縄樹が死んで早一年。
未だ戦争は終わっていないどころか激化している。
店に来る客も減り、何とか生活費を稼いでいる状況だ……貯蓄は大分残ってるが。
縄樹が死んで常連客が一人減り、綱手も本を買う頻度が極端に下がった。
まぁそれでも零じゃないだけマシなんだけど、でも直接本人を見たのは縄樹の葬儀が最後で買いに来るのは使用人かカツユ。
最初はやっぱり丸薬の事を割り切れなかったんだなと思って意気消沈していたんだけど、カツユの話を聞く限りアレ以来綱手は任務を受ける数が増え、自由な時間が殆どない状態らしい。
そして自由な時間はダンという同僚と会っているのだとか……縄樹の死後綱手の元に足繫く通い、彼女の心の支えになっていたことで急接近したとカツユが嬉しそうに言っていた。
最近はダンに姪が出来たとかでその子を溺愛しているらしい。
その他にも里で幾つか変化したことはある。
山中・奈良・秋道家の嫡男で組まれたチームが下忍とは思えない活躍をしているとか、油目一族が虫使いとして有名になり女性に怖がられるようになったこと、そして綱手・自来也・大蛇丸の三人が木ノ葉の三忍と他国に恐れられるようになったことなどが主だったことだけど、俺には関係ない事ばかり。
俺に関する変化は修行時間の増加に伴い店を閉める時間が一時間早くなったことと、手札やライフを使用して発動する魔法などの実験を始めた事。
身近な人が死ぬことで改めてこの世界が死に満ち溢れていると感じ、自衛手段の強化を目的に今まで手を付けてなかった部分に手を付けたわけだが……あらかじめ試しておいて良かった。
試して分かった事はライフは体力、手札は発動までの時間、山札は気力とイコールらしい。
気力に関しては気の持ちようによっては大した問題は無いんだけど、山札の消費が激しいものを使い過ぎれば部屋の片隅で膝を抱えて小刻みに揺れたくなるかもしれない。
まぁ余程の事がない限りそんな事にはならないけど頭の片隅には置いておいた方が良いだろう。
で……問題はライフの方で、ライフ0になるまで試したわけじゃないけどライフが減れば減るほど意識が遠のきそうになるのだ。
もしあれが戦闘中であればかなり大きな隙が出来てしまうから、ちゃんと計画的に使わないといけない……あらかじめライフポイントを回復する魔法を使用しておくと言うのも考えたんだが、ライフが全く減っていない状態でライフを回復する魔法を使用しても回復はしなかったからその案は断念せざる得なかった。
とりあえず罠カードを用いた事後回復がもっとも有効な手段と考え、今はある程度納得した。
怪我とかもライフ回復で治るし、伏せるデメリットは殆ど無いしね。
店の外に客らしき気配を感じた俺は、修行状況の自己確認をそこで打ち切り気持ちを切り替える。
「……失礼する」
「いらっしゃい、今日も本を探しに来たのかい?」
「………この間店主に薦められた本は中々面白かった。
故にまた何か見繕ってくれると嬉しい」
店に来たのはサングラスを掛け、襟の立った長袖を着ている少年。
この子は3週間くらい前にフラっとこの店にやって来て、無言で動植物の棚の前で一時間くらいジッと立っていたので、少し興味が湧いて話しかけると「……虫が活躍する物語を探している」って言うから一冊の小説を渡してから、偶に店に来る様になった小さな常連(予定)さんだ。
見た目的に……っていうか一度袖から虫を出して本を探しているところを見たから多分油目一族の子なんだろう。
ちなみに俺は虫がそれほど得意じゃないので店内で虫を使うのはその時禁止した。
若干悲しそうな顔をした様な気がするが、表情が変わっていなかったので勘違いかもしれない。
なんにしても今は彼に新しい本を見繕わないと。
「今日はどんな本をご所望で?」
「虫の生態、もしくは構造などが載っている本を所望する」
「図鑑とかは普通にあるけど、そう言う本は君の家にもうあるよね?」
「ある」
「じゃあ何かに特化した本の方がいいんだろうなぁ……少し値は張るけどコレとかかな」
俺は棚から毒虫百選という本を引っ張り出して彼に手渡す。
この本は薬師が薬を作る際に参考にすることもある中々使い道のある本だ。
もしかしたら持っているかとも思ったが、本を突き返してこないことから見たことのない本なのだろう。
一応絶版になっているらしいから持っていなくても不思議はない。
「コレは……良い物だ」
「それは良かった。 で、それ買うかい?」
「……いくら払えばいい?」
「定価が500両だから……半額……いや200両かな」
状態が悪いわけじゃないけど日焼けが少し目立つし、図鑑とかこういう本はあまり売れ行きが良くないから少しオマケだ。
常連相手だったらもう少しまけてあげても良いんだけど、この子はまだそれほど来てないからここが妥協ライン。
「200両か……分かった」
「はい、丁度」
「……良い買い物をした。
なぜなら俺は毒虫に興味があるからだ」
「そ、そうなんだ」
「では店主、失礼した」
彼はそう言うと少し早足で店を出ていった。
多分早く家に帰って読みたいんだろう。
本当に虫が好きなんだな……俺には分からない世界だけど、何かに興味を持つことは良いことだ。
好きこそものの上手なれって言うくらいだし、きっと彼は良い虫使いになるんだろう。
ってことは彼と戦うと大量の虫が襲いかかってくるってことか………絶対敵対しない様にしよう。