忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第59話 会談

 木の葉の誇る三忍が全員里からいなくなった事は人々に大きな衝撃を与えたが、三代目が「今まであやつらを頼りすぎていたんじゃ、少しずつ自立していかなければならん」と言うことで、何とか騒ぎは起きなかった。

 だがそれでも不安を完全に拭い去ることは出来ずに里は少し活気を無くす。

 アンコもシズネがいなくなった事でしばらくは元気が少し陰っていたが、一週間も経てば表だってはいつも通りになり、一年も経てばすっかり元通り……流石に一時帰郷したシズネと会った時は憎まれ口の一つや二つ言い放っていたが。

 この一年を振り返ってみると特に目立った変化もなく、俺は店の経営と自身の修行、アンコの訓練が主な習慣となっており、その訓練も経験を積むことで徐々に激しさを増してきていた。

 俺とは才能に大分差があったのだろう彼女に色々と猛追されて、流石に重りをつけたままでは全く勝機が見えない位には成長している。

 それでも上忍には程遠いらしく、未だ上忍推薦をしてくれる人はいないのだとか。

 現状大きな戦いも無いから人手が欲しかった戦時中に比べて門戸が狭まっているのかも知れない……ただこの間三代目が来た時にそれとなくアンコの事を聞いてみると、特別上忍としてならもう少し経験と実績を積めばなることも不可能ではないと言っていたので、彼女が昇進するのはそう遠くないだろう。

 今うちの店に来ている油目家の人もアンコの事を知っているらしいので、この調子で実力が認められれば近いうちに誰かが推薦してくれるかも知れない。

 

 

「みたらしアンコは大蛇丸の弟子でありながら狂気に染まることなく研鑽を積み、肉体もよく鍛えられている。

 近いうちに実力を認められるだろう」

「そうですか、あの子もついこの間まではただのやんちゃな女の子だったんですけど……時が経つのは早い」

「知っている……偶に見かけていたからな」

「そういえばアンコちゃんが店にいる時に来たことも何回かありましたね」

 

 

 彼がアンコやシズネに話しかけることは無かったが、彼女たちは不審者っぽいこの人の事が大分気になっていた。

 油目家はサングラスにフード付きのコートを着ている人が多いからパッと見怪しい。

 故に二人が「いざとなったら追い出すのを手伝う」と言ってくれた時は嬉しいやら気まずいやら、大分複雑な気持ちを抱いたものだ。

 その事を彼も思い出したのか、少し気まずい空気になってしまったので俺は話題を変えることにする。

 

 

「今日って誰か偉い人でも来るんですか?

 なんか他里の人をよく見かけますけど……」

「あぁ、それなら雲隠れの忍だろう。

 確か日向の客人として忍頭が来ると報告があったからな」

「そう言えば雲隠れの里と同盟を結んだんでしたね。

 でも雲隠れの忍頭が態々何しに来るんですか?

 同盟のことなら火影様の所に行くのが普通でしょうに……」

「詳しくは聞いてないが、木の葉の名家である日向家と雲隠れで影響力の大きい忍頭が親交を深めることで、同盟をより強固なものにするのだとか」

 

 

 確かにうちはに比べれば日向の方が多少取っつきやすい部分があるのでその点は賢い選択と言えるだろう。

 それに俺は雲隠れについて詳しくは知らないけれど、流石に同盟結んでまだそんなに経っていない今彼らが問題を起こすとは思えない。

 同盟を結んだ直後にそれを反故にすれば里の信用が酷いことになるからな。

 おそらく何事も無く終わるのだろう。

 万が一何かあったとしても俺には関係無いだろうから別に大した問題は無いんだけどね……戦争とかになると困るけど。

 俺はその後も暫く油目さんと他里についてや里での出来事について雑談していたが、彼が突然「妻が呼んでいる……帰らなくては」と言い残し去ってしまったので会話は強制終了。

 結局閉店時間まで新しい客が来なかったので溜息を一つ吐き、看板を仕舞い込んで戸に鍵を掛ける。

 

