忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第87話 不安の芽

 突然やって来た男が仲間の一人を倒した事で男達は先程までの余裕は鳴りを潜め、暗部の彼の微かな動きも見逃すまいと此方の様子を窺っている。

 暗部の人は仮面を被っているので、その表情は読めないが少なくとも緊張してはいない様だ。

 その余裕に男達は若干気圧され、一筋の冷や汗が額から垂れる。

 

 

「おいおい……護衛がいるなんて聞いていないぞ」

「っていうかあの馬鹿吹っ飛んだんだけど」

「そんなの油断したアイツが悪いだろ……そんなことよりあの仮面の男だ。

 たぶん奴は木の葉の暗部だぞ」

「暗部が相手となると、少し分が悪いな」

「だが退いたところで大蛇丸様に実験材料にされるだけだぞ?」

「そんなことは分かってる。 俺達に取れる道はどうせ一つしかないんだ。

 なら勝てる可能性が低かろうが、やるしかねぇだろ!

 俺が暗部の奴を抑えるから、その間に目標を確保しろ!」

「チッ……ちゃんと抑えてろよ!」

 

 

 土遁使いが印を組むと暗部の彼と俺の間の土が隆起し、そのまま土遁使いと彼を包み込む様にドーム状に広がった

 暗部の彼も囲まれる前に脱出しようとしていたが、水遁使いの忍具による牽制で出る機会を失い、ドームが完成した上に表面が岩で覆われて簡単には脱出できないコロシアムが完成してしまう。

 そうして想定外に二分されてしまったが、ある意味これは僥倖と言っていい状況かもしれない。

 今此処に居るのは俺と水遁使いだけ……この状況ならば少しばかり無茶をしても人の目に映ることはないのだから。

 

 

「さて時間もないことだ……様子見なんかしないで全力でいくぜ?

 殺す気はないが、死ぬ一歩手前位にはなってもらうから覚悟しな」

「そうですか、俺は貴方を殺すつもりでいきます……これ以上俺の情報が漏れる事は防ぎたいので」

「ぬかせよ偽爺が! 水遁・大砲弾の術ぅ!」

「人間相手に使うのは初めてだよ……火遁(魔法)‘ファイヤー・ボール’」

 

 

 素早く印を組んだ相手が放つ巨大な水球と、印を組んだ振りをした俺が放つ四つの火球が衝突する。

 魔法‘ファイヤー・ボール’は本来相手のLP(ライフポイント)に500のダメージを与えるという効果を持つバーン魔法……単純な効果故に使い勝手が良いものだ。

 大凡2mはあるであろう水球に1mの火球が四発連続で衝突させることで徐々にその大きさと勢いが無くなっていき、四発目が当たると同時に相殺する事が出来た。

 

 

「アンタ火遁を使えたのか……だが相性が悪かったな。

 アンタは火、俺は水だ。

 それに今の相殺は俺の習熟度が其程高くない術だったから起こり得たものだぜ?

 そもそも俺は遠距離戦より中近距離戦の方が得意なんでな……水遁・水龍鞭」

「水の鞭ですか……それは当たると痛そうですね。

 出来る事なら先程の(魔法)でどうにかしたかったのですが、しょうがありません」

 

 

 水で出来た鞭がまるで生きているかの様に彼の手の先で動き回っていて、攻撃の入りが初見では予測できそうにない。

 相手との距離は大体15m、此処は既に相手の間合いと見て良いだろう。

 再び戦端が開かれたのは突然だった……15mという距離など感じさせない速さで俺目掛けて伸ばされる水の鞭。

 一瞬チャクラ糸で対抗しようかとも思ったが、もし強度で水の鞭に負けていた場合隙が出来てしまうのでそれが俺に届く前に出来る限り使いたくなかったものを使用する。

 

 

結界術()発動‘六芒星の呪縛’……これで貴方は動けない」

「クソッ!! 結界術か!?」

 

 

