忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第113話 切れ者

 少し離れた家の屋根に立っていたのは高い指揮能力と状況判断力から木の葉のブレーンと称される奈良シカク。

 純粋な戦闘能力も上忍だけあって低くはないが、やはり着目すべきはその観察力だろう。

 短い時間で相手の癖や性格を見抜き、行動を先読みする……まるで未来を知っているかのような作戦を立てることで木の葉の里の中でも一目を置かれている人物だ。

 そんな人物が増援に来てくれたことに心強さを感じつつ、横合いから爆破されたにも関わらず殆どが此方に集中する攻撃を躱しながら彼と合流する。

 当たれば吹き飛ばされる事が必至の攻撃を共に躱しながら俺とシカクは初対面の挨拶を交わす。

 

 

「お前がヨモツって暗部か? 俺は奈良シカク、話は綱手様から聞いている……一先ず今は情報が欲しい。

 取りあえずあの三体について分かっていることを教えてくれ」

「わかった、簡潔に説明するとでかいムカデは知っての通り無駄に硬い上にそれなりに速いが攻撃が単調。

 飛んでる奴は速さと飛行能力以外は特に目立ったものはないが、他の奴の攻撃に合わせてくるから気をつけた方が良い。

 そして最後に彼処で藻掻いているカニは水鉄砲のようなものを吐くし、堅さもムカデよりあるが動きが遅い……俺が分かっているのはこんな所だ」

「そうか………ならあのトリさえ何とか出来ればイケるな。

 俺があのトリを押さえ込むからお前はその隙に最も威力のある一撃をかましてくれ。

 見たところアイツだけは硬くなさそうだしな、手段についてはお前に任せるぞ……では散!」

 

 

 こちらの返事を聞くことなく、彼は攻撃を回避すると同時に俺とは別方向へと跳び、カニ目掛けて複数の起爆札を投げつける。

 足が失った所為で未だ満足に身動きの取れないカニは迫るそれに対して為す術もなく直撃。

 しかし自慢の甲羅は起爆札程度では罅を入れることも出来ず、むしろその衝撃によってその身体が宙へと飛ばされ、地面から完全に抜け出すことが出来たということを考えれば、今の一手は間違いなく悪手なのではないかと思い、彼の方を見ると再び起爆札を投擲する体勢をとっていた。

 空中で身動きの取れないカニへ追撃するのは良いのだが、先程大して大きなダメージを与えられなかった起爆札をもう一度放つ意味が分からない。

 彼の考えが全く読めない俺は、とりあえずは彼を信じて先程頼まれていたトリへの一撃を準備する。

 先程よりも枚数を増した起爆札が再びカニへと着弾し、空中に居るが故に踏ん張りの利かないカニはまるで弾丸の様なスピードで飛ぶ。

 カニの飛ぶ先には俺に攻撃を仕掛け続けるムカデの身体がそびえ立っており、側方から豪速で迫る巨大な弾丸を奴は躱すことが出来なかった。

 硬い甲殻をもつ両者であったがカニの甲羅の方が硬度は高く、ムカデの外殻は大きなひび割れを作り、その身体も家数軒を倒壊させながら倒れ込む。

 

 

 俺はその想像だにしなかった戦果に驚愕を隠せずに思わず足が止まる。

 その瞬間を敵は逃さなかった……高々度から太陽を背にした垂直落下攻撃。

 鋭い嘴を武器に俺の身体を貫かんと高速で飛来するそれに気付いた時にはもう回避は間に合わなかった。

 このままでは死ぬと思い、伏せてあったもう一枚の罠を使用しようとした瞬間、まるでビデオの一時停止のようにトリの身体がビタッと停止する。

 現実感のない目の前の光景に疑問を抱き、トリの身体を見ると無数の黒い縄のようなものがその身体に巻き付いていた。

 ふと奈良一族の秘伝忍術の存在を思い出した俺はこの状況を作り出したであろう人物へ視線を向けると、彼も特殊な印を組みながら此方を向いていた。

 

 

「さぁお膳立ては済んだ……次はお前がかます番だぞ、ヨモツとやら」

「ハハハッ、流石木の葉一の切れ者! 彼処まで派手にやって、メインは俺を囮にすることだったのか! 全然読めなかったよ」

「そいつは重畳、敵を嵌めるにはまずは味方からというからな」

「正直一言言って欲しかったが、まぁいいさ。

 それはさておき俺もやられっぱなしは性に合わないんでね……今度は俺が驚かせるとしようか!」

 

 

 現状残っている枠は二つ、動けないトリ相手なら今の状態(魔導師の力)で殴るだけ十分だろうが、少しだけ遊び心を出した俺は少し距離をとる。

 そして‘突進’を二枚同時に発動させ、その場から全力で走りだす。

 一歩目で大量の土煙を上げ、二歩目で風の壁を突き破り、三歩四歩と徐々に速度を上げ、最高速に達したところで地面を蹴りつけて敵目掛けて跳び蹴りを放つ……これが全力全壊の俺式ダイナミックエントリーである。

 馬鹿みたいな速度で放たれた一発の跳び蹴りは、音を置き去りにして敵の身体を穿った。

 トリの肉片が飛び散り、ばらまかれる臓物……残るのは血生臭くなった上に靴が速度に耐えきれずはじけ飛んだ所為で裸足になった俺。

 少し恰好は残念だが、この結果を見て彼も吃驚してくれただろうと思い、彼の方を見ると訝しげな目で此方を見ていた。

 

 

「何故そんな目で俺を見る?」

「明らかに過剰攻撃だっただろうが……そもそもあれだけのことが出来るのならムカデやカニ相手でもどうにかなったはずだ。

 後あれだけの動きをして反動はないのか?」

「それがそうもいかないんですよ……あれは速すぎて猪の如く直進しかできないので、動けない相手位にしか使えない欠陥技ですから。

 反動ももちろんあります……足から腰に掛けて大分痛みますから体の負担的に、日に一発が限界っていうのも欠点の一つですね」

「そりゃあ確かに使い所が難しいな……納得した」

 

 

 彼は少しだけ考え込むような仕草をしてから、一度小さく頷くとそう言った。

 そして酷い状態のトリの死骸から目を離して、残りの二体へと向き直る。

 俺も服にへばり付く肉片を払い落としながら其方を向くと、所々に罅の入った身体を揺らしながらキチキチと威嚇音を鳴らすムカデと、ひっくり返ってバタバタと足を動かすカニの姿が其処にあった。

 それを見てもうカニは放置して良いんじゃないかと提案しようとした瞬間、二体の身体が突如煙に消える。

 

 

「送還された? 何故このタイミングで……術者に何かあったのか?」

「何にせよ助かった……残った二体は別段強い訳じゃなかったが、倒すのは大変そうだったからね」

「それはそうだが……まぁいい、ここに俺の仕事がもう無いのなら、俺は綱手様の命令通り他の救援に回ることにする」

「俺は綱手様の護衛に回ることにする。 どうやら大変なことになっているみたいだしね」

 

 

 空に浮かび上がる大小の岩が集まって、巨大な球体を作り上げつつある光景を見て、俺は引き攣った笑いと共に冷や汗を流した。

 


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