気付けば初めての縄樹との訓練から三年が経過し、彼は8歳になり、綱手は21歳。
俺自身がこの世界に来てから10年近くになったってことだ。
あっちの世界での歳と合わせれば彼此30年以上生きてるってことになるんだよね……縄樹がおじさんって呼ぶのもあながち間違いじゃないな。
「でね、今度くのいちクラスが作られるみたいなのよ………ねぇ聞いてる?」
「ん? あ、うん」
「ならいいけど……要するにこれからは私の後輩達がドンドン増えるってことなわけ!
ホント今から楽しみだわ!」
そう嬉しそうに話す綱手。
たまたま時間が出来た彼女が久しぶりに店に顔を出しに来て、昔の様に雑談しているというのが今の状況だ。
この会話の前に縄樹の修行状況とかも話したんだけど……というかそれが今日来た一番の理由だったのかもしれない。
最近の彼の伸びは流石千手一族と思わざるを得ない程で、既に俺の覚えている忍術と体術を全て覚え、今では組手でもいい勝負をするようになってきた。
その上苦手だった投擲技術も毎日の反復練習で精度が向上し、オールラウンダーな忍に成りつつあるということを綱手に話すと、無関心そうに「へぇ」と一言……まぁ顔に喜びが隠し切れてなかったけどね。
でその後さっきの話に移ったわけだが、俺にとってはそこまで興味がある話でもなく、聞き手に徹していると話が次の話題へと移る。
「そう言えばこの間の任務の話なんだけど、なかなか見どころのあるヤツが居たのよ」
「蛇っぽい子かい? それとも白い髪の腕白な子かい?」
「あいつらじゃないわよ……そりゃああいつ等の力は認めてるけど、そういうのじゃないの!
そいつダンっていうんだけど、任務中に怪我をした仲間のために囮をかって出たり、細かい気配りが出来たりして、頼りになるというかなんというか……」
そう言って微かに頬を染める彼女の様子を見て、俺は綱手に春が来た事を知った。
なんだか娘を嫁に出すような複雑な心境だが、会ったことのない人を悪い様に言うのは良くないと思うし、話を聞いている限り良い人っぽいので、付き合う付き合わない関係なく両者が傷を負わない事を切に祈るとしよう。
なんにしてもこのまま少女の甘酸っぱい話を聞いていると、思わずリア充○○しろ的な事を言ってしまいそうなので、一先ず延々とダンと言う忍の事を語る彼女を止めることにする。
「そっか、綱手はダン君の事が気になるんだね?」
「なっ!? ばっ……馬鹿なこと言わないでよッ!
私はそんなこと一言も言ってないじゃない!」
「別に良いと思うんだけどね……今まで浮いた話の無かった綱手にそういう相手が出来て俺は少し安心したよ。
いっつも話に出てくる白い髪の男の子が相手じゃなかったのが少し不思議だけどね」
「あぁ、アイツは無いわ。
だってアイツはスケベが服着て歩いているようなものだもの。
アイツと付き合うなんて里が木っ端微塵になる位ありえないわよ」
それはあり得ると言うことだな……将来的に。
まぁ冗談はさておき、やっぱりこの時点ではこういう印象なのか。
来る回数は少なくなったけれど、来た時は必ずと言っていいほど未来のエロ仙人の話が出ていたから、この時点でも多かれ少なかれそういった感情があると思ったんだけど……予想が外れたな。
若干嫌そうな顔でそう言われれば信じざるを得ない。
俺がやっぱり女性っていうのは難しいなと考えていると、ふと何かを思い出したように「あ、そう言えばアイツの話で思い出したんだけど、この間風呂に…………」といつも通りの彼に対する愚痴が始まった。
決して仲が悪いわけじゃないけど、やはり三代目の直接指導を受けた仲間としてしっかりして欲しいという気持ちが強いんだろうな……大蛇丸は話聞かなそうだし、その分自来也にしっかりしてもらいたいのだと思う。
だけど一時間は長いよ綱手。
気が済むまで話して、心なしかすっきりした顔になった綱手はしゃべり疲れたのか、あらかじめ持っていた水筒で喉を潤すと、小さくため息をついた。
「ふぅ、ちょっとすっきりしたわ」
「………それはよかった」
「ごめんね、最近他国からの攻撃が激化して、その対応の所為で色々とストレスが溜まってて」
「そんなに大変なのかい?」
「大変も大変! 何処の国も一歩も譲らないから武力衝突なんて当たり前だし、過激な奴だったら一般人が居てもお構いなしに攻撃仕掛けてくるのよ?!」
俺の疑問に彼女は予想外のテンションで返してきた。
ついさっき一息ついて落ち着いた綱手が、突如先程以上に声を張り上げた事に俺は驚きを隠せない。
「それは……ひどいな」
「でしょ!? 不意を突くためなんだろうけど、自分の里の人を巻き込んで攻撃するなんて信じられないわ!
事前に止めることが出来たから被害は殆どなかったけど、あの時止められなかったらどうなっていたことか……」
どんな術を使おうとしたのかは知らないけれど、彼女がこう言う位なのだから普通の人が受けたら致命的なものなのだろう。
俺は改めて大戦に強い忌避感を感じ、顔を歪めざるを得なかった。
その後は今後の里の事や、縄樹の事などを話して彼女は店を出たが、彼女が去ってからも今回の大戦……いや今回だけじゃなくこれから起こるであろう大きな戦いで自分は本当に生き残ることが出来るのかという疑問が延々と頭の中を廻る。
その不安を拭うため、普段よりも激しい訓練をして翌日ひどい筋肉痛になってしまったのはしょうがないと思う。