忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第118話 もしも

「安全なところに引き籠もっていたい気持ちは山々だけど、今回はそうもいかないかな?

 もしもマダラの計画が成功してしまえば、そこでお終いなのだから……それなら少しでも阻止できる確率を上げた方が良い」

「すまないヨミト……ヨミトには後方支援医療部隊の一員としてサクラとシズネの補佐をしてほしい。

 ただ医療技術に関してはカツユから報告を受けているから心配していないが、現場での仕事経験は皆無に等しいだろう?

 開戦まで其程時間は無いと思うが、医療部隊の方へ口利きしておくから現場経験を積んでくれ」

「そうだね……じゃあ暫く店は閉めることにするよ。 明日からで良いのかな?」

「それでいい、明日の昼頃から始めてくれ」

 

 

 綱手はそう言うと再び黙々と果物を口に詰め込み始め、一刻も早く復帰したいという気持ちを行動で表していた。

 後方支援医療部隊への所属……後方支援とはいえ大戦への参加に変わりない。

 今まで木の葉で起こった襲撃事件の時とは違う……戦場で世界の命運を賭けて軍に従事する事になるのだ。

 その事を思えば足が無意識に震え、本当にこの選択で良かったのかという疑問が湧き上がる。

 しかし既に賽は投げられた。

 明日から戦争終了までの間、俺はヨモツとして医療部隊へ参加する。

 人が人として生きられる世界を守る為に……俺は初めて自ら戦場へと赴くのだ。

 

 

「ところで話は変わるけど、アンコちゃんが今どうしているのかシズネちゃんから聞いていないかい?

 ここ暫く顔を見かけないのだけれど」

「アンコというと……ヨミトの店によく来ていたみたらしアンコ特別上忍のことか?

 それなら特別任務の部隊長として今は里を出ているはずだ」

「そっか……アンコちゃん頑張ってるんだなぁ」

「なんだかんだアイツは真面目な奴だからな」

 

 

 アンコは普段暇を見れば甘味処で団子を食べている姿が印象的ではあるが、任務に接する態度は常に真摯であり、特別上忍に認められた腕もあるので中々に評価が高いと噂だ。

 少し前までは大蛇丸の弟子だからという色眼鏡で見られていたために不当な評価を受けていたが、それも原因である大蛇丸の話をめっきり聞かなくなってからは徐々に彼女の出した結果に目がいくようになり、今ではすっかり頼れる忍として仲間内から頼られているらしい。

 

 

「時の流れを感じるなぁ……昔は自分がこんな事になるとは微塵も考えていなかったよ。

 ある意味綱手との出会いが俺にとって一つの分岐点だったのかもしれないね」

「……私と会ったことに後悔しているのか?」

「その事に対して後悔はしていないよ。 綱手と会わなければカツユやシズネちゃんと会うこともなかっただろうしね。

 今の状況も元を正せば俺の不徳の致すところ、謂わば自業自得的な面も少なからずあるから其れを他人の所為に何て出来ないさ」

「自業自得って……ヨミトは別に悪いことをしていないだろう?」

「そう見えるかも知れないけど、長く生きていれば後悔すべき事柄も自然と増えるものだよ」

「……それもそうだな」

 

 

 危険を覚悟で原作知識を書に認めておけば縄樹やダンの死する運命を曲げられたのではないか。

 三代目との関係がもっと薄ければ、大蛇丸に興味を抱かれる事も無かったのかもしれない。

 そもそも店に拘らず、色々な里を転々とする行商人の様な仕事をしていればどうだっただろうか?

 全てがIFの事で見ることの出来ない未来だが、ふとした瞬間そういった想いが脳を掠める。

 しかし何時も決まってその結論は、その時の自分は今の自分よりも幸せかどうか何て分からないという事。

 

 

 知識が薄まっていなければ二人を助けることは出来たかも知れないけれど、その代わりに曖昧とはいえ未来予知に近い真似事をすれば誰かに目を着けられるだろう。

 三代目と疎遠ならば大蛇丸には目を着けられないかもしれないが、ナルトとの縁は今よりも確実に細かっただろう。

 居を持たなければ今まであった幾つかの騒動に関わる事はなかったかもしれないが、一つ所に留まることが無い故に人との縁故は自然と減るだろう。

 今あるものが別の未来では違うものに変わっている事も有り得るし、存在しない可能性もある……未来が確定ではない以上必ずしも今より良い未来になるか何て分からないのだから。

 

 

「まぁ今自分に出来る事を精一杯やっていけば、其程悪い未来は訪れないんじゃないかな?」

「ヨミト……そうだな、その通りだ。 よし、じゃあ私は今出来ること……早く仕事に復帰出来るよう努める事にしよう!

 残りの果物を全て渡せ、今は食べて身体を元に戻すのが最優先だ」

「ハイハイ、仰せのままに火影様」

 

 

 俺の苦笑混じりの楽観に何かを感じ取った綱手は再び果実へと手を伸ばし、口の中へと放り込んでいく。

 それから少しするとシズネが大量の料理を手に帰ってきて、共に食事を取ることになったのだが綱手の食べっぷりが尋常ではなく、秋道一族を彷彿とさせる食事風景を見ているだけで俺とシズネは若干胸焼けのようなものを感じて其程食べることが出来なかった。

 その後はこれからの事について二人が話し合うということで機密情報を聞く事になりかねないので俺はお暇することにし、明日から始まる医療行為の実地研修について再確認を行ってから病院を後にした。

 

 

 外はまだ日が高く、里の復興も未だ続いている。

 半壊した里も今ではある程度元に戻り、慌ただしさは以前程ではない。

 しかし戦争が近い事もあって、何処か里にも緊張感のようなものが張っている気がする。

 先程病院を出る時にも、何処か見覚えのある女性が眠る赤子を抱えて火の着いていないタバコを咥えた男性と戦争について話していた。

 かつての教え子が戦場へ行くにも関わらず、自身に出来る事が殆ど無い事に思うところがあるといった内容だったが、もしかするとそういった想いを抱いている人も多いのかもしれない。

 戦争が起こるからという漠然とした不安ではなく、戦場で親しい人が戦っている中で忍以外は殆ど戦場に行く事がないが故に……自身の手の届かない場所で命を賭ける彼らに直接的な支援をすることが出来ないことを歯痒く思う人も少なからずいるだろう。

 そんな人達のためにも一人でも多く戦場から生きて帰る人を増やさなければならない……俺は拳を握りしめ、覚悟を新たにした。

 


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