忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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雨雲 その5

 半蔵の一声が開戦の合図となり、控えていた忍が俺と弥彦達へと殺到する。

 一先ず俺は三人と合流するために崖から飛び降り、弥彦達を襲おうとしていた忍達の一部を力任せにぶった斬った。

 分厚い片刃の巨斧は眼前の人間を武器ごと倍の数の肉の塊へと変え、吹き出した血で戦斧が紅く染まる。

 柄の上部付いた干涸らびた人の頭部がまるで歓声を上げる様にピシリと音を鳴らす。

 初めて自らの手で行った人殺しに何かを感じる暇もなく、俺は後ろから何かが迫ってきているのを感じて振り向くと、半蔵の鎌が此方へと迫ってきていた。

 既に間近まで迫っているそれを先程と同じ様に斧で受けようとすると、突然首を狙った直線的な鎌の軌道が俺の脇腹を切り裂く軌道へと変化する。

 咄嗟の判断で腕一本を盾として軌道を逸らそうとすると、鎌に幾重もの真っ白な紙が巻き付き、鞘の変わりとなってそれは切れ味を失った。

 小南の術で操っている紙はチャクラを流し込むことで一般的な紙とは比べものにならない程の強度を誇る……しかし半蔵が持つ鎌の刀身も並の物ではない。

 一秒も経たないうちに刀身の先端が鞘を突き破っており、もし半蔵が激しく振り回せば容易く千切れ飛んでしまいそうな状態……俺は刀身が完全に解放されない内に峰を思い切り蹴り飛ばして鎌を岸壁へと突き刺した。

 下では俺の援護をして隙が出来てしまった小南を守る様に弥彦と長門が戦っており、数に押され気味ではあるものの大きな怪我を負うことなく少しずつ敵を削っている。

 俺はいち早く合流するためにこちらへ向かって飛んできた風遁を斧を盾にして推進力代わりに使い、文字通り飛んで行く。

 弾丸の様な速度で三人を取り囲む敵の一角へ突っ込み、勢いそのままに進行方向にいた数人を両断しつつ、ようやく三人に合流する事が出来た。

 三人は俺が合流したことに安堵すると同時に謝罪を口にする。

 

 

「巻き込んじまってすまない! 半蔵がまさかこんな手に出るとは思っていなかった俺の責任だ」

「過ぎた事はしょうがないさ、そんなことよりも今はこの場をどう切り抜けるかの方が重要だよ」

「多勢に無勢……もうアレを使うしかないのかも」

「長門! アレを使う事は許さないわ、アレを使えば貴方は……」

「小南の言うとおりだ長門、此処は俺が囮になって三人を逃がすのが最善……」

「何を言っているんだ弥彦! 君は暁のリーダーじゃないか!

 何を差し置いても君は生き残らなければならないのが当たり前だよ!」

 

 

 長門の言うアレというのが何か分からないけれど、取りあえず使えば長門がヤバいことになる代わりにこの状況を打開しうる切り札なのだろう。

 長門本人は覚悟を決めている様だが、弥彦と小南はそれを許す気が毛頭ないらしい……それに関しては自分も同じ意見だ。

 何より自分にはまだこの状況をどうにか出来そうな手札が幾つもある。

 ただそれらを使うためには誤爆の可能性を考えて三人を逃がさなければならない。

 正直言って説得はかなり難しそうだが、弱音を吐いても事態は好転しないのだから一先ず試してみるのが上策だろう。

 俺は襲いかかってくる敵を捌きながら三人に話しかける。

 

 

「一つ提案があるんだけど……此処は俺に任せて三人は逃げてくれないか?」

「そんなこと出来る訳がないだろ!」

「俺一人ならこの場をどうにか出来る手段があるんだ……弥彦達が此処に居たら巻き込んでしまうから使えない一手が」

「まさか自爆とかじゃないですよね……?」

「ちゃんと俺が生き残ることが前提の策だから大丈夫だよ。

 今まで戦える事を隠してきた俺が言う事じゃないかもしれないけど、信じてくれないかい?」

 

 

