店から目的の場所までの距離はそう遠くなく、急いで移動した俺は数分後に到着することが出来た。
演習場は金網で囲まれており、一般人が入れない様になっているのだが風雨による劣化の所為か所々に小さな解れがある。
大きいものは子供が四つん這いになれば通れる位の大きさはあるから、シズネが入ったとすればそこから入ったんだろう。
その隙間に近づいていくと何かが引っ掛かっているのが分かる。
「布?……それにこの柄はシズネが着ていた服に似ている。
やっぱりこの中に入ったのか……急いだ方が良さそうだな」
でもどうやって中に入ろうかな?
普通の金網みたいだからぶち破ることもできなくないけど、後で面倒な事になるだろうから別の方法の方が良い。
飛び越えるには高いし、昇るのは時間が掛かるし、正攻法で許可をもらうなんて言うのは急を要する今一番ありえない選択肢だろう……と言うわけで裏技使います!
手段さえ択ばなければ金網を越える方法なんて幾らでもある。
装備魔法‘ミストボディ’で金網をすり抜けても良いし、‘強制転移’でテレポートしても良い。
「だがあえて俺は‘死のマジックボックス’を発動。
対象は……そこのキモい蜘蛛だ!」
宣言と共に俺の身体と金網の向こう側に居た俺の頭より大きな蜘蛛が直方体の箱に包まれる。
蜘蛛も逃げ出そうとガサガサしているようだが、一度閉まったこの箱から出るのはまず不可能。
俺の視界も蓋で遮られているため状況は聴覚で確認するしかないが、硬い物に刃物が刺さる音が聞こえてくる。
そしてゆっくりと蓋が開き、箱から出ると俺は金網の内側に居た。
目の前には金網を挟んで、地面に転がるバラバラになった蜘蛛が一匹。
蜘蛛の死骸を見て俺が思うことは一つ……世の中に居る蜘蛛の一匹が減って良かったという思い。
正直蜘蛛の動きと糸、毒を持つ種類がいるっていう時点でどうしても受け入れられないんだ……この世界に来る前からこの思いは全く変わらない。
頼む蜘蛛……絶滅してくれ!!と手を合わせるが、ふと我に返る。
「っとこんなことしてる場合じゃない。
シズネ探さないと」
俺に人探しの術は無い。
出来るのは唯のごり押し……走り回って地道に探すだけ。
俺は足の裏にチャクラを集中させ、まずは木の上に飛び上がる。
そして木から木へ、次々と飛び移っていく。
十分程が経過し、そろそろ見つかっても良い頃だと思うんだが……もしかして奥まで入ったのか?
だとしたらもう………いや、諦めるのはまだ早い。
今は何も考えずに探すんだ!
小さな異変すら見逃さず聞き逃さない様に聴覚と視覚をフルで使う。
すると遠くで枝の折れる様な音が聞こえ、俺は縋るような思いで音のした方へ全力で進むと、そこには木の影で震えているシズネの姿があった。
彼女の手には綺麗な花が数輪握られており、それを目当てに此処まで来たのだろう。
パッと見たところ大きな怪我もない様なので安堵のため息を吐きつつ、木からシズネの横へ跳び下りる。
「一人でこんな所にきたら駄目だろう?
さぁお父さんも心配して「しぃ~!」……どうかしたのかい?」
「でっかい蛇がいたの……」
「大蛇か、どの位の大きさだった?
それ何処で見た?」
「あっち……熊さんをパクって食べちゃうくらい」
熊を丸呑みに出来る大きさ、そんなの居るのかここ? まぁいい、シズネはデカイ蛇見て怖くなって隠れてたってとこだろうな……とりあえず今は此処を離れた方が良さそうだ。
そう考え俺はシズネを片手で抱き上げ、一刻も早くこの森を出ようと足に力を入れた瞬間、木の上から葉っぱが数枚落ちてきた。
嫌な予感がし、咄嗟に右に飛び退る。
すると先程まで俺が立っていた場所にとんでもない大きさの蛇が口を開けながら飛んできた。
「う~……でっかい蛇怖い」
「これがシズネちゃんが見たって言う蛇か……ちょっとデカ過ぎないかい?」
その体長は十メートルを優に超え、口も人を丸のみ出来そうな程大きい。
そして蛇は俺とシズネを見て舌なめずりをしていることから、明らかに喰いに来ている。
逃げれるのならばそれが一番良いのだろうけれど、コイツの初速が分からないために逃げに回るのは危険だ。
故に戦いは避けられないが、俺は自分の身体をトラに喰わせるような仙人でもなければ、博愛主義者でもない。
コイツが俺達を喰い殺そうってんならこっちも全力で殺し返させてもらう。
俺はホルダーからクナイを引き抜き、シズネを持った手とは逆の手に構える。
シズネを抱えているために近接戦闘や激しい動きは出来ないし、印も組めない……よって俺が今使えるのは魔法・罠だけ。
しかも今後の事を考えるとあまり派手なことも避けなければならない。
そう考えると意外と手が限られるが、まずは安全を確保するために二つの罠を伏せておく。
シズネがまだ小さくてよかった……大きかったら俺が今からすることに対して疑問を持つだろう。
遊戯王の魔法と罠はこの世界では俺しか知らないものだ。
印を組まないで忍術の様なものが使えるなんて知られたら裏の人たちに目を付けられかねない……念のため後でシズネにも黙っておくよう言っておこう。
「まずは動きを制限させてもらう。
‘悪夢の鉄檻’発動!」
俺と大蛇をそれぞれ別の鉄檻が囲い込む。
この鉄檻は物理的な衝撃では決して壊れない代わりに最長でも十分後には自壊するもの。
忍術などは素通りしてしまうために忍者相手なら、ただの遠距離合戦を強いるだけのものなのだが、忍術を使えない相手にとっては文字通り何も出来ない檻の中に放り込まれたのと同義。
大暴れする蛇を尻目に俺は一方的な戦闘を開始する。