忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第117話 選択

 雲隠れの三人と話してから少し経ったある日の昼頃、シズネが勢いよく店の戸を開けて嬉しそうに綱手が目を覚ましたことを伝えに来た。

 伝え終わった後すぐにその姿が煙と消えたことから、恐らく影分身体だったのだろう。

 綱手が目を覚ましたことに合わせて見舞いに行くことも解禁され、むしろ食べ物持って見舞いに来て欲しいと頼まれた俺は、店の戸に張り紙をして急ぎ見舞いの品を見繕いに里を練り歩く。

 買ったのは見舞いの定番である赤々とした林檎とオレンジを数個、そして奮発して買った高級メロン……メロンの値段が400両もして、林檎とオレンジの合計金額の4倍以上だったことから、その高級さを分かって欲しい。

 そんなちょっと豪勢な見舞い品を持って綱手の病室へと辿りつくと、病室の中からシズネが飛び出してきた。

 あわや正面衝突するという寸前で彼女の方がブレーキを掛け、俺の眼前で止まる。

 

 

「あぁヨミトさん! もういらっしゃったんですね、でも綱手様は今お食事中で……ってその手に持っている果物はお見舞いの?」

「そうだけど……それがどうかしたかい?」

「丁度良かった! 綱手様ぁ、果物でも良いですか!?」

「食べ物であるなら何でも構わない! 今はただ身体の欲するがまま栄養を取らなきゃ治るもんも治らないからね」

「という訳でヨミトさん、中でその果物を綱手様へ渡してください。

 私は追加の食事を用意してきますので!

 待っていてトントン……貴方は私が守ります!!」

 

 

 謎の言葉を言い残して風のようにその場からいなくなったシズネに首を傾げながらも、一先ず当初の目的である綱手の見舞いを行うために病室の中へと足を踏み入れた。

 病室内に入った俺が一番始めに感じたものは、複雑な臭い……肉や魚に各種調味料、それは少なく共一食分の料理が醸し出す臭いでは無かった。

 それもそのはず病室に備え付けられていたテーブルの上には山となった空の皿が塔のようにそびえ立っており、綱手も未だ手を止めずに料理を口に詰め込んでいる。

 頬袋に向日葵の種を詰め込むハムスターが如き食べっぷりに少しの間呆然としつつも、綱手の目が此方に向いている事へ気付いて我に返った。

 

 

「元気……そうだね」

「ん」

「あぁ食べていて良いよ、俺も今果物の用意をする」

 

 

 そう言うと綱手は一時的に止めていた食事の手を再び進め、目の前にある料理を口の中へと放り込む。

 まるで食べ盛りの子供を見ている様で微笑ましい気持ちになった俺は、顔に苦笑を浮かべつつも、少し上機嫌で果物を食べやすい形にカットする。

 テーブルのベッド横の引き出しに入っていた果物ナイフで林檎を兎の形に切り爪楊枝を刺す。

 オレンジとメロンは身を潰さない様に少しナイフにチャクラを纏わせてからくし切りにして食べやすくカット。

 それらを小綺麗に皿に盛りつければ、飲み屋で出されるフルーツ盛りに似た物が出来上がった。

 綱手もタイミング良く今ある料理を食べ終わったらしく、口元に付いた汚れを拭っている。

 

 

「はい、食休めの果物……本当ならデザートと言いたい所なんだけど、まだ食べ足りないみたいだしね」

「暫く胃に何も入れていなかったからな……それに栄養自体は点滴なんかでも取れるが、こっちの方が手っ取り早い」

「程々にね……ところでシズネちゃんから綱手が寝ていた間の事、何か聞いてるかい?」

「五影会談の事なら聞いている……そこにサスケが襲撃をかけた上にダンゾウを殺した事もな。

 だが今それ以上に問題なのがうちはマダラを名乗る男の方だ」

「知らない話ばかりだなぁ……六代目に任命された彼が死んだという話は里でも結構な噂になっているけれど、サスケ君が下手人だったのか。

 それにうちはマダラって初代火影と戦って果てたっていうあの……本物なのかい? もし彼が生きているのだとしたら百歳に近い年齢だろう?」

「ほぼ確実だろう……本人に会ったカカシとヤマトの考えも同じらしいからな。

 年齢に関してはどう誤魔化しているか知らんが、少なくとも歳相応ではないと聞いている」

 

