忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第43話 お詫びの品

 みたらし親子の一件から数日が経過したある日。

 いつも通りのんびり店番しているとみたらし親子が店を訪ねてきた……団子を片手に持って。

 一瞬差し入れかなと思ったけれど持っている人がみたらしさんだし、団子が一つ無くなっているのを見て即座にその可能性を消した。

 

 

「いらっしゃい、そんなに頻繁に団子を食べていて飽きないのかい?」

「俺にとって団子と家族は掛け替えのないもんだからな!

 飽きるどころかいつも物足りないくらいだ」

 

 

 頼むからそんなことで胸を張らないでくれ……そして口にたれがついてる。

 子供ならともかく、おっさんの口についている食べこぼしを拭うのはちょっと遠慮したいのでとりあえずジェスチャーでそれとなく伝えると、服の袖で口元をごしごしと拭き再び胸を張るみたらし父。

 ここまで来ると呆れを通り越して笑えてくるわ。

 俺が笑いを堪えていると、アンコちゃんが父親の前に出て仁王立ちをした。

 

 

「私も居るわよ、おじちゃん!」

「別に気付いてなかったわけじゃあ無いんだけど……アンコちゃんもいらっしゃい。

 絵本の棚は入ってすぐ右の棚にあるから好きなのを選んでいいよ?」

「やった!」

 

 

 アンコちゃんは走って目的の棚に向かうと絵本の物色を開始した。

 その様子を見て微笑んでいると、みたらし父がレジカウンターに腰掛け話しかけてきた。

 

 

「アンコに絵本をやる約束したんだって?

 すまねぇな気使わせちまって」

「別にいいさ、そんなに高い物はないし……怪我させちゃったしね」

「そんなこともあったな……あんなの怪我の内に入らねぇけど、店主が良いなら俺は有り難く受け取るぜ。

 そういや話は変わるが、はたけサクモって忍を知っているか?」

「サクモって白い牙って呼ばれてる凄腕の忍のことかい?

 まぁ名前くらいはね」

「じゃあサクモの息子の事は?」

 

 

 凄腕の忍者という位だから凄くモテてるんだろう。

 なら別に子供の一人や二人居てもどこもおかしくない。

 

 

「へぇ、彼って息子がいたんだね」

「それもとんでもない才能を持った息子がな。

 名前ははたけカカシって言うんだが、今年アカデミーを卒業したって里で結構な噂になってるんだぜ?」

「アカデミーを卒業しただけで噂が立つって何か問題でもあるのかい?」

「問題っちゃ問題だな、なんてたってアカデミー卒業の最年少記録を塗り替えたんだからな!」

 

 

 アカデミーの最年少記録って確か三忍の六歳が最年少だったよな?

 ということは五歳で卒業したのか……それは確かに凄いことだ。

 はたけカカシってたしか原作での主要人物の名前だったはずだから納得は出来るが、それでも小学生一年にも満たない歳で忍術と一般教養をある程度修めたのだから普通に驚きもする。

 

 

「十二歳で卒業とかが普通なのに、七年も早く卒業するとなると周囲の期待も凄そうだね」

「少し気の毒ではあるが、優れた才能を持つ者に期待するのは普通の事だからな。

 アンコもそろそろ入学だが、別に優秀でなくてもいいから出来るだけ怪我無くアカデミー生活を過ごして欲しいというのが俺の親心だ」

 

 

 ならアカデミーに入れなければいいと思うんだが、聞いてみると本人が行きたいと言ったらしく、親としては自分と同じ職に就くという嬉しさと共に危険な仕事をさせたくないという不安があって複雑な気持ちなんだとか。

 親って大変なんだなぁと思わずにはいられない話だった。

 微妙に二人でしんみりしていると「おじちゃん! 本が多すぎて選べないよ!」という声が聞こえてきたので、俺は「少し行ってきます」とみたらし父に瓦版を手渡してアンコちゃんの元へ向かう。

 アンコちゃんの元に着くと、彼女の手には十冊以上の絵本があった。

 

 

「また随分と選んだねぇ、どれどれ……へ、へぇなかなか個性的なラインナップだなぁ」

「おじちゃんのお店凄いね、見たことない絵本がいっぱい!」

「そのいっぱいある絵本の中からこれを選んだのかい……俺は君の将来が不安になるよ」

 

 

 彼女が選んだ絵本はその殆どがバットエンドに近い終わり方をしている。

 姫を守る忍が最後に姫に庇われて姫が死んだり、醜い見た目の男が嫌われつつも他人のために働くが最後には事故で死んでしまったりとか……人に優しくしなさいという教訓を授けるための話なのだろうが、子供向けではない様な話ばかり。

 シズネがよく読むのは可愛い動物が活躍したり、お姫様のお話だったりするんだが、子供によってこんなに好みが変わるものなのか。

 小さくため息を吐く俺にアンコちゃんは上目遣いで話しかける。

 

 

「おじちゃん一冊しか駄目?」

「そう言う約束だったろう?(むしろこのラインナップを全部却下したい位だ)」

「ちぇっ、おじちゃんのケチ……じゃあこれで良い」

「よりによってコレか……他のにしない?」

「嫌!」

「はぁ………わかったよ、袋に入れてあげるから持っておいで」

 

 

 そう言って俺はカウンターに戻る。

 カウンターにはみたらし父が腰を掛けて新聞を読んでいたが、レジを打つわけではないのでそのまま放っておき、紙袋を机から出した。

 そしてアンコちゃんが持ってきた本を紙袋に入れ手渡す。

 彼女が嬉しそうに本を抱きしめているのを見て少し複雑な気分を抱きながらも、喜んでくれたのならとりあえずOKと深く考えないことにした。

 そう例え彼女が選んだ本が忍同士の愛憎劇で最後には浮気した夫の首を落とし、その首を胸に抱いて微笑みながら終わりを迎えるという某学校日々のような話であっても気にしないのだ。

 


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