マクロス-Sword-   作:星々

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10-そっくりなあの子、そっくりな私

イリス川

大陸を広く縦断する大河川である。

その流れに逆らう方向に飛ぶ、2機の可変戦闘機があった。

サテルとアリエだ。

後席にはそれぞれ、チルドレンを名乗る少女、"イオナ・サキュバ"とミストレーヌが座っている。

もっとも、ミストレーヌはまだ眠らされているが。

 

「ねぇ、基地ってもうすぐ?」

「あぁ」

「でもなんか、それっぽいの見当たらないよ。ねぇねぇどこ?」

 

後席から身を乗り出すイオナ。

サテルは振り向くことをせずに声をかけた。

 

「おい」

「ん?」

 

自分から話しかけることのなかったサテルの声掛けに首を傾げて聞くイオナ。

 

「少し黙っていろ」

 

殺気を含んだ冷たい声だった。

ごく普通の少女なら震えて声も出なくなるだろうという迫力もあった。

しかし、イオナは普通ではない。

単純に注意された程度にとらえ、大人しく座席にちょこんと座りなおした。

 

「ちっとは子どもに優しくしなって。イオナはロボル司令の計画には欠かせない存在なんだから。この娘も含めてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなに話しておきたいことがある」

 

そう言ってソーディア支社員を集めたスグミ。

狭い医務室に、バルキリーパイロットたちと支社長アライアが集まった。

怪我も多少は良くなり、スグミは上体だけ起こしている。

彼女を囲うように立ち並ぶメンバーたち。

 

「集まったわよスグミ。で、話しておきたいことって?」

「忙しい中すまないなアライア、みんなも。それで、この前の戦闘の、いや、アイリスでのことからだ」

 

スグミはミストレーヌと出会ったその経緯を話した。

そして自分が抱える、何か説明できない気がかりも。

理由がわからないが、ミストレーヌが気になる。

歌の力とか関係なく、なぜか気になる。

それをゆっくりと話した。

 

「それで、この前の戦闘の時だ。ANUNSの輸送船に、ミストレーヌはいたんだ」

「ちょっと待てよスグミさん。ANUNSの声明から判断する限り、女の子を誘拐する狙いがわかんないじゃん」

 

リュドが質問を飛ばした。

確かに、新統合軍と邪魔をする者を攻撃すると言ったANUNSが、ひとりの少女を誘拐するのは謎が多い。

人質としての効力も薄く、何か特権を持っているわけでもなさそうだった。

 

「私もそう思っていた。だが、この前の戦闘でもしかしたらと思った」

「何があったの」

 

アライアが真剣な眼差しでそう問う。

 

「あぁ。私は一度、撃墜された。しかしミストレーヌの歌が聴こえた時、再びエンジンに火がついたんだ」

 

アライアは目を見開いた。

常識離れで非現実的な現象だったが、驚きの理由はそこではなかった。

その現象に、心当たりがあった。

 

「その時、温度を伴った発光現象があったりした!?」

 

先程まで冷静だったアライアの態度の変わりようにすこし戸惑う一同だったが、スグミはあくまで冷静にあの時の事を話した。

 

「あぁ。音の広がりが見えているようだった」

「やっぱり………」

 

アライアは何やら確信を得ると、ポケットからスティック型の端末を取り出し、とあるデータを呼び出した。

それを全員が見えるように拡大して提示した。

 

「これは7年ほど前の軍のとある研究資料よ。提唱者、アルバート・アイルステイン。Dr.千葉の再来とも言われた科学者で、軍の歌姫育成プロジェクトの研究員だった」

「聞いたことがあるな。確かちょうどバジュラ戦役の時に精神崩壊を起こして自害したとか」

「その通りよエドワード。だからこの研究も破棄されたはずだった」

 

アライアが出した資料は、確かに未完のままロックされていた。

音波についてのことや、人間とゼントラーディの声帯の微妙な違いなどについて細かく記されていた。

 

「だけど、彼が進めていたのは歌姫育成ではなかった、ということがここ最近になって発覚したのよ」

 

そう言ってスクロール進め、あるページを表示した。

その内容に、全員が驚愕した。

そこに書いてあったのは、

 

『歌声を兵器として転用すべく特化させた新種の開発』

 

これが意味するのは、生物兵器。

 

