マクロス-Sword-   作:星々

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18-希望、願い、未来

ロボルの背後で蠢く巨鳥が、彼の不気味さを演出していた。

どこか強大な存在と対峙しているような錯覚にあう。

 

「真の目的…だと……?」

 

バルトは銃を構え直す。

真の目的、という言葉に、サテルもその眉を少し動かした。

 

「そう…反新統合など、そんなことに興味はない!」

「どういうことだ」

「私は銀河を手に入れるのだ。そして、3年前にギャラクシーの奴等が果たせなかったことを、2年前に藤堂が果たせなかったことを、私はその両方を実現する! その為なら何だって利用する。生物兵器(チルドレン)だろうが、機装強化兵(サイバーグラント)だろうがな!」

 

サテルは目を見開いた。

しかし、すぐに冷静を装うように表情を隠す。

 

「全ては駒でしかない。私が文字どおりのラグナロクを起こし、私が新世界を創造し…そして私が、新世界の王となるのだ!」

「そんなことの為に……!」

 

ロボルは笑っていた。

 

「ふん、貴様には理解できまい」

 

そしてサテルに反撃指示した。

物を扱うように、顎で。

 

「司令………」

「何をやっている、私の計画の妨げになるつもりか?」

「いえ…」

 

サテルは立ち上がると、袖からナイフを伸ばし、懐からサブマシンガンを取り出した。

間髪入れずに弾丸が吐き出され、防御姿勢をとったバルトにナイフで切りかかる。

 

「くッ……!」

 

後退するバルト。

少女の歌声が遠くなっていく。

しかしそんなことに気を配っている時間はない。

バルトはグレネードを取り出し、サテルに投げつけた。

サテルは咄嗟に腕で防御する。

爆発。

爆煙が晴れた頃には、バルトの姿は無かった。

 

「俺は…………」

 

サテルは右腕の剥がれた人工皮膚から覗く内部機構を一瞥し、左手でそこを握りしめた。

熱で折れ曲がったサブマシンガンを捨て、バルトの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらミラージュ2。失敗だジーナ、脱出する!」

『バルトさんは、ぶ、無事ですか!』

「あぁ、問題ない。それより大変だ………⁉︎」

 

横から1発の弾丸が撃たれた。

それはバルトの鼻を掠め、その顔に傷をつけた。

 

「もう追いついたのか…⁉︎」

「逃がしはしない」

 

両手に拳銃を握り、人間離れの身体能力を惜しげもなく使い、バルトに襲いかかる。

EXギアによる機動力のおかげでなんとか躱し続けてはいるが、余裕はない。

 

『バルトさん! 何かあったんですか!』

 

音声だけ聞いているジーナには、銃声だけが聞こえていることだろう。

もちろん、バルトには通信に答える余裕がない。

 

「クッソ! なんであんなやつの言いなりになる! お前も聞いただろ、やつはお前のことなんて駒としか思っていない!」

「だから、どうだと言うのだ……!」

 

サテルの回し蹴りがバルトの左脚に直撃した。

嫌な音がした。

 

「ぐあぁ!」

「それに、司令の下にいればまた、女を殺す機会がある」

「あの女…?」

 

防戦一方のバルト。

なんとか自機の下に向かおうとする。

 

「憎たらしい、宿敵とでも言おうか……スグミ・ドリム!」

 

サテルの目は、目の前の敵など見てはいなかった。

最低限の冷静さすら欠いていた。

ただ、その怒りのような感情をぶつけているだけだった。

主人の心中を知り、自らの存在がどういうものなのか、その事実から逃避しているとも言える。

だが少なくとも、サテルはスグミに対して抱く特別な敵対心は、全くブレていない。

 

「バルトさん!」

 

防戦一方のバルトを援護するように、背後から銃弾が飛んできた。

ジーナだ。

バルトの異変を心配に思い、駆けつけたのだ。

 

「ジーナ! 助かる!」

 

ジーナの援護もあり、なんとかサテルを退けた。

サテルは追っていく様子もなく、去っていく2人の背中を見ていた。

 

「そっちへ行ったぞ、アリエ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルトとジーナは、それぞれ自機の下へ辿り着いた。

 

「バルトさん脚を……⁉︎」

 

コックピットへ登っていくバルトのぎこちない足取りに、ジーナは彼の左脚の怪我に気付いた。

完全に折れていた。

 

「あ、あぁ…でもこれぐらい…ッ!」

 

バルトはおもむろに機体の上に寝転がると、左脚をコックピットの縁に押し付ける。

苦悶の表情を見せ、腕でさらに力を加える。

バルトの脚の骨は、無理やり繋がった。

無理やり繋げたのだ。

 

「う、うわぁ……」

「いくぞジーナ、一旦グライフまで後退してスグミと合流する」

「は、はい!」

 

痛む脚に鞭打ち、VF-25Fを飛びあがらせる。

山陰から回り込みようにグライフを目指すコースをとる。

しかし、その2人の前に、1機のバルキリーが立ちふさがった。

それはエメラルドグリーンのVF-27γ。

 

『行かせないよ』

 

アリエだ。

明るい機体色であるにも関わらず、その雰囲気は邪悪で、底知れぬ闇を感じられた。

そう感じたのも、少なからずバルトに恐怖心が芽生えていた証拠だろう。

 

『私はアリエ・セドトール……でも、覚える必要はないよ。お前たちはここで終わるから』

 

挑発するような口調。

 

「くッ……仕方ない、やるぞジーナ!」

「はい!」

 

バトロイドに変形して大量のミサイルを放つジーナのVF-25A。

それと同時に、バルトのVF-25Fはファイターに変形し、VF-27γとの距離を詰める。

ガンポッドを撃ちまくるが、それは軽々と躱され、容易に背後を譲ってしまった。

 

