忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第85話 相談

 あの後前後不覚になる程動揺した俺は言葉少なにアンコの病室を後にすると、三代目に話を聞くために執務室へと急いだ。

 流石にアポ無しなので警備の人間に止められるかとも思ったが、予想に反して誰にも止められることなく目的の場所へと辿り着く。

 ノックもせずに扉を開けると、そこには書類と睨み合っている三代目がいつも通りそこにいた。

 俺が室内に入ると書類を机に置き、ゆっくりと彼は顔を上げる。

 

 

「その様子じゃとアンコに話を聞いたようじゃな……まずは落ち着け」

「三代目……まさか貴方が漏らしたのですか?」

 

 

 三代目の言葉など耳に入っていない様に、俺は言葉を投げかける。

 主語が抜けているが、何処に耳があるか分からない状況で一から話す事なんて出来るはずがない。

 それに俺が此処に来た理由が分かっているであろう彼にはこの言葉だけで十分通じた。

 三代目は僅かに眉を顰めたが、首を横に振り「儂は誰にも話とりゃせん」と否定の言葉を紡ぐ。

 

 

「あの事を知っておるのは儂以外に誰が居るんじゃ?」

「三代目を除けば二人……日向宗家の嫡子とカツユだけですよ。

 カツユが話したという可能性は皆無、もう一人の子の方も影分身を向かわせて話を聞いてきましたが、他人は疎か家族にも話さずにいると明言してくれました。

 だから三代目が里のために交渉条件として俺の事を話したのではと考えて来たのですが……貴方が話したのでもないとなると一体どうやって彼は俺の体質を知り得たのでしょうか?

 いやそれよりもこれからどうすれば……」

 

 

 頭が混乱し、感情が抑えきれない。

 俺は頭を乱暴に掻き毟り、苛立ちを隠さずに困惑を吐露する。

 そんな俺を余所に三代目は書類の束の中から一枚の紙を引き抜き、判を押す。

 

 

「……何故お主の事が彼奴に知られたか、その正確な理由は彼奴から聞かぬ限り分からぬだろう。

 然れど彼奴ならばお主の髪一本から、その特殊な体質の片鱗を知る事位は出来るかも知れん。

 儂も教授(プロフェッサー)などと呼ばれておるが、術や人体に関する解明技術においては彼奴に一歩も二歩も劣っておる。

 おそらくお主に興味を抱いた時点で何かしら特異な能力でも持っていないかと考え、それを調べるために人でも送ったのだろう」

「髪一本で……そんなものから調べられるのなら秘匿しようがないじゃないですか!」

「忍とはそういうものじゃ。 微かな情報から技術を用いて知り得たい情報を探し出すのも忍の手腕……戦闘能力だけでなく、そういった面でも彼奴は優秀な忍じゃったからのぅ。

 そんなことよりもこれからどうするかが問題じゃろう?」

「何か案があるんですか?!」

 

 

 藁にも縋る想いで、三代目の方へ一歩踏み出す。

 形振り構わなければ大蛇丸だろうが誰であろうが仕留めることは出来なく無いだろうが、周囲への影響を考えるとそう簡単に取れる手ではないし、出来る事ならまだこの里で暮らしたい。

 故に三代目の出す案に期待をせずにはいられなかった。

 

 

「儂としても易々とお主を彼奴に渡す気などない……じゃからお主に暗部の中の腕利きを一人つけ、身辺警護をするよう言っておく。

 流石に彼奴が直接来れば防ぐのは難しいじゃろうが、拘束や防衛に向いとる奴じゃからきっとお主を守りきれるじゃろうて」

「それは心強いですね……ありがとうございます。

 それと先程は疑ってしまい申し訳ありません」

「気にしとらんさ、お主にはナルトの世話をしっかりしてもらっておるからのぅ、この位の気遣いはさせてくれ……それにお主が彼奴の手に渡ると、とんでもないことになりそうじゃからな」

 

 

 そう言った三代目の表情は苦虫を噛み潰した様な顔……それはそうか。

 もし俺の身体を研究して若返りでも出来るようになれば、卓越した知識や経験を持った状態で全盛期の身体に戻すことが出来るようになる。

 そんなことになれば厄介どころの話じゃないだろう。

 

 

「ともかく暗部の者には話を通しておくから、今日の所は帰るといい。

 因みに言っておくが暗部の者は何事も無ければお主の前に姿を現すこともなく、出来る限り家の中でのプライベートな時間を覗いたりもせんよう言っておく。

 もし其奴に緊急の用があれば、単純に助けを求めれば手を貸してくれるはずじゃ」

「分かりました、もしもの時はそうすることにします。 では失礼しました……火影様もお気を付けて」

 

 

 深く一礼して執務室を出る俺。

 帰り道を歩きながら、もしもの時のことを考える。

 事が起こるであろうタイミングは、おそらく木の葉崩しに合わせてだろう。

 俺が思いつく襲撃のケースは三通り……大蛇丸本人が来る場合と、ある程度の手練れが来る場合と、数で攻めてくる場合だ。

 まず大蛇丸が来る場合……これだった場合は形振り構っていられない。

 正真正銘全力を尽くして奴を消す。

 その結果此処には居られなくなるかも知れないが、実験動物になる位ならその選択肢を取らざる得ない。

 

 

 次に手練れが来た場合、これは暗部の人にある程度任せる形になるだろう。

 もし暗部の人が劣勢ならば俺も参戦して対応……暗部の人がいるために魔法や罠は出来る限り使用しないで戦う形になる。

 ここら辺は暗部の人の腕次第だから臨機応変に動かなければならない。

 

 

 そして最後の数で攻めてきた場合……これの場合おそらく暗部の人一人じゃ俺をカバーしきれないだろう。

 おそらく魔法や罠を駆使して敵を殲滅する他に助かる方法はない。

 ただし暗部の人の目を気にしなければいけないので印を結ぶ振りをしなければいけないし、極端に異端なものは使用できない。

 この場合が一番気を遣うパターンになるだろう。

 

 

「どのパターンになるにしても厄介としか言い様がないな」

 

 

 苦心の篭もった呟きは雑踏の中に消えたが、この感情は消えようがない。

 俺の平穏をぶっ壊そうとする大蛇丸への憤り。

 もしも奴が俺に手を出してきたのなら、俺は奴に敵対する人物に影ながら肩入れし、奴の行動を邪魔してやる。

 その結果として奴が死のうが捕まろうが知ったことではない。

 とある国の法の「目には目を、歯には歯を」の精神で、してきたことに相応した妨害をしてやる。

 

 

「だがその前に奴の情報を出来る限り集めておいた方が良いな。

 家に戻ったらカツユに話を聞いてみるか」

 

 

 カツユならばある意味三代目よりも三忍については詳しいだろうし、何なら綱手に繋いでもらって綱手から話を聞くことも出来るからな。

 ―――――こうして俺は大蛇丸を明確な敵として想定して動き出すことになる……その結果がどうなるかは、まだ誰も分からない。

 


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