「でさ、俺ってばカカシ先生のこと投げ飛ばしてやったんだってばよ!
いやぁおっちゃんにも見せてやりたかったな……まぁその後とんでもない技食らったんだけど」
「カカシ君を投げれたっていうのは確かに凄い事だね……でもその言い方だと特に追撃もせずに唯投げたってことかい?」
「へ? あ、うん……あれ、何でおっちゃん怒ってんの?」
「それは君が、俺が口をすっぱくして教えたことを覚えてくれていないからだよ」
「いや、ちょっと待って! 謝る! 謝るから糸は止めて!!」
俺のチャクラ糸から逃れようと暴れるナルトを糸で強引に正座の姿勢へと変える。
まだ上手くチャクラを扱えないナルト位ならこの程度は造作もない……俺も少しは成長しているのだから。
取りあえず説教だけはしておかないと、この子は全く覚えてくれないからしっかりと行っておく。
「何度も言うように、投げ技っていうのは投げて終わりではなく、投げ終わった後にこそ真価が問われるんだ。
投げた後に打撃を繋げるも良し、そのまま関節極めるも良し。
如何に技量に長けた忍者でも、空中での動きには基本的に限りがある。
だからこそ投げ技は優秀な繋ぎになるし、場合によっては勝敗を分ける一手にもなるんだよ」
「わかってるってばよ……でもあの時は投げれたことが嬉しくて、一寸忘れちまっただけだってば。
今度は絶対忘れないから、な! もう許してくれってばよ」
「……次忘れたら罰として店の掃除を手伝ってもらうからね?」
「その位お安いご用だぜ!」
そうナルトは笑顔で親指を立てるが、この返しは明らかに罰が軽くて助かったという感情が透けて見える……まぁ別にそれでも俺にとっては助かるので問題ない。
一人で切り盛りしていると掃除とか面倒臭くなってくるからね。
一応反省したようなのでチャクラ糸を解除すると、彼は身体一杯伸びをした後足を崩して座る。
ナルトが閉店間際に店に来てから、この間受けた初めての訓練の話を聞いていたのだが、前にイルカの病室で聞いたように試験も兼ねていた様で大分厳しい内容だったようだ。
まぁそれでも何とか合格したようで嬉しさ余って、帰り道に此処に寄ったらしい。
アカデミー卒業から色々と忙しくて店に寄れなかったのもあり、色々報告したいこともあったのだとか。
俺としても気になることは幾つかあるので、この機に乗じて聞きたい事を聞いておこうと思う。
「ところで班員の子達はどんな子なんだい?」
「班員って事はサクラちゃんとサスケのヤローのことだな……サクラちゃんは可愛いんだけど、サスケはいけ好かない野郎だってばよ!
ツンケンして、人のこと見下して………ま、まぁ良いところも無いわけじゃないんだけど、それでも気に食わない奴だ!」
「サクラって子はあまり聞いたこと無いけど、サスケって子は……もしかしてうちはサスケって名前かな?」
「そうだってばよ」
うちはの生き残りでナルトのライバルとなる男の子……もうその位しか覚えていないけど、それでも彼がNARUTOという物語におけるもう一人の主人公と言っても過言ではないのは確かだ。
サクラって子は……正直記憶に無いから余り気にしなくてもいいかな。
他にもカカシの印象や、班員がどんな術を使ったかとか色々聞いていったんだが、流石に質問攻めにされてグッタリしてきたナルトが質問の合間に口を開く。
「そんなことよりさ、下忍になったお祝いとかくれないの?」
「お祝いかぁ……一楽のラーメンでも奢ろうか」
「マジで!? 言ってみるもんだな」
「用意してくるから少し外で待っていてくれるかい?」
「急いでくれよ、俺ってばもう腹ぺこなんだってばよ」
パパッと閉店作業を行い、鍵を掛けて看板を裏返す。
そして足踏みしながら待っていたナルトを連れて一楽へと向かった。
結果として三杯ほど奢ることになったが、最近特に金を使う事も無かったので別段問題なく支払いを終わらせ、ナルトとはそこで別れた。
家に帰った俺は日課の修行をしてから、居間で口寄せでカツユを呼び出す。
「修行……じゃないみたいですね、今日はどうしたんですか?」
「この間言っていた件について詳しく聞きたくてね」
「この間……あぁ、本を買い取りに来て欲しいって言っている人のことですね。
でもこの間は遠出する程留守にする事は出来ないって言ってませんでしたか?」
「いや、訓練つけてあげていた子が下忍になったから時間に余裕ができてね。
アンコちゃんも最近忙しいみたいだし、少し位なら店を空けても大丈夫のようだから話を聞いてみようかなって思ったんだ」
「そうだったんですか……ではシズネ様からお聞きした事をそのまま話させて頂きます」
俺の言葉に納得してくれたのか、カツユが出張買い取りを求めてきた客についての情報を教えてくれた。
その人は雲隠れの里の人で、綱手のようにギャンブル好きの人らしい。
ギャンブルで負けが込んできたので家にある古い本などを数百冊売って元手にしたいのだそうだ。
「雲隠れって事は雷の国か……結構遠いな」
「そうですね、徒歩で行くとすれば三日以上掛かる道のりですから。
ですがその人の話では百年近く前の本等もあるということでしたので、行く価値はあるかと思います」
「それは気になる……取りあえず行ってみようかな。
ついでに雲隠れの本屋を覗いて、木の葉では売っていない本とかが無いか探してくるとしよう」
「ならその人の名前と住所を伝えますので、何か書く物を用意してください」
カツユに言われるがまま小さなメモ帳に名前と住所を書き取る。
その名前を見ても特に何か感じるものがないために、おそらく原作に登場するような人物ではないのだろう。
そもそも雲隠れにいる忍で誰が原作に登場するのかなんてもう覚えていないのだが……雲隠れについてかろうじて覚えているのが雷影の忍術がプロレスに由来していると言うこと位である。
雲隠れの忍のネーミングセンスに少しげんなりしつつも、メモを書き終えた俺は筆を机に置いて一度大きく伸びをしてから、掌サイズのカツユを定位置と成りつつある肩に乗せる。
「よし、これでOKかな……ところでカツユは今日この後何か予定入っているのかい?」
「特に無いですけど、どうかしましたか?」
「いやね、夕食を一緒にどうかと思って……最近は訓練以外の時に余り呼びだしていなかっただろう?
だからたまにはゆっくりとカツユと話したいと思ってね」
「そうですね……私も久しぶりにヨミトさんとゆっくり過ごしたいです」
「カツユ……よし、そうと決まれば気合いを入れて御馳走を用意しないといけないな!」
少し頬(?)を染めたカツユにテンションの上がった俺は財布の中身が寂しくなるまで食材を買い、後日一週間分の食費を一日で使ったことに少しだけ膝が折れそうになったのは別のお話。