立ち塞がった白いVF-27γ。
そのパイロット、サテル・ジェオ。
「あの男か……確かサテルとか…」
操縦桿を握り手に力が入る。
スグミは感じていた。
この男は、以前よりもまた強くなっている、と。
証拠は無いが確証はあった。
「来たか、スグミ・ドリム」
「サテル・ジェオだな」
VF-27γは構えていたガンポッドを地面についた。
「少女をさらいに来たことは分かっている」
「その先にいるのか」
「物分りが早い……いや、勘がいいのか……その通りだ」
「なら、シンプルな状況だな」
YF-29はトンファーガンポッドを左腕に握り、構えた。
VF-27γは再びガンポッドを構える。
そして
2機は同時に動いた。
左右に揺さぶりをかけながら次の手を読み合う。
果敢に攻め入るスグミと、堅実に対応するサテル。
VF-27γはミサイルを放って後退する。
YF-29はミサイルを撃ち落とし、爆煙の中に躊躇なく突っ込む。
視界が奪われる中飛んでくるハイパーグレネードモードのビームをシールドで弾きながら突貫。
「見えた……!」
右上方に飛び上がって壁を蹴り、ガウォークに変形。
天井を伝い、左側の壁に移動、再びバトロイドに変形して壁を蹴る。
「貴様らがミストレーヌを利用する理由はなんだ」
飛びかかるように上方から襲いかかるYF-29。
VF-27γは速射に切り替えたビームガンポッドをこちらに向けて迎撃する。
YF-29はビームをシールドでガードしつつ、頭部の25mm高速機関砲で牽制しながら間合いを取る。
「あの歌の力を目の当たりにしたのなら、それだけでも十分な理由になるとは思わないか?」
「違うな、そうだとすれば、この戦闘にも積極的に投入してくるはずだ」
「鋭いな」
VF-27γは目眩しのミサイルを壁に向けて放つと、ファイターに変形して通路の奥へ進んだ。
スグミは素早く反応し、飛び散る瓦礫を回避しつつYF-29をファイターに変形させ、後を追う。
「あの少女の歌は、何十万チバソングもの歌エネルギーを有している。ANUNSが欲しいのはその"歌エネルギー"だ」
「その歌エネルギーでサイコ・バードを起動するつもりか……!」
サイコ・バード。
それは、惑星ソーディアに眠っていた遺跡。
その正体はプロトカルチャーが遺した巨大兵器で、あくまで推測の域を出ないが、膨大な歌エネルギーによって発動されるその効力は人の記憶を書き換え、人の精神を書き換える。
いわば、洗脳状態を作り出すもの。
そしてその規模は惑星単位とも、銀河単位とも言われている。
「もう1人の少女は
可変戦闘機が並んで3機程度しか通れないような狭い通路だったが、この2機は衝突も恐れずに攻防を繰り広げる。
「理想だかなんだか知らないが、貴様らの都合にミストレーヌを巻き込んだこと、許しはしない!」
YF-29がミサイルを放つ。
チャフで退けながら加速するVF-27γは、曲がり角にビームを撃ち込み、壁を破壊する。
瓦礫が散乱し、YF-29は仕方なくその足を止める。
「…………降りたか」
バトロイドに変形し、瓦礫を退けて進む。
そこにはもぬけの殻になったガウォークのVF-27γが。
スグミはYF-29を降りる。
念のため用意していたマシンガンを手に取り、人用の通路に飛び込む。
EX-ギアをフル稼動させ、通路を疾走する。
道は分岐しておらず、また途中に部屋もない。
(この先にいるのか、ミストレーヌ……)
角を曲がろうとしたとき、弾丸が壁を掠った。
サテルだ。
「サイコ・バードを起動させたところで、大局は何も変わったことにはならない。むしろこれは、文明を停止させることになる!」
