忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第51話 訓練風景

 アンコが下忍に、シズネが中忍になりました。

 だからといって俺に何かが起こるわけではなく、変わったことと言えば二人が来る頻度が減ったことくらいだろう。

 シズネは綱手に本格的な医療関係の知識や技術を学び始め、アンコは大蛇丸の下に配属された……現状大蛇丸はアンコの話を聞く限り少し無愛想だけど頼りになる忍者らしい。

 尊敬してる相手でもあることだし、多少目が曇っている可能性も無いわけではないが直接的に何かがあったわけでもないので俺としては何も出来る事はない。

 薄情とか言わないでくれよ? 俺としては引き離したいと思わなくもないんだが、特に目立って何かしているわけじゃない相手に言える事なんて皆無に等しいんだから。

 思考をそこで一旦打ち切り、目の前の相手を倒すべく気持ちを切り替える。

 

 

「今日こそ倒させてもらうぞ、アポピスの化神!」

 

 

 攻撃力1600守備力1800の上半身が人型、下半身が蛇のモンスターに啖呵を切る。

 彼の顔には何の表情も浮かんでいないが、彼の背から生える蛇頭が舌をピチピチと動かし、掛かって来いと合図する。

 俺はそれに答えるように思いっきり地面を蹴り相手の懐へと飛び込もうとするが、相手も慣れたもので左手に持つ盾で俺の身体を弾く。

 勢いをそのまま流された所為で横にかなり飛ばされるが、一度宙返りすることで勢いを緩めて着地する。

 

 

「やっぱり勢いで押し切るのは無理か……ならこれはどうだ!」

 

 

 右手にチャクラを込め硬質化、更に左手にチャクラを流した糸を垂らす。

 この戦法は俺が十年近く掛けてようやく形にしたもので、簡単に言えば縛って斬る戦法だ。

 出来ればチャクラ糸に切れ味を持たせて某執事の真似事をしたかったんだが、そこまでの才能は俺には無かったのでこれに落ち着いた。

 手始めに俺は五本のチャクラ糸を伸ばして捕縛を試みるが、それで捕縛できるような相手ならここまで苦戦はしない。

 アポピスの化神は流れるように糸を躱し、ついでとばかりに五本全ての糸を切断する。

 その光景に舌打ちしたい気持ちを我慢しつつ、チャクラを込め直して再度捕縛を試みた。

 しかし同じような手が通じるはずもなく、今度は糸を切らずに下半身の蛇腹を地面に擦りつけながら此方に接近し俺へと斬りかかる。

 即座に右手のチャクラメスで剣を受け流すが、左に持つ盾への注意を怠り、顔面を盾で殴りつけられた。

 衝撃に耐えて踏みとどまるよりも、受け身を取った方がダメージが少なくなるために自分から転がったが、立ち上がるまでの僅かな時間は無防備に近い。

 そんな隙を相手が逃すわけがなく、追撃がくる。

 俺は右上段からの袈裟斬りを無様に転がって避け、右手に目掛けて糸を伸ばす。

 今度は上手く絡ませることに成功した様で相手は剣を落とした。

 

 

「剣さえ無くなれば俺にも勝機がある!」

 

 

 新たに出した一本の糸を剣へと伸ばし、俺は勝利を確信する。

 だがそれは一瞬で覆った。

 相手は尾を上手く使って剣を回収すると、そのまま糸を切り裂いて盾をフリスビーのようにして俺に投げつける。

 盾は薄いとはいえ金属製……当たれば痛いだけでは済まない。

 慌ててチャクラメスで盾を弾き落とし、相手の動向を知ろうとした時には俺は詰んでいた。

 いつの間にか手に持ち替えた剣を俺の首筋に添え、ジッと俺の眼を覗き込むアポピスの化神を見て、糸を戻してチャクラメスを消す。

 

 

「降参降参、この状況からは勝てないよ」

 

 

