忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第44話 誘い

 朝一番に里中から歓喜の声が上がった……そう遂に第二次忍界大戦が終結したのだ。

 ただし各国が疲弊したために大規模戦闘を行わないという制約を結んだだけなので、小規模の国境争いとかは無くならないだろうが、それでも戦火が小さくなることを喜ばない人間なんて殆どいない。

 それは俺も例外ではなかったが、特に一緒に喜ぶ相手もいなかったので一人静かに滅多に呑まない酒を飲んでいた……ちなみに店内で。

 強い酒じゃないから、もし今客が来ても問題なく接客出来るから特段問題は無いはずだ。

 だがそれはあくまで俺主観の話であり、他の人から見ると日の高い内から仕事中に酒を飲んでいるだけな訳で……当然怒る人も出てくる。

 

 

「朝からお酒なんて駄目です!」

「今日は戦争が一段落した日なのだから少しぐらい羽目を外しても問題ないとは思わないかい?」

「それとコレとは話が別!」

 

 

 そう言ってシズネに酒を取り上げられてしまった。

 少し残念ではあるものの、特に未練があるわけではないので少し苦笑して、コップと酒を元あった場所へと戻す。

 最近シズネは良く俺の健康に気を遣って、栄養剤とか夕飯のお裾分けとかを持ってきてくれることがある。

 いい歳して独身なのをシズネの親が気遣ってくれているのか、それとも世話を焼くのが好きなのかは分からないが、これが結構助かってたりするのだ。

 家庭菜園があるから食材にはあまり困っていないが、料理をするのが面倒な俺は腹が減ると生野菜に味噌を付けて食べたり、外食で済ませたりが多いので家庭料理を食べる機会が余りなかったから、初めて持ってきたときは危うく泣くところだったよ。

 片付け終わって戻ってくると彼女はカウンター横の椅子に座り、持参した本を読んでいた。

 

 

「何時も言っているだろう? 本を売りに来る以外の目的で本の持ち込みは禁止だって」

「だって今月のお小遣いもう無いんだもん……立ち読みしても「いいって言うと思うかい?」ですよね」

「そもそもこの間小遣いを貰ったばかりだろうに。

 何に使ったんだ?」

 

 

 子供の小遣いだから決して多くはないが、シズネは無駄遣いとかするタイプじゃないはずだが……。

 俺がそう質問すると彼女は顔を僅かに赤く染め、俯き気味に呟いた。

 

 

「色々です……お菓子とか、トントンのご飯とか」

「トントン?」

「えっと、最近飼い始めた子豚の名前です。

 何時か私の忍豚にしようと思って育ててるんですよ」

「忍豚って聞いたことがないんだけど他にも居るのかい?」

「私も聞いたことないけど、ずっと一緒にいるんだったら普通の動物じゃ無理ですから」

「忍者は大変だねぇ……アカデミー生活はどうだい?」

 

 

 偶に彼女の父親が店に来るのでその時に多少話を聞いてはいるものの、彼は若干贔屓目に言うからあまり参考にならないのだ。

 まぁ知ったからといって何があるわけでもないわけだが、アカデミーに通ったことのない俺としては少し気になるからね。

 

 

「この間先生が後二年もあれば下忍になれるって言ってくれました!」

「十歳になる前に卒業か……凄いね」

「そんなことないですよ! 同い年の紅ちゃんやアスマ君もそう言われてましたし」

「あぁ、前に言っていた幻術が凄い女の子と体術が凄い男の子か」

「そうです、二人に比べたら私なんて全然」

「でも三人の中で医療忍術を使えるのはシズネちゃんだけだろう?」

「それは綱手様に教えて貰ったからで……」

「医療忍術は精密なチャクラコントロールが必要不可欠で、出来ない人には絶対出来ない。

 確かにシズネちゃんはこの里でもっとも優秀な医療忍者に手ほどきを受けているけど、それが身につくかどうかは努力と才能次第。

 シズネちゃんはそれを少なからず身につけているのだから、その二人にも決して劣ってなんていないよ」

「そ、そうかな? そうだったらいいな」

 

 

 それにカツユが前にシズネは綱手様に医療技術で追いつくことは出来ないかも知れないが、薬学に関する才能は綱手様を上回る可能性があるって言っていた。

 このまま彼女が成長すれば優れた薬師になるだろう……綱手も妹のように可愛がっているからきっと大丈夫。

 

 

「あ、そうだ綱手様から聞いたんですけどヨミトさんってカツユちゃんと口寄せの契約を結んでいるんですよね?」

「一応ね……俺の仕事に戦闘とかは無いから偶に話し相手をして貰ってる位だけど、呼び出すことは出来るよ。

 ただ綱手の召喚が優先されるから、もし綱手が召喚してるときは小さな分体しか呼び出せないんだけどね」

「それでも十分じゃないですか、カツユちゃん可愛いですし」

「初めて見たときは少し困ったけどね……今よりは酸性が弱いとはいえ舌歯粘酸を制御し切れてなかったからカウンターも少し溶けたし」

 

 

 俺が指差す先には一センチほどの穴が開いている。

 カツユはこの穴を見る度に申し訳なさそうにするため、カツユが来た時はその上に本を置いて隠していた。

 俺はもう気にしてないんだけどなぁ。

 シズネは興味深そうに穴を触ってみたり、指を入れてみたりしているが、時折「この酸を使えば新しい何かが作れるかも」とか「溶けた面からするとかなり酸性が高いけど、今はこれ以上の酸性が……」とか若干マッドな思考に傾いてしまっている。

 彼女の意識をこちらに戻すために一度柏手を打つ。

 

 

「ところで今日は何のご用かな?

 いつも通りお話かい?」

「そうだ、忘れてた!

 ヨミトさんって今日の夜何か予定ありますか?」

 

 

 コレはまさかデートのお誘いか!……ってそんなわけないんだが、一体何があるって言うんだ?

 シズネがごそごそとバックの中から一枚の手紙を俺に手渡す。

 

 

「これは?」

「御夕飯のお誘いです。

 戦争が終わったお祝いも兼ねて軽いパーティーをやろうって話になってまして、綱手様も来るのでヨミトさんも誘ったらどうかってお父さんが……予定大丈夫ですか?」

「綱手が……特に予定は無いけど俺が行ってもいいのかい?」

「別に格式張ったものじゃありませんし、綱手様も最近ヨミトさんに会ってないなと言ってらしたので来てくださると嬉しいです」

「そっか……じゃあお呼ばれされようかな」

 

 

 久しぶりに綱手に会うのも悪くない。

 カツユが言うには少し無気力気味になっているらしいし、愚痴の一つでも聞いてあげることにしよう。

 俺はシズネを店の外まで送り、店の看板を裏返してパーティーに行く準備を開始した。

 


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