忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第112話 ジャイアントキリング

 現在伏せている罠は二つ、未だ効果が消えていない‘光の護封剣’、そして‘魔導師の力’……四つの枠が埋められていることで今の俺の身体能力は三倍近くになっている。

 眼前に迫り来る四体が一体ずつ仕掛けてくるのであれば、余裕を持って対処できる位にはなったはずだ。

 しかし四体同時となるとそうはいかないだろう。

 その上何時先程の奴らの仲間が此方に来てもおかしくない状況故に、最後の一枠を埋めるのは避けたい。

 手っ取り早く‘ライトニング・ボルテックス’辺りで一掃するというのも一つので手ではあるが、未だ道端には生きているのか死んでいるのか分からない人達がいるのだ。

 それらを無視して広域殲滅系を使えば関係者に大きな恨みを買いかねない。

 自分の命には替えられないが、それでもそれは最終手段……どうしようもなくなった時に使う手としておく。

 取りあえず今は底上げされた身体能力と修行で培った技術、そして伏せた二枚の罠でこの場を乗り切るつもりで動くしかない。

 

 

「カツユ様、どの位で増援が来てくれるか分かるかい?」

「五分以内に着くと!」

「五分か……長い五分間になりそうだね」

 

 

 迫る怪獣の圧迫感に流れる冷や汗を拳で拭い去ると同時に、俺はその場で高く跳躍した。

 次の瞬間怪獣が先程俺が立っていた場所へと殺到する。

 俺を狙う怪獣はムカデ、カメレオン、トリ、カニの四体。

 それぞれが巨体故に衝突によってダメージを負っていることを期待したが、其程甘くはなく、空中は俺の領分だとばかりにトリの化け物が急旋回、急上昇で此方を狙う。

 咄嗟にチャクラ糸を伸ばし、アパートらしき建物の屋上に設置されていた水の入ったタンクに結びつけると、それを引っ張ってその上に着地した。

 勢いが着いていたためにタンクは凹み、下部から少量の水が漏れ出すが、それを気にする暇もなく今度は巨大なムカデが体躯をしならせながら此方に迫る。

 ギチギチと鋭い牙を打ち鳴らし、口を開け噛みつかんとする顎の下へと潜りこみ、無防備な頸部を全力で蹴りつけて、その反動で移動……カニの甲羅目掛けて弾丸の如く接近した。

 勢いそのままに重力をも味方に付けて跳び蹴りを放つが、蹴り砕くには威力が足りずカニの巨体が地面にめり込む。

 トリは旋回を繰り返して隙を探っている様で、足の下のカニは地面に埋まった足を引っこ抜こうと暴れ、ムカデは何事も無かったかのように再び此方へ顎を向ける。

 ふとカメレオンが見当たらない事に気付き、カツユに尋ねようと口を開いた瞬間、後方から風切り音と共に何かが迫ってくるのを感じてその場を飛び退いた。

 すると見えない何かがカニの甲羅を強く叩き、抜け出しかけたカニの足が再び地面に埋まる。

 見えない攻撃という点で今のがカメレオンの放った一手だろうと当たりを付けて、小さく舌打ちをした。

 

 

「まるで光学迷彩……敵に回すとこれほど厄介だったとはね」

「一体は少しの間動けないと思いますが、未だ四体とも目立ったダメージは負っていません……何か倒すもしくは動きを止める手はありませんか?」

「一体位なら無いわけではないけれど、あれほどの大きさの相手に使用したことはないからどれ位の効果があるのか分からないんだ……」

「ですがこのままでは押し切られてしまうかもしれません……ここはその一手に賭けるのも一つかと思います」

「それもそうか……なら一つ賭けてみるとしようか!」

 

 

 今伏せている二つの罠は逃走用のものと、敵対者を高確率で殺せるもの。

 一つ枠が空けば取れる戦略も増える……そう考えれば悪くない選択のはずだ。

 ならば次の問題は誰に使用するかという問題……硬いが遅いカニは却下、カニよりは速いが単調な攻撃しかしないムカデも同じく、トリは速くて動きも多彩だが中々攻撃を仕掛けてこないので上に避けられる可能性がゼロではないので却下……ならば消去法で未だ此方に手か舌か分からないが攻撃をし続けているカメレオンが妥当だろう。

 伏せている罠は攻撃反応型なので例え攻撃が見えていなくても関係無く発動するのだ。

 そうと決まれば少しばかり今までよりも気合いを入れて動き回り、発動のタイミングを計る。

 時折仕掛けてくるトリの攻撃に反応しないようにタイミングを計り、カメレオンの攻撃が発する風切り音を頼りに俺は罠を発動させた。

 

 

「罠発動‘炸裂装甲(リアクティブアーマー)’」

 

 

 罠の発動と同時に現れた俺の身体を覆う剣山の様な鎧。

 それにカメレオンの攻撃が触れようとした瞬間に鎧は弾け、まるで意志を持っているかのようにその破片の全てが一カ所目掛けて飛んでいく。

 今までの攻撃は恐らく舌によるものだったのだろう……無数の鎧の欠片が周囲に溶け込んでいたその身体を血で染める。

 十秒にも満たない時間で出来上がったのは朱く血生臭い巨大なオブジェ。

 千切れ飛んだ舌は原型が分からなくなる程に破壊されており、所々にその破片が転がっていた。

 

 

「一番厄介だった奴を処理できたのは良かったけど……流石に気持ちが悪くなる光景だな」

「……先程の物が何かは聞きませんけれど、他に方法はありませんでしたか?

これはいくら何でも人道に外れた技です……」

「人に放った時の事を考えると、とても凄惨な光景が広がる事を考えるに難しくないね……これは極力使わないようにするよ」

 

 

 俺は漂う濃厚な血の臭いに若干の吐き気を憶えつつも、未だほぼ無傷の三体を警戒する。

 残った三体は目の前で起こった惨事にも全く反応を示さず、先程と変わらない行動を繰り返す。

 ひたすら俺を噛み千切ろうと襲いかかるムカデとそれに合わせて攻撃を仕掛けてくるトリ……そして先程の‘炸裂装甲’の余波でようやく脱出出来た足の一本もげたカニ。

 一体可哀想な子がいるが、見て見ぬ振りをしつつ時折その子が放つ水遁を余裕を持って躱す。

 地面に半分埋まっている所為か何度もムカデに踏まれ、一向に脱出出来る気配がないカニは放っておき、仕掛けてくるムカデにカウンター気味の打撃を当て続けるが、ダメージが通っている気配が無い。

 かといってトリは一定の高度を保ち、ヒットアンドアウェイを繰り返す……正直千日手になりつつある状況だった。

 これはまた一つ手札を切らなければならないかと思い、幾つかの魔法を思い浮かべていると、何処からか起爆札付きのクナイがムカデ目掛けて飛んできて、その身体が仰け反る。

 クナイの飛んできた方を見てみると、其処には家の常連客の一人が立っていた。

 


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