忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第95話 転機

 最近色々と忙しく、一緒に飲みに行く機会が無かったイルカが久しぶりに店へとやってきた。

 少し疲労している様に見えるが、それ以外は特に変わったところもなく少し安心する。

 

 

「お久しぶりです、お元気そうですね」

「そう言う君は少し疲れている様だけど、何かあったのかい?」

「アカデミーの生徒達の元気が有り余っていまして……それに今日あの御方が帰ってくるという噂を 何処からか聞きつけて、武勇伝やら伝説やらを強請られ続けましたから」

「あ~……そういえば今日だったね、ってことはナルト君も?」

「そうみたいです」

 

 

 そう言ったイルカの表情は嬉しそうで、先程まで見て取れた疲労も何処かに行ってしまったように見える。

 彼にとってナルトは元生徒というだけの存在ではない。

 過去においてイルカは両親の敵である九尾を内に封印されたナルトに対して良い感情を持っていなかった。

 しかしナルトが九尾というワケではないと割り切ってからは、よく目をかけるようになり、ナルトもイルカの事を信頼するようになっていった……その結果悪戯の回数も増える事になって何とも微妙な表情を浮かべていたが。

 今のイルカはナルトを手の掛かる弟の様に思っているから、あの子が帰ってくる事が楽しみなのだろう。

 

 

「話に聞いた限り自来也様と共に五代目火影として推薦されている綱手様を迎えに行ったという話でしたから、きっとナルトは得難い経験を積んで帰ってくるはず。

 ナルトが目指す火影への道程に少なからぬ影響を与えるでしょう」

「自来也様に修行をつけてもらっていたみたいだから、忍としての能力も上がっているんじゃないかな?」

「ますます楽しみになってきましたよ」

 

 

 握り拳を作り、笑顔で俺にそう言うイルカに同意をすると、突然店の扉が勢いよく開けられ、店内に誰かが入ってきた。

 その人物は今し方話題に上がっていた人物……

 

 

「只今うずまきナルト、木の葉に帰還だってばよ!!」

「おかえり、丁度今ナルト君の事を話していたところだよ」

「あ~!! イルカ先生もいるじゃん!」

「元気そうで何よりだナルト、自来也様は一緒じゃないのか?」

「エロ仙人なら綱手の婆ちゃんを連れて、どっかに行っちまった」

 

 

 少しふて腐れてそう言ったナルトだったが、直ぐに笑顔に戻って俺達に旅でどんな事が起こったか話し始める。

 自来也に超高等忍術螺旋丸を伝授して貰った事、綱手が指一本で地面を割った事、綱手を狙う大蛇丸と戦った事、その際に大蛇丸の部下カブトを螺旋丸で倒した事……そして綱手から一つのネックレスをもらった事。

 

 

「コレがその時婆ちゃんに貰った首飾りだってばよ!」

「それは……そうか、綱手がそれをナルト君に……ナルト君、それ大事にするんだよ?

 綱手がそれを君に託したという事は君に可能性を感じたのだろう。

 あの子にとってその首飾りを人に渡す事は、かなり決意が要る事だっただろうから」

「……なんかよく分かんないけど分かったってばよ」

 

 

 ナルトが綱手から譲り受けた首飾りは今は亡きダンと縄樹がしていた物だ。

 綱手にとって千手一族の家宝であり、それと同時に自分以外の身につけた二人が亡くなった曰く付きの首飾り。

 もう二度と誰かに渡す事はないと昔言っていた代物である。

 それを渡したという事は、ナルトならばそのジンクスを跳ね返す程の力を持ち合わせていると思ったのだろう……腕力や精神力ではなく、運命を切り開く力を持っているのだと。

 俺は縄樹とダンに心の中でこの子の事を守ってやってくれと頼み込む。

 ナルトとイルカは俺が真剣な表情で首飾りを見ていることを訝しんだが、イルカが気を取り直して一つの提案をした事で空気が変わった。

 

 

