マクロス-Sword-   作:星々

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02-閃剣のスグミ

ここ、惑星ソーディアにおいて、新統合軍の支援や治安維持、その他軍事活動を行う民間軍事プロバイダーS.M.Sのソーディア支社。

この支社は、同銀河系内の惑星ウロボロスのウロボロス支社との連携を密にしようという動きがあり、その一環として、互いに技術提供をし合っている。

そのひとつが、今回運ばれてきたものだ。

データ本体はVF-19Aの中にロックされており、コーピーも不可という厳重なセキュリティが施されていた。

 

「ったく、アイシャは…また面倒くさい仕様にしてきて」

 

そう嘆くのはソーディア支社長アライア・シェルディだ。

 

()()()()の新プランって聞いてたらから期待してたけど、ここまで面倒くさいと萎えるわ」

 

スーツを着ている割には緊張感も無く、愚痴をこぼしながらVF-19Aのデータを解析する。

その時、彼女はあることに気付いた。

 

「あれ、この機体…外身はまんまエクスカリバーだけど、エンジンは最新型積んでる…のにコックピットはデフォルト!? 考えられない。めちゃくちゃね………」

「悪かったな」

 

一人でいると、思ったことがすぐ口に出てしまうアライアの独り言は、気配もなく後ろに立っていたパイロットに筒抜けだった。

突然の反応に驚いてコックピットの中に頭から落ちたアライアは、後頭部をさすりながらその身を持ち上げる。

 

「あら、い、いたのね」

「アイシャがどうとかの時からな」

 

爽やかな空色のショートヘアの少女が、不機嫌そうな、いや、ただ無表情なのか、わかりにくいがそんな表情でアライアの目を見る。

 

「えっと、アタシはアライア・シェルディ。ここの支社長よ」

 

乱れた髪を整えてから手を差し出す。

 

「自己紹介が先だろ、普通」

 

ボソっと呟いた。

 

「私はウロボロス支社から派遣されたスグミ・ドリムだ。よろしく」

 

握手を交わす2人。

関係性的には、アライアが上司でスグミが部下、という位置付けなのだが、S.M.Sソーディア支社ならびにウロボロス支社では、あまりそういったことを意識しない。

フォールド断層によって隔離された辺境の地で活動するにあたっては、S.M.S各員は日常生活も共有することになる。

そうなると、家族のような信頼関係が必要不可欠であるため、上下関係については緩いのが特徴だ。

 

「よろしく。そうそう、提案なんだけど」

「なんだ」

「ウチに余りのVF-25Aがあるんだけど、それに乗らない?」

「断る」

 

度肝を抜かれるほどの即答に、アライアは目を丸くする。

 

「私はこの機体にしか乗らない。機体選択くらいは自由にさせてくれ」

 

スグミは愛機に撫でるように手を添えて振り返り、この場を立ち去る。

アライアは少しの苦手意識を感じながらも、多大な期待感を覚えていた。

ソーディア支社にはいないタイプの、新しい家族が加わったと、単純に嬉しかったのだ。

 

「さてと、続きしなきゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グライフ内、廊下

スグミは自室を探していた。

見取り図で大まかな説明は受けたがやはりまだ慣れない。

右往左往しながら同じ形の扉を幾つも見て回る。

 

「あ、スグミだっけ? 何してるんだ?」

 

そんなスグミの後ろから、首からタオルをかけたバルトが声をかけた。

身体を半分だけ向け、バルトを見る。

その時スグミは、バルトが右手に不調を抱えていることに気付いた。

制服の袖から僅かに見えた包帯と、右手を庇うような些細な動きに気付いたのだ。

しかし彼女は、バルトがそれを隠しているということを察し、今は気遣いでそのことは言わなかった。

 

「部屋を探してる。まだ慣れなくてな」

「迷子か」

「そうだ。迷子だ」

「お、おう。わかった、案内するよ」

「助かる」

 

バルトは手でこっちだと示し、スグミは彼の後に続いた。

長い窓に面した廊下を、同じような扉を幾つか通り過ぎたところでバルトは足を止め、ひとつのドアを親指で指差した。

 

