忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

77 / 147
第76話 事情

 俺が脳内でどうすれば色々と黙っていてもらえるかシミュレートしていると、少女が突然頭を下げた。

 予想外の行動をとられた事で俺の脳がフリーズする。

 

 

「ありがとうございました!」

「え?」

「あの時……店員さんに助けてもらえなかったら、今この里に居たかどうかもわかりません」

「い、いや……そんなこと」

「あの時は満足にお礼も言えなかったから……ずっと気になっていたんです。

 名前も言わずに居なくなってしまったから」

「(あれ? なんか想像していた展開と違うぞ?)」

「ちゃんとお礼を言うためにお父様に店員さんの事を探してもらっていましたけど、全く見つからなくて……半分諦めていたんです。

 だけどまさかこんなに突然見つかるとは思ってもいませんでした」

 

 

 そう言って苦笑いする少女だったが俺は彼女の表情なんて全然見ていなかった。

 驚いたというのもあるけれど、主だった理由は内心の喜びを隠すのが精一杯だったからである。

 幾ら恩人とはいえ、それとこれとは話が別だ!怪しい奴を放って置くわけにはいかないとばかりに何かされるという可能性もゼロではなかったのだから……だから今、彼女がただお礼をしたかったと聞いて俺は心底安堵していた。

 お礼を言えて若干すっきりした表情をしている少女だったが、このまま帰られたら親に俺の事を話すだろう。

 それは避けなければならない……こういう事は何処から漏れるか分からないのだから。

 俺は一旦店の戸を閉め、ブラインド代わりの布を下ろす。

 いきなりそんなことをしたから少し少女が警戒し始めたが、見聞きされたら困ることを今からするのでこれは必要だった。

 店内が先程よりも少し緊迫した空気になっている中、俺は変化を解いた(・・・・・・)

 

 

「さてと、まずは色々と説明しないといけないみたいだね……その眼には隠し事が通用しないみたいだし」

「ど、どういう事ですか? それにその姿は……」

「俺には隠し事が多いってことだよ。

 この姿のこともそうだし、昔君を助けた時に使った色々なものも、本来はずっと隠し通すつもりだった……まぁ誰も知らないというわけじゃあないんだけどね」

「も、もしかして口封じを……」

 

 

 少し震えながら一歩後ろに下がる少女を見て苦笑が漏れる。

 本当に口封じするつもりだったらこんな事話す程俺は悠長じゃない……映画に出てくる悪役のように殺す相手に冥土の土産を渡すなんて油断以外の何者でもないのだから。

 

 

「場合によっては考えなかった訳じゃないけど、流石に日向一族を敵に回すわけにもいかないし、君に手を出すつもりはないから安心して良いよ。

 代わりと言ってはなんだけど一つだけ約束して欲しい事があるんだ」

「約束……」

「そう、簡単な約束……俺に関することを他人に話さないで欲しいという約束」

「店員さん「本瓜ヨミトね」……本瓜さんに関する事って透明になったり、変な結界術とかのこと……ですか?」

「そうだね、他にも俺が君を助けたって事とかもこれ以上話さないで欲しい。

 もう話してしまった分に関してはしょうがないけど、出来る限り君を助けた人物と古本屋の店主が繋がらない様にしてほしいんだ」

 

 

 俺に他人の記憶を消す手段なんてない……と思う。

 あったとしても自分の都合で他人の記憶を弄る程堕ちたくない……子供相手に口封じを考えた奴が何言っても無駄かも知れないが。

 勝手に考えて勝手に落ち込んでいる俺を余所に、少女は不思議そうに尋ねる。

 

 

「……どうしてですか? この事が知られればきっと本瓜さんは色々な人に賞賛されるのに」

「それが嫌だから言っているんだよ……有名になりたくてやったんじゃないんだから、別に名声なんて要らないんだ。

 有名になればそれだけ良くない人も近づいてくるからね。

 俺はこの店で慎ましく生きていきたいだけなんだよ」

「じゃあ何故……何故あの時私を助けてくれたんですか?」

「偶々誘拐されてる最中の君を見つけてね、放っておいたら目覚めが悪くなりそうだったから追いかけた……その結果助けることになっただけだよ」

 

 

 これは偽りのない真実、正直あの時は「俺の見えない所でやれよ」と心底思ったのだから。

 まぁ後で聞いたらそれはそれで胸糞悪くなるだろうが……大人の都合に子供を巻き込むなよと心から思う。

 俺の言葉を聞いて少し悲しそうな顔をする少女。

 顔が少しだけ下を向き眼だけが俺の顔の方へ向けられる。

 

 

「でも……それでも私は助かりました」

「だからそれは「例え……例え本瓜さんがしょうがなく助けたのだとしても、私が本瓜さんに助けられたことには変わりありません」……」

「私にとって本瓜さんは命の恩人なんです……だから人に教えてはいけないのなら何か私に恩を返させてください」

「いや、だからさっき言った通り他人に話さないでいてくれたらそれで十分だし、さっきお礼を言ってもらったからもうチャラでいいよ」

「お礼を言うのは当たり前です……だけど私の命を救ってくれたことに対するお礼が言葉だけっていうのは私自身が納得できません」

「俺は気にしないんだが……まぁいいか、貸しって事にしておいてくれるかい?」

「……分かりました。 今はそれで良いです。

 でも本瓜さんは困ったことがあっても言ってくれないかもしれませんから、定期的にお店へ来る事にします」

「そ、そうかい? 別に隠すつもりはないから大丈夫だと思うよ?」

 

 

 正直あまり来られると何時か親が様子を窺いに来そうだから勘弁して欲しいんだが……貸しとか要らないからなかったことにしてくれないかな?

 直接言うのも何かと思ってやんわり来なくても良いと伝えたつもりだが、彼女に伝わっていなかったようで、顔を上げてしっかりとこっちを見ながら「いえ、本も欲しいのでどっちにしても来ます」と返され、俺は一言「そうか」とだけ言って変化の術を掛け直した。

 それを見て少女もとりあえず今話すべき事は終わったと考えたのか、ブラインドと戸を開ける。

 

 

「それじゃあまたね、お嬢ちゃん」

「……そう言えばまだ名乗っていませんでした。

私の名前……日向ヒナタって言います」

「日向……ヒナタ!?」

「私の名前……変ですか?」

「い、いや何でもないんだ……何でもないはずなんだ」

 

 

 彼女は不思議そうに首を傾げながらも、一度軽く会釈して店を出ていった。

 彼女が出て行った後、俺は営業時間中ずっとカウンターの中で、常連客が五代目火影になる人物だと気付いた時と同じようなショックを引きずり、偶々遊びにきたナルトがそんな俺を見て何事かと慌てる事になる。

 原作の中でも好きなキャラではあったが、それとこれとは話が別だ。

 厄介事の種になりかねない新規客が増えた事に俺は頭を抱えずにはいられなかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。