マクロス-Sword-   作:星々

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20-ヴァルキュリア

スグミは直ぐにYF-29を降下させ、VF-27γのキャノピーをこじ開けた。

そこには、全てを悟ったかのように目を閉じて全身の力を抜くサテルの姿が。

 

「おいしっかりしろ! まだ死んだわけじゃない、まだ助かるかもしれない!」

「無理だ……全身の機械の部分が次々にエラーを起こしている。どの道そう長くはない……」

 

スグミはYF-29からVF-27γに飛び移り、サテルの胸ぐらを掴んだ。

 

「何弱気なことを言っているんだ! それが…それが私を追い詰めた男の言うセリフか‼︎」

 

スグミは悲しかった。

今まで彼女を戦闘で追い詰めた人間はそう多くなかった。

中でもサテルは、彼女の中でライバルのような、特別な存在だった。

そんなサテルが情けないくらいな弱音を吐いて、全てを諦めたような様子でいる。

それがスグミは悔しかった。

 

「こうなってしまったのは、誰のせいでもない。バルトも……ロボルを撃った私の仲間も、こんなこと知らなかったんだ……なのに…」

 

スグミの目から、涙が溢れた。

 

「なのに何で! 何で、分かってるのに、あの人を責めたくなる‼︎ お前がここで諦めたら、私はあの人を憎んでしまうかもしれない。そんなの嫌なんだ!」

 

雫が、サテルの胸に落ちる。

 

「もういい、泣くな。そして俺から離れるんだ……」

「いいや、私は諦めない! お前が諦めを捨てない限り、諦めたくない!」

 

ロボルは死んだ。

それはサテルの心臓に埋め込まれた爆弾の起爆を意味する。

この至近距離ならば、その爆発に巻き込まれるかもしれない。

だがスグミは、まだサテルも救う気だった。

サテルの為にも、自分の為にも。

 

「じゃあどうしろと言うんだ……もう、こうなる運命だったんだ…」

「私はその運命さえも捻じ曲げてやる……! お前も救うと言ったのも私のエゴかもしれない、余計なお世話かもしれない…それでも私は、私自身の気持ちと戦わなきゃいけないんだ」

 

胸ぐらを掴む手に力がこもり、小刻みに震える。

雫が、サテルの胸に落ちる。

 

「私はあの人を………愛する人を憎みたくはないんだ‼︎」

 

スグミはもう涙を堪えることはしなかった。

ただ感情のままに、その右手をサテルの胸に突きつけた。

掌に優しく触れ、彼の鼓動を感じる。

間違いなく、彼は()()()()()

スグミは目を閉じた。

 

「もしも…もしもこの状況を打破できる手段があるとすれば…それは………」

「それ…は…………?」

 

スグミの脳裏には、ひとつの可能性が浮かんでいた。

確証も自信もない。

ただそこには、賭けてみたいという感情のみがあった。

だがこれは、今のスグミにとってはとても大事な判断要素。

スグミは、言った。

 

「歌の力だ…‼︎」

 

スグミは胸で大きく息を吸った。

火薬と土埃と、血とオイルの匂いがした。

戦場の匂いがした。

スグミは吐き気を催すような空気を肺いっぱいに吸い込み、その願いと想いを込めて、"声"に変えた。

空気が震える。

星が震える。

銀河が震える。

それは、まっすぐな"歌声"となり、戦場を包んだ。

 

「この歌………………暖かい…」

 

サテルはそのまっすぐな歌に、心を打たれた。

 

「私たちも、加勢するよ‼︎」

 

少女の声がした。

サテルが声のした方を見上げると、ひとりの少女、イオナがサイコ・バードの死骸から飛び降りてきた。

その妖艶な歌声と共に。

地面スレスレで背負ったガスジェットクラスターを噴かし、ふわりと降り立つ。

スグミの歌声とイオナの歌声が重なる。

イオナはスグミの手を取ると、S.M.S旗艦グライフの手を差しのばした。

すると、歌声が"道"を造った。

ゲーティアーチルドレンの力が、道を造った。

それは真っ直ぐに少女、ミストレーヌの足元に伸びた。

 

「さぁ、一緒に!」

「……うん!」

 

状況の飲み込めないS.M.S隊員たちを尻目に、歌声の道を駆け出すミストレーヌ。

その包み込むような歌声と共に。

 

 

 

 

 

-- 叶えてみせる、その想い --

 

 

 

 

 

 

3つの歌声が重なった。

それはまるで、幾重にも連なる銀河系のような。

 

「ミストレーヌ!」

 

スグミはイオナと繋いだ手のもう一方の手でミストレーヌの手を握った。

ミストレーヌはそれをぎゅっと握り返し、もう片方でイオナの手を握る。

3人は、聖剣デュランダルの名を冠する可変戦闘機(バルキリー)の下で、奇跡を起こそうとしている。

聖ペテロの歯、聖バジルの血、聖ドゥニの毛髪、聖母マリアの衣片、それらが光輝く。

3人は虹色の光に包まれた。

風色の歌声に包まれた。

その姿はまるで、いや、まさに、戦場を審判する女神(ヴァルキュリア)

 

「響け………!」

「「響け!」」

 

歌声はその光の強さを増す。

 

「響け‼︎」

 

一筋の光が、サテルの胸へ伸びた。

雫が煌めいた。

 

「「「響けぇぇええ‼︎」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、奇跡が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは起こるべくして起きた。

爆弾が、消えた。

何処へともなく消えた。

跡形もなく消えた。

 

 