 力任せに斧をぶん回して二人吹き飛ばし、一人を武器ごと叩き斬りながら返事を待つ。

 まだ敵の数は八割以上残っている……このまま消耗していけば全滅も有り得る状況だ。

 未だ積極的に攻めてこない半蔵も何時本腰を入れてくるか分からない。

 長門と小南は選択を弥彦に託して無心に敵を屠っている。

 答えに窮して時間が経てば経つ程危険は増していく……焦れた俺が再度解答を求めようとした瞬間、苦虫を噛み潰した様な表情で「本当に大丈夫なんだよな?」と肯定に少し傾いた言葉を返してきたので、これ以上迷わぬ様に力強く「任せろ」と返すとようやく覚悟が決まったのか、三人で目を合わせて一旦距離を取り、弥彦と長門が凄まじい勢いで印を結び始めた。

 何をする気かは分からないが、俺は彼らの準備が終わるまで前面に立って斧を大きく振り回す。

 十秒もしないう内に弥彦から「俺達の後ろまで下がってくれ」という声が上がったので斧を肩に乗せて大きくバックステップして指示されたとおり後ろに控えた。

 すると小南が両腕を拡げて袖口から大量の紙吹雪を出し、それを長門の風遁で素早くまき散らす。

 まるで猛吹雪の中にいる様に真っ白に染まる視界……これが逃げるための時間稼ぎなのだろうか?

 俺がそう思っていると、今度は弥彦が四人を囲む様に土遁で半球状のシェルターを作り出して小南に手で何かの指示を出す。

 連続的に聞こえる轟音に空気が震える……一体何が起こっているのかと弥彦を見ると、端から疑問に答えるつもりだったらしく彼も此方を見ていた。

 

 

「今の爆発はさっき小南がばらまいた小さな起爆札の連鎖爆発だ、これである程度戦線は乱れたし上がった土煙が丁度良い目眩ましになる。

 俺達はこれに乗じて仲間を呼んでくる……だから戻ってくるまで何とか耐えてくれ」

「耐えるも何も戻ってきた時にはもう戦闘は終わっているさ……もう形振り構うのは止めたからね」

「そりゃあ心強い……どうか無事でいてくれよ」「必ず助けに戻ります」「死なないでね」

 

 

 三人がバレない様に地面に穴を掘って脱出した後、その穴を埋めてから内側からシェルターを叩き割る。

 外は既にある程度土煙も晴れ、起爆札の影響で幾つもクレーターが出来、四肢の一部が欠損している者がそこらに十人以上転がっていた。

 しかし未だ半分以上が残っている上に、今の一件で此方を見くびるのを止めたのか俺が一人で出てきたにも関わらず、すぐに襲いかかってくる者がいない。

 何も考えずに掛かってきてくれた方が楽だったのだが……これは予想よりも手こずるかもしれない。

 俺の予定していた初手はシェルターを出ると同時に数で押しつぶしに来る敵に対して行うのが一番効果的だったのだから。

 舌打ちしたい気持ちを抑えつつ、作戦を変更したであろう敵首領で未だ一人崖の上で此方を見る半蔵を睨む。

 

 

「此処まで手間取るとは思っていなかったぞ自称商売人。

 それに見たところあの小僧達は逃げた様だな……自己犠牲の精神は大層ご立派だが、貴様がしたことには何の意味もない。

 既に彼奴らのアジトには別働隊が攻勢をかけている。

 逃げ場など何処にもないのだ!」

「そっか……なら早く此処を切り抜けて三人を助けに行かないと」

「何? 貴様……この状況でまだ自分が逃げ延びられるとでも思って居るのか?」

「逃げる? 違う違う、俺は逃げるんじゃなくて抗うつもりなんだよ。

 俺の日常をぶっ壊したアンタを……俺は決して許さない」

 

 

 この場に俺を縛るものは何もない。

 今ココにいる敵の全てが俺一人を敵として見ている。

 爆発的に体中に力が充ち満ちていく。

 帰るべき場所も無くなった。

 もう自重する必要はない。

 ここから先は俺のターンだ。

 

 

「この世界には無い魔法と罠の洗礼を存分に受けて貰おう。

 決闘者(デュエリスト)に喧嘩を売ったんだ……命を掛けろよ?」

 




ちょっと背中切り開いてもらってくるから次の更新の感想に返信するの遅れるかも

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