 

「今日の客は二人で売り上げは200両……まぁいつも通りだな」

 

 

 居間に戻りいつも通りノートに売り上げを記す。

 昔に比べて客は増えているが、それでも日に平均二冊から五冊程度しか売れず、在庫が中々減らないのは少しネックだな。

 もう少し本屋から買い取る本の量を減らすべきかもしれない。

 倉庫の空き具合と相談しながら次にどの位仕入れるか考え、思いついた事をメモしておき、店のことはそこで切り上げて今日の晩ご飯を作り始める。

 家庭菜園で取れた野菜とアンコの家にお裾分けしてもらった肉を使って野菜炒めを作り、それを食べた後風呂に入った俺は少しのぼせてしまい、縁側で身体を冷ましていた。

 少しだけ目眩のする頭を軽く叩きながら空を見上げ、何となく星を見ていると偶々流れ星を見つけ、それを目で追いかける。

 明日は何か良いことあるかもしれないと少しだけ嬉しい気持ちになったが、ふと視界に何か動くものを見つけ、また流れ星かと思い目で追うと、どうやら屋根の上を飛び移る数人の人影が見えた。

 最初は誰か緊急の任務でも入ったのかなとぼんやり見ていたのだが、なにやら先頭を行く人が小脇に子供を抱えているのを見つけると、脳がゆっくりと回転を始める。

 先ず思いついたのは親子である可能性。

 だがこれは直ぐに棄却、持ち方があまりに雑な所から思いやりというものが感じられなかったからだ。

次に考えたのは誘拐の可能性。

 この考えに至った時点で俺は動き始めていた。

 手足のウエイトを外して家の中へ投げると、二つの魔法を発動させる。

 

 

「通常魔法‘下降潮流’発動してレベル1に指定、さらに装備魔法‘光学迷彩アーマー’発動」

 

 

 二つの魔法が発動すると同時に誰の目にも俺の姿が見えなくなった。

 俺の姿が消えたのは装備魔法‘光学迷彩アーマー’の効果を受けた結果である。

 本来これは相手のプレーヤーに直接攻撃出来るようになるという効果を持つ装備魔法なのだが、それがこの世界で直接攻撃という概念が無いことから他者から見えなくなるという効果で現れたのだ。

 ただこの魔法には発動条件として装備対象がレベル1のモンスターでなければいけないという条件がつく。

 今までの実験から本来の俺はレベル3地属性戦士族のモンスターと同じ扱いだと言うことは分かっているので、このままでは‘光学迷彩アーマー’の効果を発動できない。

 故にもう一枚の魔法を発動させた。

 それが通常魔法‘下降潮流’である。

 この魔法はフィールド上にいる表側表示モンスター1体のレベルを1~3の間で変化させることが出来るのだ。

 実はこの魔法以外にも‘降格処分’という対象のレベルを二つ下げる装備魔法も存在するのだが、俺が同時に使用できる魔法と罠の数は五つだけなので枠が減らないように‘下降潮流’を使用した。

 魔法の効果を鏡で確認し手裏剣とクナイをウエストポーチに入れて身につけると、少しでも動きやすいように変化を解き、家を飛び出してかなり先を走っている四人組を追いかける。

 

 

「(念のためだ……もし誘拐じゃなかったなら普通に戻ればいいし、誘拐だったとしても危害を加えないのなら見守るだけでいい)」

 

 

 俺の見えないところで見知らぬ誰かが誘拐されたとしても俺は何とも思わない。

 その結果誰かが死のうともそれが知らない奴なら俺は別に悲しまないだろう。

 だが流石に見知らぬ誰かだろうと見えるところで攫われているのをスルーするほど俺は人間を止めてない。

 

 

「(出来ることなら俺の見ていないところでやって欲しかった)」

 

 

 俺は舌打ちしたい気持ちをグッと堪え、少し距離を詰めるためにスピードを上げた。

 


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