「これは………⁉︎」

「よか…った………」

 

スグミは、安心と共に、全身からその力を抜いた。

光が広がった。

広大な大地に広がり、傷を癒していった。

ここにまた一つ、"歌"の奇跡が起きた。

 

「スグミ・ドリム………」

 

サテルは少し重い身体を持ち上げ、倒れ込んだスグミの元へ歩み寄った。

 

「大した女だ……凄いよ、お前」

 

誰も見たことのない、彼の優しげな笑顔がそこにはあった。

そしてそれだけを残し、彼は自機に乗り込んだ。

それを追いかけて後席に飛び乗ったイオナは、無邪気な笑みで、何も言わずに手を振る。

ミストレーヌはそれに応え、小さく手を振る。

そして、VF-27γは何処かへ飛んでいった。

 

「やったよ、お姉さん…ゆっくりおやすみ………」

 

ミストレーヌは屈んでスグミの頭を撫でた。

心なしか、少し笑ったように見えた。

遊び疲れた子供のように。

 

 

 

 

 

 

「こちら、オーロラ1………」

 

弱々しかったが、充実感や満足感のこもった声で通信を入れたのは、それから数分後のことだった。

 

「バルト、ジーナ……約束、忘れてないよな…」

「は、はい」

「約束……あぁ…」

 

スグミは力の入らない身体を大空に向け、その壮大さを見つめる。

 

「整理なんて、答えなんて、最初からわかってた………」

 

その気持ち。

愛というもの。

 

「私は、バルトのことを…愛している……」

「…………」

 

真剣にその言葉を受け止める2人。

 

「しかし私は、まだお前への気持ちに正直になりきれない……だから…」

「スグミ!」

 

バルトがスグミの言葉を遮った。

それは彼女の言葉の後に続く文章がわかったからだ。

 

「僕は、お前のことが好きだ。愛してる」

「そう、か…………」

 

スグミの視界は一気に滲んだ。

 

「わ、私は…! 私はそれでも、私だってバルトさんが大好きです! 私には届かないとか、そんなこと思ってた自分はもう昔話です。スグミさんに負けないくらい、バルトさんが大好きです」

 

スグミはふっと泣きながら笑った。

 

「バルト………すまない。お前の気持ちには、行動で応えることはできない…私は………」

「理由は聞かないよ」

「うん、ありがとう……そしてジーナ、お前は、私が()()()()()まで、バルトを離すんじゃないぞ…」

「え……帰ってくるまで、って……?」

 

スグミは目を閉じた。

 

「すまないな、私が一番、はっきりしない答えだ……」

 

そう言うと、スグミは限界を迎えたかのように眠りについた。

 

 

 

 

これで、彼女らの戦いは本当に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、惑星ソーディアは徐々に日常を取り戻していった。

ANUNS系過激派組織が残していった爪痕は完全には消えぬままだったが、人々の暮らしには笑顔が増えていった。

サイコ・バードの死骸はその後、新統合軍に引き取られ、然るべき手段によって処分されたという。

S.M.Sも、問題なくその業務を再開した。

 

 

 

 

「それじゃ」

「本当に行くのか…?」

 

グライフのハンガー。

そこには大きな荷物を抱えたスグミと、バルトとジーナの姿があった。

 

「あぁ、アライアもアイシャも承諾してくれた。なに、少し長い有給休暇だ。必ず戻ってくる」

「えぇ……で、でも、旅ってどこへ…?」

 

スグミは背負っていたリュックをコックピットへ放り込むと、笑顔で言った。

 

「そうだな…まずは最近見つかった居住可能な惑星…"アル・シャハル"に行こうと思う」

「アル・シャハル……遠いな」

「そう悲しそうな顔をするなバルト」

 

スグミは少し伏し目がちで言った。

 

「さ、最後くらい…笑顔で送り出しても、いいだろ……」

 

スグミの頬は少し赤くなっておた。

そんな姿を見たバルトは彼女の頭に手をぽんと置くと、満面の笑みを浮かべた。

 

「そうだな」

「そうですね」

 

スグミも、笑顔を見せた。

しばしの別れが近付く。

 

「それじゃ、そろそろ輸送船が出港する時間だ」

「はい、えと……お元気で!」

「あぁ、気を付けてな」

 

スグミはゆっくりとYF-29のコックピットへ登っていく。

が、途中で折り返し、2人の前へ戻ってきた。

疑問の表情を浮かべる2人。

するとスグミはバルトの襟を掴み、唇を重ねた。

 

「………⁉︎」

 

あまりに突然の出来事に戸惑うバルトだったが、スグミは無言のままYF-29に乗り込んだ。

それから3人の会話は何もなく、ただ、エンジンの音が別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、旅に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

愛と、思い出を残して。

再開を約束して。

新たな冒険へと、歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(To Be Continued………?)

 

But This War Is End




あけましておめでとうございます‼︎
どうも星々です!

最終回から始まる星々の2016年←

さて、マクロス-Sword-ラグナロク編、完結です!
この後物語は続くかもしれませんし続かないかもしれません
しかし彼女たちの物語は、決して終わることはありません
アル・シャハルへ旅立ったスグミも、ソーディアに残ったバルトやジーナも、何処かへと飛び立ったサテルとイオナも、それぞれの物語を紡いでいくことでしょう
そんな彼女らの未来を、勝手ながら暖かく見守りたいと思っています

ここまでご愛読していただいた読者の皆様に感謝し、最終回のあとがきとさせていただくと同時に、新年の挨拶とさせていただきます!



それでは、またどこかで!

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