がデフォールドした。
一定のルートを保ちながら大気圏へ飛び込んでいく。
その様子には、新天地へ訪れた渡り鳥のような戸惑いに似た慎重さがあった。
「艦長! アイギス艦長!」
緋色の髪を後ろで三つ編みにしてまとめた女性がブリッジに上がってきた。
パイロットスーツで身を包んでいるところを見ると、パイロットであることがわかる。
ずかずかとした足取りだった。
「何だ、そんなに不満か」
「はい。同じ軍属の元へ行くとはいえ、ここはまだ治安が不安定かつ軍そのものが頼りないんです。やはり哨戒機くらいは出すべきかと!」
彼女の言っていることは間違っていなかった。
だがしかし、艦長もまた間違ってはいなかった。
ここ惑星ソーディアは謎が多すぎた。
次元断層に包まれ外部から隔離された、言わば大宇宙の孤島だ。
情報のやり取りがほとんどなかった。
「あ、あの…」
「「何だ!」」
レーダー士の声に苛立ちの声のまま振り向く2人。
彼はびくっとしたが恐る恐る報告内容を口にした。
「と、トゥペル中央基地からバルキリーの発進を確認しました…進路は真っ直ぐこちらへ…」
奇妙な事実だった。
緊張感が走る。
出迎え、にしては突然のことだ。
そもそも通信ひとつ無かったのだ。
おかしい、誰もがそう感じた時。
「なっ⁉︎ 発砲です!」
「発砲だと⁉︎」
さすがに攻撃されることは彼女も予想していなかった。
「艦長!」
「全艦、戦闘配備!コンディション・イエロー!」
緋色髪の女は艦長の命令を聞くや否やブリッジを走り去った。
忙しく行き交う乗組員たちとすれ違いながら真っ直ぐハンガーへ向かった。
可変戦闘機が複数並ぶ無機質な部屋を駆け抜け、一番奥の一機の前で大きく跳躍し、そのまま掛けてあったヘルメットを掴みつつ飛び乗った。
「全機、スクランブル!私に続け!」
ヘルメットを固定してキャノピー閉じ、機体を飛行甲板へ走らせる。
慣れた手つきで発進シークエンスをクリアしていき、操縦桿を強く濁った。
「クロスリーダー、ミランダ・コズミナ・ジーナス、VF-19E/A、テイクオフ!」
空色のVF-19E/Aがソーディアの空へ飛び立った。
VF-19E/A、VF-19ADVANCEプロジェクトによって開発された機体を参考にVF-19Eを改良した機体である。
VF-19ADVANCEのバジュラ本星決戦での戦果が注目され、現在では予備機を含め4機が追加製造されており、VF-19ADVANCEプロジェクトの再始動も期待されている。
最大性能はYF-29に匹敵する高性能機である。
「クロス2、ブレイブローア・アンジェルト、VF-22S、行くぜ!」
「クロス3、セルダ・ロン、VF-22S、出る」
「クロス4、ルーシア・メルダース、VF-19E、出るわよ!」
「クロス5、チャーリー・キース、VF-19E、行きます!」
それに続き4機のバルキリーが飛び立った。
どれも空色の機体色で統一されており、その隊列にも統一感がある。
非常によく訓練された部隊である。
「相手は私たちと同じ新統合軍だ、下手に手を抜けば痛手を受けるかもしれない。敵対の意思を確認したら容赦する必要はないが、撃墜は指示を待て!」
5機の空色のバルキリーが分散し、戦闘が始まった。
奇妙な戦闘には、まるでお決まりのように傍観者が存在するものだ。
今回の場合もそれはいた。
軍事施設が多く立ち並ぶトゥペル平野の中央に位置するトゥペル中央基地。
なんの捻りもない名前のこの基地の司令室に、たった一人戦いを見つめる女がいた。
オペレーター等の姿が見当たらないのがとても不自然で、部屋の明かりも並べてあるモニター類のみでとても不気味な雰囲気が広がっていた。
正面の大型メインモニターの目の前に立ち、腕を組んでただそれを眺める女。
その目元は仮面で隠されていた。
「空色のバルキリー……VF-19…」
女は少し自嘲気味にも思える笑みを浮かべると、モニターに背を向けて司令室を後にした。
「クッ…攻撃を中止しろ! 我々は新統合軍第なn…ッ!」
名乗る暇も与えずに容赦無く攻撃を続ける味方であるはずのバルキリー。
辺境宙域仕様のVF-171。
軍の主力機である。
もちろんある程度の訓練を積んだパイロットによって操縦されており、それなりの連携は取れている。
