忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第80話 雲隠れにて

 店に臨時休業の張り紙を張り、雲隠れの里への道を歩き始めて一週間……当初の予定だと三日~四日位で着く予定だったのだが、色々と寄り道していたら一週間も経ってしまった。

 温泉が俺を呼んでいたんだ! だからこれは俺が悪いんじゃない……温泉の効能や入浴しに来た著名人の事を話して俺を誘惑した客引きのお姉さんが悪いんだ!

 とまぁそんな感じで少し道は逸れてしまったが、何とか雲隠れの里の入り口に辿り着くことが出来た。

 今俺は入里受付で手続きをしており、丁度手形のような物を受け取った所なのだが、今日は何かイベントでもあるのか、里の奥の方で爆音や土煙が舞っているのが見えたので受付の人に何が起こっているのか尋ねる。

 

 

「あぁ、あれか……たぶん雷影様とビーさんの喧嘩だろうな」

「け、喧嘩? あんな遠くでも地響きが聞こえるのにですか?」

「偶にあることだ、別に近くに行かなきゃ問題ないから心配しなくていいぞ?

 アンタは他里から商売しに来たんだしな……ただくれぐれも問題は起こしてくれるなよ? 何かあったらダルいからな」

「そうですね、用事が終わったら直ぐにでも里へ帰ろうと思います……幾ら大丈夫だと聞いても少し怖いですから」

「そうか……まぁ俺はどっちでもいいが、じゃあ気を付けてな」

 

 

 そう言って褐色の肌を持つ白髪の忍は投げ遣りに手を振り、持ち場へ戻っていった。

 そして無事入里を終えた俺だったが物騒な雰囲気が漂うこの里は少し肌に合わない気がし、当初の予定では少し観光でもと思っていたのだが、本の査定を終えたら直ぐに帰ろうと心に決める。

 遠くで轟音が鳴り響く中をメモにある住所を探して里の中を暫く歩き回っていると、ピタッと轟音が止んで、徐々に人が増えてきた。

 喧嘩が終わったことで見物に行った忍と巻き沿いを食っては敵わんと室内にいた一般人が戻ってきたのだろう。

 

 

 現在地の確認を含めて辺りを見回すと、今俺がいる場所が新しい家の建設区域……住宅地の増設地であることがわかった。

 先ほどまでは轟音で気にならなかった金槌や鉋の音、大工や鳶の声などがそれを裏付けている。

 屋根の上や、即席の足場の上をそれなりに大きな木材を持って歩き回っているのを見ると、少し安全管理が疎かになっている様な気がしてならない。

 もしも人の胴ほどの太さを持つ木材が下にいる人に当たったら大怪我は確実だろう。

 そしてその不安は的中することになる。

 おそらく人一倍力持ちだったであろう大工が木材を五本ほど一気に運ぼうとしていたその時、少し無理な持ち方をしていたために二本の木材がその腕から零れ落ちたのだ。

 木材はガランゴロンと屋根を転がり、地面へと向かって一直線に向かう。

 そのまま地面に落ちれば大工が棟梁に怒られてこの話は終わるだろうが、事はそれほど優しい状況にはない。

 何故なら落下するであろう地点に一人の少年が歩いていたのだから……運悪く近くに忍の姿はなく、周囲にいるのはこれから起こるであろう惨劇を考えて悲鳴を上げる人や眼を瞑る人ばかり。

 その少年は突然の危機に思考がフリーズしてしまい、棒立ちで落ちてこようとする木材を見つめている。

 後数秒もすれば少年は一本100kgを越える木の下敷きになり、大怪我を負うだろう……流石に目の前でそんなことが起ころうとしているのを黙って見過ごすわけにもいかず、咄嗟に速攻魔法‘突進’を発動させた上で足にチャクラを集めて少年目掛けて奔る。

