マクロス-Sword-   作:星々

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17-ラグナロク、起動

立ち塞がった白いVF-27γ。

そのパイロット、サテル・ジェオ。

 

「あの男か……確かサテルとか…」

 

操縦桿を握り手に力が入る。

スグミは感じていた。

この男は、以前よりもまた強くなっている、と。

証拠は無いが確証はあった。

 

「来たか、スグミ・ドリム」

「サテル・ジェオだな」

 

VF-27γは構えていたガンポッドを地面についた。

 

「少女をさらいに来たことは分かっている」

「その先にいるのか」

「物分りが早い……いや、勘がいいのか……その通りだ」

「なら、シンプルな状況だな」

 

YF-29はトンファーガンポッドを左腕に握り、構えた。

VF-27γは再びガンポッドを構える。

そして

2機は同時に動いた。

左右に揺さぶりをかけながら次の手を読み合う。

果敢に攻め入るスグミと、堅実に対応するサテル。

VF-27γはミサイルを放って後退する。

YF-29はミサイルを撃ち落とし、爆煙の中に躊躇なく突っ込む。

視界が奪われる中飛んでくるハイパーグレネードモードのビームをシールドで弾きながら突貫。

 

「見えた……!」

 

右上方に飛び上がって壁を蹴り、ガウォークに変形。

天井を伝い、左側の壁に移動、再びバトロイドに変形して壁を蹴る。

 

「貴様らがミストレーヌを利用する理由はなんだ」

 

飛びかかるように上方から襲いかかるYF-29。

VF-27γは速射に切り替えたビームガンポッドをこちらに向けて迎撃する。

YF-29はビームをシールドでガードしつつ、頭部の25mm高速機関砲で牽制しながら間合いを取る。

 

「あの歌の力を目の当たりにしたのなら、それだけでも十分な理由になるとは思わないか?」

「違うな、そうだとすれば、この戦闘にも積極的に投入してくるはずだ」

「鋭いな」

 

VF-27γは目眩しのミサイルを壁に向けて放つと、ファイターに変形して通路の奥へ進んだ。

スグミは素早く反応し、飛び散る瓦礫を回避しつつYF-29をファイターに変形させ、後を追う。

 

「あの少女の歌は、何十万チバソングもの歌エネルギーを有している。ANUNSが欲しいのはその"歌エネルギー"だ」

「その歌エネルギーでサイコ・バードを起動するつもりか……!」

 

サイコ・バード。

それは、惑星ソーディアに眠っていた遺跡。

その正体はプロトカルチャーが遺した巨大兵器で、あくまで推測の域を出ないが、膨大な歌エネルギーによって発動されるその効力は人の記憶を書き換え、人の精神を書き換える。

いわば、洗脳状態を作り出すもの。

そしてその規模は惑星単位とも、銀河単位とも言われている。

 

「もう1人の少女は()()()()()と呼んでいたがな。ロボル司令の理想のためには、サイコ・バード(ラグナロク)が必要だ」

 

可変戦闘機が並んで3機程度しか通れないような狭い通路だったが、この2機は衝突も恐れずに攻防を繰り広げる。

 

「理想だかなんだか知らないが、貴様らの都合にミストレーヌを巻き込んだこと、許しはしない!」

 

YF-29がミサイルを放つ。

チャフで退けながら加速するVF-27γは、曲がり角にビームを撃ち込み、壁を破壊する。

瓦礫が散乱し、YF-29は仕方なくその足を止める。

 

「…………降りたか」

 

バトロイドに変形し、瓦礫を退けて進む。

そこにはもぬけの殻になったガウォークのVF-27γが。

スグミはYF-29を降りる。

念のため用意していたマシンガンを手に取り、人用の通路に飛び込む。

EX-ギアをフル稼動させ、通路を疾走する。

道は分岐しておらず、また途中に部屋もない。

 

(この先にいるのか、ミストレーヌ……)

 

角を曲がろうとしたとき、弾丸が壁を掠った。

サテルだ。

 

「サイコ・バードを起動させたところで、大局は何も変わったことにはならない。むしろこれは、文明を停止させることになる!」

「俺には大局がどう、文明がどうなど、最早関係ない」

 

