それなりに覚悟を決めてアンコを探し始めたわけだが、結局俺に出来るのはしらみつぶしに探すこと位しか出来ない。
100メートル以内にいると分かればどうにか出来なくもないのだけど……世の中そんなに甘くはないわけで、無為に時間が過ぎていく。
カツユを通してゴウマから三代目の協力を得られることになったという良いニュースを聞いたが、如何せん情報が少ないために捜査は難航している。
日も暮れ、捜査を交代制に変えて二十四時間体制で探し続ける俺たち……しかし見つからない。
手伝ってくれてる人の中にはうちに良く来る油目や奈良一族の人もいて、人の縁というものの大切さを実感していたりもしたが、それでも成果はゼロに等しかった。
時間が経つにつれて協力者達数人の眼に諦めが浮かび始めるが、それでも俺たちは諦めなかった。
そしてアンコ失踪から三日目の朝、既に殆どの人が諦めかけていた中で油目さんがアンコらしき女性を虫が見つけたという情報が入る。
これでもしアンコじゃなければ捜査の人員を減らさざるを得ないと三代目から伝えられ、もう後がない状況で比較的現場に近いところに居た俺とゴウマが情報にあった場所へと走った。
アンコらしき女性を見た場所というのは里の外にある森の中。
油目さん曰く虫が見つけた時には一人で倒れており、様子を確認するために近づこうとしたら運悪く虫が動物に潰されたらしい。
倒れていたと聞いた時は血の気が引いたが、倒れているからといって死んだと確定したわけではないと自分に言い聞かせて全力で駆け抜ける。
屋根の上を跳び、地面を蹴りつけ、樹の枝の上を跳び移っていく。
そうして数分の間跳んだり走ったりしていたら、視界にふと人らしき影が移り込む。
急ぎその人影に近づくと、倒れていたのはやはり行方不明だったみたらしアンコその人だった。
見たところ大きな外傷はなく服装の乱れも特に見られないが、異常に発汗している上に苦しそうに呻いている。
話しかけてみても返事がないことから意識が無いことは明らかで、ならばと応急処置として‘ご隠居の猛毒薬’の回復薬の方を彼女の口へと流し込む。
気を失っているために全てを飲ませることはできなかったが、それでも多少は効果があったらしく少しだけ表情から険がとれ、呼吸も整ってきた。
これならば動かしても大丈夫だろうと、俺はゴウマに「アンコちゃんをみつけましたが、気を失っている上に様子が少しおかしいので、彼女を背負って急ぎ里に戻ります」と伝え、大至急里へ向かって走る。
里に着くと既に関係者一同が揃っており、アンコの姿を見るや安堵の溜息を吐いたが、未だ危機は去っていないと思い出してそれぞれが動き出す。
ゴウマはアンコを背負って病院に走り、三代目を含んだその他の人達は森に犯人の痕跡を探しに行き、俺はゴウマについて行く形で病院へと向かう。
病院に着くやいなや彼は待合室をすっ飛ばして医務室へと駆け込んだ。
中では一人の医療忍者がカルテらしきものを書き込んでいるところだった。
ゴウマが背負っていたアンコを診察台に乗せ、今がどういう状況かを説明すると医療忍者は表情を変え軽く彼女を診察し、苦い顔をして「私では少し力不足のようです……少し待っていてください、先輩を呼んできますので」と部屋を出て行ってしまう。
彼の帰りを待っている間、俺とゴウマは何も出来ることはない。
目に見える怪我なら俺が使える掌仙術でも多少は役立つのだろうが、今俺に出来る事は額に濡れタオルを置くこと位である。
ゴウマも自身の無力さに嘆いているのか、顔を歪めながらアンコの手を握り続けていた。
少しして医療忍者が何人か同僚を連れて戻ってきた……その人達はアンコの症状を見てあーでもないこーでもないと議論を始め、彼らの内の一人が彼女の首筋に浮かぶ一つの入れ墨の様なものに気付く。
「なんだこれは……みたらしさん、これは最初からありましたか?」
「いや、三日前まではこんなもの影も形もなかった」
「……封印術か何かでしょうか? 私はこんなの見たことありません」
他の医療忍者も同様な様で揃って首を傾げる。
しかし暢気に診察していられるのはそこまで、その入れ墨のようなものが微かに動いたのと同時に彼女が苦しそうに呻き声を上げる。
しかも入れ墨は徐々にだが範囲を拡げている様に見え、見るからに危険な雰囲気が漂っていた。
医療忍者だけでなく、ゴウマと俺もそれを見て今アンコを苦しめているのがこの入れ墨だと確信し、一刻も早くこの入れ墨を何とかすべく動き始める。
除洗液をつけて擦ってみたり、麻酔を掛けて患部の切除を試みたりしたが効果は見られず、徐々に入れ墨は大きくなっていき、彼女の呻き声もより酷くなっていく。
焦りばかりが募る空気の中、次の手段として選ばれたのは封印術の一つ。
彼女を取り囲むように直径三メートル程の術式を医療忍者の指示の元、床に刻んでいく。
そして入れ墨の周りにも医療忍者が術式を込め、術式が完成すると同時にチャクラを流し込み、封印術を完成させる。
するとアンコが一度大きく痙攣し、その場に倒れ込んでしまった。
ゴウマと俺が彼女に駆け寄り首筋を見ると、入れ墨が明らかに小さくなっている。
「何とか……なったようですね」
「アンコは……アンコは助かったんだよな!?」
「とりあえずは大丈夫だと思います。 ですがまだこれがどういったものか分からない以上絶対とは言い切れません。
一先ず暫く様子を見た方がいいでしょう……それと彼女は少し衰弱しているようですので、一週間程の入院をお勧めします」
「分かった、宜しく頼む。
ヨミト、俺はアンコの着替えとかを取ってくるから暫くアンコに付いてやってくれ」
「分かった、一瞬たりとも目を離さずに見ているよ」
「頼んだ……じゃあ行ってくる」
ゴウマが部屋を出て行くと、それと入れ違うようにストレッチャーを持った看護婦がアンコを病室へと運んでいく。
俺は邪魔にならないようにその後ろをついて行き、そのまま病室へと入り少し離れたところに椅子を動かして座る。
看護婦は手早く彼女をベッドに乗せ、点滴を刺すと俺に一礼して出て行った。
先程に比べれば大分呼吸も落ち着いたアンコだが、その顔は一目見て分かる程疲れ切っており、この三日間がどれだけ大変だったかを物語っている様だ。
まだ彼女に何があったのかは分からない……しかし明らかに良くない事に巻き込まれたということだけは分かる。
俺はゴウマが戻ってくるまでの間、首筋に鎮座して彼女を苦しめる元凶を睨み続けた。
遊戯王を知らない方に説明すると、ご隠居の猛毒薬は自分のライフを回復するか、相手にダメージを与えるか選ぶことが出来る魔法カードです