 彼は俺の言葉を聞き、剣を鞘に戻し盾を腰に着け直した。

 人型の顔は無表情で感情を表さないが、蛇頭の方は明らかに嬉しそうだ。

 目を細め、舌をピチピチ動かして喜びを表現している。

 悔しくないとは言わないが、こうして喜んでいるのを見ると少し和むから、俺は何度負けても苛立ったりしないのだろう。

 

 

「だからといって負けっ放しでいいとは俺も思わないわけだが……」

「?」

 

 

 両頭を共に傾げ、不思議がっている彼に「何でもない」と告げ、いつも通り自由にしていていいと指示すると中々の速さでそこから移動してしまった。

 何処までも広がっているゾーンの中を探検でもしてるんだろう。

 俺は苦笑しつつも、別の訓練を開始する。

 

 

「魔幻・奈烙見の術!」

 

 

 懐から出した鏡を前に印を組み、自身に幻術を掛けて精神的に鍛える訓練。

 魔幻・奈烙見の術は対象がもっとも見たくないものを見せるという幻術で、俺の場合は……。

 

 

「この人外魔境に放り込まれるわけだが……こんなの現実で起こったら正しく絶望しかないな」

 

 

 眼前に広がる悪夢。

 憤怒の表情でこちらを睨む三代目と五代目の火影と九尾の人柱力。

 幻術だと分かっていてもかなりの危機感を感じる光景だ。

 ちなみにこの幻術に出てくる相手は俺が戦いたくない相手が基本なので、木の葉の三忍だったり、九尾だったり、空想の化け物だったりと割と無作為だったりする……今回ほど酷いのは未経験だが。

 流石に回数こなしてるから多少慣れたが、当たれば消し炭になるような火遁や、地面をたたき割る打撃、とんでもないスピードで迫ってくる黒い獣が四方八方から襲ってくるのを見るのは心臓に悪い。

 しかもこれはあくまで想像な訳だからこれ以上な可能性もあるわけで……怖いわ原作登場人物。

 どうせ臨場感抜群なものを見るなら、映画やらアニメやらを見たいよ。

 俺はとりあえず当たらないと分かってはいるが、出来るだけ攻撃に当たらないように動き回る。

 これで精神鍛錬+肉体鍛錬で一石二鳥。

 左右から迫る五代目と主人公の攻撃を紙一重で躱し損ねつつ、落ち込むまもなく上からとんでもない数の手裏剣が降ってくる。

 一つため息をついて躱すことを諦め、俺は手裏剣の幻影に埋め尽くされた。

 全てが終わると同時に幻術は解け、辺りを静寂が包み込む。

 

 

「だいたい一分位……最長記録かも知れないな」

 

 

 この術が解けるのは俺が気絶するか、俺が現実で受けたら死ぬような攻撃を食らった場合だ。

 後者の場合は自分で解くんだが、ここに俺は自分ルールを組み込んでいる。

 ただ罰ゲームを決めて維持できた時間が短いほど内容が悪化するって言うだけで、術を弄っているわけではないのであしからず。

 

 

「今日は頑張ったから逆立ち指立て伏せ、ぶら下がり腹筋、スクワットを100回ずつだな」

 

 

 今日の反省点を脳内で整理しながら罰を実行する。

 最近の一人修行はこんな感じだ。

 これに気になった魔法や罠の実験とかがプラスされたりするが、基本はこれ。

 この場にカツユがいればもっと効率的且つ実戦的な訓練も出来るのかも知れないけど、いくらカツユとはいえ俺の全てを教えるわけにはいかない……というか誰にも教えるつもり無いけどね。

 全ては日常を守り、死亡フラグを立てないため!

 

 

「俺は負けないぞ……俺はこの戦乱を、未来に起こるであろう事件を生き残る!!」

 

 

 俺は決意を声に出して、指立て伏せをスピードアップさせた。

 ………ところで九尾っていつ来るんだろうか?

 


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