 突然現れた六芒星に捕らわれ、身動きが取れなくなった彼は必死にその魔法陣から逃れようとするが、かろうじて動かせるのは首から上と指先だけ。

 水の鞭も魔法陣に分断され、俺へと伸ばされていたものは地面の染みと消えた。

 この‘六芒星の呪縛’というものは九尾を縛った‘デモンズ・チェーン’に近い効果を持つが、拘束力においては前者の方が劣っている。

 ただし対象を拘束する速度においてはその限りでなく、対人戦においては此方の方が使い易いのだ……目に見えて六芒星が描かれた魔法陣が現れるために人前ではあまり使いたくなかったのだが、あまりのんびりしていると暗部の人に合流されてしまうので使用に踏み切った。

 

 

「では時間もないことですし……お別れの時間です」

「くっ……例え俺達を退けたところでアンタが狙われ続けることには変わりない。

 大蛇丸様はアンタの体質に強く興味を持っておられるからな!

 これからアンタに気の休まる日は来ないと思え!!」

「ご忠告は感謝しますがそれは後で考えます、ではさようなら……口寄せ(魔法)‘死者への手向け’」

 

 

 眼前に久しぶりに現れる俺がレムと名付けたミイラ男。

 今回の獲物が人間である事を知り、平時よりも心持ち動きが機敏になった様に見える。

 元々其程距離がなかったこともあり、すぐに水遁使いの元に辿り着き口の辺りの包帯を少しずらして息を吹きかけると、相手はアッサリと覚めない眠りへと就いた。

 男の死と同時に魔法陣は割れる様に消え、これで一先ず安心と俺は息を吐いた。

 その間にレムはその男の頭部を掴み、そのまま腕を引くと白い人型の煙の様な物が身体から引き出される。

 俺がその魂の様な物を何に使うのかと尋ねると、ジェスチャーで持って帰ってミイラにすると伝えられたので、若干嬉しそうな彼に苦笑いで「う、上手くできると良いね」とよく分からない事を言って、知らない何処かへ帰る彼を見送った。

 その後この場に残ったのは湿った地面と傷のない死体が一体……このままではどうやって倒したか聞かれるだろうから、俺は男の死体に幾つかの切り傷を付けて戦いの痕を偽装し、最後に頭に深くクナイを突き刺してトドメがコレであると言い訳出来る状況を作る。

 頭にクナイを刺した時の感触と流れ出る血の臭いで少し吐き気を催したが、此処で躊躇うことは良い結果を生まないと割り切って隠蔽工作を続けた。

 地面を少し削ったり、俺の服にも傷や土を付けたりと小細工を行い、それらが全て終わると同時に暗部が閉じ込められていたドームが崩れ始める。

 中には傷一つ無い暗部と血塗れで地面に倒れている土遁使いの姿。

 暗部の人はすぐに俺を見つけると、軽く周囲を見回して戦場を確認し納得した様に頷く。

 

 

「どうやら其方は既に終わっていた様ですね……加勢に入れなくて申し訳ない。

 此方も相手の守りが想像以上に硬く思いの外手間取ってしまいました」

「いえ此方も大きな怪我とかは無いのであまり気にしないでください……ところでこれからどうなさるのですか?

 俺としては店の方が心配なので一度戻りたいのですが」

「そうですか……分かりました。 僕は今倒した三人を施設に運んできますが、流石に一人で帰すわけにもいきませんから影分身を護衛に付けます。

 里の方でも何か起こっているようなので、お気を付けて」

「貴方も」

 

 

 そう言い残すと彼は影分身体を一体残して、その場から消えた。

 影分身体の彼も一度俺に軽く頭を下げると何処かへ行ってしまったが、おそらく俺の姿が見える位置で潜んでいるのだろう。

 暗部の彼がそのままの状態で護衛を続ければ目立ってしまうからの行動だとは思うのだが、やはり姿が見えないと少しだけ不安な気持ちになる……もしかしたらまた襲われるかも知れないと、俺は微妙にそわそわしながら店へと向かった

 


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