忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第71話 近況報告

 その日、朝起きると何やら外が騒がしい事に気付いた俺は耳を澄ませ……何が起こったのかを理解した。

 一人を残してうちは一族が全滅し、その下手人は未だ捕まっていないという大事件が起こったのだ。

 生き残ったのは一人の男の子で特に怪我は見当たらないらしいが、心に大きな傷を負って今は病院にいるとのこと。

 今頃里の上層部は大変なことになっているだろうな……里における名家の一つが突然無くなったのだから。

 だがこの一件は俺に何の関係もないに等しいので、「へぇ、大変だなぁ」と完全に他人事の様に呟きながらいつも通り身嗜みを整えていく。

 寝間着から普段着に着替え、洗顔と歯磨きを終えた俺は店の看板を閉店から開店に変え、カウンターに置いた椅子に座って読みかけの本を読み始める。

 書籍のタイトルは‘ド根性忍伝’という小説で、かなり荒削りだが何処か心惹くものがあり、愛読している一冊だ。

 ちなみにこの本の著者は木の葉の三忍の一人自来也その人なんだが、何故か売れ行きが悪く、うちにも結構な在庫があり本屋からの売れ残り受け入れを拒否している位である。

 

 

 店を開けてから三時間程読書と掃除をしていたが、一向に客が来ない。

 本は基本的に娯楽目的のものが多いために何か大きな事が起こったりすると客が来なくなることはよくあることだ。

 故に別段焦りもせず読書をしながらのんびりと時間を潰す……昔なら印を組む練習とかもしていたのだが、流石に十年以上やっていればそれなりのものにはなる。

 店番中に今もやる訓練といえば身体能力向上のために重りをつけた状態で生活をする位で、それも今以上の重りをつけてしまうと床に穴が開きかねないので何とも言えない状況だ。

 そんな働いてるんだがよく分からない状況の中、懐かしい客が店を尋ねてきた。

 店の戸を開けて入ってきたのは、すっかり大人になったシズネ……と忍豚。

 

 

「お久しぶりです、ヨミトさん! なんだか里が騒がしいですけど何かあったんですか?」

「うちは一族が何者かに壊滅させられたらしい」

「それは……一大事ですね」

「そうだね、でも俺に出来る事があるわけじゃないし、うちはにお得意さんはいないから特に思うところはないかな

 それにしてももう一年経ったのか……今年も綱手は一緒じゃないのかい?」

「ヨミトさんって偶に薄情ですよね、まぁ首を突っ込むよりは良いと思いますけど。

 綱手様についてはいつも通りで……っていうかちょっと聞いてくださいよヨミトさん!

 綱手様がまた借金をして踏み倒したんですよ!?

 一度ヨミトさんの方からも言ってくださいませんか?」

「綱手は俺が言った位じゃ止まらないと思うけどね……でも元気そうで何よりだ」

「元気すぎる位ですよぉ……この間なんてイカサマされて賭場を壊滅させたんですよ!?」

 

 

 俺の肩を掴んで前後に激しく揺らすシズネの目には微かに涙が浮かんでいる。

 流石に可哀想なので、今度カツユを呼び出した時に少し綱手に抑えるよう伝えてもらおう。

 本当なら直接言えれば良いんだが、長期間店を空けるわけにもいかないし、アンコやナルトのこともあるから会いに行くのは現実的じゃない。

 かといって綱手が来るのを待つのも殆ど意味がない……綱手はここ暫く里に来ていないのだから。

 俺に関してはカツユを通して状態を知れるし、伝言という形で連絡も取れる。

 というか綱手とほぼ確実に連絡を取れると言うことで偶に俺を伝言板代わりに使う人すらいる位だ……まぁ綱手がカツユを呼び出さなければ伝えられないから火急の用とかは断っているが。

 俺は最近の綱手の所業を激しく揺らされながらも聞かされ続け、一段落する頃には世界が回転して見える位になっていた。

 そんな俺を見てシズネは我に返り、「あひィ! す、すみませんでした!」と謝りながら頭を下げる。

 彼女がパニクればこの程度の事はよくあることなので、まずは落ち着かせるところから始めるのがこの状況においての正解だ。

 

 

「頭を上げてください」

「で、でも私また……」

「いいから!」

「は、はいぃ!」

「よし、じゃあお茶にしましょうか」

「へ? お茶?」

「この間良い茶菓子が手に入ったんですよ、一緒に食べましょう。

 トントンも食べるかい?」

「ぷぎぃ!」

「よしよし、じゃあ三人分持ってこないとね……っとその前に店を一旦閉めようかな。

 どうせもう客来ないだろうし」

 

 そう言って俺は店の看板を閉店中に変え、呆然としているシズネの背を押して家の居間まで連れて行き、律儀に家に上がらず待っていたトントンの足をタオルで拭いて抱き上げて連れていく。

 シズネは未だに再起動を果たしていないらしく居間で棒立ちになっていたが、一先ずスルーして台所に向かう。

 お客様用のちょっと高いお茶と、この間ゴウマさんに紹介してもらった和菓子屋で買った栗羊羹を切り分けて持っていく。

 その間数分はあったので流石に俺が居間に着いた時にはちゃぶ台の前で正座しており、膝の上にトントンが座っていた。

 その光景が凄く微笑ましく、自然と口角が上がるが別段隠すことなく、そのまま彼女達の分と俺の分のお茶と茶菓子を置く。

 そうしてやっとシズネは俺が来たことに気付いたのか、顔を俺の方へと向けた。

 

 

「えっと……」

「さ、お茶が冷めない内にどうぞ? トントンは水で良かったよね」

「ぷぎ」

「ヨミトさん?」

「ん? さっきの事なら別に怒っていないから大丈夫だよ、この位のことシズネちゃんとアンコちゃんの喧嘩に巻き込まれた時に比べたら全然」

「あ、あの時のことはもう忘れてください!」

 

 

 羞恥から顔を赤く染めつつも、未だ先程のことを引き摺っているのか少し言葉に力がない。

 だが先程に比べれば大分いつも通りに戻っているからよしとする。

 ちなみにシズネとアンコの喧嘩に巻き込まれた時は流石に店に多少被害が出たので、止めに入って二人の首根っこを吊り上げた。

 あの時の二人の怯えたような表情は不謹慎だが少しだけ可愛かったような気がする。

 

 

 お茶を飲みながらこの一年を振り返りながら話す。

 俺はナルトやアンコの事や、里で起こった主要な出来事を。

 シズネは綱手の武勇伝と、様々な人との出会いと別れを。

 一時間も話していると元の調子を取り戻し始め、帰る頃にはすっかり元通りになっていた。

 帰るといっても里で一泊してから綱手の元に帰るので、今日は彼女の実家で親子水入らずの時間を過ごすらしい。

 シズネは少しだけ名残惜しそうだったが、首を小さく左右に振るとのほほんとした顔に戻り、元気よく俺に「明日帰る時にもう一度寄りますから!」と言い残して走り去った。

 去り際トントンが軽く頭を下げたのが妙に可笑しくて、久しぶりに声を上げて笑ったが突然笑い出した俺を周りの人達が訝しげに見ていることに気付いて、急いで家の中に戻った。

 


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