忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第111話 ロックオン

 シズネと意図せぬ形で合流した俺は気を失っている彼女を背負い、極力揺らさないよう気を付けながら病院へと向かった。

 道中何人何十人という一般人がピクリともせずに地面に転がっているのを見かけ、仮面の下の表情を歪めたが、この場において俺が優先すべきはシズネの命。

 彼らのことは救助に奔走している医療忍者達に任せることにして先を急ぐ。

 途中巨大なムカデの化け物と出会(でくわ)したりしたが、その場に居た上忍数人が相手をしてくれた御陰で難なく通ることができ、無事シズネを病院へと連れてくることに成功した。

 病院内は野戦病院を思わせる様な慌ただしさであり、ロビーですら重傷者・軽傷者入り交じって床に寝かせられている。

 床を埋め尽くさんばかりの患者に対し、見える医療忍者の数は両手の指程しかいない。

 医療忍者の苛立ちを含んだ声や患者の呻き声が聞こえる中、一人の医療忍者が此方に気付き近寄ってきた。

 

 

「暗部の人か……っておいっ!背中に背負っているのはシズネさんか!?」

「えぇ、襲撃者に脳へ直接アクセスされた負荷で気絶してしまいまして……」

「……命に別状はないんだな? それなら一先ず他の患者と同じ様に空いたスペースに寝かせておいてくれ。

 脳となると出来れば精密検査しておきたいが、今は其処まで人員にも時間にも余裕が無い。

 アンタに余裕があるなら暫くシズネさんの様子を見ていてくれないか?

 それでもし身体が痙攣を起こしたり、吐いたりしたら直ぐに教えて欲しい……手術の必要が出てくるからな」

「分かりました」

 

 

 そう言い残して彼は別の患者の元へ行ってしまったので、俺は辺りを見回して空いている場所に自分の上着を敷いて其処へシズネを寝かせた。

 病院の窓から外の様子が見えるが、相変わらずB級モンスターパニック映画のような光景が広がっている。

 巨大なカメレオンやムカデ、イヌ、トリ、カニとバリエーション豊かなラインナップ。

 それが暴れ回る絵は正に現実離れしており、それと身一つで戦っている面々もまた現実感が遠ざかる原因になっている。

 しかし其処に近づけば近づく程に現実感は増し、広がる光景は死屍累々の地獄絵図。

 巨大生物の一挙一動で里の一部が破壊され、力ない人々が倒れていく。

 好き勝手に暴れ回る其奴等に思うところがないわけでもないが、俺はそれ以上に気になるものを見つけて一人病院を出る。

 

 

 それを見つけたのは偶然に等しかった。

 忍術の数々が怪獣へと放たれ、お返しとばかりに其奴等が暴れ回る中で、空に浮かぶ小さな人影。

 それは跳躍でもなく、飛行でもない……まるで重力が働いていない様に空に静止していた。

 この状況下で落ち着き払い、尚かつ全てを俯瞰(ふかん)できる位置に立つあの人物こそが恐らく今回の襲撃の主犯格だろうと予想し、その挙動に注目する。

 ふとその人物はゆっくりと両腕を拡げ、それに伴って彼を陽炎のようなものが包み込むと、次の瞬間それが爆発的に範囲を拡げた。

それがなんなのかは分からなかったが、周囲の物を地面ごと吹き飛ばしながら巨大化するそれを馬鹿正直に見ているわけにも行かず、一瞬躊躇しつつも一つの魔法を発動する。

 

 

「これはあまり使いたくなかったんだが仕方がない……カツユは懐に入っててくれ。

 吹き飛ばされるかもしれないからね」

「一体何を……」

「ちょっと人災に天災で対抗しようと思ってね……魔法‘大嵐’発動!」

 

 

 俺の能力圏内100m四方に暴風が吹き荒れる。

 遊戯王における‘大嵐’というものは、場に存在する全ての魔法と罠を破壊するという強い効果を持つ制限カード。

 ただし場に存在するもの全ての、とあるように、自身の場にある物も破壊されてしまうため、使うタイミングを誤ると一転ピンチになりかねないものだ。

 自身が予め伏せておいた罠が破壊されるのを感じ、切れる札が減った事で戦略の幅が狭まってしまった事に歯噛みするが、今は身体を吹き飛ばされないように踏ん張らなければならない。

 この魔法の効果は自身を中心とした100m四方……俺が動いてしまうと魔法の発動範囲も変わってしまう。

 故に少なくとも術が完全に効果を消すまで、件の人物との距離が100m以内でなければならない。

 この魔法の発動時間は‘サイクロン’と同様長くはないが、それでも大型台風にも匹敵する風圧に身体が飛ばされかける。

 咄嗟に足を地面へ突き立てて飛ばされるのを防いだが、結果として小さくない音を鳴らしてしまった。

その結果……自由落下を開始していた件の人物と目が会う。

風に流されながらも俺から目を離さないことから、恐らくこの風の原因が俺であると悟ったのだろう。

 

 

 魔法の効果が終わり、風が止んだ瞬間に俺は‘大嵐’によって消えた罠を伏せ直した後に、‘突進’を発動して、その場から全力で走り出した。

 敵の術が及ぼした里への被害はそれなりに甚大ではあったが、里のど真ん中に100m級のクレーターが出来て、それの二次災害に近い形で吹き飛んだ物が周囲の建物を破壊した程度で収まった様だ……里が無くなるよりはマシだと思いたい。

 それよりも今は一直線に此方へ向かってくる襲撃者の仲間と思わしい二人をどうするか考えなければならない。

 既に彼方は俺をロックオンしており、他の者など見向きもしない……見てないものの反撃してはいるが。

 俺を追う二人は片方が頭に角の様なものが複数生えているハゲであり、もう片方は顔に小さな杭が六つ刺さっている女。

 足の速さでは何とか此方が勝っている様で、何とか追いつかれずに済んでいた。

 ふと懐から声が聞こえる。

 

 

「今綱手様に現状をお伝えしました! 直ぐに応援を送ってくださるそうです!」

「それは良いニュースだねカツユ……悪いニュースは後ろの男性が此方にミサイルのようなものを発射しようとしているところかなぁ」

「みさいるって何ですか?」

「起爆札満載の筒みたいなものだよ……うわ来たっ!」

 

 

 男の腕がパカッと開き、小型のミサイルが大量に発射された。

 流石にホーミングではないらしく、全てが全て俺の方へと飛んでくるわけではなかったが、後ろから厚い弾幕を張られるのは恐怖でしかない。

 俺は逃げながら多少目立つのも覚悟で‘光の護封剣’を発動し、二人を拘束した。

 忍術と違って印を組む事無く発動できるために、相手も発動を予知できずに無事捕獲できたが、何らかの方法で抜け出してくるかもしれないと考えて、そのまま速度を落とさずに逃げ続ける。

 その予想は残念な事に当たっており、逃げるにあたって前を向いていた数秒間の間に二人の姿は消えていた。

 しかも俺を取り囲むように四方から怪獣が迫っているし、遠くには馬鹿みたいなサイズの蛙が三匹……怪獣を相手にするのなら巨大ロボが欲しいなぁと若干の現実逃避をしながら、一つ溜息を吐いて‘魔導師の力’を発動させた。

 


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