忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第98話 砂の兄弟

 翌朝結局一睡もしなかった俺は面を付けたまま壁を背に警戒し続けていた為結構な疲労が溜まり、すぐにでも横になりたい気持ちで一杯だった。

 あと一時間もすれば眠気に負けてしまいそうなギリギリな状態の中、宿直室にノックの音が響く。

 敵であればノックなどするはずもないと思い、鍵を開けて戸の前に立っていた人物を招き入れる。

 そこに立っていたのは髪は乱れ、隈も濃く残る見ただけで疲れていると分かるシズネであった。

 

 

「おはようございますヨミトさん……そしてお休みなさい」

「シズネちゃん!?」

 

 

 挨拶とほぼ同時に俺の方へ倒れ込んできたシズネを急ぎ抱き留め、戸惑いながらも取りあえず怪我などがないか確認して、お休みの意味が気絶や絶命ではなく睡眠である事を把握した後、結局俺が使う事の無かった寝具へと横たえる。

 泥のように眠るシズネに薄手の掛け布団を掛けると、先程戸を開けた時に外が少しだけ騒がしかったので一端状況確認のため宿直室から出た。

 邸内に少しだけ人が戻ってきており、その人達がうちはサスケの一件を聞いて騒いでいる様だ。

 耳を澄ませてみると結局件の子は仲間の制止を振り切って大蛇丸の元へと向かったらしい。

 奪還作戦に参加したメンバーも殆どのメンバーが重傷、綱手やシズネ等の医療忍者がその治療にあたり、数時間に及ぶ大手術を経て何とか全員の命を繋ぎ止めたのだとか……シズネがあれほどに疲れ果てていた理由はそれだったようだ。

 疑問が一つ解けて少しスッキリした所で後ろから声が掛かる。

 

 

「貴方がヨモツさんでよろしいでしょうか?」

「へ?……あ、あぁそうですそうです!」

「綱手様からの伝言を伝えます。 もう襲撃の恐れは無いだろうから家に戻って良いとの事です。

 では確かに伝えさせて頂きましたので、私は失礼させて頂きます」

「どうもお疲れ様です」

 

 

 そのまま暗部らしき人は音もなく姿を消した。

 ヨモツと呼ばれた時に一瞬それが自分の事だと分からなかったが、今後この姿の時はそう呼ばれるのだから早く慣れなければ何時かボロを出しかねないので気を付けなければならない。

 とりあえず書類仕事の続きをやらなくていいなら、今の俺にとって帰っていいというのは渡りに船だったので、一も二もなく帰路につく。

 木の葉有数の名家だったうちはの生き残りが里から居なくなったというのは大きな事件だが、そんな事は一般人にはさほど関係はなく、里は人が少し少ない位でいつも通り平常運転だ。

 時折その事を話題にしている人も居るが、まだ情報が少ないのか内容は憶測を元にしたものばかりである。

 別段サスケという子に興味のない俺は特に耳を傾ける事もなく、早く眠るために足早に家に向かう。

 急いで家に帰らなくても宿直室でそのまま寝ればいいのではとも考えたが、家の方がよく寝れるのは確かだし、それにシズネが寝ているから同じ部屋で寝るのは何となく気恥ずかしい。

 既に家はすぐ其処という所まで来ているから今更だしね。

 

 

 そのまま暫く歩き、遠くに俺の店の看板が見え、後五分もしない内に辿り着くであろう所まで来て、ふと店の前に三つの人影が立っている事に気付いた。

 この里では見かけないタイプの服装から俺の警戒心が一気に高まる。

 万が一の時に備え、常日頃用心の為に伏せておく習慣を付けた罠‘強制脱出装置’を何時でも発動できる状態にして、その人影がしっかりと確認できる所まで近づいていく。

 ある程度距離が縮まったところでその三人の姿が明らかになった。

 額当てにあるのは音隠れの忍を示す音符マークではなく、砂隠れの里の出であることを示す瓢簞の様な形をしたマーク。

 木の葉崩しでは大蛇丸に利用される形で木の葉を襲撃したが、大蛇丸は木の葉出身であり、尚かつ風影を殺害している事から痛み分けのような形で禍根が残らないよう上役達が話し合い、同盟国として今は雲隠れと似たような関係になっている。

