忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第119話 開戦

 綱手が目を覚ましてから数日後、乱入者によってあやふやな内に終わった五影会談が改めて行われた。

 議題内容については上層部のみが知らされており、俺はもちろん内容を知る事はなかったが、おそらく忍界大戦に関する事だろう。

 眼に見えて忙しくなった綱手とシズネを見た限り予想は外れていなかったはずだ。

 ナルトも長期の特別任務があるとかで里を出ており、アンコも未だ任務から戻らない。

 俺自身店を臨時休業してるとはいえ、慣れない医療現場での実習でテンヤワンヤで、気付けば一ヶ月程の月日が流れていた。

 

 

 最初は突然入った新入りに戸惑っていた現場の人達も、俺が掌仙術とチャクラメスを使える事をシズネから説明されてからは同僚として認めてくれたらしく、ある程度仕事を任されるようになった。

 医療の現場故に身元の明らかでない者に執刀を任せる事は出来ないので、いつも着けていた暗部面を外す事になって少し腰が引けたが、素顔を知っている人が現状三人と一匹しかいない事を思い出し、問題ないと判断してからはそれなりに動けていたと思う。

 事実時折シズネと共に仕事をする機会があったが、「医療忍者が板についてきましたね」と言われた位である。

 元々カツユとの修行や講義によって知識自体はそれなりにあったことも幸いしていたのだろう……落ち着いたら改めてカツユに御礼をしなければならないな。

 

 

 そんなこんなで時間が経ち、遂に第四次忍界大戦が始まった。

 史上類を見ない忍五大国と鉄の国が手を取り合って築いた忍連合は兵数や戦力的に見ても段違いであり、今回の大戦が過去最大規模で行われる事が容易に想像できた。

 過去の因縁から多少いざこざもあったが、風影(以前一度会った事がある子で少し驚いた)の指揮の下で各部隊がそれぞれの仕事に取り掛かる。

 俺が所属する事になった後方支援医療部隊は後方に陣を張り、前線で怪我を負った人が仲間に連れられてくるか、もしくは自分でここまで来た場合に治療を施すというのが主な仕事であり、危険はそれ程大きくない。

 ただし時折ある程度戦闘の出来る有志によって前線へ怪我人を回収しに行くこともあって、人によっては危険度もまちまちだ。

 現状俺は前線から送られてくる怪我人の治療に忙しいために前線へ向かう事はないが、もしも知り合いが怪我をしたという情報が入ったのなら、そちらを優先する可能性も無くはない。

 その事に対して恐怖や不安もあるが、今は休む間も無いほどの忙しさ故にその事を考える余裕が無いのは一寸した救いだった。

 

 

「ヨモツさん! その患者さんは肋骨の骨折なので胸部に掌仙術をお願いします。

 それが終わり次第此方のサポートを。

 サクラはあそこの患者さんの解毒をお願い!」

「了解!……内臓に傷はなさそうだし、綺麗に折れてるようですから安静にしていれば直ぐに動けるようになりますよ!

 流石に戦線復帰までは暫く掛かりそうですが」

「済まないな……クソッ!こんな序盤で戦線離脱だなんてアイツ等に顔向けできねぇ」

「あまり気負いせずに、今は身体を治す事を優先してください」

 

 

 その患者は俺が暫く掌仙術を当てていると何時しか気を失い、閉じた目から涙が零れる。

 まだ大きな戦況の動きも無い序盤での戦線離脱をした者が現在ここに連れてこられた怪我人であり、彼らはそろって悔しそうな表情を浮かべていた。

 それもそうだろう……未だ仲間たちは前線で命を掛けて世界を守ろうとしている中で、早々とその場から退場する気持ちたるや如何なるものか。

 一方サクラの担当している患者は端から意識は無く、顔色も土気色で今にも息を引き取りそうな状況で、彼女は額に汗を掻きながら見事な手並みで毒抜きを行っていた。

 この一ヶ月程で何度も見た光景だが、流石綱手の弟子といえるだけの力量だ。

 見る見る内に血色が良くなり、呼吸も不規則だったのが整っていく。

 そしてそのまま少し経つとある程度目処がたったのか、今度はシズネが声を掛ける前に次の患者の治療へと移っていた。

 俺も今目の前にいる患者に対して出来る事が無くなったので、次の患者へと移る……その繰り返し。

 時間が経てば経つほど戦いは激化して怪我人は増えていく。

 怪我を負うのは一瞬だが、治すのは一瞬とはいかないのだから当たり前の事だ。

 

 

 されど敵も人……夜が近づくに連れて徐々に戦いは一時休戦に近くなり、送られてくる怪我人も減ってきた。

 それと同時に少しだけ余裕が出来て、様々な情報が耳に入ってくるようになる。

 敵の大多数を占める白ゼツという人に似た何かと、既にこの世にいない筈の各里の名だたる凄腕達が敵である事。

 誰が死んで、誰を倒した等の情報もパラパラと聞こえる。

 しかしそんな情報よりも今先ほど前線から治療のためにここへ来た日向家の青年が語った話の方が今の俺にとっては重要だった。

 その情報を一緒に聞いたサクラとシズネ、そして数人の医療忍者は眉を顰める。

 

 

「敵が見分けが付かないほどに精巧に化けて紛れ込んでいるというのかい?」

「あぁ、殺されたいずれの医療上忍達も殆ど抗った形跡無く殺されている事から、その可能性が高いだろう」

「そうですか……ではこれからは医療上忍の方々には極力一人で行動しないよう気をつけてもらうよう通達しないといけませんね」

「俺もこの眼に掛けて敵を見つけ出す事に尽力しよう」

 

 

 ネジという青年はそう言って天幕から出て行った。

 アレがヒナタが兄と慕っていた日向ネジ……日向分家でありながら宗家の秘奥まで自力で辿り着いたという天才か。

 普段なら変化を見破られる可能性を考えて、出来る限り近寄りたくない相手だが、今この時においてはかなり頼りになる相手だな。

 過労に近い形でここに来た彼を頼るのは心苦しいが此処は彼の頑張りに期待して、その場にいた医療忍者は持ち場へと戻っていった。

 

 

 それから数時間後、担当していた患者の治療が一段落ついたので各テントに診療がてら巡回する仕事についていた俺の元へ突然大きな音と微弱な地震が届く。

 何事かと思い音のした方へと視線を向けると一つのテントから土埃が出ているのが見えた。

 共に巡回していた人と一緒に何が起こったのか確認するため現場へ走ると、そこには地面にめり込んだ情報で聞いた白ゼツと同じ特徴を持つ者がサクラに押さえ込まれていた。

 サクラの話を聞くに、このめり込んでる人は先ほど俺たちへ不意打ちに気をつけるよう進言した日向ネジらしい。

 どうやら白ゼツという者は他者に接触する事でチャクラを吸い取る事が出来、尚且つその吸い取った相手瓜二つに化ける事が出来るのだとか……チャクラごと化けるのなら日向の白眼でも見分けるのは至難の業だろう。

 至急その情報を本部へと伝えるようサクラが伝令へと指示を出す。

 また一つこの大戦における厄介事が増えた……これで少なからず疑心暗鬼に陥るものも出てくるだろう。

 腹立たしい事この上ないが有効的な手である事は認めざるを得ない。

 敵は後どれ程手を隠し持っているのか……俺は先の見えない戦いに暗雲が立ち込めている気がしてならなかった。

 


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