襲撃翌日の朝……流石に店内が荒れていたので臨時休業して本棚の整理や穴の開いた天井を直したりしていたら気付くと三時間ほど時間が過ぎていた。
昼前に終わるとは思っていなかったので、これからどうしようかと悩んでいると店の床に切れた糸が数本落ちているのを見て、糸の補充とその他の仕掛けの点検をした方が良いと判断し、引き出しからテグスとハサミを取り出す。
「まずはどの糸が切れてるのか確認しないと……ポチッとな」
小さな音を立てて出てきた糸にチャクラを通して伸ばすと、十本中三本の糸が短くなっているのが分かった。
多分拘束するときに匕首にでも当たったのだろう。
俺はその三本を仕掛けから外し、丸めてゴミ箱へ捨てる。
そして新しい糸を付け直すともう一度チャクラを流して異常がないか確認し、特に問題なかったので仕掛けの中へ戻す。
「これで一つ目の仕掛けは点検終わりっと……次はこれだな」
カウンターの下にある床板を強めに蹴るとガタンという少し大きめの音がしたと同時に天井から鎖のカーテンが降りてきた。
これがこの店にある第二のからくり。
襲撃者を糸で捕らえきれなかった場合はこのカーテンの内側で身を守るのだ。
まぁ昨日は縄樹君がカウンターの外にいたから使う機会なかったんだけど、普通の刀位の斬撃なら防げる程には硬いから防犯には丁度良いんだよね。
流石に忍相手だとあんまり意味ないだろうけど……切れ味云々と言うよりも火や風を防ぐようには出来てないし。
一応この店には後一つだけ仕掛けがあるんだけど、それは最後の手段だし、商品が確実に駄目になるので使いたくない。
別に時間が経って使えなくなる様なものでもないから点検がいらないのは良いことなんだけどね。
一通りチェックを終え、鎖のカーテンを気合い入れて戻すと、突然店の戸が開いて人が入ってきた……休業日の看板置いといたはずなんだけどな。
客の顔は逆光で見えないが、どうやら子供と高校生位の女の子の様だ。
「すいません、今日は休みなので本をお買い求めなら明日以降にしていただけると……」
「今日は買い物じゃなくてお礼を言いに来たの」
「礼?」
「そう……私の弟を守ってくれてありがとう」
「弟を守った………って事は綱手?!」
「え? 気付いてなかったの?」
雲の位置がずれ、逆光じゃなくなると店の入り口に立っている二人の顔が明らかになった。
立っていたのは私服姿の綱手と縄樹君。
少しキョトンとした表情で立っている。
「いやぁ、逆光で顔が見えなくてね。
ところで二人は今日は何の用かな?」
「だからお礼を言いに来たの!
ほら縄樹も」
綱手に背中を軽く押され俺の前まで来た縄樹君だったけど、何か言いたげに黙っている。
よく見てみると偶に天井に目がいっているのが分かった。
天井になにか………あ!
一つ思い当たる事があったので引き出しを開け、昨日の忘れ物を取り出すと「あっ」と縄樹君の口から声が漏れた。
俺は苦笑すると昨日縄樹君が天井に刺しっぱなしにしていったクナイを彼の手に握らせる。
「これ忘れていったよね?」
「うん、本当なら昨日取りに行く予定だったんだけど、三代目様に疲れてるだろうから今日は家に帰れって言われたから取りに戻れなかったんだ……本当に良かった」
「大事なクナイなんだね」
「うん! だって姉ちゃんのクナイだもん」
何処かで見たことのあるクナイだと思ったら綱手のお下がりか……普通お下がりって嫌がると思うんだけどな。
まぁ仲が良いに越したことはないから良いんだけど。
「縄樹! そうじゃないでしょうが!」
「あ、そうだった。
オホンッ…… 昨日は助けてくれてありがとうございました!」
縄樹君がそう言いながら勢いよく頭を下げる。
綱手は自分が上げたクナイをとても大事にしてると言うことを知って少し嬉しそうだが、礼節を軽んじてはいけないと心を鬼にして怒った……つもりなのだろうけど、やっぱり表情が少し緩んでる。
ホント仲の良い兄弟だこと。
「いや、いいって……むしろ俺の方こそ礼を言わないといけない」
「え、なんで?」
「だって縄樹君は俺を守ろうと立ち向かっただろう?」
「でも僕すぐ負けちゃったし……」
「俺にとって勝ち負けは重要じゃないんだ。
守ろうとしてくれたことが重要なんだよ……まぁ今度からはもっと考えてから行動に移した方が良いとは思うけどね」
「うん……わかっ「ちょっと縄樹?」ん? どうしたの姉ちゃん?」
「少し聞きたいことがあるんだけど、攻め込んできたヤクザってどういう流れで捕まったの?」
「えっと……まず僕が接近戦で挑んだんだけど、あっさりクナイ弾かれちゃって無防備になったところをおじさんの出した人形に助けてもらったんだ。
それで怒ったヤクザがおじさん目掛けて走り出したら、突然転んで気付けばおじさんがチャクラで出来た糸で縛ってお終い……ってあれ? 姉ちゃんどうしたの?」
縄樹君の説明を聞いているうちに、どんどん綱手の顔から笑顔が消えていき、代わりに米神がピクピクし始める。
聞き終える頃には笑顔なんて微塵もなく、残っていたのは無表情で怒りを隠しきれない鬼神の姿だった。
「縄樹、相手の戦力もしっかり確認しないうちに勝負を挑むなんていうのは馬鹿のすることよ。
家に帰ってからそれをゆっくりじっくり教えてあげるわ」
「………はい」
縄樹君の顔色が青い……まぁしょうがないな、怖いし。
頑張れ縄樹君!
綱手はその表情のまま俺の方を振り向くと「また時間が出来たら来るわ……ヨミトが使ったチャクラ糸というのも気になるし」と言って、縄樹君の腕を掴んで店を出ていった。
あれ? そう言えば綱手には多少忍術が使えること言ってなかったんだっけ……なんか言われるのは覚悟しとこう。