「ここがお前の部屋。ちなみに僕は隣の部屋だから、何か困ったことがあったらいつでも来ていいよ」

「了解した。早速だが、この街…オルタンシア・シティに、新統合軍以外のバルキリーが飛ぶことはあるか?」

 

何の脈絡もない質問に首を傾げたバルトであったが、答えない理由もないので質問に答えた。

 

「ほとんどないかな。ウロボロスみたいに、自家用車として使う人もいないしね。ほら、この街って、交通機関は整ってるでしょ?」

 

バルトの答えを聞きながら、窓の外を眺めるスグミ。

その目が目下を走る鉄道やバスに向けられたのは一瞬で、今その視線は空へ向いている。

 

「そうか。じゃあ、行くぞ」

「行くって、どこに?」

 

スグミが自室に入ることなく歩き出したのを呼び止めるバルト。

スグミは振り返り、ゆっくり言った。

 

「敵だ」

 

その言葉は、バルトの耳には届かなかった。

何故なら、爆発音が周りの音を飲み込んだからだ。

突然の爆発に足を取られて転ぶバルトを、スグミは片腕で受け止めた。

その表情は驚くほど冷静で、まるでこの爆発を事前に察知していたかのようだった。

 

「男ならもっとシャキッとしろ。この画、男女逆だろ普通」

「ご、ごもっとも…っておい何処に行くんだ! まだスクランブルは出ていないぞ!」

 

バルトよそに走り出すスグミ。

こういった状況では普通、まずは司令官の指示を待つものである。

しかしスグミはそれを待たずに行動に出た。

迷わずに、ハンガーへ走った。

まだ慣れ無い廊下を、愛機の元へ急ぐ。

 

「機体数は6。どれもVF-27βが2機にそれぞれ2機のX-9が随伴していた」

 

スグミはパイロットスーツも着ずにハンガーへ駆け込むと、まっすぐに愛機のVF-19Aに滑り込んだ。

どうやらアライヤが整備してくれたようで、機体はピカピカだ。

 

「おいスグミ!」

 

起動の手順を踏むスグミがいるハンガーへ、バルトが走ってきた。

 

「止めても無駄だ。お前はアライヤに指示を仰げ」

「止める気はないよ。俺も行く」

「そうか。ならさっさとしろ」

 

無表情で、素っ気ない返事を返されたバルトであったが、彼は少し笑って自身の機体に乗り込んだ。

2機のバルキリーが、カタパルトへ運ばれる。

VF-19AとVF-25F。

その2機は、エンジンに火を入れた。

 

「オーロラ1、スグミ・ドリム。出るぞ」

「ミラージュ2、バルト・バルド。敵機を迎撃する!」

 

2人は発進した。

グライフは既に包囲されていた。

VF-27βが2機とゴーストX9が4機。

どれもそこらのバンデットが所持できるようなものではない。

バンデットとは、バルキリーなどの兵器を使って悪行を働いているならず者たちを指す。

野盗、反政府組織、テロリスト、脱走兵、はぐれゼントラーディなどその素性は様々であるが、どれもさほど強大な組織力を持つものではなく、やはりこの戦力はバンデットにしては不自然だった。

 

「新統合軍の機体じゃないとすれば、これはどこの所属だ」

「わからない。でも、特別な訓練を受けた兵士ってわけじゃなさそうだ」

「あぁ、確かにな」

 

VF-27βはそれぞれグライフの頭と尻に取り付き、ゴーストX9は上空を旋回している。

付け入る隙は幾らでもあった。

そもそもこのごく限定的な戦場でゴーストを使用するのは逆に非効率的である。

障害物のない広い空を所狭しと飛び回ることができる、そんな戦場でゴーストは最大限その強さを発揮する。

 

「空中機動性は前進翼に利がある。僕が援護するからスグミは撹乱を…っておい!」

 

バルトが戦略を伝えようとすると、スグミはそれも聞かずに飛び出した。

バルトの言った通り、前進翼を持つVF-19Aはそのアクロバティックな機動で敵を翻弄できている。

しかしゴーストを同時に4機相手するのは無茶だと言えた。

地の利、機体形状の利はあるものの、やはり包囲作戦でものを言うのは数だ。

 

