忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第101話 医療忍者の卵

 無事火影邸へ辿り着き、シズネに即されるがまま実験室のような場所へと案内され、そこに荷物を置いてさぁ帰ろうと踵を返そうとした俺だったが、タイミング悪く誰かが部屋に入ってきた。

 出鼻を挫かれた事に若干鼻白みながら、入室してきた人物に目を向ける。

 見たところ髪は桃色、背丈は150cm程の割と容姿が整った女の子……どう見ても此処の職員ではない。

 何故子供がこんな所に来るのかと言う疑問はあったが、すぐ自分には関係のないことだと割り切って店に帰ろうと歩き出すが、今度はシズネが俺を呼び止める。

 

 

「丁度良かった! この子がさっき言っていた綱手様の新しい弟子になった子です。

 サクラ、此方綱手様と古くから付き合いのある古本屋の店主で、ナルト君の保護者でもある本瓜ヨミトさん」

「ナルトの……初めまして、先日師匠の弟子になりました春野サクラです」

「ご丁寧にどうも。 綱手の弟子は大変だろうけど、頑張ってね。

 中々スパルタ気味の指導かもしれないけど、腕は確かだから君もきっと良い医療忍者になるよ……前例もあることだしね」

 

 

 そう言いながらチラッとシズネに視線を送ると、俺の言う前例が自分であると気付いたであろう彼女は曖昧に微笑んだ。

 昔シズネから綱手の指導内容について聞いた事がある。

 医療忍者が怪我を負えば仲間を癒す時間が短くなるから、攻撃を受けてはいけない……というわけで攻撃するから死ぬ気で避けろなどという若干イカれた内容の訓練とかやっていた事から、そのスパルタっぷりがわかるだろう。

 指一本で大地を10m以上割る様な力を持つ人間の攻撃を避け続ける事がどれ程の心労になることか……サクラはまだその事を知らないのか首を傾げていた。

 正直これからの彼女を思うと同情を禁じ得ないが、綱手が自分から弟子を取るとは思えないので、恐らく彼女の方から頼み込んだのだろう。

 自業自得という程ではないかもしれないが、どうか途中で投げ出さず頑張って欲しい所だ。

 

 

「さてと、俺はここら辺でお暇させて頂こうかな。

 サクラちゃんは修行頑張ってね、シズネは綱手に宜しく」

「そんなに急いで帰らなくても良いじゃないですか。

 良い機会ですからヨミトさんも、この子の修行見ていってくださいよ!」

「いや、俺には店番が……」

 

 

 一言言ってから今度こそこの場から立ち去ろうとしたが、今度はシズネが両手で俺の肩を掴み、強引に様々な物が置いてあるテーブルの前へと引っ張る。

 割とガッチリと掴まれている所為で強引に引き剥がせば服が破れかねないので、抵抗らしい抵抗も出来ず結局修行を見ていくことになってしまった。

 その修行を行う張本人は一度首を傾げつつも、テキパキと机の上に先程俺とシズネが運んだ荷物を広げていく。

 その間手持ち無沙汰な俺はこれから彼女が何を行うのかシズネに尋ねてみることにした。

 

 

「修行って今日はどんなことをする予定なんだい?」

「まずは掌仙術の訓練です……それが終わって尚時間があれば薬の調合をするって感じですかね」

「掌仙術か……対象はどうするんだい?」

「彼処の生け簀にいる魚を使います。 彼処にいるのは小さな傷を負った魚ばかりですから丁度良い相手になるんですよ」

 

 

 そう言いながらシズネは一匹の魚を捕ってくると暴れる魚に千本を打ち込んで静かにさせ、サクラの前に置く。

 彼女も慣れたもので直ぐさま印を組み、患部へと手を添えて治療を開始する。

 医療忍術特有の焼けるような音を出しつつ、少しずつ傷跡が治っていく。

 しかしその手際は俺が見ても分かる程稚拙で、傷もある一定以上は治らなかった。

 シズネは今し方治療を施した魚に千本を刺して覚醒させ、生け簀に戻し、サクラに今の治療の何処が悪かったか簡単に説明し、新たな魚を用意する。

 それが繰り返されること十数回、サクラの額に汗が浮かび始めた所で一度休憩が挟まれた。

 それまで邪魔にならないように極力声を出さずにいたが、休憩ならばと見ている途中で抱いた疑問をシズネに尋ねてみる。

 