マシンガンを放ちながら角を飛び出、サテルの懐を狙う。

サテルは右の袖からナイフを伸ばし、スグミを迎え撃つ。

ナイフが空を切る音と、攻防を繰り広げる足音、四肢が風を切る音。

それらが絡み合う。

サテルは一度大きく跳び退き、軽やかな身のこなしで銃撃を躱しつつ、とある部屋に飛び込んだ。

 

「逃がすか……!」

 

ホバー走行で部屋に飛び込む。

するとそこには、待ち構えていたかのように佇むサテルの姿があった。

しかし、ただそこに立っていただけでは、なかった。

 

「動かない方がいい」

「下劣な……!」

 

少女の喉元にナイフを突きつけるサテル。

その少女は、ミストレーヌ・クルーク。

怯える表情。

その傍らには不敵な笑みを浮かべる、瓜二つの少女。

 

「サテルにしては、なんとも無駄なことするねー」

 

その少女が口を開いた。

その声もミストレーヌにそっくりで、スグミは驚きと同時に不気味さを抱く。

サテルはそんな少女、イオナの言葉に表情をしかめる。

 

「ANUNSにとってミストレーヌと私は必要不可欠、つまりは殺すことができない存在。それを人質として利用するなんて、無駄だとは思わない?」

 

まるで物語を語るように話す少女。

近づき難い空気を放つ。

 

「ね? お姉さん……?」

 

一瞬、スグミに向けられたイオナの瞳が、真剣な表情を見せた。

その視線が語りかける。

やるなら、今だ。

そして、スグミの身体を突き動かした。

 

「…………!」

 

一瞬だった。

スグミはマシンガンを振り上げると、勢いのままサテルを殴り飛ばした。

強化された骨格が軋む音がした。

ミストレーヌはその腕から解放され、スグミの腕に飛び込んだ。

 

「無事か!」

「うん……」

 

ミストレーヌを庇うように抱きかかえながら、部屋から駆け出ていくサテルに弾丸を放つ。

しかしそれは、サテルとイオナの足元を掠めていくだけだった。

 

「追うぞ、立てるか?」

「うん、ありがと、お姉さん!」

 

スグミはミストレーヌの身体を支えながら部屋を後にし、愛機の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、先に機体にたどり着いたサテルとイオナ。

イオナは後席に座り込み、ヘルメットを被りながらサテルに話しかけた。

 

「思考が乱れてるよ、らしくないね。冷静さを欠いてる状態じゃ、あのお姉さんには勝てないよ」

「わかっている……!」

 

サテルの声には苛立ちが見えた。

良くも悪くも、人間らしさを取り戻しつつあった。

 

「じゃあもうちょっと落ち着きなって」

「子供は黙っていろ。お前は大人しく、指示通りに歌えばいい!」

「……はいはい」

 

イオナは肩をすくめると、シートに体重を委ね、拗ねたように黙り込んだ。

だが内心は至って冷ややかだった。

この戦場で最も冷静だったと言ってもいい。

 

(この戦場、なんか悲しいなぁ)

 

見下すように、見透かすように、そう心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

ミストレーヌを乗せたYF-29は、見失ったVF-27γを無理に探さず、基地からの脱出を試みた。

元々、今作戦の目的はミストレーヌの救出だ。

極論を言えば、ANUNSが何をしようと関係ない。

だが実際そうはいかない。

何としても止めなければならない。

サイコ・バードの強大な力は、惑星どころか銀河単位を支配し得る。

そんなものを悪用することは、何としても阻止しなければならない。

 

「来た道を戻るが早いか………少し戦場の真ん中を通る、我慢してくれ!」

「う、うんっ!」

 

ミストレーヌは手脚を強張らせ、手をぎゅっと握る。

スグミはそんなミストレーヌの姿を見てから、YF-29を加速させた。

狭い通路を躊躇なく全速力で駆け抜ける。

飛び出すと、そこは弾丸の嵐。

見たところ大きな被害はないものの、S.M.Sも苦戦を強いられているようだ。

 

「こちらオーロラ1。ターゲットを保護した、これより帰艦する!」

 

