忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第42話 子供っぽさ

 みたらし親子を追って甘味処に着くと、そこに広がっていたのは宴会のように盛り上がる店内の中で椀子蕎麦のように団子を食い続ける漢の独壇場……要は何処まで食えるのかという好奇心で寄ってきた見物客と一心不乱に団子を食うみたらし父がそこにいた。

 俺は前に来たときと同じ様な状況に深いため息をつきつつ財布の中身を確認する……足りるよね?

 そんな疑問を抱きつつ騒がしい店内を見回すと少し離れたところで静かに団子を食べている子供の姿を見つけ、そちらに足を向ける。

 子供のテーブルには一皿の団子があり、見る限りあまり数は減っていない様だ。

 

 

「お腹減ってなかったかな?」

「あ、さっきぶつかったおじちゃん……言っておくけど私はまだ怒ってるんだからね!

 いくらおじちゃんがパパと仲良しだからって簡単に許したりなんかしないんだから!」

「そっか、じゃあどうしたら許してくれるかな?」

「え? えっと……土下座とか?」

 

 

 いきなり難易度の高い要求してきたなこの幼女。

 衆人環視の中いい大人が子供に土下座とか……何処の貴族社会だよ。

 流石にそれは勘弁だから、別案をどうにかして出してもらおう。

 

 

「ど、土下座かぁ……それは厳しいなぁ。

 他に何か無いかい?」

「う~ん………あ、そう言えばパパが言ってたんだけど、おじちゃん本屋さんなんでしょ?」

「正確に言うと古本屋だけどね」

「古本屋ってなに?」

「お客さんが読まなくなった本を買い取ってそれを安く売っているお店だよ」

「じゃあ絵本とかもある?」

「もちろん、沢山あるとも」

 

 

 何を隠そううちに売られてくる内の二割位は絵本なのだ。

 理由としては基本的に子供の内しか読まないものなので、子供が成長すると親がそれを処分し今度は教材を買い与えると言うのが一般的だからだと思う。

 なんだかんだ言って本は嵩張るものだからしょうがない。

 

 

「なら今度パパとおじちゃんのお店行くから、その時一冊くれたら許してあげる!」

「それなら大丈夫だ、じゃあとっておきの絵本を用意して待ってるよ」

「ホント? 約束だからね!?」

「あぁ、嘘はつかないよ……でさっきも聞いたけどお腹は減っていないのかい?」

「うん、パパとお昼ご飯食べたから空いてない」

「じゃあこの団子持って帰るかい?

 今は食べれなくても家に帰って暫くしたらお腹も空くだろうし」

「いいの?」

「構わないさ……店員さん、この団子お持ち帰り用に包んでください」

 

 

 それからすぐに店員が来て、パパッと団子を包み持ち場へと戻っていく。

 女の子は笑顔で団子を縛った紐を持って振り子のように揺らしている。

 俺としてはそのまま微笑ましい光景を見ていたかったのだが、いい加減この店を騒がす元凶を止めないといけない……俺の財布のためにも。

 俺は女の子を連れて、騒ぎの中心となっているテーブルへと向かう。

 子供を庇いつつ民衆をかき分け、何とか最前列まで辿り着いた俺だったがテーブルの上に乗った串の数を見て目眩がした。

 

 

「みたらしさん……俺は言ったはずだよ?

 自重してくれって」

「ん、着いてたのか………だが俺も言っただろう?

 善処するってな」

「よし分かった、表に出ろみたらし。

 お前の脳みそに自重という二文字を刻んでやろう」

「望むところだ……と言いたいところだが、確かに今回は食い過ぎた。

 ちゃんと自分で払うから安心しろって。

 店員、会計を頼む」

 

 

 先程団子を包んでくれた店員が指差し確認しながら串を数えていき、一体何本になるのだろうと野次馬が息を呑む。

 そして十秒ほどで数え終えた店員が静かに指を下ろし、口を開いた。

 

 

「合計30本で600両になります」

「「「うぉおおおおおおおおおお、すげぇええええ!!!」」」

「どう考えても食い過ぎだ……昼飯食べた後で何故こんなに食えるんだ?」

「それはアレだよ、甘いものは別腹ってよく言うだろ?」

「限度があるだろう……なぁ、君のお父さんはいつもこんなに食べるのかい?」

「パパはいっつも甘いもの食べ過ぎってママに怒られてるよ?」

「アンコ!? ま、まさかママに話すつもりなのか?!

 ママには内緒、内緒だぞ?!」

「パパが今度おじちゃんのお店に連れてってくれたら言わないでおいてあげる」

「そんなのお安いご用だ! だからママには言わないでくれよ?!

 これ以上小遣い減らされたら毎日の楽しみがピンチで危機だ!!」

 

 

 みたらし家の家長お小遣い制なのか……世知辛いな。

 というかこのアンコとか言う子短時間に俺と父親の二人を脅してるんだが……将来が不安すぎるぞ。

 彼には頑張って彼女が歪まないように育てて欲しい。

 そんな親子の心温まる(?)会話の後に会計を済ませ、周りの客に「嫁さんに負けるなよ!」「家も似たようなもんだ、気持ちは分かるよ」「あんたも友達なら口裏合わせて助けてやんなよ?」等の 暖かい言葉を掛けられながら店を出た俺とみたらし親子。

 アンコちゃんは笑顔だが、その父親は少しだけ青い顔をしている……話を聞く限り言わないって約束してくれたはずなんだけど、なんでこんなに顔色が悪いんだ?

 

 

「もしかして奥さん怖い人なのかい?」

「い、いやそそそそそそんなことないぞえ!

 我が輩には勿体なかりける素晴らしき嫁ぞなもし」

「……そうか、うんわかったよ」

 

 

 とんでもなく怖いんだな?

 歯をカチカチ鳴らし、顔を青ざめさせ、膝がブルブル揺れるほど怖いんだな?

 だがアンコちゃんはそんな父を見慣れているのか、バイブレーションする父に抱きついて揺れを楽しんでいる……凄い一家だ。

 そして出来れば早くこの場から離れたくなるような光景だ……っていうか凄く彼らから離れたい。

 

 

「じゃ、じゃあ今日はゴメンねアンコちゃん。

 約束通り絵本を幾つか見繕っておくから今度取りにおいで」

「うん! ほらパパ帰るよ!

 あんまりママを待たせると………」

「そうだな! さぁ帰ろう、急いで帰ろう!!

 それじゃおっちゃんまたな!」

 

 

 みたらしさんは早口で別れの言葉を告げてから、アンコちゃんを背負ったまま残像が残るほどのスピードで移動を始める。

 とんでもないスピードで遠のいていく彼の背中に俺は「死ぬなよ」とまるで戦場に向かう友を送るような気持ちで呟いた。

 


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