ヤクザを捕まえたのは良いけど、何かの拍子に抜け出されても困るから、とりあえず彼の手から
ずっと睨み付けてきているヤクザさんだけど、別に騒がないことから必死にここから反撃に移る方法でも考えているんだろう。
まぁさせるわけないんだけどね?
「さてと……縄樹君。
ちょっと火影様呼んできてくれるかな?
もし忙しくて来れないとかだったらこの人引き取って貰うための人を寄越してくれるように言ってくれると助かる」
「え? あ、うん」
「それじゃ、宜しくね」
少し放心気味だったけど店を出て三代目の仕事場の方に走っていったから、あっちは問題ないだろう。
問題はこっちだ。
「俺としてはこのまま拘束しておくのも大変だから自首してくれると助かるんだけど……」
「自首? あぁ自首な!
これ解いてくれたらすぐにでも自首するぜ!?
何だったらここの修理費も出したって良い!」
まるで懇願するように首だけこっちに向けるヤクザさん。
これだけ見てれば反省してるように見えるけど、手の辺りが動いてるから多分これ解いたら殴りかかってくるだろう。
別にそれを返り討ちにしても良いんだけどね……もう見てる人いないし。
でももっと楽な方法があるからそっちで行くことにする。
俺は懐に手を入れて一つの魔法を発動させた。
「魔法発動‘しびれ薬’」
「しびれ薬だと?! まさかそれを使う気か!?
そんなもん使わなくたって何もしねぇよ!」
「いや俺って慎重派だからさ」
「糞! テメェは絶対殺す!
覚えてやがれ糞ヤロ「隙有り」モガッ!」
折角口を開けてくれているので痺れ薬の入った瓶の口を彼の口にねじ込み、喉を軽く叩く。
すると多少咽せたようだけど最初の一口を飲み込んでくれたようだ。
そうなれば後はするすると彼の口の中へ流れ込む。
あまり量も多くなかったからすぐに中身はなくなり、気付けば少し痙攣している成人男性が一人床に転がることになった。
知らない人に言っておくとこの魔法は装備魔法で、このカードが破壊されない限り相手の対象モンスターの攻撃宣言を封じる効果を持つもの。
実際は痺れで動けなくなるから攻撃も何もあったもんじゃないんだけどね。
俺は彼を拘束している糸を再び元の位置に戻し、彼を本棚の所に立てかけておく。
「後は三代目待ちだなぁ………本でも読むか」
「残念だが読書する時間はないぞ」
「……お早いご到着ですね」
「俺が原因みたいだしな、それなりに急いでくるさ。
迷惑掛けた様だな……済まない。
で、その襲撃者とやらはそこに転がってる奴か?」
「そうですね、一応薬で身体の自由は奪ってるんで一日位は動けないと思います」
「……何処でそんな薬を手に入れたんだ?
まさか非合法的な手段じゃないだろうな?」
「自分で作ったんですが、それも駄目でしたか?」
「薬学の知識を持っていたのか……どうだ、やっぱり忍者に「なりません」……そうか、残念だ」
「そう言えば縄樹君はどうしました?」
「あぁ一緒にここに来たがったが、家に帰した。
怪我はなかったみたいだが精神的に大分疲れていたみたいだからな」
「そうですか……このクナイは今度来た時に返そう」
天井に刺さっていたクナイは縄樹君が戻ってきたときに返そうと一応回収しておいたんだけど……カウンターの引き出しの中にでも入れておくか。
俺が引き出しにクナイを入れようとすると三代目がそれを止めた。
「そのクナイは?」
「縄樹君が戦闘中に弾かれたクナイです」
「……そう言えばお前チャクラ糸で此奴縛ったんだって?
なかなかのチャクラコントロールだな」
「実はあれ……チャクラ糸じゃないんですよ」
「だが縄樹は確かに糸が勝手に拘束し始めたと言っていたぞ?
そんなことを出来るのはチャクラ糸位しか……」
「見せた方が早いですね」
そう言ってカウンターにあるボタンを押し込むと、カタンという小さな音と共に本棚の一番下の板が少し開き、かなり細い糸が出てきた。
俺はボタンの横から出てきた糸の先端を持ち、チャクラを流す。
すると糸が波打つように動き出し、あっという間ににヤクザさんを雁字搦めにした。
一応チャクラ糸で同じような事も出来なくないんだけど、こっちの方が楽だし、使うチャクラも少ない。
俺の様にチャクラがあまり多くない人にとってはこっちの方が使いやすいと思う……ただ長さは有限だし、切れたらそれまでと言うのが少し辛いかな?
完全なチャクラ糸だったら切ったり張ったりも自由だからな。
まぁそういったところは三代目ともなれば知ってるだろうけどね。
カンクロウって以外と凄かったんだと改めて思うよ。
「俺はチャクラで糸を作ったのではなく、糸にチャクラを流し込んだと言うわけです。
まぁ糸自体の強度があまり高くないから刃物で斬りつけられると斬れてしまいますので、相手の隙を突かないと拘束は厳しいのですが、彼は興奮状態だったので拘束は割と容易でしたね」
「よく気付かれずに糸を動かせたな」
「かなり慎重にやりましたからね……その所為で縄樹君には少し怖い目に遭わせていまいましたが」
「いや、元はと言えば俺が原因だ。
お前が気にすることはない」
「そう言われても流石に開き直ることは出来ませんよ。
ですが少し気が楽になりました。
縄樹君には今度個人的に謝罪をしようと思います」
「そう言うのなら俺は別に止めはしない。
さてと、それじゃあ俺はそろそろ仕事に戻らせてもらおう。
此奴の進入経路や仲間の有無も調べなきゃならんしな。
それじゃあ、時間が出来たらまた来る」
「またのお越しをお待ちしておりますよ、三代目様」
俺がそう言うと三代目は片手で了解の意を表し、ヤクザを肩に担いで店を出ていった。
こうして突然やってきた初騒動は幕を閉じ、店に平穏が戻ってきた……こういうのはもう勘弁してほしいな。
さぁ縄樹君のために分かり易い教材でも見繕うとするか!