「俺には大局がどう、文明がどうなど、最早関係ない」
マシンガンを放ちながら角を飛び出、サテルの懐を狙う。
サテルは右の袖からナイフを伸ばし、スグミを迎え撃つ。
ナイフが空を切る音と、攻防を繰り広げる足音、四肢が風を切る音。
それらが絡み合う。
サテルは一度大きく跳び退き、軽やかな身のこなしで銃撃を躱しつつ、とある部屋に飛び込んだ。
「逃がすか……!」
ホバー走行で部屋に飛び込む。
するとそこには、待ち構えていたかのように佇むサテルの姿があった。
しかし、ただそこに立っていただけでは、なかった。
「動かない方がいい」
「下劣な……!」
少女の喉元にナイフを突きつけるサテル。
その少女は、ミストレーヌ・クルーク。
怯える表情。
その傍らには不敵な笑みを浮かべる、瓜二つの少女。
「サテルにしては、なんとも無駄なことするねー」
その少女が口を開いた。
その声もミストレーヌにそっくりで、スグミは驚きと同時に不気味さを抱く。
サテルはそんな少女、イオナの言葉に表情をしかめる。
「ANUNSにとってミストレーヌと私は必要不可欠、つまりは殺すことができない存在。それを人質として利用するなんて、無駄だとは思わない?」
まるで物語を語るように話す少女。
近づき難い空気を放つ。
「ね? お姉さん……?」
一瞬、スグミに向けられたイオナの瞳が、真剣な表情を見せた。
その視線が語りかける。
やるなら、今だ。
そして、スグミの身体を突き動かした。
「…………!」
一瞬だった。
スグミはマシンガンを振り上げると、勢いのままサテルを殴り飛ばした。
強化された骨格が軋む音がした。
ミストレーヌはその腕から解放され、スグミの腕に飛び込んだ。
「無事か!」
「うん……」
ミストレーヌを庇うように抱きかかえながら、部屋から駆け出ていくサテルに弾丸を放つ。
しかしそれは、サテルとイオナの足元を掠めていくだけだった。
「追うぞ、立てるか?」
「うん、ありがと、お姉さん!」
スグミはミストレーヌの身体を支えながら部屋を後にし、愛機の元へ向かった。
一方、先に機体にたどり着いたサテルとイオナ。
イオナは後席に座り込み、ヘルメットを被りながらサテルに話しかけた。
「思考が乱れてるよ、らしくないね。冷静さを欠いてる状態じゃ、あのお姉さんには勝てないよ」
「わかっている……!」
サテルの声には苛立ちが見えた。
良くも悪くも、人間らしさを取り戻しつつあった。
「じゃあもうちょっと落ち着きなって」
「子供は黙っていろ。お前は大人しく、指示通りに歌えばいい!」
「……はいはい」
イオナは肩をすくめると、シートに体重を委ね、拗ねたように黙り込んだ。
だが内心は至って冷ややかだった。
この戦場で最も冷静だったと言ってもいい。
(この戦場、なんか悲しいなぁ)
見下すように、見透かすように、そう心の中で呟いた。
ミストレーヌを乗せたYF-29は、見失ったVF-27γを無理に探さず、基地からの脱出を試みた。
元々、今作戦の目的はミストレーヌの救出だ。
極論を言えば、ANUNSが何をしようと関係ない。
だが実際そうはいかない。
何としても止めなければならない。
サイコ・バードの強大な力は、惑星どころか銀河単位を支配し得る。
そんなものを悪用することは、何としても阻止しなければならない。
「来た道を戻るが早いか………少し戦場の真ん中を通る、我慢してくれ!」
「う、うんっ!」
ミストレーヌは手脚を強張らせ、手をぎゅっと握る。
スグミはそんなミストレーヌの姿を見てから、YF-29を加速させた。
狭い通路を躊躇なく全速力で駆け抜ける。
飛び出すと、そこは弾丸の嵐。