 ただ走るだけでなく、‘突進’の恩恵もついた俺の機動性能は間一髪で少年をその場から離れさせることに成功した。

 次の瞬間少年が先ほど立っていた場所に鈍い音を立てて二本の木材が突き立つ。

周囲の人々は木材が突き立った場所に少年がいないことに驚き、そして安堵した。

 俺は周囲から集まる視線を感じたので、小脇に抱えていた少年をしっかりと立たせて「今度からは自分で逃げるんだよ?」と頭に軽く手を置いてその場を離れようとする。

 少年は最初何が起こったのか分からずにキョトンとしていたが、直ぐに我に返り俺の服の袖を掴んで引き止める。

 

 

「お爺さんが僕を助けてくれたの?」

「まぁ、あのまま見過ごしたら夢見が悪くなりそうだったからね。

 というわけで俺は急いで行くところがあるから袖を離してくれないかな?」

「でもお礼……」

「いやお礼とかはいらないからとりあえず袖を離し「いや私からも礼を言わせてもらおう」……え~っと、どなたですか?」

 

 

 後ろから聞こえた声に振り返ると、雲隠れの額当てをした金髪の女性が立っていた。

 少年は彼女の姿を見て、直ぐに俺の袖を手放して彼女へと抱きつく。

 しかし周囲の反応はそれとは間逆に近い反応を示していた。

 彼女が姿を現した瞬間に眉を顰めてその場を立ち去る者、小声で何かを言い始める者、蔑視や敵視のようなものを向ける者等様々……中にはそういった人達に注意している人も居るようだが、それでも少なくない人数だ。

 そんな状況の中、それがどうしたと言わんばかりに俺をジロジロと見始める件の女性。

 

 

「アンタこの里の人間じゃないね、何しにこの里にきたんだ?」

「古本を査定しにね……そうだ、このメモに書いてある場所ってわかります?」

「ふ~ん、この家ならここから真っ直ぐ行って………口で説明するのは難しいわね、今暇だから案内するわ」

「いえいえ、そこまでしていただくわけには」

「いいから、この子を助けてくれた礼もしたいし」

 

 

 そう言って彼女は少年と手を繋ぎながら俺の前を歩き始めてしまったので、とりあえず言われるがまま案内してもらうことに……すると何故彼女が口頭で説明しなかったのかがわかった。

 その家はかなり入り組んだところにある上に、周りの家も似た外装ばかりで見分けがつかないのだ。

 ということで結果としてはかなり助かったので礼を言って早速この家の人と商談をと思ったのだが、案内し終わったにも関わらず二人はその場を去ろうとしないので不思議に思った俺は一旦商談を後回しにして話を聞いてみることにした。

 

 

「あの……帰られないのですか?」

「あぁアンタのことを待とうと思ってね」

「へ? なんでまた?」

「だからこの子を助けた礼をまだしてないだろう?

 茶の一杯でも馳走するから終わるまで待ってるさ」

「いや、でも待たせるのも悪いですし」

「何だい、私の厚意が受けられないとでもいうのかい?」

 

 

 そういった彼女の黒目は猫のように細くなり、何故か禍々しいチャクラが漂い始めている。

 そんな彼女に少しビクビクしていると彼女の手を握っていた少年が彼女の腕を引き、少し怯えた表情を見せると、彼女は一度大きく深呼吸をして気分を落ち着かせた。

 すると先ほどまで感じていた禍々しいチャクラが薄れ、眼も元通りになり、何とか落ち着いてくれたようだ。

 だが少し落ち着いたとは言え、意見を変えるつもりがないのは眼が語ってきているので、俺は一つ提案をする。

 

 

「えっとですね、俺としてはどれくらい時間が掛かるかわからない中、ここで待たせるのが心苦しいと思うわけで……」

「私は別に気にしない」

「この子が一緒でもですか?」

「………」

「そうなりますよね、ですから帰らないというのならばせめてここに来る時に通った茶屋で待ち合わせにしませんか?

 俺もできるだけ急いで商談を終わらせますから」

「……わかったわ」

「茶屋に行くの!? やった、ユギトお姉ちゃん早く行こ!

 またねお爺ちゃん」

 

 

 こうして元気に手を振る少年と若干不満気なユギトと呼ばれた女性は来た道を戻り始める。

 そんな二人の後姿を見送ってから、俺はやっとのこと目の前の家の戸をノックすることができたのだった。

 

 


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