 

 うちはマダラ……うちはの最高戦力であり、初代火影千手柱間と覇を争った傑物。

 うちは一族の歴史の中でも最も腕が立ったと言われている忍。

 その命は初代火影との戦いの中で失われたと伝えられていたが、どうやら生きていたらしい。

 綱手はカットされた林檎を摘みながら話を続ける。

 

 

「奴は自身の素性を隠しつつ暁に属し、尾獣を集めて一つの計画を成そうとしていたらしい」

「計画? まさか木の葉を襲撃するとかかい?!」

「それよりも性質の悪い話だ……うちはの持つ写輪眼を用いた特殊な幻術の事は知っているか?」

「まぁ人並みに……詳しい事は知らないけれど、普通の幻術よりも始動が分かりにくくて、尚且つ五感全てに偽の情報を与えられる程に高度なものらしいね」

「そこまで知っていれば十分だ。 奴はその幻術を世界中全ての人間に掛けるつもりらしい。

 大規模幻術による全人類の思考統一化……それが奴の計画だ」

「は?……いやいや少し待ってくれるかい?! 幾らうちはの幻術が凄いと言っても世界中の人を対象に幻術を掛ける事なんて不可能だろう?」

「確かに普通は不可能だろうな……だが私も詳しい所分かっていないが、奴は尾獣と月を使うことでそれを可能にすると言った。

 今まで暁が尾獣を集めていた理由は明確になっていなかったが、これが理由なのだとしたら各国へ喧嘩を売ってでも集めるだけの価値があるだろう。

 許される事ではないが納得は出来る」

 

 

 あまりに話が大きすぎて現実感が沸かない。

 九尾襲来や木の葉襲撃等は大規模なテロに近いもので、戸惑いつつも各々が対処する事で被害を少なくする事が出来た。

 しかし今の話は別だ。

 発動すればこの世界の根底が覆る。

 個というものが無くなり、人は一人の思考の元に動く歯車に過ぎない存在へと堕ちる。

 マダラがどんな思考の元その計画を実行に移す決断をしたのか分からないが、その計画は一人の人として認められない。

 俺が内心そう憤っていると、綱手は果物に伸ばす手を一旦止めて、身体ごと此方へと向き直る。

 

 

「ヨミト……マダラは忍界大戦の口火を切るつもりだ。

 奴は五カ国同時に相手にして勝つつもりなのだから、かなりの軍勢を用意してくるだろう。

 もしかすると手が足りなくなるかもしれない……だから今聞いておく。

 今回の大戦で力を貸してくれないか?」

 

 

 綱手の眼は真っ直ぐと此方を見ており、その瞳に迷いは無い様に見える。

 戦争で弟と恋人を亡くした彼女にとって、この言葉を発するのにどれだけの苦悩があっただろうか。

 彼女にとって本瓜ヨミトという存在がどの程度の大きさなのかは分からない。

 しかし此方へ選択権を委ねてくれる程には迷ってくれている。

 不謹慎だがそれが少し嬉しかった。

 俺は死にたくないし、戦場なんて真っ平御免だ……だが自我を持たない人形にされるなんてのも怖気が走る。

 眼を瞑り、頭の中でその二つを天秤にかけ吟味する……ふと思い浮かぶ友人達の笑顔。

 

 

 長く思い悩む事は無かった。

 最初から答えは決まっていたようなものだ。

 ゆっくりと眼を開いた俺が綱手に返した答えは………。

 


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