ダン君の……今回の大規模戦闘での戦死者弔いの儀で会った綱手は明らかに心身供に疲弊していた。
その姿を見て白髪の青年や火影様も彼女に一声掛けていく。
俺もすぐ声を掛けようと思ったが彼女の今いる場所は少し離れているし、俺の近くには声を上げて泣くシズネがいたので、先にシズネを慰めることにした。
シズネにとってダン君は優しいお兄さんであり、同時に少し厳しい先生の様な存在だったと彼女の両親から聞いていたので、俺は何も言わず泣きながらダン君の良いところを言い続けるシズネの頭を撫でる。
しばらくすると泣き疲れたのか、シズネが俺により掛るように眠ってしまったので彼女を両親の元へ運び、シズネの元を後にした……彼女の母親が少し震えたような声で帰り際に言った「少し落ち着いたら綱手ちゃんと夫婦になるって言っていたのに……死んでんじゃないよ馬鹿野郎」と言う言葉が耳に残った。
俺がシズネの元を離れ、綱手のいる方へ足を進める頃には傍に先程いた二人の姿は無く、彼女は涙も流さずジッと石碑に刻まれたダン君の名前を見ていた。
その姿を見て俺は彼女が無理をしている様な気がして声を掛けずには居られなかった。
「泣いた方が楽になるんじゃないかい?」
「ヨミト……泣いてもダンは帰ってこない。
それに私はもう嫌ってほどに泣いたわ」
「でも悲しいんだろう?」
「悲しいよ……悲しいし、悔しいし、怒ってもいる。
ダンが死んで悲しくないわけがない。
私がもっと強ければダンは死ななかったかもしれない。
何故私を置いて死んでいくんだ……縄樹もダンも何故死ななければならなかったの?」
「っ………」
「……ごめんなさい、八つ当たりみたいなことした。
本当は分かってる。
殺し殺されが忍者の宿命だってこと位……でも思わずにはいられないのよ。
もしあの時私にダンの傷を治すだけの力があればダンは死ななかったんじゃないか、そもそも私がもっと敵を倒していればこんなことにはならなかったんじゃないかって……」
「それは背負いすぎだよ……確かに綱手は木ノ葉の三忍と呼ばれるほど優秀な忍者だけど、全てを一人でどうにかするのは難しいと思う」
「そんなの言われなくても分かってる……でもどうしても離れないのよ。
血まみれで横たわるダンの姿と死にたくないって言ったときのダンの顔が、脳裏に焼き付いて離れないの……」
そう言って綱手は怯えるように自身の震える身体をきつく抱きしめた。
俺はその姿を見て思わず「全てを忘れて生きるのも一つの選択だ」と言いかけたが、彼女は絶対それを受け入れないだろうと思い口を開かず、無言で背中を撫でるように数回叩いた。
そのまま泣いている子供をあやす様にゆっくりと一定の間隔で背中を叩く。
暫く続けていると次第に落ち着いてきたのか身体の震えは止まり、身体をきつく抱きしめていた両腕からは力が抜け、今は俺の服を摘むように握っている。
三分後……少しだけ顔の険が取れた綱手は俺の服から手を離し、俺から距離を取った。
「ありがと……すこしだけ楽になったわ」
「それは良かった……もうこんな時間か、そろそろ日も暮れて寒くなるから家まで送ろうか?」
「ヨミトが? 嬉しい申し出だけど、遠慮しておくわ。
むしろ私がヨミトを送っていく方が現実的じゃない?」
「確かに綱手の方が俺より強いだろうけど、綱手疲れてるだろう?
少しやつれているし、目も腫れて隈も酷い……今の綱手にいつも通りの動きが出来るとは思えないよ」
「そう、ね……じゃあお願いしようかな」
弱々しく笑う綱手と供に家路へ向かう。
互いに喋らず、ただ歩き続ければ数分で着く距離。
そんな短時間では流石に何も起こらず、別れ際に言葉を一言二言交わして、今度は一人帰路につく。
「あまり思い詰めない方が良い」とは言ったものの、無理だろうな……縄樹の時とは違って目の前で亡くなったらしいし、すぐ割り切れるようなタイプじゃないから。
しばらくは気に掛けてあげた方が良いかもしれない。
無いとは思うが、万が一のことも考えておかなければ。
家に帰ってからもしばらく色々と考えていたが、やがて眠気に耐えきれなくなって眠ってしまった。
翌朝俺は店の戸を激しく叩く音で目を覚ました。
開店にはまだ早いし、この店にこんな朝早くから用のある人なんて今まで一人もいなかったので、疑問を覚えつつも眠たい目をこすりながら店の戸を開けると、そこにはシズネの父親が血相を変えて息を切らしていた。
「ど、どうしたんですか?!」
「シズネは……シズネはここに来てないか!?」
「シズネちゃんですか……いえ今日は来てませんけど」
「ここでもないのか、クソっ! 何処に行ったんだ!!」
「シズネちゃんがどうかしたんですか?」
「朝起きたら家にいなかったんです……そうだ、本瓜さんって忍者と同じ位動けるんですよね?!
ならシズネを探すの手伝ってくれませんか!!」
「手伝うのは別に構わないんですが、何処か心当たりはないですか?
流石に闇雲に探していては時間が掛かりすぎますし」
「そんなのがあれば真っ先に探しに行ってる!!
分からないからシズネが行ったことのある場所を片っ端から回っているんだ!」
確かにそれが分かってればここには来ないよな。
でもこういう場合何気ない言葉の中に答えがあったりする……例えば
「そうですか……じゃあ昨日の葬儀の後にシズネちゃんは何か言っていましたか?」
「それが今何か関係あるのか!?」
「あるかもしれません」
「ちょっと待ってくれ、今思い出すから………そう言えば、前ダンが森から持ってきた綺麗な花をくれて嬉しかったからお返しがしたかったとか言ってたのを聞いたような気がする。
あの時は色々と挨拶回りとかで忙しかったから少し曖昧だが……」
「そこが怪しいですね……その詳しい場所は? もう見に行ったんですか?」
「いや、だって彼処は入るのに許可がいるからシズネ一人じゃ入れてもらえるはずが……」
段々顔色が悪くなっていく彼を見て状況がかなり切迫していると感じ、俺は一旦店に戻り、店の鍵とクナイを持ってくる。
そして店に鍵を掛け、臨時休業の立て看板を置いた。
シズネが言っていた森って言うのは恐らく演習場にある森だろう……俺の家にいるときに地図を見ながらここに咲いている花が綺麗なんだと力説していたから。
彼処は森の奥に行けば猛獣や毒虫が跋扈している場所だ……手前の方ならば危険は多少減るけれど、それでも子供一人で行くには些か危険が大きい。
「あなたは至急綱手に連絡をして「綱手ちゃんは急ぎの任務が入ったとかで里にいないんだ!」じゃあ、火影様の所に行って急いで人を呼んできてください!」
「も、本瓜さんはどうするんですか? まさかその格好は……」
「俺は一足先に現場に向かいます」
「すみません………娘を、シズネをどうか宜しくお願いします」
俺は深く頭を下げる彼に「全力を尽くします」と一言言って、瞬身の術を使い現場へと向かった。