マクロス-Sword-   作:星々

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19-聖剣、空を舞う

降り注ぐ赤い光の雨。

妖艶な歌声。

轟く巨鳥の咆哮。

もはや敵はあの鳥のみ。

バルキリーはすでに退去、もしくは巨鳥の放つ弾丸の餌食になって、戦場にはもうバルキリーはいない。

ほんの一部を除いて。

 

 

青いデュランダルがいた。

 

 

光線が降り注ぐ空を斬り、虹色の光を纏って飛ぶ。

振り向けば、敬礼して送り出してくれている仲間たちの姿。

しかし決して振り向くことはない。

そしてその姿はとても美しく、また力強かった。

目指すは、力を溜めるサイコ・バード。

できるだけ近付いて、できるだけ近くで、ミストレーヌの歌を聴かせなければならない。

 

「もっと近く……!」

 

迫り来る光線。

迫り来る、イオナの歌声。

 

「もっと近く…!」

 

上下左右に激しく動く。

 

「もっと近く!」

 

近付く物は全て消し去らんとばかり、ビーム状のものやミサイル状のものを撒き散らすサイコ・バード。

その間にも、自身の能力を解放するための力を溜め続けている。

力を溜めるのに時間がかかるというのが、唯一の救いだった。

しかし抵抗は強固で、とても容易に接近できるものではない。

その時

 

「主砲、撃て‼︎」

 

背後から強力なビーム砲が放たれた。ゲフィオンの援護射撃だ。

それに続くようにグライフも主砲による援護射撃を行う。

数は心許ないが、サイコ・バードによる抵抗をほんの少し和らげることができた。

 

「ありがとう……みんな…!」

 

勢い付く。

いや、勢い付こうとした。

しかし、だ

 

「ん……? あれは……」

 

真正面から飛来する、1機のバルキリー。

純白でありながら、禍々しいような雰囲気が漂う、VF-27γ。

パイロットの名は、サテル・ジェオだ。

2機は高速ですれ違う。

直後、VF-27γはガウォークに変形しながら反転し、ミサイルを放った。

 

「くッ……こんな時に…!」

 

スグミは歯を食いしばりながらYF-29の機首を真上に向け、一気に上昇させた。

ミサイルは目標を追従するという特性上、発射点から距離が離れれば離れるほどミサイル同士の間隔が短くなっていく。

そして最終的にはミサイル同士がぶつかって爆発し、間隔が狭くなっていた他のミサイルも誘爆する。

この方法ならば、チャフや迎撃行動を使わずともミサイルを振り切れる、というわけだ。

しかしこれはパイロットへのG負荷が大きく、滅多にこの策に走る者はいない。

故にサテルも、次の行動への移行が遅れた。

 

「……今はゆっくりお前に付き合っている暇はない!」

 

サテルが気づいた頃には、YF-29は高高度でバトロイドに変形し、バーストモードガンポッドを構えていた。

そして放たれる、重量子ビーム。

それは一直線にVF-27γを捉えた。

VF-19ASの時のような出力不利はない。

直撃、したように見えた。

 

「防いだ……か」

 

VF-27γはバトロイドで両手を胸の前でクロスし、ピンポイントバリアを集中展開して受け止めていた。

神懸かり的、というよりも、物理的に常識を超越していた。

左腕に傷が付きはしたものの、VF-27γは戦闘力を十分保っていた。

 

『貴様は……俺が倒す……!』

 

怒りに満ちたような、憎悪に満ちたような、憎しみに満ちたような、そんな声が聞こえた。

以前のような、感情を持たない声とは違う。

忘れていたはずの感情が蘇り、そんな戸惑いの中で、主人の自分に対しての認識を知り、それでも抗えない運命に、感情が暴走し始めていたのだ。

恐らくサイバーグラントとしての諸機能は感情による身体の変化を()()として処理しようとし、様々な処置機能を働かせた結果、自己の機構の強度を無視した動作を行うようになった。

