忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第93話 少女の決意

「最近綱手様が私を呼び出す回数が少なくなった気がするのですが、どう思いますヨミトさん」

「それだけ平和という事で良いじゃないか、きっと何処かで賭博に熱中しているのだと思うよ」

「それもそうですね」

 

 

 偶に開く一人と一匹のお茶会、その話題は基本的に俺の訓練内容か綱手とシズネについてだ。

 ただ最近だと一番多い話題は襲撃者が来た場合の対処法についてだったりするのだが、肝心の襲撃者が一向に現れる気配が無いので、話題には上がるがその時間は徐々に短くなってきている。

 今日も気付けば話が綱手の近況に移っている事からそれは明らかだ……この中だるみの所を襲撃されたらと考えると少し背筋が寒くなるが、ずっと気を張っていると襲われるよりも先に参ってしまいそうなので適度に気を抜くのは必要な事なのだ。

 だから俺はカウンターの上で茶菓子を食べるカツユを愛でながら、茶飲み話に興じている……これは暇だからとかでは決してないのだ。

 少し元気を取り戻したカツユにお菓子のお代わりを貢ぎながら、精神的安息を充実させていると突然店の戸がスパンと勢いよく開けられた。

 

 

「今度の休日……っていうか明日、久しぶりに訓練付き合って欲しいんだけど予定開いてる?」

 

 

 久しぶりに店にやって来たアンコの第一声がそれだった。

 入院していた頃は何時も暇だとか愚痴っていたけど、元気を取り戻した途端これか……治りかけが一番危ないっていうのをこの子は知らないのだろうか?

 

 

「空いてはいるけど、そもそもまだ安静にしておいた方がいいんじゃないかい?」

「もう大丈夫よ! チャクラを練っても問題無い位なんだからリハビリがてらの訓練だってしてもいいでしょ!」

「ゴウマさんは許可してくれているのかな?」

「……一応ね、無理をしないようにかなり念を押されたし、ヨミトか医療忍者が見ている事が前提だったけど」

「何故其処までして訓練を?」

「カツユ様!? ちょっとヨミト、カツユ様が居たんだったら早く教えてよ!」

「いや目の前に居ただろうに……どれだけ視野が狭くなっていたんだ君は」

 

 

 アンコも今まで何度かカツユと会った事があるのだが、その度畏まった物言いになったり、背筋を正したりする。

 一度その理由を尋ねた時に帰ってきた答えは「だってマンダとタメ張れるのよ?」とのこと。

 確かにそう考えれば危険極まりない生物のように感じるが、カツユは気性が穏やかだから大丈夫だと説明したのだが、マンダの事を引き合いに出してきて一歩も引こうとしなかった……これでも少しは改善されたというのだから、彼女がマンダにどんな事をされたのか少し気になるが、聞くと凄い顔で睨まれるから未だ真相は謎のまま。

 アンコは少し動揺していたので一度深呼吸を挟んでからカツユの問いに答えた。

 

 

「えっとですね、もしかするとヨミトから聞いているかも知れませんけど、私の入院していた理由って大蛇丸に返り討ちにされたからなんです……ですから今度はそうならないように、もっと強くならないといけないと思いまして」

「そうだったのですか……ですが無理はいけません。 ましてや以前聞いた訓練内容から考えるに実戦形式なのですよね。

 少なくとも病み上がりにするものとしては不適切です」

「カツユの言うとおりだよ? リハビリがてらにやる訓練なら衰えた筋力や体力を取り戻すところから始めないと、また動けなくなっても困るだろう?」

「大丈夫だって! 何も私だっていつも通りの訓練をしようって言っているわけじゃないからさ」

「いつもとは違う訓練? 俺が言ったような文字通りのリハビリに近いものって事かい?」

「惜しいけど違うんだなぁこれが、それはぁ……「お邪魔します」もう! 良いところで誰よ!?」

「ご、ごめんなさい……」

「お客さんに怒鳴らないでくれよ、これ以上お客さんが減ったらホントに困るんだから。

 すみませんねお客さん、それで本日の御用は……ってヒナタちゃんじゃないか。

 久しぶりだね、怪我の方は大丈夫なのかい?」

「え、あの……はい」

 

 

 そう返事はしたものの店に来た彼女の身体の所々には未だに包帯が巻かれており、完治したとは言い切れない格好だ。

 どうしてこうじっくり身体を休めるという事を知らない子ばかりなのだろうか?