「私一人で十分だ。お前は艦を護れ」

「一人では無理だ!」

「一人で問題ないと言っている!」

 

最大速で垂直上昇しゴーストをおびき出すと、ガウォークに変形して急速反転、ミサイルをマルチロックで放った。

3機には命中したが、それを掻い潜ってきた1機がゴースト特有のジグザグを描く機動で突貫してくる。

 

「ピンポイントバリア!」

 

バトロイド形態に変形しシールドにピンポイントバリアを集中展開して弾丸を防ぐが、リズムは完全にゴーストに持って行かれた。

更に言えば、バルトが撃ち漏らしたVF-27βの1機が追撃に来ていた。

 

「日の入りまで何秒だ…」

 

スグミは時計をチラっと見た。

この打開策を実行するために、そのタイミングを計った。

しかしその間にもゴーストX9とVF-27βの猛攻は続く。

そして、恒星が地平線と重なった。

 

「エンジンカット。レーダー他、すべての機能をシャットダウン!」

 

スグミはVF-19Aのエンジンを切った。

戦場のど真ん中で、その息を止めたのだ。

乱心とも見えるこの行動だが、無人機のゴーストには抜群の効き目だった。

突然に熱源を断たれ目標を見失ったゴーストはその演算処理が混乱し、その機動がフラフラになった。

VF-27βはというと、サイバーグラントによる操縦もまたレーダー類に頼ったものであるため、一瞬だけVF-19Aを見失った。

肉眼、外部カメラでの索敵に移行したゴーストX9とVF-27βだったが、日の入りの急激な明るさと空の色の変化で目標を探すのに時間がかかった。

リズムは崩した。

スグミは、一気に逆転への道筋を立てる。

 

「だから機械仕掛けは単純だ」

 

ガウォークのVF-27βの背後に忍び寄る黒い影。

再び起動した黒いVF-19Aはその銃剣をキャノピーに突き刺し、コックピットを貫く。

そしてそれを盾に、混乱するゴーストX9に体当たりする。

ゴーストX9のエンジンにVF-27βをねじ込み、2機もろとも爆破した。

 

「残りはVF-27βが1機か。いや、戦意喪失か?」

 

残るVF-27β1機は、こちらに背を向けてファイターに変形していた。

敵の情報を持ち帰ると言う意味では、この撤退行為は間違いではない。

しかし敵は明らかにS.M.Sを潰しにかかっていた。

総合するに、この戦いはS.M.Sの、否、スグミの圧勝と言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無断発進のお叱りをアライアから受けた2人だったが、その結果は良好だったので特に処罰を受ける訳では無かった。

 

「それにしてもスグミ。あなたVF-19Aに最新のエンジン積んでるでしょ? EX-ギアを搭載してないんだから生身では危険よ。それなりの対策をしてちょうだい。これはS.M.S支社長としてと言うより、これから生活を共にする者としての助言よ」

 

その場を去ろうとしたスグミを呼び止めて彼女の背中にそう言ったアライア。

確かに、最新型のエンジンを全力で噴かせれば、生身の人間はそのGに押しつぶされてしまう。

 

「心配するなアライア。生命維持限界領域にリミッターを設定している。それに、ゼントラーディの身体は頑丈にできているしな」

 

そう、彼女はゼントラーディの血を引いている。

その鮮やかな髪色がそれを物語っているのだが、彼女は純血のゼントラーディではない。

ゼントラーディの母と人間の父との間に産まれたハーフである。

どちらかといえば母の血を強く継いでいるとはいえ、半分は人間である。

 

「ゼントラーディって言っても、ハーフでしょあなた?」

「関係ない。私は大丈夫だ」

 

空色の髪を揺らし、その場を去った。

 

「全く…心配してるんだから、少しは受け止めなさいよね」

 

そんな言葉を聞いていたのかいないのか、スグミは独り、ハンガーへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも星々です!

初回ということで同時投稿です!
なので詳しいことは次の話で

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