しかしそれは、「たるんでる」と散々バッシングされたソーディア駐留軍とは思えないほど素早く統率の取れている動きだった。
「通信に応答せよ! 我々は味方だ! 聞いてないのか!」
「無駄だミランダ大尉。奴ら正気を失っている」
「やっぱりそうか…」
セルダがミランダに説得を諦めるように言うと、2人は合流して互いに背中を合わせながらバトロイドでVF-171を迎撃していく。
「こちらクロス3。アイギス艦長、撃墜の許可を」
沈黙が彼が悩んでいることを教えた。
だが、それも数秒のことだった。
「…仕方あるまい、特別権限により目標を敵機と認定! 撃墜を許可する!」
それは、味方同士による殺し合いの始まりだった。
「味方同士で殺し合わなきゃいけないんですか…」
「俺だって不服だ、でも殺らなきゃこっちが殺られちまうぞ、チャーリー」
「ブレイブローア大尉……やっぱり、やるしかないんですね…!」
VF-19EとVF-22Sが互いにフォローしながらVF-171、敵陣へ突貫した。
正面からの銃撃を、VF-19Eはヨーイングで、VF-22Sは
「いい連携だチャーリー!」
「ありがとうございます!」
先輩パイロットからの褒め言葉を受けたチャーリーは、より積極的な攻めになっていった。
所謂、褒められて伸びるタイプである。
しかし新人にとってそれは、時に危険を生むことがある。
「クロス5! チェック、7!」
クロス4からの警告ではっとするチャーリー。
ガウォークに変形して防御姿勢を取った頃には、接近していたVF-171は撃墜されていた。
「ルーシア中尉!」
「あんまり調子乗っちゃダメよ」
「すみません!」
少しはなれた岩場で伏射姿勢で狙い打ったのはルーシアのVF-19Eだった。
彼女は腕の立つスナイパーとしてチームの背中を守っている。
「っと…今のでヘイト集めちゃったかな、ナイトメアプラス先輩が集まってきちゃったよー!」
「任せてルーシア、今行く」
3機のVF-171がルーシアのVF-19Eに群がっていく。
その背後から、VF-19E/Aが全速力で接近していく。
風を裂き、低空を疾走して下方から押し上げるように攻撃していった。
VF-171は分散してから再び上空で合流し、デルタ形を描きながら弾幕を張って距離を取ろうと後退していく。
VF-19E/Aはピンポイントバリアを機体前方に展開して突っ込み、ねじ込むようにガンポッドを集中砲火した。
あっと言う間にデルタ形は崩れ、1機撃墜。
爆破寸前の機体をつかむと、もう1機の方へ投げつけて誘爆させる。
残る1機はバトロイドで後退しながらガンポッドとミサイルを掃射していく。
「そんなものでは!」
VF-19E/Aは機体全身にピンポイントバリアを強力展開して迷いなく突貫した。
怯えるように闇雲に撃ちまくるVF-171だったが、無慈悲にもVF-19E/Aは距離を詰める。
「これで、最後!!」
そして、そのまま体当たり。
激突寸前に右主翼にピンポイントバリアを集中展開し、VF-171の胴体を真っ二つに斬り裂いた。
それは正に、その名にもつ聖剣のようだった。
「こちらクロスリーダー。目標の殲滅を完了、これより帰艦する…」
複雑な心境だった。
特別権限により敵機と認定されていたとはいえ、もとは同じ軍人だ。
味方同士で殺し合いをしたのだ。
そして彼女らは生き残った。
死んでいった同胞だった者たちはどんな心境だったのだろうか、なんて考えても無駄だった。
「ねぇローア…私たち、正しかったよね……」
先ほどまでの口調とは打って変わり、少し弱々しく儚げな声だった。
「あぁ、俺たちは正しい。じゃなきゃ、勝っても負けても死んでるさ」
そう答えたブレイブローアにも、戸惑いと混乱はあった。
そして正しかったかどうか、その確信も。
しかし正しいと思っていなければ、なにか心に引っかかるもの押し潰されてしまいそうな気がした。
「発進…」
そんな声と共に、青いバルキリーが姿を現した。
鋭く尖った前進翼が風を斬る。
どうも星々です!
マクロスΔも始まり、マクロスが盛り上がってきましたね!
そしたらやっぱり、書きたくなっちゃいますよ
てことで、マクロス-Sword-「ソロモン編」よろしくお願いします!