忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第92話 猫来訪

 復興に終わりが見え始めた頃、他里から三人の客がやって来た。

 一人は前に手紙をもらった相手でもある雲隠れの里の二位ユギト、もう一人は俺が雲隠れの里に行った時に入里管理的なことをしていた男性、最後の一人は見たことの無いパッと見たところクールビューティーっぽい女性……てっきり一人で来ると思っていたのだけど、任務の帰りか何かに寄ったのだろうか?

 よく見ると彼女の服もところどころ解れている様に見えるし、他の二人も少し服に汚れが目立つ。

 まぁそれを知ったところでどうなるわけでもないので、気を取り直しての接客を行う。

 

 

「いらっしゃい二位さんとお連れの方々、遠路遙々よく来てくださいましたね」

「別の意味に聞こえるから二位さんは止めろ……ユギトで良い。

 本瓜も約束どおり元気にしていた様で何よりだよ」

「お蔭様で、っと先ずは手紙に書いてあった……これだこれだ、よいしょっと」

 

 

 後ろの棚に載せていた五十冊の本が入った木箱をカウンターの上に下ろす。

 ユギトは木箱の留め金をクナイで器用に外すと、中に入っていた子供向けの本の検分を開始する。

 ちなみに他の二人はその間店の中で適当に本を見て回っているらしい。

 会った事の無い女性は生活関係の本棚へ、もう一人は俺のことを覚えていたのか一言「ども」っと言って忍者関係の本棚へと向かった。

 見ているとユギトは割りと本を読むスピードが早い様だが、子供向けとはいえ流石に五十冊の検分ともなれば結構な時間が掛かりそうだ。

 唯こうしているのもなんだと思い、茶でも用意しようか立ち上がろうとすると突然目の前に影が差す。

 顔を上げると一冊の本を持った女性が眼前に立っていた。

 

 

「これは幾らかしら? それと木の葉に良い湿布を売っている所を知っているのなら教えてくださいませんか?」

「その本は20両ですね、湿布でしたらこの店を出て右に暫く行くと良いお店がありますけど……肩こり酷いのですか?」

「生活に支障がある程ではありませんが……多少」

 

 

 何故俺がこの人が肩こり持ちだと分かったかというと、単純にこの人が持ってきた本が‘一人でも出来る肩こり解消法’という名前だったからだ。

 まぁ肩こりの原因は一目見れば何となく分かるのだが……やっぱり巨乳って肩こるものなんだな。

 そんなことを考えていると何処からか視線を感じ、振り向いてみるとダルそうな彼が此方を見ており、俺と眼が合うと一度だけゆっくりと頷き、再び本棚に向き直った。

 どうやら彼も彼女の肩こりの原因の一つがあの豊満な胸にあると思っているのだろう。

 綱手も前に肩こりがどうとか言っていたし、シズネがそれを聞いて羨ましそうに胸を見ていた事もあったっけ。

 

 

「俺の知り合いも肩こり持ちだったけれど、あの店の湿布をつけると大分楽になったと聞きましたから、きっと少しは良くなると思います」

「そうですか……それでは後で寄ってみることにします。

 お代の方はこれで良いですか?」

「はい、丁度20両確かに受け取りました……商品をお包みしますか?」

「いえ、帰り道で読みながら戻ろうと思いますのでこのままで結構です。

 ユギトはまだ掛かりそうですか?」

「あと少しって所だね、何だったら先にさっき本瓜が言っていた薬屋だったかに行っていてもいいよ。

 私も終わり次第行くからさ」

「そうですか? ではお言葉に甘えて……ダルイ、貴方はどうしますか?」

 

 

 突然話しかけられた彼は別段慌てることもなく本棚から離れ、此方へ歩いてくる。

 その手に本を一冊も持っていない所を見るに、彼のお眼鏡に掛かるものはなかったようだ。

 

 

「俺はサムイさんと行きますよ。 ユギトさんと店主知り合いらしいですし、滅多に会えないなら話す事もあるでしょうしね」

「そう……じゃあユギト、私たちは先に店を出るわ。

 それでは店主、また縁があれば会いましょう」

「お買い上げありがとうございました~」

 

 

 二人が出て行った後もユギトは黙々と本の検分を続けている。

 残る本は残り一割程度しかなく、じきにその作業は終わるだろう。

 俺は今度こそお茶を出すために台所へ行き、用意を終えて戻ってくると丁度彼女が最後の一冊を見終える所だった。

 見終えた本を箱へと戻した彼女に俺は「お疲れ様」と一言言って湯飲みを渡す。

 

 

「どうだった? 気に入らないのがあれば別の本を見繕うけど……」

「少し絵本の比重が多い気がするけど、問題という程じゃないからこのままで良いよ。

 突然だった割によく揃えてくれたわね、また本が入用になったらまた頼むわ」

「いやぁ手紙を受け取った時は驚いたよ。

 それに近い内っていうのが何時か分からなかったから急いで用意したのはいいものの、子供向けの本って言われて思い浮かぶのは絵本ぐらいしかなかったから最初は絵本だけだったのだけれど、よく考えてみれば動物図鑑等の中にも子供向けの物があったと思い出してね……これでも絵本の量は減らした方なんだよ?」

「こっちも明確な日程が決まっていなかったから明言できなかったんだよ……でも気揉みさせて悪かったね。 お代は幾ら?」

「図鑑がちょっと値が張るけど、800両で良いよ。

 ところで木の葉にはどの位滞在する予定なんだい?」

「妥当なところか……お代はこれで、送り先は雲隠れ孤児院でお願い。

 一泊と言いたいところだけどサムイの用事が終わり次第雲隠れに戻るよ。

 任務の報告もあるし、子供達の事をあんまり放っておくのもね」

「はい、確かに……じゃああまり引き留めるのも良くないか。

 あ、そうだ! 少し待っていてくれるかい?」

 

 

 俺は急ぎ台所へと向かい、棚の中から30cm程の袋を引っ張り出して来ると、それを彼女へと手渡した。

 本当はカツユとお茶する時の茶請けにする予定だった物だけど、ユギトは滅多に会える相手じゃないし、今回は彼女を優先する……それにお茶請けはまだ幾つかあるしね。

 

 

「これは?」

「帰りの道中お仲間さんと摘むといい、確か牛乳好きだっただろう?」

 

 

 渡した袋の中身は沢山のミルクキャンディ。

 彼女は袋口を少し開けて香った甘いミルクの香りで中身が分かったらしく、切れ長の目を嬉しそうに曲げて、飴玉が零れないように固く袋を閉じた。

 

 

「有り難く貰っておくよ……それじゃそろそろ行くけど、もし今度雲隠れに来る事があったら孤児院にも寄りなよ?

 子供達と一緒に歓迎してあげるから」

「それは楽しみだね、その時は宜しく頼むよ」

 

 

 俺がそう言うと彼女は満足げに頷いてから店を出ていく。

 彼女が店を出てから直ぐに本を詰めた箱を再び密封し、宛先を書いた紙を箱に貼り付けて運び屋の元へとそれを持って行った。

 雲隠れに行く時の楽しみが一つ増えたな……何時になるか分からないけど忘れないようにしよう。

 


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