忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第36話 完封

 相手を倒すだけなら方法は無数にある。

 ‘地割れ’‘地砕き’‘ハンマーシュート’等々単体除去効果を持つ魔法はかなりの数存在するのだ。

 しかし基本的に除去効果を持つものは周囲に大きな影響を与えることが多い。

 先程例に挙げた三つなどは地形の変化及び大きめの地震が周囲に与える影響だ。

 流石にそんなものを使えば里に迷惑を掛けるし、近くの古い家なら倒壊するかも知れない。

 よって今使うべきものは直ちにここから離れられる魔法か周囲に影響のない除去魔法……来るときに使った‘死のマジックボックス’が使えれば楽なんだけど、あれは対象の大きさに制限がある。

 おおよそ三メートルまでならスッポリ収まるんだが、それを越えると発動しないのだ。

 こういったカードゲームだった頃には無かった制約が意外と多く、十年以上経った今でも何故か発動できないものも存在する。

 少し話が逸れたが今の状況にあった魔法を模索しなければならない。

 俺の魔法や罠の効果範囲は俺を中心とした百メートル四方。

 要は遠距離転移とかは出来ないってことだ……故に前者は棄却。

 後者に適した魔法を考えなければならないわけだ。

 

 

「一つ丁度良いのがあるが、問題は死体が無傷っていうことか……まぁやってから少し焼けばそれっぽく見えるかな?

 さてあんまり時間を掛けると応援に駆けつけた人に見られるから他の手を考えてる時間なんて無いよな……こんなことだったら応援呼んでくれなんて頼まなきゃ良かった」

「おーえん?」

「そうだよ、みんなシズネちゃんのことを心配して迎えに、ってうおっ!?」

 

 

 視界に何か液体のようなものが飛んでくるのが見え、檻の壁を利用して三角跳び。

 液体は地面に着地し、土と草を溶かして消える。

 

 

「溶解液吐く蛇とか勘弁してくれよ……これじゃあ檻の意味あんまり無いぞ」

「ないぞ~」

「真似するんじゃないの……っと急がないと。

 魔法発動‘死者への手向け’」

 

 

 単体除去魔法‘死者への手向け’。

 この魔法は手札一枚を墓地に捨てることで対象のモンスター一体を墓地に送る効果がある。

 そして手札をコストにする魔法の発動には発動宣言から効果発動までに若干のラグが生まれる。

 手札コスト一枚につき発動まで三十秒……発動までに対象が効果範囲から抜ければ別の対象をターゲットに選ばなければならず、しかもまた三十秒待たなければならないのだ。

 

 

「あと三十秒この溶解液の雨を避け続けろって……そりゃルナティック過ぎるだろ。

 現状の使用枠は三つだから、後二つ魔法が使えるな。

 ならその厄介な遠距離攻撃を封じさせてもらおう。

 魔法発動‘攻撃封じ’」

 

 

 この魔法は対象一体を強制的に守備表示に変える効果を持つ。

 だが守備表示と言っても全く攻撃できなくなるわけではない。

 この魔法の効果は攻撃手段の一つを封じるというだけ……使い道があまりなさそうだと思っていたけれど、こんなところで使うことになろうとは思っていなかった。

 大蛇は口を開いて次の溶解液を出そうとしたが、かすれた音と共に空気が出てくるだけでいつまで経っても次の溶解液は出てこない。

 その事に苛立った蛇は先程よりも大きく暴れ出すが、檻を壊すことはできなかった。

 

 

「さぁそろそろ時間だ……別段恨みは無いが運が悪かったと思ってくれ」

「う~? だぁれ?」

「俺の友達の人だよ」

 

 

 眼前に突如現れた全身を包帯に包まれた男を見て疑問を覚えるシズネにそう言いつつ、顛末を見守る。

 男がゆっくりと暴れる蛇へと近づいて息を吹きかけると、まるで電池の切れた玩具のようにその巨体が地面に崩れ落ちた。

 目を見開き、舌もだらしなく口外へ出ている所を見るとどうやら問題なく効果は発動したのだろう。

 男は何の感情も感じさせない眼で俺を軽く一瞥し、仕事は終えたとばかりに地面へ溶けるように消えていった。

 

 

「さてと後はこの死骸をどうするかだけど……とりあえず牙だけ持って帰るか。

毒を何かに使えるかも知れないし」

 

 

 俺は‘魔法除去’で鉄檻を消し、クナイにチャクラを纏わせて牙を切り落とすと、厳重に布に巻いてウェストポーチへと収納し、蛇に軽く手を合わせて演習場を出ようと元来た道を戻り始めた。

 そろそろ誰かが来てもおかしくないから急いで戻った方が良いのは確かなんだが、如何せん俺の片手にはシズネがいるために全速力というわけにはいかない……その代わりにシズネは凄く楽しそうだけど(結構飛んだり跳ねたりしてるんだけど声をあげて喜んでいる)。

 そうして行きよりは時間の掛かった帰り道だったが、何とか金網の前まで着き一息。

 しかしそこには会ったことのない三人の忍が待ち構えていた。

 

 

「本瓜ヨミトさんですね?」

「え、はい……それがどうかしましたか?」

「貴方を火影様の元へ連れてこいとの命令だ。

 ちなみに拒否権はない」

「おじちゃん?」

 

 

 シズネは三人の内の一人が高圧的な口調でしゃべり出したので不安になったのだろう。

 俺の服を強く握って背中に顔を隠す。

 子供がいるところで凄むなよ……ったく早くこの子を親の元に連れて行ってあげたいっていうのに。

 

 

「火影様の所に行くのは問題ないけど、この子はどうすればいい?

 この子の親は今や遅しとこの子の帰りを待っているんだが」

「それに関しては心配しなくて良い。

 その子供の親も火影様の元で待っているからな」

「は?」

「火影様が貴方を呼んでいる理由は今回のことに対するお褒めの言葉と今回の件に関して詳しい話を聞きたいというのが主な理由です。

 詳しい話はあっちで説明しますのでついてきてください」

 

 

 そう言って三人の忍は屋根の上を渡って火影邸へと進み始める。

 俺は少し呆然としていたが、シズネが「行かないの?」と首を傾げているのを見て慌ててその後を追い始めた。

 


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