「しまった……!」

 

だが、攻撃はない。

回り込んだVF-25Aがアサルトナイフを投擲し、ガンポッドを構える。

しかし標準が合う前にはVF-27γはすでに通過し、背後に回り込んでいた。

ガウォークに変形してすぐさま防御姿勢と回避行動に移るが、VF-27γは攻撃せずにVF-25Aの頭上に回り、バトロイドに変形した。

重力に身を任せて落下してくるその手には、ナイフが握れれていた。

 

『ははっ‼︎』

「ジーナ!」

 

割入ったVF-25Fがナイフで受け止め、鍔迫り合いになる。

VF-25Aが離脱するが、VF-27γに蹴飛ばされたVF-25Fが衝突する。

VF-27γは上昇しながらファイターに変形し、2機の頭上を旋回しながらミサイルの雨を降らせる。

 

『そんなもんかね!』

 

圧倒的劣勢。

2対1にも関わらず押し込まれていく。

しかし、直撃弾は未だにない。

 

「あいつ……遊んでやがるのか…」

 

そう、アリエは遊んでいた。

 

『そろそろ終わらせるよ!』

 

足の止まってしまった2機に、ハイパーグレネードモードのガンポッドを向けた。

しかし

 

『アリエ、戻ってこい』

『司令しかし…!』

『サイコ・バードを出す。巻き込まれない位置まで移動しろ』

 

一方的に入り、一方的に切られた通信。

それはANUNS司令官ロボル・ウィロウからのものだった。

アリエは不満げに舌打ちをし、すぐさま踵を返した。

 

「…い、行って、くれた……?」

「なんだ……確かに撃とうとしていたが…」

 

なんとか窮地を脱した2人に、グライフから通信が入った。

 

『2人ともすぐに後退して! ラフレシア山火口内部に高エネルギー反応よ!』

「なんだって⁉︎」

 

バルトはラフレシア山を見上げた。

すると、ラフレシア山の火口が割れ、内部から溶岩が噴き出す。

何か嫌な予感がし、ジーナに急ぐように言った。

 

「何が起きてるんですか⁉︎」

「いいから早く!」

 

急かすようにスーパーパックをパージするVF-25F。

続くVF-25Aもアーマードパックをパージする。

2機のVF-25はファイターに変形し、最大速で戦線を離脱していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨鳥が君臨した。

ミステリアスな歌声と共に。

禍々しくそびえる火山の頂上、その火口から姿を現した。

この世のものとは思えないような、なんとも形容しがたいその容姿に、誰もが身をすくめた。

耳を劈くような咆哮。

それと共に、身体の至る所から光の弾丸が撒き散らされる。

サイコ・バードは、火力を持っていたのだ。

それは敵味方の判断をするわけもなく、ただただそれらを蹂躙していく。

いち早く離脱したS.M.Sメンバーは被害を受けなかったが、多数故に逃げ遅れたANUNSのバルキリー数機が巻き込まれていく。

 

「ひ、ひでぇな…」

 

グライフまで後退しその様子を見たエドワードは呟いた。

 

「サイコ・バード……別名、ラグナロク、か……」

 

それは正に、終末を連想させるような光景だった。

しかし、それに立ち向かおうとする者が、ここにはいた。

 

「私が止める。道を開けろ」

 

カタパルトデッキに現れたのは、青いYF-29。

それはスーパーパックを新たに纏い、真っ直ぐにサイコ・バードを睨んでいた。

 

「止めるったって、どうやってやるんだよ!」

「敵はあんなにでっかいんだよ⁉︎」

 

クレイア姉弟が言う。

 

「あれはゲーティアチルドレンによる歌エネルギーを動力源としている。それを相殺できれば、奴は止まる」

「相殺って……まさかスグミ⁉︎」

 

通信画面に新たな顔が映った。

まだ幼さの残る少女だ。

 

「私が歌います!」

「ミストレーヌの歌を、私が届ける」

 

相殺できるという根拠はない。

しかし、サイコ・バードが起動してしまった以上、できることはしておかなければならない。

惑星全体が、洗脳される前に。

 

「今はその可能性に賭けましょう」

 

カタパルトデッキに、1人の女性が生身で上がってきた。

アライアだ。

 

「3年前、バジュラ本星で出撃したYF-29が、2人の歌姫の歌を運んで戦局を大きく傾けたという記録があるわ。ならばやってみる価値はある」

 

真っ直ぐに各隊員を見つめる。

その目は覚悟と決意を宿していた。

 

「そうだな……今は可能性を信じるしかない!」

 

エドワードが言った。

 

「そうだ、希望が無くなった訳じゃない!」

「行こうぜ!」

 

各バルキリーが左右に動き、YF-29の道を開ける。

 

「頼んだぞスグミ!」

「背中は任せてくださいっ!」

 

仲間たちがこんなにも頼もしく見えたのは初めてだった。

スグミは少し笑みを浮かべた。

 

「あぁ、行ってくる……!」

 

YF-29のエンジンが唸る。

仲間たちに見守られながら、その希望を背負って。

 

「YF-29 デュランダル、スグミ・ドリム、出るぞ‼︎」

 

計6基のエンジンが火を噴いた。

カタパルトを駆け抜け、空へ舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

-- 希望、願い、未来、私の歌、届きますように --

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストレーヌの歌声が、戦場に響いた。

巨鳥から放たれるイオナの歌声に負けじと、戦場を包み込む。

それは虹色の光となって、YF-29の背中を押す。

 

「終わらせる。全て……!」

 

 

 

 

 

 

 




どうも星々です!

盛り上がってきました!
希望を背負って飛び立つYF-29、
ミストレーヌの歌声は世界を救うことができるのか⁉︎
次回もお楽しみに

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