 それにあれだけ堂々と立っているのだから待ち伏せという可能性は限りなく低いし、三人の内の一人に何処か見覚えがあるような気がする。

 とりあえず変化を解いたまま店に戻るのはあまり好ましくないと思い、一端路地裏に入り仮面を外すといつもの様に年寄りに変化してから彼らに声を掛けた。

 

 

「すまないね、今日は定休日なんだ。 また明日来てくれるかい?」

「いや今日は買い物目的に来たわけじゃない……アンタが無事かどうか確認しに来ただけじゃん」

「じゃん?……もしかして中忍試験の時に店に来た絡繰り好きな子かい?」

「歳の割に物覚えいいじゃん」

 

 

 そう言って俺に笑顔を向けた彼だったが、俺が後ろに立つ二人に目を向けると何かに気付いた様な反応をし、二人の背中を押す。

 真顔で一歩前に出た二人に少し表情が引きつりながらも、一先ずは自己紹介を行う……何か女の子が「何で私が……」とか呟いている気がするけど取りあえず聞かなかった事にする。

 

 

「初めまして、この店の店主やっている本瓜ヨミトと申します」

「其処の隈取りしている奴の姉のテマリだ」

「我愛羅だ」

「で名乗りが遅くなったが俺の名前はカンクロウ。

 二人は俺の兄弟じゃん。 まぁあんまり本とか読むタイプじゃないから客にはならないかもしれないが……」

「それは残念だ……あれ? でも前に額に愛という入れ墨してる子に気を付けろって「ちょっ!?」え?」

「き、記憶違いじゃないか? きっと何か別の事と間違えてるじゃん!」

 

 

 慌てた様子で手をバタバタとさせながら我愛羅と名乗った子に必死に訴えかけている姿から、もしかして兄弟仲悪いのかと思ったが我愛羅は別段怒る事もなく、むしろ申し訳なさそうに少し目尻を下げた。

 それを見てテマリは溜息を吐きながら呆れた様子でカンクロウを軽く叩く。

 

 

「いや尤もな助言だ……中忍試験までの俺であれば少し苛立っただけで危害を加えていたかもしれない。

 カンクロウも気にしなくて良い、お前に非はない」

「ハァ……お前って奴は……」

 

 

 一見凸凹トリオの様にも見えるが、その実三人が三人とも歩み寄ろうとしているのが分かる……昔の事は知らないが今は良い兄弟だろう。

 その後暫くカンクロウの言い訳は続いたけれど、最終的にとんでもなく冷めた目でテマリに見られ続けた結果、意気消沈して我愛羅に謝る事でこの場は収まった。

 そこで漸くほぼ完全に空気と化していた俺の存在を思い出したテマリが軽く頭を下げる。

 

 

「見苦しいところを見せてしまってすまない。 前にコイツが言っていた事は忘れてくれ」

「分かりました……所で皆さんは木の葉にどの位滞在する予定ですか?」

「すぐにでも出る予定だ、まだ任務が残っているからな」

「そうですか、時間があるようでしたら軽い案内でもと思いましたが、そう言う事であればあまりお引き留めするのも良くないですね。

 帰り道どうかお気を付けください」

「すまないな……今度来る時は店の本でも見せて貰うとするよ。

 ほらカンクロウ、いつまで落ち込んでるんだ! 帰るぞ!」

 

 

 俺はそのまま三人が見えなくなるまで見送ると、欠伸(あくび)を一つ。

 想定外の再会はあったが、それで眠気が飛ぶわけでもなく、家に入った俺は着替えもせずにベッドに倒れ込むと、そのまま眠りに堕ちた。

 


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