忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第4話 職人の業

 看板注文から二日が経った。

 一昨日から本を状態が良い悪いの二つに区分し、それをジャンル別あいうえお順に並べて本棚に入れる作業を行っているんだが、なかなか終わらない。

 本の数が多いのもそうなんだけど、ジャンル分けが一番厄介な部分なんだよ……小説や絵本の様なものは分かりやすいんだが、聞いた事のない単語が出ている本とかは少し読んでみないと意味が分からないから困る。

 

 

「これは……毒性を持つ植物に関する考察かな?

 動植物の棚行きだな」

 

 

 手に持った本を棚へと入れ、次の本の仕分けに戻る作業を続ける俺。

 BOOK OFFの店員さんもこんな感じなのかな?

 昔ちょっとあそこでバイトしよっかなぁって思ったんだけど、行かなくて良かったかも。

 想像以上に身体を使う仕事だ、これは。

 あの頃やっていたら運動不足の俺にとって厳しい仕事になっていたと思う。

 今身体能力が上がっているこの身体でも結構腕ダルくなる位だしな。

 未だ千冊以上の未分類の本がある事を思うと微妙に鬱になりそうだが、気合いを入れて新しい本を手に取ろうとすると、店の扉を叩く音が聞こえてきた。

 まだ店も開いていないここに訪ねてくる人なんて現状一人しかいない。

 何にせよ店の扉を開けると、そこには予想通りの人物が立っていた。

 

 

「仕事中だったか?」

「そんなところかな、看板屋さんは手ぶらみたいだけど……もしかして?」

「いや、看板は外に立て掛けてある。

 一応満足できる出来だと思うが一度見てくれ。

 納得したら取り付けに入る」

 

 

 看板持っていないからてっきり出来上がらなかったのかと、ドキドキしたけど如何やら問題ないようだ。

 彼が言う通りに俺は店の外に出て、看板を確認することに。

 店の戸の脇に立てかけられた大きな看板と小さな立て看板。

 立て看板の方は表を向いているが、大きな看板は裏を向いているので一目見ただけじゃ確認できない。

 とりあえず今見える立て看板の方をじっくりと観察する。

 リバーシブルの看板で、脚は四本あることで安定性は抜群。

 字体も本という漢字を少しだけ強調して、他の文字の大きさを揃えることで扱っているものを分かりやすくする、とてもいい立て看板だと思う。

 そして肝心の店の看板に俺は目を向ける。

 

 

「今ひっくり返すから、少し離れていろ」

 

 

 その声に従い俺は一歩後ろに下がると、看板屋さんは看板の下部に手を掛けて上に放り投げた。

 俺は彼の突然の暴挙にポカンとしてしまったが、看板を目で追うと空中で回転しているようだ。

 腕が片方ないから空中でひっくり返した方がやりやすいのか?

 そんなことを考えている内に、看板は見事表を向いていた。

 

 

「こ、これは!?」

「どうだ? 自分でもなかなか良く出来たと思うんだが」

 

 

 横に長い額縁の様な形で、額の内側には楷書体で書かれた’古本屋 本の宿’の文字。

 デザインはシンプルだが額縁についている木目が、中に書いてある文字を際立たせていて非常に良い看板だと思う。

 自分の店にこれが掛けられることを想像して少しだけ感動を感じた俺。

 どれくらい見ていたのだろうか、ふと視線を感じて振り向くとそこには看板ではなく俺を見ていた看板屋の姿があった。

 

 

「えっと……どうかしました?」

「いや、オレは依頼人の嬉しそうな顔を見るのが好きなんだ。

 自分の仕事が、人に喜びを与えられたという事実はオレ自身の糧になる。

 また次も頑張ろうという生き甲斐になる。

 だから見ていた……で、これで大丈夫か?」

「そ、そうですか。

 はい、これでお願いします」

「了解、じゃあ取り付けに入る」

 

 

 そう言って彼は釘を十本程口に咥え、看板を扉の1メートル近く上に蹴り上げる。

 それとほぼ同時に口に咥えた釘を思い切り飛ばして、看板の目立たない10個所に打ち込んで看板を固定した。

 数本の釘がまだ完全に刺さり切っていないが、支える分には問題ないらしい。

 彼はそのまま軒まで跳んで、手に持った金槌を振って看板を完全に固定していく。

 すると十分もしない内に看板の取り付けは完了し、ついに俺の店’古本屋 本の宿’は完成した。

 

 

「俺の店か……頑張らないとな」

「古本屋なんてのは木ノ葉にここしかないからそれなりに客も来ると思うが、まぁ頑張ってくれ。

 で、代金の方だが……」

「確か3300両ですよね……はい」

 

 

 財布から代金を出し、彼に手渡す。

 この看板のためなら3300両なんて安いもんだ。

 彼は数えもせずに「毎度」と一言告げ、あっさりと帰ろうとする。

 俺にとってお金以上の仕事をしてくれた彼に礼も言わないのは失礼だと考え、俺は大きな声で彼の背中に向けて礼を言う。

 

 

「良い看板を作ってくれてありがとう!」

 

 

 彼は歩みこそ止めなかったけれど、後ろを向いたまま気だるそうに手を上げて返答した。

 看板を作ることなんて滅多にないから、暫く……というか下手したらもう彼の店に行くことは無いのかもしれないけれど、この広くも狭い木ノ葉の里の中でもし会ったら、ご飯でも奢ろうと思いながら、俺は店に 戻って本棚の整理に再び取り掛かる。

 看板が出来てテンションが上がったからか、気付けば3時間程の間ぶっ続けで作業をしていたようだ。

 集中力も上がっていたのか、未分類の本も後僅か。

 

 

「これなら明日店を開くこともできそうだ。

 まぁ別に宣伝とかするわけじゃないから、客なんてほとんど来ないと思うけど」

 

 

 それに店では客が居ない限りは基本的に忍者アカデミーで使われていた教科書を読む予定なので、暇ってわけじゃないからOK!

 何故忍者アカデミーの教科書があるのかは知らないけれど、恐らく管理者の心遣い的な何か何だと思う。

 まだ途中までしか読んでいない忍者の教科書の内容を思い出しながら、その後も本の整理を続け、日が変わる頃にやっと整頓を終えることができたのだった。

 


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