背後からスナイパーが放った弾丸をヨーイングして紙一重で躱し、迫り来る敵バルキリーを、ガウォークに変形して2つのガンポッドで冷静に撃ち落とす。

ミサイルをマルチロックで放ってからファイターに変形、直撃を受けて失墜する敵バルキリーには目もくれず、グライフを目指す。

 

「もう少しで…!」

 

YF-29は激戦の最前線を抜けた。

追撃が無かったわけではなかったが、味方の援護のおかげで難なくグライフへ到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

YF-29をガウォークでカタパルトデッキにつけると、ミストレーヌを下ろした。

長い髪を風になびかせながら振り向くと、スグミがコックピットへ戻っていく姿が見えた。

 

「行っちゃうの……?」

 

ミストレーヌの声にスグミは振り向く。

 

「あぁ、戦いを終わらせてくる」

 

スグミの目は、力強かった。

見上げる姿は、勇ましく見えた。

 

「うん…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはははは…少し手間取ってしまったが、ようやく準備が完了した」

「………」

 

ANUNS最高司令官、ロボル・ウィロウ。

彼は今、自らの計画の鍵、サイコ・バードに向き合っていた。

()にあたる部分の高さにかけられた移動式の作業台に登り、その姿を眺める。

傍には片膝をついてこうべを垂れる部下サテル・ジェオと、他所を見る少女イオナ。

ロボルは少女に目を向けると、口角を上げる。

その鋭い目が少女に刺さるが、イオナは相変わらず掴み所のない表情をしている。

 

「さぁベリアル、その歌エネルギーでサイコ・バードを起動しろ…!」

 

横目でサテルを見るイオナ。

サテルは体勢を維持したままに視線だけをイオナに向ける。

サテルの目は、強要していた。

が、強要されずとも、イオナは歌うつもりだった。

 

(恩返し…パーツ扱いは変わらなかったけど、退屈から連れ出してくれた、その、恩返し)

 

イオナは一歩前に進むと、目を閉じた。

大きく胸で息を吸い、腹からその声を発した。

幼い容姿に似合わず、その声はどこかミステリアスで、妖艶さを含んでいた。

しかし、彼らは()()()として聴いていなかったので気付かなかっただろうが、しかしその声には()()がこもっていなかった。

やはり機械的で、精密すぎて、精巧すぎて、魅力的ではなかった。

イオナはそんな自分の声に、悲しみの涙をその瞳に溜める。

 

「おぉ……歌声を、サイコ・バードが喰らっていく……!」

(これで私は銀河を手に入れる……虫ケラ共など利用せずとも、私は銀河の王となる…!)

 

歓喜の声を上げるロボル。

その眼前では、徐々にその力を蘇らせる巨鳥。

鎧のような外殻の節々から光が漏れ始め、その翼は少しずつ広がっていく。

拘束具が軋み、やがて崩れていく。

 

「さぁ、私の祈願を叶え給え、サイコ・バード‼︎」

 

甲高い雄叫び。

その轟音と共に、サイコ・バードは浮遊していく。

太古からの眠りから、目覚めた。

ラグナロクが起動した。

 

 

 

 

「動くな!」

 

ロボルに銃が向けられたのは、その直後だった。

その声の主は、両手で拳銃を握り、その狙いを定める。

 

「S.M.Sのネズミが潜り込んでいたとはな。しかしもう遅い」

「クッ……!」

 

ミステリアスな歌声と甲高い雄叫びが不協和音を響かせるなか、そこに緊張感が生じた。

その青年、バルト・バルドは、銃を下ろさずに言う。

 

「やめるんだ! こんなことをして何になる!」

 

反撃に動こうとしたサテルを手で抑すると、ロボルは悠々と振り向いて口を開いた。

 

「いいだろう。教えて差し上げよう、私の…私たちの、()の目的を…!」

 

 

 

 

 

 

 




どうも星々です!

諸事情により1週間空いてしまいました、申し訳ありません

決戦はまだまだ続きます!
下手すりゃ最終決戦だけであと3話分とかありえる…
やっぱりクライマックスはたっぷり書きたいんで、どうか最後までお付き合いください

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