忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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この物語は主人公がもしも木の葉隠れではなく霧隠れの里に転生したら?というIFルートでございます
本編を書く際に若干スランプに陥った時に書いたもので荒いかもしれませんがお付き合い頂けると幸いです


外伝
霧の中から 前篇


 目を覚ますと、其処は霧隠れの里という街の一軒家だった。

 一先ず現状を把握するために家の中を探索すると、授けられた能力と今自分の置かれている状況が書かれた紙を見つけたのでそれを読むことで自分が今いる場所がNARUTOという漫画の世界にある霧隠れの里という場所であることと、生前本を読むのが好きだったという事から本屋でもやればいいとばかりに倉庫の中に大量の本があることが書かれていた。

 突っ込みどころは多々あったが、一先ず折角一度は諦めた人生を長く生きるため、如何に行動すればこの危険がそこかしこに転がる世界で生き延びられるか考えながら家の散策を続ける。

 

 

 この世界に来て一ヶ月が経過し、ようやく自分の店となる本屋を開店するに至ったのだが、まぁそんな簡単に満員御礼となるはずもなく、開店中は閑古鳥が鳴く店内で筋トレしながらボンヤリと店の本を読み漁るのが日課となりつつあった……その日が来るまでは。

その日は強い雨が降り、何時にも増して客足が無かったので早めに店を閉めて家の裏に作った家庭菜園の様子を見ていたのだが、突如近くの森に雷が落ち、大雨が降っているものの万が一火事にでもなれば家にも火が回るかもしれないと、念のため様子を見に行ったことがターニングポイントとなったのだろう。

 天気が荒れていたこともあり、落雷など別段珍しくもないので自分の他には今の所誰も来ていないとその時は思っていたのだが、予想外にも其処にはずぶ濡れの女性が独特な形をした二振りの刀を持って倒れていたのだ。

 刀を持っている事に一瞬臆して一歩足を引いたが、近くの木が焦げている上に刀が帯電しているのを見てその女性に雷が落ちたのだと理解し、このまま放っておくと命に関わると判断。

 仰向けにすると胸の上下で呼吸は確認できたので、手元に‘ご隠居の猛毒薬’の薬の方を二本出して彼女の口に流し込む。

 目は覚まさなかったが、幾分か顔色は良くなったので一先ず冷えた彼女の身体を温めるために自分の家で暖を取らせることにした。

 彼女が目を覚ましたのはそれから数時間程経過した頃だった……目が覚めると同時に彼女は俺が少し離れた場所に置いておいた刀を引っ掴んで俺の首に突きつける。

 驚きと生命の危機に対する恐怖から手に持っていた湯飲みが床に転がった。

 

 

「此処は何処でアンタは誰? アタシに何をした?」

「此処は……俺の家で、俺は本屋をやってる本瓜ヨミトって言います。

貴方に対しては森で倒れてるのを見て……そのままにしておけなかったので此処に運びました」

「そうかい、それは悪いことをしたね」

 

 

 そう言って彼女は刀を降ろした……その際に音もなく布団の一部が切れたので、もしもあのまま刀を突き出されていたら、何の抵抗もなく俺の首は宙を舞っていただろう事がありありと予想できた。

 そんなことを考えている内に彼女がふらつきながら部屋から出ようとしていたので、もう少し横になっていた方が良いと進言したが、彼女はまるで聞こえていないように部屋を一歩出ると……そのまま倒れた。

 刀が廊下を滑っていき、音もなく壁に深く突き刺さる。

 その刀の切れ味に少しの間放心していたが、彼女の不規則な息遣いに我に返り、急いでもう一度布団に寝かせ、台所から水を持ってきてゆっくりと彼女に飲ませた。

 時間を掛けて湯飲み一杯分の水を飲みきると、少し落ち着いてきたのかばつの悪そうな顔をして顔を背けながら小さく「ありがとう」と呟いてから再び意識を失ってしまった。

 

 

 彼女が再び目を覚ましたのは翌朝の事、顔色も大分良くなり食欲もあるとのことで卵粥を用意すると腹を鳴らし、赤面しながら俺から奪い取るようにしてそれを搔っ込む……出来たてのそれは熱かったらしく咽せ込んでいたが。

 昨日より幾分警戒心も収まり、少し会話も出来るようになったので気になっていたことを尋ねてみることにした。

 

 

「何故あんな場所で倒れていたのですか?……もしかして昨日の不自然な呼吸音と何か関係が?」

「まぁそんなところ……ちょっと肺がね、駄目みたいなんだよね。

聞いたこと無い? もうすぐ忍刀七人衆の内雷刀の担い手が変わるっていう噂……それアタシの事なのよ」

「という事は貴方は七人衆の林檎雨由利様?! これはご無礼を」

「今更畏まらなくても良いさ、それにアンタは命の恩人みたいなもんだからね。

あのまま外で転がってたら、死んでただろうし……だから敬語も無しで良い」

「そう言ってもらえると気が楽ですね……ですが肺の病を患いながら昨日は何故雨の中外に?」

 

 

 俺がそう聞くと彼女は「まだ諦めきれなくてね……発作がなければ、まだ前と同じ様に動けるからさ」と苦笑しながら答えた。

 林檎様曰く、自分がまだまだ大丈夫であると確認するために森の奥にある洞窟で修行していたらしいのだが、発作の前兆を感じそこから出て街まで走ろうとしている途中で発作が起こり、倒れる前に何とか力を振り絞って人を呼ぶために雷遁で樹を焼いたのだとか。

 恐らく俺が聞いた落雷のような音はその音だったのだろう。

 俺が彼女から話を聞き終え、もしも自分が向かわなかったIFの未来を想像して少し身震いしていると、彼女が不思議そうに首を傾げていることに気付く。

 

 

「変だな……今思えば発作が治まっているのはおかしい」

「え? どういうことですか?」

「自然に治まるような代物じゃないんだよ、アタシの発作は……持ち歩いてる薬を飲まない限り治まらないのさ。

さっき確認して薬の量が減っていなかったからヨミトが飲ませたって線も消えてる……もしもそうだったら根切りの一つでもしてやろうかと思ってたけど」

「そ、そうなんだ……それはそれは」

 

 

 色々な意味で血の気が下がった。

 ‘ご隠居の猛毒薬’の使用がバレる危険以外にもまさかそんなトラップがあったなんて想像だにしていなかったために顔色が蒼くなる。

 そんな俺の表情を見て彼女の表情が訝しげに変化した。

 

 

「アンタ……何か知っているね?」

「いえっ、そんなことはないですよ?!」

「別に責めている訳じゃない……唯藁にも縋る思いで少しでも生きる可能性が無いか知りたいだけなんだよ。

ねぇ本当に何も知らないの? 知っている事があるならどんなことでも良いから教えて!

アタシは病なんかで死にたくない……まだあたしは最高にハートをビリビリさせてくれる人に会っていないの!」

 

 

 俺の胸ぐらを掴む彼女の表情は今にも泣きそうで、忍刀七人衆なんていう大層な称号なんて関係無い一人の追い詰められた女性以外の何者にも見えなかった。

 今まで生きてきてこんなにも追い詰められた女性に問い詰められた経験のなかった俺は彼女の鬼気迫る気迫に負け、一つの提案をする事にした。

 


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