それがサテルの反応速度が常識外れのレベルまで早くなった原因だろう。

 

「聞いたぞ、お前が忠誠を誓っているロボル・ウィロウの野望を。その心中を。それでもお前は奴に着くのか!」

『大義だ忠誠だ目的だ、そんなことは関係ない………俺は貴様を倒すために戦場にいる!』

 

VF-27γがファイターで急接近してくる。

常識を超えた高速戦闘が展開された。

高速域のままバトロイドでぶつかり合ったり、時にガウォークで撃ち合ったり、そんな無茶な戦闘。

サテルの動きは、今までの堅実さを残しつつもどこか攻撃的だった。

スグミは相変わらずの凶暴かつしなやかな動きでインファイトへと持ち込もうとする。

 

「ならば私にはもうお前と戦う理由がない! 世界の命運が左右されるかもしれないんだ! それでも…それでもお前は、そんなくだらない私情で飛ぶのか!」

 

スライスバックしながらVF-27γの背後を取るYF-29。

ジグザグに動きながらなんとか振り切ろうとするVF-27γだが、簡単に尻尾を離すほどスグミは甘くなかった。

 

『今でなければならないのだ……!』

「どうしてそう早まる! そんなに私を倒したいのなら、後で存分に相手してやる、だから今は!」

『今でなければならないのだ、俺は……‼︎』

 

錐揉み回転しながらミサイルを放った。

スグミは舌打ちしながらミサイルを迎撃し、逆にトンファーガンポッドとビームガンポッドを撃ち返した。

単純に2倍になる弾幕に、ジリジリと押されるVF-27γ。

YF-29は敵の下に潜り込むように急速に移動すると、トンファーを投げつけた。

トリガーが引きっぱなしになったトンファーガンポッドは回転しながら弾丸を掃射する。

VF-27γがそれをガードした瞬間、YF-29はトンファーガンポッドを撃ち抜いた。

自爆機能を搭載したトンファーは至近距離で爆発した。

だが、それでもVF-27γは墜ちない。

今度はVF-27γがアサルトナイフを抜いて振りかぶった。

YF-29もアサルトナイフを抜いて振りかぶる。

同時に投げられたナイフは、2機の中間点で追突し、甲高い金属音を響かせる。

 

『俺の命が尽きる前に‼︎』

 

この時、サテルの目には涙が浮かんでいたことを、誰も知る術はなかった。

 

「何?」

『どうせ最後だ、無駄話をしてやろう』

 

重力に任せてバトロイドで殴りかかってくるVF-27γ。

YF-29もバトロイドで迎え撃ち、取っ組み合いになる2機。

高高度から自由落下していく。

光線と咆哮が飛び交う中、2機は殴り合った。

スグミの目が泳ぐ。

 

『俺の心臓には小型の爆弾が埋め込まれている。それはロボル司令の心臓に埋め込まれたセンサーと連動していて、センサー側の心臓が止まれば、シンクロして爆弾が起動する。つまりはそういうことだ。だから………!』

 

自機を相手の上に回させてピンポイントバリアを張った拳を叩きつけるVF-27γ。

YF-29はそれを左ワキで受け止め封じ込めると、右脚を大きく振り上げる。

半身になってギリギリで回避したVF-27γだったが、YF-29は間髪入れずに掴んだ相手の左腕を捻り、下へ投げる。

VF-27γはそれでもまだ再び飛びかかってくる。

 

「そんな………!」

『だから今しかないんだ…俺がこの空を飛べるチャンスは、これで最後なんだ‼︎』

 

その声と想いが込められた拳が、YF-29の頭部をとらえた。

しかし、YF-29は首を傾げ、紙一重で躱していた。

 

「ならば……ならば私が救ってやる。世界も、お前も‼︎」

 

土埃を大きく上げて地面に叩きつけられた2機。

しかし不思議なことに、壊れたりはしなかった。

歌声が煌めいた。

 

