忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第82話 同好の志

 雲隠れから帰ってからしばらく経ったある日、久しぶりにアンコが店を尋ねてきた。

 用件は世間話と任務の愚痴……聞くと何やら面倒な仕事を押しつけられたのだとか。

 詳しい内容については教えてくれなかったが、どうやら下忍に関係することらしい。

 スリーマンセルでも受け持つのかとも思ったが、彼女は上忍ではなく特別上忍であるが故にそれはないだろうと考え直す。

 結局その日は何も分からなかったのだが、それから更に数日が経った日に今度はナルトがやって来て嬉しそうに自身が中忍試験を受けるかも知れないと報告に来た。

 

 

「まだ下忍に成って一年も経っていないのに中忍試験を受けるのかい?

 ましてやこの間凄く危険な任務をこなしたばかりだと言っていたじゃないか……」

「でも次に受けられるのは一年後……俺は一日でも早く火影になりたいんだってばよ!」

 

 

 そう言いきった彼の目には強い決意が浮かんでおり、幾ら俺が止めようとしても突き進んで行くであろう事が容易に想像できる。

 しかしナルトが受ける中忍試験となると、原作において一つの大きな事件……大蛇丸による木の葉崩しが起こるのが近いということだ。

 詳しくは覚えていないが、決して楽観視して良いものではないだろう。

 俺は無意識の内に店の中の仕掛けに目をやり、配置を確認する。

 チャクラ糸の精度が上がったことで、一々仕掛けを動かさなくても三つの仕掛けは発動できる様になったが、それでも物量や忍術は防ぎきれないから注意しなければならない。

 そんなことを考えている内に表情が険しくなっていたのか、ナルトが少し遠慮がちに話しかけてくる。

 

 

「おっちゃんは俺が中忍試験を受けるの反対なのか?」

「絶対に駄目とは言わないけれど……担当上忍の人はなんて言っているんだい?」

「この話を持ってきたのはカカシ先生だってばよ」

 

 

 カカシがまだ下忍になって一年も経っていないナルトに中忍試験を勧めたという事実に俺は驚きを隠せなかった。

 てっきりナルトが意見をごり押したのだとばかり思って話をしていたが、担当上忍の許可があるのならば俺には強く止めることが出来ない。

 

 

「担当上忍がいけると判断したのなら、俺が言えることは一つだけだな……無茶だけはしないようにしなさい」

「そんなに心配しなくたって大丈夫! パパッと合格して中忍になってやるってばよ!」

「……そういう無鉄砲なところが心配なのですが、まぁいいです。

 中忍試験までそれ程日が無いですから、しっかり体調を整えて試験を受けるようにね」

「分かってるってば! よっしゃあ、試験に向けて今から修行だ!」

 

 

 ナルトが飛び出していった後ろ姿を俺は溜息を吐きながら見つめていた。

 体調整えてって言ったばかりなのに……中忍試験始めるまで一週間位あるから別に問題ないとは思うけど、相変わらず元気な子だ。

 

 

「それにしても中忍試験か……最近他里の額当てをしている人がチラホラといたのはそういうことだったのか」

 

 

 中忍試験は同盟を組んでいる里と合同でやるために開催地がまちまちで、そういった変化でもない限り忍者以外は中々気づけない。

 ただし中忍試験の最終試験は受験者同士の試合になることが多く、しかもそれは一般の客も見ることが出来るので全く縁がないわけではない。

 本来は他里の忍の実力を把握し、上層部が色々と画策するためのイベントでもあるのだが、一般人にとってはそんなものは関係無く、それは激しい戦闘に一喜一憂する大きなイベントの一つに過ぎない……トトカルチョ的なものをやっている人もいる位だ。

 ともかく中忍試験が最終日に近づけば近づく程に里は熱気で包まれ、気が大きくなっていく……俗に言えば稼ぎ時というやつである。

 喧嘩や軽犯罪が増える一方、店の売り上げも確実に伸びるので物売りにとっては中忍試験様々と思うところも少なくないだろう。

 それに試験一週間前の今でも前乗りしてきた人達が観光がてら彷徨いているので普段よりも客引きに力が入っている。

 そういう俺の所も戸に広告のような物を張り、いつもよりも少し店が賑やかだ。

 それの効果か他里の一見さんがちょいちょい店を覗いては暇潰しの一冊を買っていってくれているので、試験の恩恵に与っている。

 もっと客引きを考えた方が良いだろうかと考えている間に、また一人お客さんが来たようだ。

 

 

「いらっしゃいませ」

「へぇ……渋い店じゃん? 品揃えも悪くないな。

 これだったらアイツも連れてくればよかったか……」

 

 

 店に入ってきたのは黒子のような服を着ているのに、顔には隈取りをしているという何ともちぐはぐな格好をした人だった。

 その目立ちたいのか目立ちたくないのか分からない人は技術書関連のコーナーに直行し、本棚を流し見し始める。

 偶に派手な格好をしている客もいるから別段驚きはなかったが、よく見ると額当てに刻まれている紋様がiによく似たもの……砂隠れの里のものであることに気が付いた。

 だからどうということはないが、客商売をしていると人を観察する癖が付いてしまうことがあり、俺もその口なわけだ。

 彼も忍だから俺の視線に気づいていはいると思うが、本を物色することを優先しているらしく、既に最下段の本を見ていた。

 そのまま本棚に並ぶタイトルを大体見終えると、何故かそのまま本棚の下にある板を軽く叩く。

 

 

「どうかしましたかお客さん?」

「なぁ爺さん……この仕込みは、アンタが作ったのか?」

「仕込み? 何のことですかね?」

 

 

 内心の動揺を顔に出さぬ様に笑顔を作り、こちらを見る彼の視線を正面から受ける。

 彼が叩いている場所には糸車が仕込まれており、それはカウンターの中にある仕掛けを動かせば幾つかの歯車が動いて糸が垂れ、俺のチャクラを流し込むことで自在に動かせる様になるのだ。

 昔暴漢が来た時に男を拘束したのはこの仕掛けである……あの時に比べて、糸がより丈夫になり、チャクラも流しやすい素材に変わっているが、仕掛け自体にあまり変化はない。

 別に彼と敵対しているわけではないが、店の防犯機構を知られることはあまり好ましくないのだが……そもそも何故彼はこんなことを聞いてくるんだ?

 そんな考えが読めたのか、彼は小さく溜息を吐いて俺の疑問に答えてくれた。

 

 

「別に警戒しなくてもいいぜ? 俺も絡繰りを扱う者として気になっただけだからな」

「……どうしてお気付きに?」

「気付いたのはたまたまじゃん。 本棚の下部に隙間が見えたから少し気になって叩いたら不自然な空洞音がして確信したんだよ。

 で、どうなんだ? アンタが自分で仕込んだのか?」

「誰に習ったわけでもないので、参考書を読みながら試行錯誤しながらでしたけどね」

「そうか! 爺さんも中々やるじゃん!」

 

 

 四代目に見破られてから出来る限りの偽装工作を施したつもりだったんだが……まだ足りなかったか。

 俺は嬉しそうに此方に向かって歩いてくる彼から視線を外さない様にしながら、仕掛けの偽装工作案を考え始めるのであった。

 


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