見たところ大きな被害はないものの、S.M.Sも苦戦を強いられているようだ。
「こちらオーロラ1。ターゲットを保護した、これより帰艦する!」
背後からスナイパーが放った弾丸をヨーイングして紙一重で躱し、迫り来る敵バルキリーを、ガウォークに変形して2つのガンポッドで冷静に撃ち落とす。
ミサイルをマルチロックで放ってからファイターに変形、直撃を受けて失墜する敵バルキリーには目もくれず、グライフを目指す。
「もう少しで…!」
YF-29は激戦の最前線を抜けた。
追撃が無かったわけではなかったが、味方の援護のおかげで難なくグライフへ到着した。
YF-29をガウォークでカタパルトデッキにつけると、ミストレーヌを下ろした。
長い髪を風になびかせながら振り向くと、スグミがコックピットへ戻っていく姿が見えた。
「行っちゃうの……?」
ミストレーヌの声にスグミは振り向く。
「あぁ、戦いを終わらせてくる」
スグミの目は、力強かった。
見上げる姿は、勇ましく見えた。
「うん…………!」
「ふはははは…少し手間取ってしまったが、ようやく準備が完了した」
「………」
ANUNS最高司令官、ロボル・ウィロウ。
彼は今、自らの計画の鍵、サイコ・バードに向き合っていた。
傍には片膝をついてこうべを垂れる部下サテル・ジェオと、他所を見る少女イオナ。
ロボルは少女に目を向けると、口角を上げる。
その鋭い目が少女に刺さるが、イオナは相変わらず掴み所のない表情をしている。
「さぁベリアル、その歌エネルギーでサイコ・バードを起動しろ…!」
横目でサテルを見るイオナ。
サテルは体勢を維持したままに視線だけをイオナに向ける。
サテルの目は、強要していた。
が、強要されずとも、イオナは歌うつもりだった。
(恩返し…パーツ扱いは変わらなかったけど、退屈から連れ出してくれた、その、恩返し)
イオナは一歩前に進むと、目を閉じた。
大きく胸で息を吸い、腹からその声を発した。
幼い容姿に似合わず、その声はどこかミステリアスで、妖艶さを含んでいた。
しかし、彼らは
やはり機械的で、精密すぎて、精巧すぎて、魅力的ではなかった。
イオナはそんな自分の声に、悲しみの涙をその瞳に溜める。
「おぉ……歌声を、サイコ・バードが喰らっていく……!」
(これで私は銀河を手に入れる……虫ケラ共など利用せずとも、私は銀河の王となる…!)
歓喜の声を上げるロボル。
その眼前では、徐々にその力を蘇らせる巨鳥。
鎧のような外殻の節々から光が漏れ始め、その翼は少しずつ広がっていく。
拘束具が軋み、やがて崩れていく。
「さぁ、私の祈願を叶え給え、サイコ・バード‼︎」
甲高い雄叫び。
その轟音と共に、サイコ・バードは浮遊していく。
太古からの眠りから、目覚めた。
ラグナロクが起動した。
「動くな!」
ロボルに銃が向けられたのは、その直後だった。
その声の主は、両手で拳銃を握り、その狙いを定める。
「S.M.Sのネズミが潜り込んでいたとはな。しかしもう遅い」
「クッ……!」
ミステリアスな歌声と甲高い雄叫びが不協和音を響かせるなか、そこに緊張感が生じた。
その青年、バルト・バルドは、銃を下ろさずに言う。
「やめるんだ! こんなことをして何になる!」
反撃に動こうとしたサテルを手で抑すると、ロボルは悠々と振り向いて口を開いた。
「いいだろう。教えて差し上げよう、私の…私たちの、
どうも星々です!
諸事情により1週間空いてしまいました、申し訳ありません
決戦はまだまだ続きます!
下手すりゃ最終決戦だけであと3話分とかありえる…
やっぱりクライマックスはたっぷり書きたいんで、どうか最後までお付き合いください