「久しぶりに一楽でも喰いに行くか?」

「やった! それってばイルカ先生の奢り?」

「まぁ色々と活躍したみたいだからな……何でも頼め、今日は幾らでも奢ってやるさ」

「おぉ!! イルカ先生太っ腹だってばよ!」

「ヨミトさんも一緒にどうですか?」

「折角だからお呼ばれしよ「すいませんヨミトさんいますか?」……シズネちゃんかい?」

 

 

 彼らに誘われるまま一楽へ行こうとした矢先に懐かしい顔が店にやってきた。

 シズネと直接会うのは久しぶりで、また一段と大人っぽくなった彼女に年月を感じつつも、一先ず店先で話し込むのもどうかと思い、取りあえず店内へと案内する。

 

 

「シズネの姉ちゃん? おっちゃんに何か用なのか?」

「そうなりますね……久しぶりに会って私としてもヨミトさんと色々話したい事がありますが、一先ず用件を先にお伝えいたします。

 ヨミトさん、綱手様がお呼びですので今から火影邸の方へ向かってください」

「今からか……ナルト君、俺は一緒に一楽へ行けそうにないな、誘って貰って悪いけれど二人で満喫してきてくれるかい?

 一楽の店主もナルト君が顔を出せば喜ぶだろうし」

「う~ん……分かったってばよ、でも早く終わったらおっちゃんも一楽に来るんだろ?」

「それは難しいかも知れませんね、少し長引きそうな話ですから」

「そっかぁ、じゃあ今度来る時は一緒に一楽行こうな!」

 

 

 シズネと面識のないイルカは少し戸惑いつつも、俺と彼女に一礼するとナルトと一楽へ向かい始めた。

 その腕白な弟に引っ張られる兄のような後ろ姿を少し眺めていると、シズネが俺の肩を軽く叩き、綱手の元へ向かう様に催促してくる。

 俺はそれに店の戸に鍵を掛けて、看板を閉店に変える事で答え、彼女に連れられてそのまま火影邸へ辿り着いた。

 十年ぶり位に訪れる火影の執務室、別段大きく変わったところもなく、特に周囲を見回してもめぼしい物はない。

 シズネが「此処です」と立ち止まり戸をノックする。

 

 

「シズネです、ヨミトさんをお連れしました」

「うむ、入れ」

 

 

 眼前の扉が開くと正面に綱手が座っており、彼女の手には判のような物が握られ、書類を右から左に流しながら判を押していた。

 シズネは扉を閉めて直ぐに綱手の斜め後ろに立ち、足下に居たトントンを抱きかかえながら此方を見ている。

 俺は話しかけるタイミングを逃し、それから暫く綱手の仕事っぷりを見る事に。

 そして十分程が経過して、漸く机に乗っている書類が大凡無くなると思い出したかのように綱手が此方に顔を向けた。

 

 

「久しぶりだなヨミト」

「久しぶり綱手……いや五代目火影様って呼んだ方が良いかな?」

「いつも通りでかまわんさ、今此処には私とシズネしか居ないしな」

 

 

 見回したところ確かに他に人影はないし、特に隠れている気配もない。

 恐らく本当に此処には現在俺とシズネと綱手の三人しかいないのだろう(ただしトントンは除く)。

 だが態々人払いして俺に話したい事が想像できず、このまま時間を無駄にするのもなんだと思い、直接聞いてみる事にした。

 

 

「今日は一体何の用で俺を呼び出したんだい?」

「少し頼み事があってな……ヨミト、私をシズネと共に支えてくれないか?」

「え? それは一体どういう意味で……というか突然すぎないかい?」

「私は火影になったが仕事が多すぎて全てには手が回らない、そこでお前の手が借りたい」

「でもそれなら俺よりももっと能力的に優れた人は沢山いるはずだけど……そもそも俺は忍じゃないし」

「確かにヨミトの言う事も一理ある……しかし大事なのは能力だけじゃない。

 信頼できる相手かどうかが重要だ。 引き受けてくれないか?」

 

 

 そう綱手に頼まれた俺の答えは……………

 


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