「まさか…」

 

スグミは目を疑った。

しかしこれが事実なら、ANUNSがミストレーヌをさらったことにも合点が行く。

 

「サンプルは全て廃棄されたと聞いていたけど、考えられる可能性は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またしても薄暗い部屋で、ミストレーヌは目覚めた。

こんどは手脚の自由が利き、部屋は比較的綺麗だった。

だが、その代わりに彼女の前には信じられない光景があった。

 

「おはよ! 目覚めたね!」

 

ベッドの上のミストレーヌに歩み寄ってくるその少女。その声には聞き覚えがあった。

長髪を揺らすその歩き方や、ちょっした仕草も。

その全てに見覚えがあった。

 

「調子はどう? 具合は平気?」

 

クリッとした目でミストレーヌの顔を覗き込む。

その瞳も、ミストレーヌは知っていた。

ミストレーヌは困惑した。

 

「私……………!?」

 

そう、その少女は、ミストレーヌとそっくりだったのだ。

他人の空似でも何でもない、まさに()()()()だった。

 

「私はイオナ・サキュバ! あなたは?」

 

戸惑いながらも、差し出された手を握る。

その肌の感触も、自分のものと全く同じだった。

 

「ミストレーヌ…ミストレーヌ・クルーク」

 

驚きで思考が停止していまっている中名乗ると、イオナは突然ミストレーヌに覆いかぶさった。

ベッドに押し倒されるミストレーヌ。

 

「え、ちょっと! どこ触って………!」

 

イオナはミストレーヌの服を脱がしはじめた。

ミストレーヌの纏っていた衣服が減るたびに、何かを探すように肌をあちこち眺める。

抵抗する中、とうとう下着だけ残した状態になったとき、イオナはようやくなにか見つけたように、ミストレーヌの脚を掴んで広げ、内ももに注目した。

 

「67…ってことはアムドゥスキアスだね!」

 

ミストレーヌには理解できない数字と単語を言うと、こんどはイオナが自分の衣服を脱ぎ始めた。

顔を赤くして身体を隠すミストレーヌの目の前で、自分と全く同じ身体が露わになっていく。

イオナも下着だけになると、上の下着をずらし、左胸を見せつけてきた。

そこには、『68』という数字の形をした痣があった。

 

「私はベリアルなんだ! えっとアムドゥスキアスとベリアルだから、ちょうど一個違いだね!」

 

話の内容が共有できていない。

それを、ミストレーヌの表情でなんとなく理解したイオナは驚いた表情で言った。

 

「もしかして、知らないの!?」

「知らないって、なにを…」

 

話が噛み合わない理由をようやく理解したといった様子でミストレーヌの横に座り、丁寧に説明を始めた。

 

「えっと、簡単に言うと、私たちは"ゲーティアーチルドレン"っていう72人の子どもたちの内の2人なんだよ。だから身体にその数字のマークがあるの」

 

指を立てて得意げに話すイオナだったが、相変わらずミストレーヌには内容が理解できていなかった。

しかし自分の出自も知らないミストレーヌは、なんとなくそのゲーティアチルドレンという集団に家族のような親近感を覚えた。

 

「じゃあ、さっきのアムドゥスキアスとかベリアルとかは…?」

「ん? あぁ、あれはあんまり気にしなくていいよ。ただの"開発コード"だから」

 

穏やかだったのも束の間。

ミストレーヌは驚愕した。

何故自分に開発コードなどが付いているのか。

謎の数字や自分と瓜二つの存在。

ますます彼女の頭は混乱していった。

 

「開発……コード………!?」

「そ! 私たち、クローンだからね」

 

ミストレーヌの混乱は加速する。

だがクローンという言葉を疑う余地は無かった。

目の前の少女がそれを証明している。

それでも、ミストレーヌにとってこの事実はショッキングすぎた。

目からは涙が溢れ、身体から力が抜けていった。

自分が、人工物だと知れば、そうなっても不思議ではないだろう。

そんな彼女を、イオナは優しく抱きしめた。

 

「やっぱりなんにも知らなかったんだ。でも大丈夫、私も最初はそうだった」

 

泣き止まないミストレーヌを、優しく包み続ける。

そんな中、部屋の扉が突然開いた。

慌ててシーツで2人の身体を隠すイオナ。

扉からは、サテルが入ってきた。

 