『……! できるものか………』

「サイコ・バードを止める。サイコ・バードだけを止める」

『そんなこと!』

「やってみせるさ、私と、ミストレーヌの歌声で」

 

サテルは理解できないような感情に襲われ、体が動かなかった。

恐怖ではなく、もっと、力が抜けるような、そんな感情。

それでいて、内のほうからふつふつと湧いてくる何か。

これが"希望"なのだと知るのは、後のことになる。

 

『そんな……こと………』

「できるさ」

 

YF-29が立ち上がった。

その時

聳え立つラフレシア山の頂上、そこに君臨する巨鳥の身体が、ところどころ爆発を起こした。

サテルは目を疑う。

2人が交戦している際、誰もサイコ・バードには近付いていなかったはずだ。

しかしサイコ・バードの身体、もっと言えば、光線やミサイルを放っていたところが爆発した。

スグミの微笑みの吐息が聞こえた。

 

『まさか、お前……⁉︎』

「言っただろ? やってみせるって」

 

スグミは戦闘中、VF-27γをサイコ・バードの近くまで誘導していた。

そして射程圏内まで近付いたら、VF-27γと交戦しながらサイコ・バードを攻撃していたのだ。

勿論、サテルは全力だった。

それでもスグミは、2つの標的を同時に攻撃していた。

驚愕だった。

と同時に、サテルはスグミを倒すことを諦めた。

宿敵を諦めたという意味では、この時点でサテルは十分救われたと言っていいだろう。

だがスグミは、言ったことは成し遂げる。

 

「私は行く。お前はお前で生きろ。そうすればまた、相手してやる」

 

それだけ言い残し、YF-29は飛び立った。

サテルはとてつもない敗北感と、とても大きな安心感とに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミストレーヌ、もう少しだ。まだ歌えるな?」

「うん! イオナの歌、とっても強いけど…私、負けない!」

 

YF-29は、ついにサイコ・バードの頭部寸前に到達した。

もう抵抗はない。

ただその不気味な目で睨みつけてくる。

 

「…………⁉︎」

 

スグミは目を見開いた。

スグミがやろうとしていたことが、実現不可能となった。

サイコ・バードの歌エネルギーを吸収する器官は頭部にある。

そこを破壊すればエネルギーの吸収は止まり、沈黙すると考えたのだが。

 

「ふふふ……そうはさせんぞ!」

 

その頭頂部に、その男は立っていた。

ロングコートをマントのように靡かせ、仁王立ちする。

ロボルだ。

 

「サテルから色々と聞いたようだが、お陰で私は殺されずに済みそうだ」

「そこを退け、邪魔だ!」

「そう言って退く者がいるかね! 君は私を殺せない、そしてサイコ・バードは止められない‼︎」

 

両手を大きく広げ、天を仰ぐ。

 

「私の勝利だよ‼︎ ふははははははははははぁ‼︎」

 

狂乱した表情。

スグミは歯ぎしりし、操縦桿を握りしめた。

どうする、そう心の中で繰り返した。

その時。

 

目標(ターゲット)確認! 狙撃する!」

 

それはグライフの甲板で伏射姿勢をとるVF-25Fからだった。

センサーを強化されたジーナのVF-25Aのセンサーと接続し、そのトリガーはバルトが握っていた。

 

「やめろ‼︎」

 

スグミはコックピット内で振り向いてそう叫んだ。

 

「やめろォォオォ‼︎」

 

しかし、虚しくも彼女の視界の隅に、光の弾丸が映った。

そしてそれは

 

「そん…な………」

 

見事、サイコ・バードの頭部を貫いた。

ロボル・ウィロウもろとも、貫いた。

肉片も、骨片も、血飛沫も、すべてが蒸発した。

彼の野望も。

 

「………サテル…!」

 

 

 

 

 

 




どうも星々です!

ついに決着、しかし結末はなんか悲しくなりそう…?
サテルも世界も救うと言ったスグミですが、果たして彼女の宣言は達成されるのか……!

次回、最終回‼︎

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