忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第10話 生涯現役

 いきなり血の気が引いた俺だったが、このまま絶望しているだけではどうしようもない。

 っていうかよく考えれば別に三代目と綱手ちゃんと知り合ったからって、誰かがここに攻め込んでくるわけでもないんだ……大した問題はないじゃないか!

 そうと分かれば少し気が楽になったぞ。

 ならば今真っ先にすることは現状を把握していくことだろう……現状を把握しないとこっちとしても何も出来ない。

 折角三代目様もこちらを心配そうに見ていることだし、まずは何故彼がここに来たかを聞いてみよう。

 

 

「火影様とは知らず、誠に申し訳ありません」

「いや構わない。 知らないものはしょうがない」

「そう言っていただけると助かります。 ところで先程生徒に関わることだからここに来たと申しておられましたが……」

「あの子は俺の恩師の孫で、もし何かあればあの方に申し訳が立たないんだ。

本当ならもっと早く来る気だったんだが、あの子の様子を見る限り別段何かをされた様子はないし、忙しさもあってここに来ることが出来なかったんだが、たまたま時間が出来たので一度見てみようと思ったわけだよ」

「そうしたら私が鍛えている上にチャクラもあるから、何処かの里の忍者じゃないかと思ってしまったのですね?」

「そういうことだ……気分を害しただろう?」

 

 

 本当に申し訳なさそうに顔を歪めるヒルゼンさん。

 確かにスパイじゃないかと思われて良い気持ちはしないけれど、別に何か実害があったわけでもないし、重要な事も知れた。

 何よりこのまま火影様に気まずい空気を作ったままで居られると俺の胃もヤバい事になりかねない。

 

 

「いえ、お気になさらず。

 火影様があの子の安全を守るためにしたことですし、私としても分かってもらえたのならそれでいいのです。

 因みに言っておくと私は確かにチャクラを練ったり、身体を鍛えたりしていますが、先生が居るわけではないのでアカデミーの教科書に載っている事しかできませんし、その中ですら出来ないこともあります。

 要するに……私がもしあの子に襲いかかったところで普通に返り討ちにされてしまいますよ、ははは……はぁ」

「そ、そうか」

 

 

 俺に他人のチャクラの量を知る術は無いが、幼いとはいえ綱手ちゃんのチャクラ量は確実に俺より多いだろう。

 だって俺のチャクラ量って木登りの行(木を足の裏にチャクラを練ることで手を使わずに登る修行)を10回位やっただけで切れるんだぞ?

 無駄が多いのもあるだろうけど、確実に彼女よりは少ないのは確実。

 滝登りの行に入れるのは何時になることやら。

 色々と凹む事を思い出した所為で落ち込んでしまったが、火影様が違う意味で気まずそうにしているから気を取り直さないとな!

 

 

「何にしても火影様が気に病むことはありません。

 あなた様は別に間違ったことをしたわけではないのですから」

「そう言ってもらえると助かる。

 さてと、ではそろそろ仕事に戻らないと部下に怒られてしまうから、ここらで……」

「そうですか……あ! ちょっとだけ待ってもらえますか?」

「あまり長くは待てないが、少しだけなら大丈夫だ」

「本当に少しですから!」

 

 

 そう言って俺は走って倉庫へ向かう。

 倉庫に入った俺は棚の奥の方に保管されている一冊の本を手に急いで店へと戻る。

 喜んでもらえると良いけど……どうせ出会ったんなら多少心象良くしておきたいしね。

 

 

「お待たせしました! これお近づきの印にどうぞ」

「別に気を使わなくて………こ、コレは!!」

「あの子から聞いたんですが、白髪の男の子と良くそう言った類の会話をしていると聞きましたので……」

 

 

 俺が倉庫から持ち出してきたのは一冊のエロ本。

 まぁエロ本と言っても別にそこまで生々しいものではなく、少し露出の多い絵が載っている位の本なんだけど、この世界だとこの位でもエロ本らしい。

 三代目は確か結構エロい人だったという記憶があったから、挨拶代わりに一冊プレゼントしたわけだ。

 まぁ記憶は正しかったようで、なんか凄い勢いでページを捲っている。

 

 

「一応子供も来たりするので表には出してませんが、捨てるには勿体ないし、持っていると家族に見つかりそうという理由で売りに来るお客様もいらっしゃるもので、倉庫に少しずつ貯まってきてしまっているのです。

 法に引っかかるものは流石にありませんが幾つか種類がありますので、もしまた来る機会がお有りでしたらその時は奥から引っ張り出させていただきます」

「これは……けしからん。

 まったくもってけしからん。

 子供が見てはいけない様なこんな格好を……む、店主!

 他にも種類があると言ったか!?」

「えぇ、この類の本は表だって売ると女性客が減ってしまいますから私に直接声を掛けてきた方だけにお売りするようにしているのですが、火影様に隠し事は出来ませんからね。

 元からこの類の本があることは売りに来た方くらいしか知らない故に、買われたお客様は居られないのです。

 だから緩やかに倉庫の肥やしとなりかけておりました」

「そ、それは勿体な……もとい本が可哀想だな!

 よし、これからは偶に俺が可哀想な本を買いに来ることにしよう!」

 

 

 よし上客ゲット!!

 本当に処分に困ってたんだよ、あの類の本。

 一応金出して買い取ったは良いけど、あの子……もう綱手ちゃんでいいか……綱手ちゃんがエロい本嫌いだから表だって売ると数少ない常連客が減ってしまう。

 でも火影ともなれば女性が向こうから寄ってくると思うんだけど……やっぱりハニートラップとかを警戒しなくちゃいけないから大変なのかな?

 そんな下世話な事を考えていると、火影様は切りの良いところまで読んだのか、本閉じてこっちを見ていた。

 その顔に先程までのおちゃらけた空気はなく、俺も顔を引き締める。

 

 

「一つ言っておく。

 あの子は恩師の孫で大事な生徒だ。

 そしてそれと同時に子供のようにも思っている……だからあの子を悲しませる事だけは許さんぞ?

 あの子は店主に気を許している。

 その気持ちは恋愛感情ではないが、年上の友人とでも思っているのだろう。

 もし店主があの子に余所余所しい態度を取ればきっとあの子は悲しむ……顔には出さんかもしれんがな」

「要するに火影様のことは気にせず、あの子とは今まで通りに接すればよろしいのですね……元からそのつもりでしたから大丈夫ですよ」

 

 

 俺がそう言うと火影様は子供の様に明るい笑顔で「それならいい」と言い、そのまま背を向け店から出て行った。

 三代目は一度懐に入れた人には本当に優しい。

 それは原作での大蛇丸への対応からも窺えるだろう。

 俺は三代目の優しさに自然と笑顔を浮かべつつ、その大きな背中へ「またのお越しを」と言いながら深く深く頭を下げた。

 


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