 

「サクラちゃんはコレを始めてどれ位になるんだい?」

「綱手様に弟子入りする前は特に医療忍術を専攻していた訳ではないみたいですから……一ヶ月も経っていない位ですかね」

「掌仙術歴一ヶ月!? 一ヶ月で此処まで出来るものなのか……俺なんかあっという間に抜かれてしまいそうだな」

「まだまだですけどね……そうだ! 少しお手本見せて上げてくれませんか?

 私のだと結構術式弄っちゃってるんで参考にし辛いみたいなので」

「別に構わないけど、見本に出来る程練度は高くないよ?」

「何を言ってるんですか、聞いてますよ? 掌仙術とチャクラメスに関してはベテランの医療忍者にも引けを取らないって」

「誰に聞いたか知らないけど買いかぶり過ぎ……綱手は勿論、シズネちゃんの足下にも及ばないと思うよ」

 

 

 そうは言いつつも評価されていること自体は凄く嬉しかったので割とノリノリで俺も用意をする。

 椅子に座って休んでいたサクラも興味深そうに此方を観察し、技術を取り込もうとしていた。

 俺は二人が見守る中、素早く印を組み患部を治していく。

 一カ所一カ所丁寧にチャクラの配分を変え、跡の残らないように周囲の細胞を活性化させながらの治療。

 相手が人間ならば此処まで手際よくいかないかもしれないが、犬猫位までならある程度の怪我まで治せる自信はある。

 其程時間も掛からずに治療を終え、患者()を水槽に戻すと、サクラが歩み寄ってきた。

 

 

「あの……ヨミトさんって元忍者とかじゃないんですよね?」

「俺はず~っと古本屋の店主だよ。 かれこれ四十年位になるかな」

「じゃあ何でそんなに腕を磨いているんですか?

 シズネさんに聞けば体術も修めているらしいですけど」

「趣味と実益を兼ねて……後は習慣かな? 参加したわけではないけれど忍界大戦を二度も見ているし、店をやっていれば泥棒や強盗なんて輩も来る。

 鍛えておくことに損はないのさ」

 

 

 今となっては泥棒や強盗なんて屁でもないし、明らかに護身の域を超えた鍛え方してるからコレは言い訳でしかない。

 実際色々と鍛えている理由も将来起こり得るであろう数多の危機を乗り越えるためというのが本当の理由だ。

 シズネには本当のことを言っていないとバレている様だが、恐らく泥棒や強盗と言う部分を大蛇丸に置き換えて考え、納得してくれている。

 しかしサクラはまだ引っかかるところがあるのか重ねて質問をした。

 

 

「でも医療忍術はそれと関係ないんじゃ……」

「確かに関係無いけれど、俺にはカツユがいたからね。

 せっかく習える機会があるなら習っておいても良いと思わないかい?

 それに俺は特に何かの才能を持っていたわけではないけれど、自由に使える時間だけはいっぱいあったからね。

 反復練習を沢山したら少しずつ上達したというだけだよ」

「やっぱり反復練習が大事ってことかぁ……薄々分かってはいたけど先は長そうね」

「千里の道も一歩からだよサクラちゃん。 それにシズネちゃんから聞く限り一ヶ月で此処まで来たらしいじゃないか。

 それだけの才能があればきっとナルト君が帰ってくる頃には一人前の医療忍者に成れるさ」

「ありがとうございます、私もそうなれるよう頑張ります!」

 

 

 彼女はそう言うと自分で患者()を用意し、自主的に訓練を再開し始める。

 そんな彼女に俺とシズネは心の中でエールを送りつつ見守った。

 


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