 取りあえずはヒナタが何をしに店に来たのか聞こうと思った矢先、アンコが「あぁ!」っと彼女を指差しながら大きな声を上げた。

 

 

「アンタ中忍試験受けてた日向宗家の子でしょ!!」

「はい、お久しぶりです、みたらしアンコ特別上忍」

「そんな長ったらしく敬称付けて呼ばれると寒気がするから止めてくんない? 普通にアンコさんとかで良いから。

 でアンタは此処に何しに来たの?」

「私は……な、ナルト君が今どこに居るのかなって……」

「ナルトって言うと、ヨミトが保護者してるっていう九尾の子か……中忍試験の時に軽くちょっかい掛けたら面白い反応してたわねあの子。

 私ああいう跳ねっ返りを躾けるの好きなのよね……あ、そう言えばあの子に訓練付ける時は呼んでって言ったのに何時になったら呼んでくれるのよ!」

「いや、そもそもアンコちゃんはつい最近まで入院してたじゃないか……それにあの子は今正式な師匠がいるから今後俺と訓練する事は殆ど無くなると思うよ?」

「あんな手の掛かりそうな子を弟子にするなんて中々の物好きね。 一体誰なの?」

「自来也様だよ、因みにヒナタちゃんが聞こうとしたナルト君の居場所はあの方と一緒に里の外に出かけたこと位しか俺は知らないかな」

 

 

 綱手を探しに行ったと言っても良いんだけど、別に目的に関して話す必要も感じなかったので、何処に行ったのか詳しくは知らないという事だけを伝える事にした。

 だがそんな短い回答にも関わらず二人にとっては想定外の情報が含まれていたらしく、目に見えて驚いているのが分かる。

 

 

「え、聞き間違いよね? 今自来也様って聞こえたんだけど……」

「ナルト君凄い……でも今里に居ないんだ……」

「別に聞き間違えじゃないさ、中忍試験の最終試験の時にはもう軽く師事していたみたいだよ?」

「あの子は幸運なんだか不幸なんだか分かんないわね、でもまぁそういう事ならさっきの話は諦めるけど、休日の件は諦めないわよ?」

「いや結局どんな訓練するのか聞いてないから答えようが無いのだけど……」

「そういえばそうだったわね、もう簡単に言っちゃえばチャクラでの強化抜きの体術だけを鍛える事を目標としたものね」

「あぁそれならアンコちゃんのアレも疼かないか……考えたね」

「という事はOKで良いのね? それじゃあ次の休日に第28演習場貸し切っておくから昼前集合という事で」

「あ、あの!!」

 

 

 約束を取り付けて用事が済んだアンコは俺と半分空気と化して茶菓子を摘んでいたカツユへ手を振って店を出ようとしたのだが、それを呼び止める形でヒナタが口を挟んだ。

 またも出鼻を挫かれる羽目になったアンコは微妙に不機嫌になり、面倒臭そうに振り返る。

 

 

「何? 私はもう家に帰って団子でも食べたいんだけど」

「わた、私もその……訓練に参加させてください!」

「は? いや日向なんだから私たちの訓練に参加するよりも家で修行した方が上達するんじゃないの?」

「もちろん家でも訓練はします。 でもそれだけじゃ足りない……私はもっと強くなりたいんです!  そのために出来る事を出来る限りしておきたいんです! お願いします!」

 

 

 そう言って深く頭を下げる彼女を見て、アンコは何か感じるものがあったのか不機嫌そうな顔から一転、真剣な顔で彼女に覚悟を問う。

 

 

「純粋な体術の訓練……それも特別上忍である私の個人的な訓練に参加するという事がどういう事か分かっているの?」

「はい、覚悟はあります」

「今までどんな訓練をしていたのかは知らないけれど、少なくとも下忍には荷が重いものになるのは確実……それでも参加する?」

「はい!」

「そう……なら次の休日にアンタも来なさい。 ヨミトもそれで良いわね?」

「気が進まないのだけれども……どうせ断っても家に押しかけてくるんだろう?」

「分かってるじゃない……迷惑掛けてるのは分かってるけど、私も切羽詰まってて形振り構っていられないから。

 落ち着いたらご飯でも奢るからそれまでは付き合って」

「まぁゴウマさんから頼まれているのもあるから別にいいさ、ただ俺も俺で切羽詰まっているからそんなに長い間は付き合えないよ?」

「それで十分よ……ありがとうヨミト」

 

 

 今度こそアンコが店を去ると、ヒナタも一礼して店を後にした。

 残ったのは溜息を吐く俺と何個目か分からない茶菓子を食べるカツユだけ。

 俺は顎をカウンターにくっつけ完全に脱力しながら、放置気味だったカツユに話しかける。

 

 

「饅頭美味しい?」

「美味しいですが、気まずかったです」

「上手い事言うね……今日の夕食は気合い入れて作るからそれで許してくれないかい?」

「……デザートも付けてくれますか?」

「勿論とっておきを出すよ」

「それは楽しみです」

 

 

 あぁ和む、もう俺蛞蝓になりたい……蛞蝓になってカツユとのんびり暮らしたい。

 蝦蟇の里があるのは風の噂で聞いたけど、蛞蝓の里とかもあるんだろうか?

 色々と片づいたらカツユに連れていってくれないか頼んでみよう……。

 


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