「ちょ! なんて非常識なのよ! 女の子がゆりゆりしてる所にノックも無しに入ってくるなんて!」

 

少々わざとらしい悲鳴をあげるイオナ。

枕を投げ飛ばすが、サテルはそれを半身になって避ける。

 

「ならばさっさと終わらせろ」

「ハァ? 冗談だってのもわからないの!? 全く、堅っ苦しいやつね!」

「さっさとしろ」

「なら出てってよ! あんたがいちゃここから動けないじゃない!」

 

次々と飛んでくるクッション類を軽く弾き、渋々と彼女らに背を向け、部屋を出て扉を閉める。

ミストレーヌとイオナは服を着て、サテルの待つ廊下へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スグミは車椅子に乗せられ、ハンガーへ来ていた。

アライアに案内されて見せられたのは、愛機の無残な姿。

 

「修理はできないのか?」

 

スグミの声には、悲しみの色が少し乗っていた。

あくまで冷静を演じる彼女も、隠しきれなかったのだろう。

 

「厳しいわね……ウロボロス支社のアイシャなら、なんとかしちゃいそうだけど…」

「アイシャか………今ウロボロスに行くには、F.D.R.(フォールド・ディメンショナル・レゾナンス)システムを使えば何とかできるが」

「悔しいけど、アイシャの最高傑作(あれ)を再現する自信はないわ。アイシャは天才なのよ。」

「そうか………」

 

スグミはうつむく。

両の手を握り、心の奥にある感情を抑え込む。

まずはパイロットとしてどうするべきか、それを考えるようにした。

しかし、その目は涙をこらえるので精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

見回り当番のジーナは、一人艦内を歩いていた。

寝ているみんなを起こさぬよう、照明は点けずに懐中電灯を持って。

 

「あれ、ハンガーの明かりが…」

 

最後に訪れたハンガーは、依然として明るさを保っていた。

機械が動く音もせず、ただ明かりが鉄の床を照らしていた。

壁のスイッチで明かりを消した時、ジーナは人気を感じた。

 

「だ、誰か…いるんですか?」

 

懐中電灯を灯し、その方向へ歩く。

そこはカバーのかけられたVF-19AS、スグミの機体の側だった。

その陰を照らし、覗き込む。

 

「………!?」

 

照らされたそこには、驚きの表情でこちらを向くスグミの顔があった。

その目からは涙も見えた。

 

「す、スグミさん…? ど、どうしたん、ですか?」

 

スグミは顔を隠し、まだぎこちない動きの腕で顔を拭う。

 

「すまないな、もうそんな時間だったか」

 

スグミは車椅子を操作し、ハンガーをあとにしようとする。

しかし、ジーナがスグミを呼び止めた。

 

「あの、ど、どうしていつも、一人でいたがるんですか?」

 

スグミの後ろ姿が止まった。

ジーナは自分の袖を握って答え待つ。

 

「一人が、好きだからだ」

「じゃあどうして、一人で泣いてるんですか!」

 

意外な返答だった。

それもジーナからこんな言葉が飛び出すとは、彼女自信、想定していなかった。

 

「バルトさんから聞きました、いつもここで泣いてるって。そんなに私たちが頼りないんですか? 辛さを打ち明けられないんですか?」

「そうじゃ、ない……」

「だったら…!」

 

熱のこもるジーナの声に、鼻のすする音が混じり始めた。

 

「だったらもっと、私に話してください。スグミさんのこと。好きな色や好きな食べ物、好きな季節とか好きな時間とか…好きな…好きな……ひ、ひ…と………とか…………」

 

とうとうジーナが泣き出してしまった。

膝を抱え込み、大きな声で泣く。

溜まっていたものが、溜まっていた感情が、想いが、溢れ出すように。

スグミはただ、その泣く声を背中で聞くだけだった。




どうも星々です!

戦闘が無い回が続きますが、物語は徐々に動く始めてますね
特に今回キーになりそうなミストレーヌについては結構大きく判明しました
お気付きの方もいるかもしれませんが、ゲーティアーチルドレンの開発コードはソロモンの72柱に由来しています
だからどうってわけではないですが、余談として

そして星々は思った…
「ラグナロク編とか言いつつソロモンて………」



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