忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第102話 帰還

 年月が流れるのは早いもので、三年という時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。

 この三年間であったことと言えば特筆すべきものは少ないが、敢えて言うならば大蛇丸からの刺客が二度襲来したこと位だろう。

 襲撃のタイミングが悪かった所為で一度目は綱手に星にされ、二度目はシズネの毒霧であえなく御用(何が調合されていたのかは知らないけれど、気持ち悪い位痙攣していたので普通の毒ではないと思う……敵ながら彼の安否が少し気になる)。

 俺にとっては幸運で相手にとっては不運な一幕だった。

 他にあった事はいつも通りの出来事ばかり……時折送られてくるユギトの手紙に返事を書いたり、綱手やシズネの仕事を手伝わされたり、カツユを愛でたりの繰り返し。

 ユギトの手紙には孤児院の子供達のことや個性的な同僚の事が書かれていて面白いし、綱手達の仕事を手伝う事にも慣れてきた。

 カツユとの触れ合いに関しては……まぁいずれ何処かで語ることとしよう。

 何にせよそれなりに平和な三年間だったが、これから先は別だ……近く来るであろう木の葉崩壊や忍界大戦で生き残るために今まで以上に気を抜けない状況になる。

 故に全ての中心であり、一つの指針でもあるナルトの動向からは眼が離さない方が良いだろう。

 

 

 そう考えながら俺は店先から見た久しぶりのナルトの後ろ姿をジッと見つめた。

 背も顔つきもグンと大人っぽくなった気がするが、醸し出す雰囲気は三年前と変わらず、太陽のような明るさを感じる。

 距離が離れていたためにナルトは俺に気付くことなく、その場を去ってしまったが見たところ大きな怪我などもなく少し安心した。

 なんだかんだ言っても長く関わってきたあの子がいなかった三年間は静かで本を読むには良かったのだが、何処か物足りなさを感じていたし、情が移っていなかったと言うと嘘になるだろう。

 あの子の保護者になる事を頼まれた時は正直ナルトの事は厄介事の種位に思っていたが、変われば変わるものだ。

 そもナルトも昔は今よりも大分ネガティブ寄りな思考をしていたのだから、人というのは本当にどう変わるか分からない。

 少し感慨に(ふけ)っていると、肩から声が聞こえてきた。

 

 

「ナルト君行ってしまいますよ、声を掛けなくて良いんですか?」

「色々と挨拶回りするだろうから、此方から行かなくても来ると思うよ?

 それに俺としては無事に戻ってきただけで十分さ……自来也様との旅がどんな旅だったのかは少し興味があるけどね。

 そんなことよりもカツユさんや……何故肩に乗っているのかね?」

「此処は私の指定席ですから………お嫌でしたか?」

「そんなことはないさ、カツユだったら何処に乗ろうと構わないよ……構わないんだけど単純に疑問でね」

「ヨミトさんが何を見ているのか少し気になってしまって……つい」

 

 

 恥ずかしそうに身体をくねり、頬を微かに染めるその姿に愛おしさを感じながらも、肩に乗るカツユを落とさないよう気を付けながら店内に戻る。

 手に持った埃叩きで本棚を掃除し、床に落ちた埃を箒で掃討、最後に換気をすれば用意は完璧。

 何時お客が来ても大丈夫な状態な状態だ。

 客が来る来ないは別として、店が綺麗な状態だと心も綺麗になっていく気がするので、これは毎日欠かさずに行っている……昔トイレを綺麗にしたら美人になるという歌が有った気がするがそれと似たようなものだろうか?

 そんな事を考え一人ロマンチックっぽい思考に浸っていると、突然勢いよく店の戸が開けられイルカが飛び込んできた。

 

 

「ヨミトさん! ナルトが帰ってきました!!」

「あ、うん。 知っているよ?」

「そうですよね! 驚きまし………へ?」

「先程店先で後ろ姿を見たからね、すっかり大きくなっていて驚いたよ」

「そ、そうでしたか……何か騒いですみません」

 

 

 イルカは自分が年甲斐もなく騒いでいた事を恥ずかしく思ったのか、少し赤ら顔で頭を下げる。

 しかし俺としては別に不快になったわけでもなく、迷惑を掛けられたわけでもないので頭を上げさせた。

 むしろ気を遣ってくれたことに礼を言いたい位だ。

 

 

「いやいや、いち早く情報を届けてくれようとしてくれたんだ。 感謝することはあっても迷惑に思ったりなんかしていないよ。

 そんなことよりもナルト君とはもう話したのかい?」

「いえ、私が見かけたのは火影邸の門の所だったので、もし綱手様に呼ばれていたらと考えると、引き留めるわけにも行きませんからそのまま……」

 

 

 そう言ってソワソワしているイルカを見て、俺とカツユは眼を合わせて苦笑し、彼に落ち着くように言う。

 彼は自覚がないのか生返事で返答し、頻りに外に視線を向ける。

 まるで遠足を明日に控えた少年の様に浮き足立っている彼に、俺は一つ提案をした。

 

 

「そんなに気になるのなら門の前で待っていれば良いんじゃないかい?

 もう俺には特に用はないのだろう?」

「それもそうですが……そうだ! ヨミトさんも一緒に行きませんか?

 きっとナルトも会いたいと思ってますよ」

「遠慮しておくよ、俺には店があるし、あの子の成長した姿が見れただけで結構満足しているからね」

「そうですか……ではお言葉に甘えて」

 

 

 一礼と共に店から出て行ったイルカは最初こそ歩いていたが、十歩も歩かない内にどんどん歩調が早くなり、十秒もしない内に全速力へと移行した。

 そんなに会いたかったのかと若干驚いたが、仲が良いのは良い事だと思い、静かに店の戸を閉める。

 再び店の中には静寂が広がり、会話の邪魔にならないように今まで黙っていたカツユが口を開く。

 

 

「イルカさん嬉しそうでしたね……本当に一緒に行かなくても良かったんですか?」

「俺としても会いたくないワケじゃないけれど、店を閉めてまで会いに行くっていうのもね」

「そういうものですか……ヨミトさんがそれで良いなら良いんですが」

 

 

 少し納得していない様ではあったが、俺の言うことを信じてくれたカツユはそれ以上言っては来なかった。

 もしかするとカツユ自身も少しナルトに会いたかったのかもしれない……カツユにとってナルトは手の掛かる子供のようなものだっただろうから。

 そう考え少しだけ申し訳ない気持ちになった俺はいつもよりも若干カツユとのスキンシップが増え、最終的に手汗が痛いと怒られ反省することになり余計に凹む事になるのだがそれはもう少し後の事。

 

 


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